アンキングダム   作:ラクらる

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025:「アンチ趙戦」

 韓の大都市陽城を攻略した私たちは、少し休んですぐに前線に復帰した。

 

 目指すは趙との国境地帯だ。この国境地帯、秦国の村やらどこの国にも所属していない都市やら趙の城やらが点在している。

 

 だから私たちが全部秦色に染めてあげるってことだね!

 

 具体的にいうと、服従か死かを迫る。もし服従しないならまあ見せしめとして滅ぼして、次の集落なり都市なりに向かう。

 

 つまり国境の整理だね。どこからどこまでが自国の領土なのか。それを明確にしなきゃ防衛戦略も練りづらい。だって自分たちの領地にポツンと敵側の都市があったら、誰もが邪魔だと思うでしょ?

 

 ということでお掃除のお時間です。っていうことをすると大抵、趙軍が出てきて合戦が行われるんだけど、今回はその心配は無用!

 

 だって趙軍は長平で秦軍とバチバチにやり合ってるからね。

 

 籠城をしているから長期戦の様相を呈し始めているけど、まあそれはそれで私たちに好都合。今のうちに趙の領土を削れるだけ削る。もし趙軍がやってきたとしても、どうせ雑兵ばかりだろうし、問題はない。

 

 もちろん趙にも六大将軍みたいな優れた将軍はいる。けれどそれは北部の異民族や、度々侵入してくる燕国と斉国といった軍勢の対処をしなければならない。もし秦国との国境に派遣すれば、趙北部や趙東部の国境地帯が蹂躙されるだけだから、多分動かすことはない。

 

 って思ってたんだけど、なんか来たなぁ。

 

 たった一ヶ月の短い期間で、二十ほど趙国の城や都市を攻め落とした私たち。

 まあそれだけ暴れていればそりゃ趙も本腰あげてきますわな。

 私たちは六万もの大軍。対する趙軍も負けじと七万もの軍勢を捻出してきた。

 

 いやどこにそんな大軍を捻出できる体力があるんですかね。

 君たち趙は木々を工業のために伐採しまくって不毛の大地を広げている、環境破壊国家のくせしてそれほどの兵士を捻出できる国民をどうやって養っているんですかね。

 

 私たち秦国はぶっちゃけ南西部の肥沃な大地で食糧事情は全くと言っていいほど問題ない。

 この時代、食糧の生産量=人口である。具体的にいえば、毎年どこの国でもすごい数の赤ちゃんが生まれるんだけど、赤ちゃんにまで回せる食糧の割合が各国によって異なる。

 

 例えば秦国の下というか中華世界の南部の大部分を占める巨大国家楚では、肥沃な大地も相まってかなりの赤ちゃんが生き残る。対して貧しい趙や燕はかなりの割合で赤ちゃんが死ぬ。

 

 つまり、初めに述べた食糧の生産量=人口ということだ。

 

 さて、食糧の生産量が低い趙なんだけど、うん。君らは一体どこから七万もの兵力を捻出したんだい?

 今の趙王は非常に利己的な王であるから、趙最精鋭たる邯鄲軍は動かないはず。参謀ちゃんが情報を精査したからこれは確実だと思う。じゃあ一体どこからそれほどの兵力を捻出したんだろうか。

 

「摎様、趙軍は既に現地に陣を構築しつつあります」

「やっぱ遅かったか。どうするお嬢?」

「予定に変更はなし。どのみちここは敵地なわけだし、こうなることは元々予想されていたことよ。俊力と風鈴が右翼。俊哲が左翼。豪雷と私が中央に入るよ」

「うぃー。風鈴ちゃんよろしくねー」

「……」

 

 一人で色々考えていたら、何やら大体の方針が決まってた。どうやら私は俊哲(ポニテおじさん)と一緒に右翼軍を率いるらしい。俊哲(ポニテおじさん)はあれだね。弓騎馬の指揮官で、私よりも先に将軍になったいけすかない人だよ!

 フリフリと揺れる長髪がすごくうざい。

 

「クソガキ、今回の相手はマジでやばい。だからまぁ、死ぬなよ」

「……」

「おい、なに無言でどっか行こうとしてんだ。殺すぞ」

 

 なんか金棒のおじさんがデレてきて怖かったから、聞かなかったことにして天幕の外に出ようとしたら、なんか肩を掴まれた。これ以上捕まえられるのも嫌だから適当に頷いてその場を切り抜ける。

 

 少しかわいそうなことをしたかなって思ったけど、今までこっちを睨みつけていた人が急に心配するようなこと言い始めたら普通に怖くない?

 

 ってことで豪雷と話すことなくやってきました秦右翼軍。チラリと前の方に目をやったら、万単位の兵士がずらりと並んで陣形を作っている光景が目に入る。

 

 ……なんか人数少ない気がする。確か私たち秦右翼軍が相手をする趙左翼軍は三万ほどの軍勢のはず。だというのに私たちの目の前に並べられている兵士たちはどう見繕っても一万五千程度。なら残りの半分は一体どこに消えたんだろう?

 

 〈マスターが入っている右翼軍を警戒してのことでしょう。マスターの韓で行為がしっかりと露見している証拠ですね〉

(え、あれって確か韓の上層部が必死になって隠蔽しようとしている事実じゃなかったっけ?)

 〈まあ大国である趙の情報収集能力が優れているということですね〉

 

 ふーん。いや趙の情報収集能力の話はどうでも良くてね?

 一番気になるのは趙左翼軍の数の少なさなのよ。私への警戒心なら数を多くするべきじゃないの?

 

 〈ええ。ですので密集しているとマスターの騎馬隊によって瓦解しないよう、分散して配置しているのかと〉

(んー? けど戦力の分散は一番悪手ってこの前教わったばっかりだよ?)

 

 戦力の分散。誤解を恐れずに言うならば、桶狭間で討ち取られた今川義元が織田信長の奇襲を許したのも、戦力の分散が原因であるといえなくもない。私にはよくわからなかったが、とりあえず一塊で行動するのは軍隊では鉄則なんだと。

 

 けれど、趙左翼軍はその悪手を実行している。これにはスーパー軍師な風鈴ちゃんもすごく困惑しちゃうね!

 

 〈マスターがスーパー軍師かどうかはさておき、趙左翼軍の目的がそもそも違うのです〉

(目的? 私達の撃破が目的じゃないの?)

 〈いいえ。違います〉

(?)

 

 どう言うことだろうか?

 そもそも左翼軍、右翼軍の存在意義について風鈴ちゃんがお教えしよう。

 左翼軍、右翼軍の主目的は敵軍の左翼軍と右翼軍を撃破した後、味方の中央軍と戦っている敵の中央軍の横腹を突撃し、必勝の戦法である挟撃を行うことにある。なので、左翼軍と右翼軍は必死に敵の左翼軍と右翼軍撃破するために軍を動かすのだ。

 

 だけど参謀ちゃんが言うには、敵の目的は私達の撃破じゃないらしい。え、じゃあなんのために彼らは軍を展開しているの?

 

 〈簡単です。マスターの足止めのためですよ〉

(私の?)

 〈はい。マスターは先の戦争で十倍もの敵を撃破しました。もちろんこの事実は各国の上層部にのみ知られている極秘事項ですが、将軍ともなればその極秘事項に触れる機会などいくらでもあります。そうして趙の将軍はマスターを非常に警戒しているのでしょう。そのためマスターの撃破をするのではなく、その飼い主である摎サマを討ち取って戦争を優位に進めよう、という考えかと〉

(あーつまり?)

 〈趙軍は、『風鈴はそこで遊んでな。その間に摎サマを殺すぜー』ってことです〉

(なるほど殺す)

 

 なるほどなるほど。つまり私が大活躍しちゃったせいで摎サマが舐められているわけか。

 ふん。ばかだなー。摎サマは高性能AI並みの能力を持つ参謀ちゃんとタイマン張れるくらいの知能化け物なんだよ?

 そのくせ剣の技術も結構あるという、天から二物を与えられた存在なんだよ?

 

 私を警戒しすぎたせいで、本当にやばい実力者である摎サマへの警戒を怠るなんて、本当にばかだね。

 

 ……とはいえ、摎サマが舐められているという事実は好きじゃないかなー。

 

「……蛮兒」

「ハッ! 如何なさいましたか?」

「あの目障りな、軍を、軽く潰して、きて」

「御意ッ! 行くぞォォ! 防御の陣を解いて突撃騎馬隊を前面に出せッ! 俺の直掩も呼び出せェ!」

「オオォォ!」

「出陣だァァ! 我らが戦の火蓋を切れるとは、なんたる名誉ォォ!」

「あの腰抜け共の血を風鈴様に捧げよォォ!」

 

 なんかいるがきたから、取り敢えずで目の前の軍にイライラをぶつけることにする。

 うーん。今日も今日とて蛮兒とその部下達の元気は天下一だね。というか敵の血を捧げるとか言ってる子、私そんな猟奇的カルトの親玉になった覚えはないよ?

 

 そうこうしている間に、蛮兒は準備を整えたのか、三千の兵士を率いて敵に突撃を開始する。たった三千ということもあり、趙左翼軍の先鋒軍の一万五千は特に陣形を変えることなく、そのまま迎え撃つ姿勢らしい。

 

 うーん。それでも別にいいんだけど、うちの蛮兒相手にその覚悟は痛い目見ると思うよ?

 しばらくというか、蛮兒が趙軍と接敵した瞬間戦場の空気が変わる。

 

 先ほどまで何をしているんだという呆れの気配が、いきなり絶望と焦燥が入り混じった戦場の気配へと置き換わっていく。まああの光景を見れば誰だってそうなる。

 

 蛮兒の持つ斧は超巨大だ。木を切り倒す斧をそのまま大きくさせた無骨な大斧。ハルバードとは違い、武器と呼ぶにはあまりに烏滸がましいその兵器は、一振りするだけで空気を凪飛ばし、敵の兵士をその空間ごとゴッソリ抉り取っていく。

 

 斬るなどといった次元ではない。どちらかといえば叩き付けるという言葉の方が正しいと思ってしまうほど、純粋な絶対質量の暴力。いくら防御をしようが絶対的な質量によって生み出された途方もない物理エネルギーは、容易く防御を貫通し、荒れ狂うほどの内包されたエネルギーによって吹き飛ばされていく。

 

 その何百キロもある大斧に叩きつけられた兵士の末路は悲惨の一言だ。

 

 まず大抵の兵士が蛮兒の巨体によって足が竦み、言葉を発する前に圧殺される。それはもう邪魔な雑草を刈り取るかのように、バッサリと。

 

 迫る大斧を槍で受け止めようにも、受け止めた瞬間に運動エネルギーと質量エネルギーの相乗効果で生み出された飢えた獣のような力によって、悉くが内側から肉が弾け割く。

 

 かろうじて反撃しようにも、攻撃のために突き出された鉄槍を大斧で正面から叩き潰して、無防備となった敵兵士目掛けて大斧は容赦なく振るわれる。凄まじい風圧を伴いながら目前にまで迫る無慈悲な鉄塊を前に、彼らは他の兵士達と等しく絶望しながら、一瞬で肉塊へと成り果てていった。

 

 私はチラリと隣の男の顔を見る。うん。めっちゃ口を大きく開けて、現実であることすら疑っているような顔をしている。俊哲(ポニテおじさん)の部下だから、風鈴ちゃんの軍団の力を正確に知っていると思ったけど、どうやら知らないらしい。

 

 大丈夫なのか俊哲(ポニテおじさん)軍の人材は。この程度で思考停止してちゃ今後まともに動けなくなるよ?

 

 初めは一万五千もの敵軍に突撃した蛮兒を止めるため、同じく秦右翼軍に配置されていた俊哲(ポニテおじさん)の部下が突撃を止めるよう伝えにきたが、私は無視して戦場を見てみろと顎で指し示す。

 

 何言ってるんだと言った顔で戦場を見た俊哲(ポニテおじさん)の部下の驚いた顔と言ったら、すごい傑作だったね! これでこのままショック死すれば、今年のダーウィン賞は君だね!

 

 その後、趙左翼軍が後退している光景を見てようやく意識を取り戻したのか、俊哲(ポニテおじさん)の部下はトボトボと帰っていった。ただ、言語機能は”あ”と”え”以外を失ったのか、ずっとあ、え、と呟きながら退室していった。かわいそうにね!

 

 趙左翼軍一万五千はそのまま軍を維持できずに潰走を開始。それに合わせて本来なら追撃を仕掛けるべきだ。けど参謀ちゃんから絶対に追撃をしてはいけないと言われていた私は、そのまま動くことはなく蛮兒の帰りを待つ。

 

 するとまた俊哲(ポニテおじさん)の部下がやってきて、今度はなぜ追撃戦を仕掛けないのかと聞かれた。いやまあそれが敵の罠だからね。あのまま潰走した趙左翼軍を追いかけても、途中で罠に引っ掛かるだけだ。

 

 理由を聞かれても困る。私もわからないから参謀ちゃんに聞いたところ、趙軍は一週間も早くこの戦場に到着していた。一週間もあれば大規模な落とし穴やら要塞やらを作ることができる。そして敵は多分そういう工作系の罠を作っているんだって。

 

 それでも納得しない俊哲(ポニテおじさん)の部下。めんどくさ。

 

 だーかーらー。相手は罠を仕掛けているんだって!

 そもそも考えてみ? 私たち秦右翼軍のほとんどが騎馬で構成されている。そんな私達相手に、ここら地域一帯で()()()()()()()()()()()この草原に、なんで敵は歩兵を配置していると思う?

 そうだね。騎馬隊用の罠を設置しているからだね。だから私たちは深追いをせずに、こうやって決定的な瞬間のために力を温存しておくの!

 

 ここまで言ってようやく俊哲(ポニテおじさん)の部下は渋々ながらも納得したのか、帰っていった。まったく……。それが将軍である私に対する態度なんだろうか。将軍の私がしないと決めたんだから、その理由を聞いてくる=スパイってことで殺しても良かったんだよ? 同じ摎軍所属っていうよしみで生かされているってことを忘れないでほしいよね!

 

「それにしても風鈴様は素晴らしいな」

「ああ、流石は我らの主人である」

「主ハ腕モ立ツガ、知恵モ天下一品デアルナ」

 

 ちょっとそこの男たち。私をヨイショしたって何も出ないから! それに今言ったこと全部参謀ちゃんが考えたから厳密に言えば私がすごいんじゃなくて、参謀ちゃんがすごいだけなんだけどね。

 

 とはいえ、部下達からキラキラとした尊敬の眼差しは気分がいいので、しばらくは特に諌めることはせず堂々と胸を張ってみたりする。

 

 そうこうしている内に蛮兒の率いていた騎馬隊が帰還した。被害は数十騎失った程度らしい。あそこに残っている死体の数を見るに、大体四桁は死んでいるから、キルレ五十以上は硬いね!

 

 さて、明日からは、奥に引き込んだ趙左翼軍残り二万五千くらいを本格的に削りに行こうと思う。

 けど、今日はなんだか疲れたし一旦寝ようかな。蛮兒にお疲れ様とだけ伝えて、私はそのまま自分の天幕のベットに倒れ込むのだった。

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