未熟な忍者と侮るなかれ!!   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

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手を組んでやるのも吝かではない。

 

☆☆☆

 

直ぐ後ろから鳴り響く銃声音。一つの生き物のようにこちらの行先を潰し、追い込みに掛かる緻密な連携。

追ってから走って逃げる左近の脳内は何故の文字で溢れていた。

 

「いたぞ!」

 

追手を撒くために入った道の先には当然別の追手が待っている。

 

《秘術・飛翔電鞭(ひしょうでんべん)

 

その追っ手を持ち前の忍術で打ち倒しながらも、考えていることは降りて来たばかりのことだった。

 

☆☆☆

 

エレベーターから降りた左近に近づく人影。そいつは左近に手を振りながら声をかけて来た。

 

「お~い、お前が落とし物した兵士か?」

「は、はい」

「そうか、話はリーダーから聞いてるよ。落とし物は警備兵の詰め所に届けられるからここで落としたならそこにあると思う。一緒に行こうか」

「ありがとうございます。態々すいません」

「いいのいいの!同じ警備兵のよしみだ。」

 

(幸先が良いのう。警備兵の詰め所まで行けばこの施設の地図も手に入るかも知れん)

 

左近はなんの疑いも抱くことなく声を掛けてくれた警備兵の後ろをついて行く。

しかし、それも途中までの話。

この施設を歩いている内に否が応でも違和感に気が付いてしまう。

というのも、警備兵の動きに堅さが見受けられる。もっと言えば、何かを警戒しているようなそんな緊張感が漂っている。

 

(一体何が…)

 

自分の変装がバレたとは考えづらい。

けれど、それならば何が彼らをここまで警戒させているのか…。

左近は内心で冷や汗を垂らしながら、思考を巡らせる。

そして、長考の末、未熟な兵士にしては多少不自然かもしれないが、疑問を投げかけることにした。

 

「あの~、何だか今日ピリピリしてませんか?以前警備についた時はもっと緩い雰囲気だったような…」

「…ああ、実は侵入者が二人忍び込んだらしくてな。それで今は少し、気を引き締めてるんだろう」

「ああ、そうだったんですね。でも侵入者だなんて怖いですね。捕まりそうですか?」

「問題ない。今は上手く隠れてやり過ごしているみたいだが、うちの警備の物量の前には時間の問題だ。それにあいつらの目的がお客サマの誰かだとすれば必ず監視カメラに映る筈だ。」

 

(成程のう。奴らバレてしまったのか。やれやれ、所詮秘術も持たぬ雑多の忍ということか。まぁ、余裕があれば助けれやるとするかのう。忍術協会に恩が売れるかもしれんからの)

 

表面上は真面目に受け答えをしつつも脳内では捕らぬ狸の皮算用を始める左近。

薄型テレビに、冷蔵庫、電子レンジ。食卓に並ぶ、副菜の数もきっと増えるだろう。冬に取るビタミンがほぼ漬物という事態も避けられる。そうすれば自身の身長ももう少しは伸びるだろうか?後10cm、170は欲しい所だ。

左近の脳内は場違いな程にハッピーになっていた。

 

勿論それを表に出すことはない。左近は未熟者とは言え、優所正しき忍びの家系なのだ。

 

「ついたぞ」

 

警備兵が後ろを振り向く。

左近の目の前に建つ詰め所はやたら金のかかった他の建物と違い、広さだけはそこそこある至って普通のプレハブ小屋だった。

その扉を開け、警備兵は中へと左近を招き入れると直ぐに扉を閉めた。

 

それも只閉めた訳ではない。入り口に鍵をかけたのだ。

それだけではない。詰め所内には左近を逃がさないようにと銃を持った兵士たちが左近を囲んでいた。

 

どうやら、まんまと敵の罠に嵌ったらしい。

 

「あの、なんのつもりですか?」

 

一応、尋ねてみる。

けれど、反応は銃口を背中に当てるという行為で返される。話し合いをするつもりはないらしい。

 

銃口を引かれるより早く煙幕を張る。忍なら囲まれた状況で生還出来るように訓練を受けている。それは左近も例外ではなかった。

けれど、敵もまた手練れ、煙幕を張られることも織り込み済みだったらしい。

 

「ゴーグルを熱源感知に切り替えろ!!」

 

動揺は見られない。

煙幕も通常のものでは無く、慣れない者が吸い込めばむせ込むかなり強力な物を使った筈なのだが…恐らく警備兵が着けているネックウォーマーの機能だろう。

 

舌打ちを一つ。

けれど、冷静に後ろを振り向くと先ほど通った入り口へと駆ける。

現状は敵に囲まれている。けれど敵は囲んでいるからこそ、仲間への被弾を恐れて安易に引き金を引けない。

ならば、この隙に逃げるしかない。

 

勿論、それは敵も想定済みだった。

 

(馬鹿が何のために入り口を塞いだと思っている。その扉はアサルトライフルの7.62mm弾さえも耐える特別性だ。)

 

だからこそ、左近の悪足掻きは無駄に終わる筈だった。

左近が只の忍者であったのならば。

 

左近は持ち前の軽業で警備兵の背後を取ると何時も肌身離さず持っている忍者刀を取り出す。

これこそが雷電家が代々受け継いできた名刀【雷騰雲奔(らいとううんぽう)】。忍者刀にしては反り返った形状と何よりも鞘に施されたある仕組みにより絶大な威力を発揮する雷電家最強の鋒なのだ。

因みにその具体的な仕組みは左近もよく知らない。これを考案した祖先の主君によるとローレンツ力だの磁場だのが関係してるらしいのだが、詳しいことは失伝してしまったようなのだ。

けれど、重要なのは理屈じゃない。現実にどういう結果を残すかだ。

そして、左近は知っていた。

 

この刀に電気を通すことで通常の抜刀術とは比べ物ならない抜刀速度を生み出し、それを弛まぬ鍛錬を続けた者が扱えば

 

「鋼さえも斬り伏せる。」

 

《秘術・霆撃雷鈷(ていげきらいこ)

 

銃弾すらも耐えうる扉が歪み一つなく綺麗に切れる。まるで、藁を斬るかのうように。

それを目の辺りにした男は声を張り上がる。

 

「侵入者が逃げる!」

 

けれど、警備兵は行動を起こさない。左近の速度について来れないのか。そうも考えるがどうやら違う。

左近は煙幕を抜けた先を鋭く睨む。

 

三人の警備兵が左近を待ち受けている。どうやら男が声を張り上げたのは外の警備に伝えるためだったらしい。

 

そして事態は冒頭へと戻る。

 

左近は追手を中距離忍術の《飛翔電鞭(ひしょうでんべん)》で打ち倒しながらも身を隠せる場所を探す。

しかし、道という体を成している場所には軒並警備兵が配置されている。自身を罠にかけた警備兵は物量云々について語っていたが強ち大言壮語という訳ではないらしい。

それに監視カメラに関しても…

 

(な~にがお客様がターゲットなら監視カメラに映る筈じゃ!!お客様がターゲットじゃなくてもこんなん映るわ!何台導入しとるんじゃ!!)

 

隠しカメラも含めれば死角を探す方が難しい。

正直、逃げ帰るのも至難の業だ。他の人間に変装しようにも位置とタイミングで特定される可能性が高い。

カメラさえなければここまで苦労することも無かったのだが…。

 

そう頭を抱えていると早速新たな殺気を感知し、振り返る。案の定警備兵だった。

 

「次から次へと厄介な」

「…君は?」

「ん?」

 

しかし、よく見れば持っている武器は銃ではなく手裏剣。それに話しかけてきた警備兵の後ろにもう一人の警備兵が隠れていた。そのシルエットにはどこか見覚えがある。

もしかして警備兵ではない?左近は警戒しながらも問いかける。

 

「お主、もしや養成施設の者か?」

「ああ、そういう君は」

「儂は秘術使いじゃ。お主ら同様追われている身じゃな」

「成程…」

 

警備兵。否、養成施設の生徒のうち左近に話しかけて来た生徒が自身の顔に手をかけると変装術を解く。

この術を解く時の印象は脱皮という表現がよく似合う。

 

閑話休題。

 

変装を解いたその生徒は白い肌に長い髪を後ろで括った美男子だった。

 

因みに身長もそこそこ高かった。170はあった。左近より10cmも高かった。

 

(ま、負けた…)

 

左近は敗北感を叩きつけられた。けれど、生徒はお構いなしに左近へと話しかけて来た。

 

「ここは忍者同士協力しないか?」

 

☆☆☆

 

所変わってモニタールーム。

現在この部屋には二人の男がいる。一人は椅子に座って警備兵たちに指示を出す男。もう一人はその後ろで立っている男。

後ろの男は椅子に座っている男と違って特に何もしていない。けれど、リアクションだけは一流だった。

 

「あっれ~あいつら見失っちゃいましたよ!リーダー!!」

「ああ、どうやらあいつら監視カメラに細工をしやがったな。」

「それ不味い奴じゃないですか!」

 

どっひゃ~という効果音がつきそうな程大袈裟に両手をあげて驚く男。

その男を見ながら、リーダーは溜息を吐くと淡々とした声で説明を始める。

 

「仮に全ての監視カメラに細工をしてるんなら、今頃お客サマは地獄の門を潜ってるだろうさ」

 

もしくは俺らの雇い主がな。リーダーは苦笑を浮かべそう続ける。

 

「なるほど~、つまり、誰も死んでいないという状況が向こうも攻めあぐねている証明になると!」

「まぁ、今現在も監視カメラへの細工を続けているのなら不味い状況になるかもな」

「えぇぇぇ!結局不味いんですか?」

「ああ、ここからは監視カメラには頼れない。一部の兵士を戻してドローンを飛ばす。それと情報共有を今以上に徹底させる。」

「おお!流石リーダークレバー!!」

「それともう一つ」

「まだあるんですか!?」

 

そこまで言った所でリーダーは後ろを振り向く。

 

「お前は何時までここで油を売ってるつもりだ?」

「え?」

「え?じゃないだろ持ち場に戻れ!」

「そんな~。

 

あっ、それじゃあ一つ聞いても良いですか?」

「…なんだ。」

「ジョンさんはなんで侵入者に気づいたんですか?

変装が完璧でカマかけにも引っ掛からないんだったら、確証を持てないと思うんです。」

「…お前、俺がリーダーであるってことを警備兵全員に周知させてるのは知ってるよな?」

「はい!ナルシストだなって思ってました!」

「うるせぇよ!

 

つまり、ジョンをリーダーとして扱っている状況っていうのは警備兵からすれば不可解に映ってる筈なんだ」

「ほうほう」

「それなのに下に降りてきた奴らはジョンをリーダーとして扱っていることに一切の疑問を抱いていなかった。

一流の兵士ならわかる。疑問を完全に殺し、職務に従事出来ることに。けれど、あいつらが変装した奴らは全員新米。

 

口に出さなくても、態度に出そうとしなくても、内にある疑問という名のしこりを完全に消すことは出来ない」

「成程~、つまりは新米一点読みだったんですね~。いや~、ベテランの兵士に変装されたらヤバかったじゃないですか~

 

よっ!リーダーのギャンブラー!!」

 

リーダーは眉間を揉みながらも必死に平静さを保つ。

こいつ、本当は俺を煽りに来てるんじゃないか?そう思いながらもグッと抑える。

元々、こいつはこういう奴だ。能力はあるし、少し叱ると直ぐにへそを曲げる、キレるわけにはいかない。

 

「…いいか、あいつらからすれば新米の兵士が安牌なんだよ」

「?なんでですか?」

「ベテランの兵士を狙うと、手痛い反撃を貰う可能性があるし、尋問の際に嘘の情報を混ぜるかもしれない。

 

反対に新米兵士は聞いたことにはしっかりと答えるし、制圧も楽。結果少ない準備で忍び込める。」

「なるほど!確かに!けど、それって長い準備を経れば忍び込めるってことじゃないですか?」

「そう単純じゃない。確かに長い準備を経ればいざ実行に移した際の成功率は上がる。

が、こちらから見つかるリスクも増える。それこそ一番成功確率が高いのは不定期にやってくるお客サマや運び屋。殆ど地上に出てこない施設関係者を狙うことだが、それをするには準備だけで年単位はかかる。

当然その間に兵士の練度は上がるし、施設の内情も変わる。

 

普通に考えて簡単に施設に入れる方法があるとしてそんなリスクを取るか?」

「いいえ!取りません。楽なのが一番!」

「…いや、堂々と言うな。話は以上だ。そろそろ警備に戻れ」

「え~」

「え~、じゃない」

 

何故今日に限ってこんなにも嫌がるのか

 

「だって、相手は指を向けて電撃飛ばしてくるんですよ!危ないじゃないですか!」

「はぁ?何言ってるんだ?」

「リーダー見てなかったんですか。バチバチって!」

「…ああ、あれは電撃を飛ばしてるわけじゃない。飛ばしてるのは針と糸だろう。但し、視角で捉えるのが困難な程細いな」

「え?」

「電撃を飛ばしてるにしては雷撃が飛ぶまでが遅い。それに、撃たれる前の兵士の顔の変化、それを見ればタネは直ぐに分かる。お前こそ、全体をよく見ろ」

 

それだけ言うとリーダーは男を摘まみだし、兵士の指揮に戻った。

 

 

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