父上の考えは古いのじゃ!
忍。かつては主君の指示のもと日ノ本の影で生きた裏工作のスペシャリスト。
それぞれ流派ごとに門外不出の技術や知識を持ち、それらを用いて他者を出し抜く。
少なくとも徳川幕府が発足するまではそのような存在だった。
けれど、徳川幕府発足後、忍と名の付く団体はその悉くが解体された。忍が再度歴史の影で蠢きだしたのはそれから凡そ100年後のこと。第八代将軍徳川吉宗が解体された忍の血統を辿り御庭番、現在の忍術協会の前身を作り上げた。
そして彼らは吉宗が最後に与えた「徳川という血ではなく、日ノ本という国を守れ」という命の下、今も日本を影から支えていた。
ここまでは忍術協会が教科書に載せている内容。間違いではない。けれど全てが真実という訳でもない。何故なら徳川吉宗の下に集まらなかった忍がいたからだ。彼らは総じて秘術と呼ばれる鍛錬と交配によって手に入れた常人とは違う特殊な能力を持っていた。
そうして、吉宗の下に身を寄せず、今も秘術の継承を続けている彼らが今現在何をしているかというと――
「父上!また忍術協会に仕事を斡旋して貰ったのですか!」
「…うむ」
忍術協会の下請けのようなことをして日銭を稼ぎ、暮らしていた。
「ならばもう忍術協会に所属すればいいではありませんか!」
「それはならん!!」
因みに忍術協会が御庭番結成当初に吉宗の下に降らなかった彼らを外様として冷遇する…ことはない。むしろ、古くから共に日ノ本で活動していた秘術使いを好意的に見ており、他の者と同じような待遇で受け入れてくれるだろう。
忍術協会は日本の為に頑張る者の味方なのだ。
ならば何故、秘術使いが忍術協会に所属するのを嫌がるのか――、
「今更忍術協会に入るなんてカッコ悪いだろ!」
只の意地である。
秘術使いからしても今更仕える主君もいないのに忍術協会と事を構える気など毛頭なかった。けれど、ここでちゃっかり忍術協会に入ってしまうというのはいつか主君の下で自らの力を振るうと夢想していたご先祖様に顔向けできなかった。
「カッコ良いカッコ悪いで飯が食えますか!?」
「えぇい!今も飯は食えとるだろうが!」
「飯は食えてますが、テレビはブラウン管、電子レンジも冷蔵庫もない!こんなのうちくらいですよ!?」
「それも修行の内じゃ!さっさと走り込みに行け!」
秘術使いの父の方は息子を外へと投げ飛ばす。
息子はわからず屋の父を睨みながら受け身を取ると、外へと走り出した。
☆☆☆
「まったく父上ときたら何時になったら時代に取り残されていると理解するのやら」
現在忍に届く依頼は全て忍術協会に集約される。どれだけ意固地になっても忍として暮らしていく以上は忍術協会に頼らなくてはならない。口でなら忍術協会に従属していないと言うことは出来る。だが実質的には忍術協会の一員だ。ならばせめて少しでもいい待遇を望むべきだろうに。
「はぁ」
息子の口から自然と溜息が出る。
勿論、秘術も持ち得ない忍に仕えることに抵抗を覚えるのは分かる。だが、今更だろうに…。
息子は自分が家督を継ぎ次第忍術協会に所属すると心に決めた。
それと同時に奇妙なものを目端で捉える。
工業地帯に入っていく、忍者養成施設の生徒たち。
(忍術協会は生徒に任務を出さないと聞いておったが…ならばあれはなんじゃ?)
授業の一環という雰囲気ではない。けれど任務でもない。となると?
(何やら面白そうではないか)
秘術使いの息子雷電左近は進路を変更し、養成施設の生徒を追うのだった。