☆☆☆
養成施設の生徒たちをつけて侵入した工業地帯は一言で言えば異質だった。
(日本は銃刀法とやらで鉄砲を禁止しているのでは無かったのか?)
アサルトライフルを装備し軍用ゴーグルをつけた男たちが施設内部を巡回している。
逆にそれ以外の人影が見当たらない。外側から見た時は煙突から煙が出ており、稼働しているように見えたが、どうやらダミーだったようだ。
態々アサルトライフルを支給し、ここを守らせているということは相当重要な物がここにはある。
(これだけ大きな工業地帯をダミーとしている以上、隠しているものは何らかの施設。隠せる場所は地下しかないだろうが…)
さてどうやって侵入したものか。左近は頭を悩ませる。
警備兵の様子に異常がないことを考えると養成施設の生徒は変装術で施設の関係者に成りすましているのだろうが、自分は下調べをせずにこの場に来てしまったため、施設関係者の内部事情を知らない。変装した所で直ぐにばれてしまうのが関の山だろう。
とはいえ、武力行使による正面突破をしてしまえば当然他の警備兵に侵入がバレて大事になってしまう。
それは望ましくない。
(仕方ない。休憩中の兵士と入れ替わって後はアドリブで何とかするか)
休憩中の人間であればある程度自由行動をしていても怪しまれないだろうし、攫って尋問しても気づかれることもない。
ここの兵士の動きを知っておいた方が警戒されずに動き回れる。そう言う意味でも休憩中の警備兵は好都合だった。
(方針も決まったことだし、さっさと行くとするかのう)
左近は上手いこと警備兵の死角をつきながら、休憩中の兵士を探し始めた。
☆☆☆
休憩室と休憩中の兵士は左近が思ったよりも早く見つかった。
というのも――、
(ここの兵士、鉄砲を渡されている以上それ相応の手練れかと思っていたが、全体的に警戒が甘い。中には手練れも混ざっているが、殆どが素人。寄せ集めの烏合の衆じゃな)
左近自身、初めの想定よりも自由に動き回ることが出来ていた。
それこそ、左近が視界に入っているのに一切気が付かない者やそもそも銃を下ろして欠伸を噛み殺すものまで――正直言ってプロ意識に欠けたものが多かった。
故に侵入から15分ほど経過した段階で左近はこの施設のマッピングを終えていた。
当然地下へと繋がる通路にも見当がついている。
(東棟の守りだけが以上に堅すぎる。手練れの殆どがここに集中していることを考えると十中八九あの場所に地下へと繋がる道がある)
休憩中の兵士がトイレに行ったタイミングで意識を奪い、人気の無い部屋で尋問と変装を終えた左近は早速東棟へ向かう。
休憩中でなければ自由には動けない。善は急げとその歩みも周りに気づかれない程度に速足を心掛けた。
今の所はバレていない。何度か振り向かれたり、声をかけられることもあったが左近が顔を晒せば皆直ぐに警戒を解いた。
問題は東棟に待機している兵士たちだ。下へと降りる口実は考えている。しかし、それが上手くいくかは分からない。
(まぁ、無理そうなら逃げ帰ればよいか)
自身は秘術を会得した忍。幾ら敵が銃火器を持っていようが逃げ帰ることなど造作もない。左近は楽観的に考える。
否、事実として逃げ帰る程度なら何とか出来る技量を左近は既に身に着けていた。
そうこうしていると、東棟へと辿り着く。
「おいお前、こんな所で何をしている!」
「はい、申し訳ありません。実は以前地下の警備に当たった際に形見のロケットペンダントを落としてしまい…取りに行かせていただけないでしょうか?」
「警備はどうした?仕事中だろう」
「はい、現在は休憩中です。」
東棟の兵士たちが顔を見合わせる。その間に左近は顔を晒す。左近が変装した男が地下の警備に当たったのはつい数日前のこと。――男はいつの間にか形見のペンダントが無くなっていることに気が付き探し回ったが見つからず記憶を辿ってみると地下の警備を終えた頃から見かけなくなったことに気が付いた。そのため、今日勇気を出して頼み込みにきたのだ。
けれど、相手はプロどんな対応をするか…。左近は無意識に唾を飲み込んでいた。
「分かった。リーダー!どうしますか!?」
左近の対応をしていた男は後ろにいる屈強な男に声をかけた。
屈強な男はその声に反応し、こちらへと歩いて来る。頭を掻き、面倒だと言外に告げながらも――、
「仕方ない。俺が地下まで送り届けてやる。ついてこい」
上手く行った。左近はそう思い心の中で拳を握る。ガッツポーズというやつだ。
けれど、それを悟られないように一言「ありがとうございます」と震えた声で頭を下げた。
屈強な男はエレベーターの横に取り付けられたテンキースイッチを操作する。ゆっくりとエレベーターの扉が開く。
「ほら早く乗れ」
先に乗った男は左近を急かす。左近は走って男の乗ったエレベーターへと乗り込んだ。
絶叫マシンに乗った時のような体が上へと引っ張られる感覚を伴いながら下へと降りていくエレベーターの中、男はぼそりと左近に声をかけた。
「お袋さんの件、残念だったな。俺も若い時に両親無くしたからよ。気持ち分かるよ」
その声には本心からこちら慮っているようなそんな温かみを感じた。
けれど――、
(カマかけじゃな。儂が変装した男は両親ともに存命。但し、両親は息子を捨てて蒸発。亡くなったのは幼い頃から老体に鞭打って育ててくれた祖父の方じゃ。)
本当に油断ならない。情報収集を怠っていたら、侵入者として地下の警備兵に突き出されていたことだろう。
左近はバレない様に胸を撫で下ろすと、困惑した表情を作る。
「あ、あの、俺、別にお袋は死んで無いです。…いえ、幼い頃に蒸発したので今何してるか知らないんですけど…」
「ん?そうだったか、悪いな。勘違いだったみたいだ」
男は何事も無かったように態度を変える。
やはり、先程の態度も言葉もこちらを試すための演技だったようだ。
「さあ、ついたぞ」
エレベーターの扉が開く。左近は男に礼を言うと、地下施設へと足を踏み入れた。
☆☆☆
左近を下へと送った男がカモフラージュのための工業施設へと戻って来た。
東棟で待機していた仲間が手を挙げてそれを出迎える。
「どうだった?ジョン。」
「カマかけには反応なし。変装も完璧だったし、あれが噂のジャパニーズ忍者ってやつか?」
「ハハハ、そんな奴大切なお客サマがいる地下に送って良かったのかよ」
「いいだろ別に。地上で応戦して逃げ帰られるくらいなら逃げ場のない地下で確実に潰す。それが
既にリーダーには報告したしな。侵入者三人、地下への誘導を完了したって」
「あいつら、生きて帰れるかな?」
「ハッ、馬鹿言え。リーダーに殺されて終わりだろ」