魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第六十七話 将輝「お前は妖精じゃない。悪魔だ」イザヤ「豚の姿に変えるぞ」

 

 私の名前は七草香澄。十師族の七の数字を持つ七草家の当主、七草弘一の娘です。そんな私には、双子の妹の七草泉美がいます。私とは正反対で可愛げがあり、男性から非常にモテます。

 

 でも泉美は、昔から理想の男性像がエベレスト並みに高くて、姉妹の中では絶対に最後に結婚すると言われていました。まぁ私も人のことを言えませんが、妹よりかは低いと思います。富士山くらいかな?いや、私よりもお姉ちゃんが苦労しそうだけど。

 

 まぁ私と姉の真由美のことは置いておいて、そんな泉美になんと好きな人が出来ました。これには私も驚きました。だって昔聞いた男性像とは掛け離れてて、一ミリも合っていないのだから。

 

 イケメンなのは勿論のこと。白馬になった王子様系で、爽やかな男性。いやいや、そんな男いないって。なんて言ったら怒られちゃったけど。

 

 さて、そんな泉美の心を射抜いた男の名前は、折紙イザヤ。イケメンの部類には入るんだけど、王子様系でもなければ爽やか系でもない。

 

 子供っぽいし、上から目線だし、意地悪だし。何でこんな奴を泉美が好きになったのか、私には全くもって理解出来ません。

 

 加えて、彼は師族会議を盗聴するという、殺されても文句の言えない事をしでかしました。でも、彼は今も生きてるんですよね。十師族から危険人物としてリストに登録されているというのに、変わらずに学校に来るなんて意味がわかりません。

 

 その理由はなんと、彼がとてつもなく強いからだそうです。どのくらい強いかって言われたら、この日本の魔法師全員が束になっても勝てないらしい。それって本当に人間なの?

 

 私の知る一番強い人は十文字家当主、十文字克人さんだったんだけど、簡単にやっつけちゃうし、本当に何なんだろうアイツ。

 

 彼の戦っている姿を見たのはごく最近なんだけど、手で魔法を払い除けてました。ウン。人間じゃないねあれは。

 

 そんな彼に脳を焼かれた女の子は、泉美の他にもいます。私の一つ上の先輩で、同じ風紀委員の北山雫先輩。そして十師族の三の数字を持つ三矢家の末っ子、三矢詩奈。

 

 二人とも、泉美に負けず劣らずの可愛い容姿を兼ね備えていて、ライバルとしては強敵なんだけど、三人は敵対視している様子はなく、三人だけのグループチャットがあるらしく、仲は良好のようです。

 

 ほんと不思議。まぁそれも、イザヤ君が普通の人間とは違い、結構特殊な奴だからなんです。彼、愛を知らないみたいなんです。それを聞いた時は「は?なに言ってんの?」と私は思いました。

 

 それって何?昔に流行った変にカッコつけたがる、中◯病とかいう病気なんじゃないのかと思いました。けど実際に蓋を開けてみれば、彼は本当に愛を知らないらしいんです。

 

 まぁこのご時世だからそういう人間も一定数存在するのか、と私は彼に同情しました。がしかし、彼は持って生まれた力でやりたい放題しています。その度に色々と問題を起こしては、泉美に叱られているんですけど。

 

 イザヤ君と泉美のやりとりを私は一歩後ろから見てきましたが、「何でこいつら付き合ってないの?」と思いましたよ。それぐらい距離が近い。あれはもう時間の問題ですね、はい。

 

「ちょっと香澄ちゃん。聞いているのですか?」

 

 あっ。すいません。妹に呼ばれてしまいました。お話はまた今度で。

 

「あー聞いてる聞いてる。このお菓子美味しいよねー」

 

「何言ってるんですか?全然聞いてないじゃないですか?」

 

 ハァーとため息を吐く泉美。

 

「ごめん、何だっけ?」

 

「だからイザヤ君がですね。何の連絡の無しでー」

 

 うん。この話は長くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一条将輝と林少尉の間繰り広げられている口論。それは、劉麗蕾を一条家本家で預かるか、軍に保護してもらうかで意見が対立していた。

 

 将輝の妹、茜は激しい言い争いを少し離れた場所から眺めていた。それは劉麗蕾も同じだった。

 

「ねぇ劉少尉」

 

「……何でしょうか茜さん」

 

 不自然なく流暢に話す日本語に内心感嘆する中、茜は劉麗蕾に、

 

「怖い?」

 

 もっと他に彼女に掛ける言葉があったかも知れないが、茜は今の劉麗蕾の状況を見て、純粋な気持ちで質問した。

 

「怖いと言われれば、怖いです。でも………」

 

「でも?」

 

「ワタシには、妖精さんがいますから」

 

 劉麗蕾は胸に手を当てて答える。

 

「妖精さん?」

 

 彼女はハッとして口に手を当てる。

 

「………いえ、何でもありません」

 

 茜は首を傾げる。大亜連合の信仰する神様なのだろうかと思った。劉麗蕾は、将輝と林との間に割って入る。

 

「林少尉、ワタシは一条家でお世話になっても構いません」

 

「なっ!?何を言うのですか!?」

 

 林は驚くばかりではなく、焦りも見せた。考え直してくれ、と劉麗蕾に祖国の言語で会話する林。

 

 この話し合いは今日では終わらないだろうと、ギスギスしていた雰囲気に嫌気を差した茜は、兄の将輝に一晩泊まるよう提案した。将輝は渋々と言った感じで茜の提案を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人個室に戻った劉麗蕾は、ベッドの上に腰をおろして一息ついた。この部屋の外にも自分の見張りの軍人が配置されている。個室を与えられているとはいえ、何処かに監視カメラがある筈だ。

 

(仕方がありませんね…………)

 

 今の自分の身分を考えれば当然の事。覗かれているというのは、生理的に嫌悪感があるがグッと堪える。

 

(林少尉が嘘をついているとは思えない……)

 

 自分の為に頑張ってくれている林が騙しているとは、到底考えられなかった。

 

(あの声は一体誰なんでしょうか………)

 

 物思いに耽っている中、扉をノックする音が聞こえて来た。一時思考をストップし、彼女は扉を開けた。

 

「こんにちは」

 

 一条茜がいた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ん〜。別に何かしたい訳じゃないんだけど、少し話をしたいと思って」

 

 茜は「いいかな?」と付け加える。彼女の後ろには女性軍人が立っていた。事前に軍からは了承を得ているようだ。「時間は十分です」と女性軍人が言うと、茜は「はーい」と不満がながらそう答えた。

 

「茜さん」

 

 中に入室した茜をソファに座らせると、

 

「?」

 

「怖くはないのですか?」

 

 自分に聞いた質問を、茜にそっくりそのまま返した。

 

「どうして?」

 

「ワタシは大亜連合の戦略級魔法師で、戦争犯罪人です。ワタシと個室で二人きりは怖くないのですか?」

 

 敵国の人間と二人きりだ。警戒心が無いのではないかと劉麗蕾は遠回しに言っている。それに対して茜は「うーん」と天井を向いて考えたのち、

 

「だって私、貴方を悪い子だとは思えないから」

 

 茜はそう答えた。

 

「ワタシは人をたくさん殺しています」

 

「それがどうしたの?」

 

「えっ?」

 

 それは劉麗蕾には思っても見なかった返答だった。この瞬間、彼女は目の前の少女が、ただ兄について来ただけの可愛らしい少女ではないと理解した。

 

「兄だっていっぱい人を殺してるよ。私が言った悪い子ってのはね、その人間の本質という意味かな」

 

「本質……?」

 

「ほら、薄らと感じた事ない?あっ、コイツ悪そうだな?ってさ。そういうのが劉少尉には感じられないから」

 

 茜の言うことは抽象的ではあるが、劉麗蕾は何となく理解できた。大亜連合にでも信用できる人とそうでない人を見分ける嗅覚を、自分も持ち合わせている。茜はそれを言っているのだろう。

 

「ねぇ、私達って同い年らしいの。だからさー」

 

 茜は劉麗蕾の手を掴む。

 

「友達にならない?」

 

「友達、ですか…………?」

 

 友達、頭の中で反芻する。劉麗蕾には、今まで友人と呼べる人間は一人もいなかった。

 

「レイちゃんって呼んでも良い?」

 

「レイちゃん?」

 

「リーレイちゃんだからレイちゃん。ねぇ、良いと思わない?」

 

 茜からグイグイ来られ、劉麗蕾は少し後ろへのけぞった。

 

「で、では、ワタシは茜と呼びます」

 

「本当?やった!」

 

 嬉しそうに笑う茜につられて、劉麗蕾も自然と表情が和らいだ。何故だろうか。目の前の少女ならば自分は信じられる。この日、劉麗蕾は一条茜と友となった。

 

「ねぇレイちゃん。少し気になることがあるんだけど?」

 

 友達としての初めての会話は、茜から劉麗蕾へと質問から始まった。

 

「妖精さんって何?」

 

「それは…………」

 

 劉麗蕾は言い淀んだ。妖精の話は、今まで誰にも言ったことは無い自分と妖精との秘密だったから。

 

「あっ、ごめん。言いたくなかったら別に良いんだけど……」

 

 バツが悪そうな顔をする茜。

 

「い、いえっ、そう言うわけではないんです」

 

 劉麗蕾は、早速、友達の気分を害してしまったと慌てて否定する。

 

「あの、昔の話なんですがー」

 

 コンコンッと扉をノックする音が聞こえて来た。ガチャっと扉を開けたのは先程の女性軍人。

 

「時間です。戻って下さい」

 

「え〜。これからだったのに……」

 

 女性軍人は「ダメです」と茜に言って、部屋から退室するように促す。仕方ないなとソファから立ち上がり、

 

「ごめんねレイちゃん。続きはまた今度ね」

 

「はい」

 

 茜は手を振って出て行った。バタンッと閉められた扉を劉麗蕾はしばらく見つめていた。さっきまで楽しかったこの部屋は、あっという間に静寂に包まれた。

 

(妖精さん。ワタシ、友達が出来ましたよ………)

 

 そっと胸に手を当てる。

 

(もう一度、アナタに会いたいです…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 茜が劉麗蕾の部屋に行ったのと同時刻、将輝の泊まる部屋にも訪問者が現れた。

 

「はいっ」

 

 ノックした音に反射的に声が漏れ、ドアノブを回して扉を開けると、そこに立っていたのは軍の人間でもなければ、劉麗蕾の護衛隊の人間でもなかった。

 

「久しぶり、クリムゾン・プリンス」

 

「はっ?」

 

 将輝に向かって手を挙げるその人物は、ニヤニヤと笑いながら見つめていた。将輝は一度、扉を閉めた。

 

(幻覚じゃないよな……?)

 

 そしてもう一度扉を開けるが、さっき見た人物は不満な顔して立っていた。

 

「ちょっと、何で閉めるんですか?」

 

「折紙イザヤ!?」

 

 イザヤは、将輝からの入室の許可を得ずに我が物顔で入っていく。

 

「オイ!勝手に入るな!」

 

「硬いこと言わずに。ほら、立ってないで座って下さいよ」

 

「それは俺が言うセリフだ!」

 

 イザヤは備え付けられたソファに腰掛ける。イザヤに促されて、将輝は渋々といった感じで反対側に座って向かい合う形になる。

 

「最後に会ったのは、茜ちゃんの一件以来ですね」

 

「あの後大変だった」

 

 今は元気になったが、あの時の茜の容態は、将輝も本当に死んでしまうのではないかと思った。母親の泣いていた姿は今でも鮮烈に覚えている。

 

「一体、何の用なんだ?」

 

「ここに大亜連合の戦略級魔法師、劉麗蕾がいるでしょう?彼女を助けてあげて下さい」

 

「彼女を………?」

 

 将輝は考える。ここに来たのは劉麗蕾の為?折紙イザヤと彼女には何か関係があるのか?と。

 

「貴方もさっき言ってたことです。劉麗蕾を一条家で預かって欲しいんですよ。彼女はもう大亜連合には戻れないし、ここに居ても彼女の気は休まらないでしょうし」

 

 それはこの基地に来る以前に、父の剛毅と話し合ったことであり、将輝自身もそうするべきだと考えている。

 

「お前に言われなくとも、俺はそのつもりだ」

 

「ゆくゆくは彼女を一条家の養子にして、学校にでも通わせてあげて下さい」

 

「養子だと………?」

 

「えぇ。彼女の魔法力は言わずもがな、容姿端麗でもあります。問題無いのでは……?」

 

 確かに、将輝から見ても劉麗蕾の容姿は整っている。魔法の才も戦略級魔法師だったから文句の付けようもない。養子として迎え入れても問題無いが、

 

「い、いや、ちょっと待て! どうしてお前がそんなこと頼むんだ!」

 

「もしもの時は、手を貸すと約束しましたからね」

 

 まだ十歳にもならない、遠い過去の記憶を懐かしむイザヤ。

 

「どうして一条家に頼むんだ?」

 

「消去法ですね。当主の一条剛毅やクリムゾン・プリンスも根はバカ真面目。彼女を悪いようにしないと判断しました」

 

「それ、褒めてるんだよな………?」

 

「褒めてる褒めてる」

 

 ウンウンと頷くイザヤに将輝は怪訝な顔をする。

 

「真面目な話、養子にするのは俺の一存では決めれない。親父と話さないと」

 

「貴方次期当主でしょ?スパッと決められないんですか?」

 

「無理だよ。俺に決定権はない」

 

 イザヤは「なんだよもう〜」と将輝の前で不満な気持ちを隠そうとしない。

 

「ボンボン、親の七光り、御曹司」

 

 将輝は「コイツ子供か」と思う。

 

「あっ、そうだ」

 

 イザヤは何かを閃く。

 

「ここで僕に約束してくれたなら、貴方も茜ちゃん見たく強くして差し上げますよ」

 

「何!?」

 

 何か絡でもないことを思い付いたのかと思ったが、将輝は驚いて身体が跳ねた。

 

「どうです?茜ちゃんが強くなったように、クリムゾン・プリンスも強くなりたいでしょう?強くなって、司波達也を見返したいでしょう?」

 

 差し伸べられた手を見て、将輝はゴクリと唾を飲む。茜に敗北した日、枕を濡らした日を思い出す。

 

「………本当なんだな?」

 

「ん?よく聞こえませんねー?」

 

イザヤは、わざとらしく耳の後ろに手を当てて将輝に近づく。

 

「本当に!俺を強くしてくれるんだな!」

 

 イザヤに態度が腹が立ち、将輝はイザヤの耳元に大声で話す。イザヤは「うるさいっ」と慌てて耳を塞ぐ。

 

「約束しろよ折紙イザヤ。劉麗蕾を養子に入れる代わりに、俺を強くしろ」

 

 負けていられないんだ。茜にも。司波達也にも。だからこの悪魔と契約してやると、将輝はイザヤの手を強引に掴む。

 

「あれ?剛毅さんに伝えなくて良いんですか?」

 

「何とかする」

 

「カッコいいー…………分かりました。男の約束ですよ?破ったら貴方を豚の姿に変えますから」

 

 それは絶対イヤだ。将輝は背筋が凍った。何とかして剛毅に説得しなければ。

 

「さてと、僕はそろそろ行こうかな」

 

 イザヤはソファから立ち上がって出て行こうとする。

 

「行くって何処に?」

 

「一度、彼女に顔を見せてから東京に戻ります。それじゃあまた何処かでクリムゾン・プリンス」

 

 バタンッと閉められる扉。将輝はハァとため息を吐く。

 

「さて、やることは山積みだ」

 

 林少尉の説得、日本海側へ南下して来る新ソ連の動向、そして剛毅の説得。

 

「よし、やるか」

 

 将輝は自分自身に喝を入れた。

 

 

 

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