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競技区画北地区。
VIPや雇い主に事情を説明し、この区画から出ないように忠告したリーダーは集めていた警備兵の下へと向かう。
VIPの中には騒ぎ出すものもいたが、そこは雇い主が言い包めてくれるだろう。
暫く歩くと綺麗に整列している警備兵の姿が見えてくる。場所は競技区画北地区の外周だ。
リーダーを前に警備兵たちの間に緊張が走る。こういう所も今後直していく必要があるな。リーダーは彼らの方へと歩を進めながらもそんなことを考えていた。
まぁ――、
「あっ!リーダー遅いっすよぉ!もう待ちくたびれて眠っちゃうところでしたぁ」
こういう軽薄な態度も問題といえば問題だ。
リーダーはこちらにぶんぶんと手を振ってくる兵士を睨みつける。けれど。肝心の兵士には全くと言っていい程伝わっていない。周りの兵士には十二分に伝わっており、余計に身を固くしているのだが…。
――リーダーは軽薄な兵士の存在を一端脇に置く。
「さて、余計な前置きはなしだ。今から言う者だけ残れ。先ず初めに
この決定に警備兵達は驚きを隠せずにいる。それぞれ一部隊8人編成であり、今の話からこの場に残る兵士は紅の狼を覗けば24人しかいない。そしてそれよりも問題なのが、紅の狼を全員この場に残すと言ったことだ。
思わず、紅の狼の一人が手を挙げて、リーダーに問いを投げる。
「おいおい本気か?リーダー。俺たちを除けば後は素人しかいないんだぞ?」
「ああ本気だ。デイブ、副隊長という名目で
手を挙げた男デイブはリーダーの言葉を受け顎に手を当てながらも、首肯する。
「あ、ああ、一応、これからのことも考えて少しずつ隊長の仕事を振っていた奴もいるが……おいおいおい冗談だろ?」
「いや、冗談なんかじゃないさ。そいつらに警備隊を率いて侵入者の捜索をしてもらう。」
デイブだけではない。この場にいた全員がその言葉に動揺を露わにした。それもその筈で警備隊は全部でⅤ小隊まで存在する。その内4小隊が地上の警備を担当し、この場に3小隊残る。つまり彼らを除いた116人を素人に率いろ、そう命令しているのだ。紅の狼の人間24人が部隊を抜けるため正確には92人になるが、ベテランの傭兵部隊である彼らが抜けることはむしろ部隊としてはマイナスだ。
それらを考えた結果、出される結論は当然――、
「お、俺達だけで動くのか?」
「馬鹿っ!私語厳禁だろ!」
新兵達の不安という形で現れる。
敵は手練れで施設内を引っ搔き回していると聞く。そんな相手に自分達だけで対応できるのか、これだけの数の指揮を一体誰が担うのか、マニュアルにない動きを求められた際にどう対処すればいいのか、そんな状況で不安を感じるなという方が無理だ。
口には出せなかったが、誰もが同じことを考えていた。勿論その不安はリーダーとて分かっていた。だからこそ、安心させるように言葉を紡ぐ。
「安心しろ。お前たちの役目は侵入者の捜索だ。
居場所が分かったら逐一俺に報告してくれればいい。
その後、追加で指示を出すこともあるが、あくまでもお前たちの役目は敵を捕捉し続けることと侵入者を北地区まで誘導することだ。」
「誘導?悪いがリーダー今の話の中に敵を誘導できる要素があったようには思えないんだが…」
「良い質問だ。デイブ。
今回の敵の動きから考えて何処まで想定通りに動かされたと思う?」
「あ、あ~、まぁ、競技区画北地区に俺達が集まることは想定済みだったんじゃねぇか?向こうからしてもそっちの方が動きやすいし」
「そうだ。そして、相手は俺達が守りを固めると考える筈だ。」
「成程、だから敢えて大部分を捜索に向かわせ、相手の裏を掻く。そういうことだな?」
「はっ、馬鹿デイブ。チェスや将棋じゃないんだぞ?そんな回りくどいことする訳がない」
「…はっ?じゃあなんのために捜索に向かわせるんだ?相手の狙い通りだとしても守りを固めた方が断然いいだろう?」
デイブの考えは一見間違っていない様に思える。敵の数が3人でこちらが100人超、基本的に長期戦はこちらが有利だ。勿論食料を駄目にされれば長期戦が不利になるのは人数の多いこちらだが、敵の数から考えて、一挙に食料を潰すことは出来ない。守りを固めつつ、一部の部隊に食料集めを命じれば十分長期戦が可能だ。それに反して敵は3人。どう考えても長期戦は不可能。こちらが兵を小出しにし圧を掛ければ敵地で体力を擦り減らし、何処かで決定的なミスをする。
一応こちらにも競技区画北地区に押し込められたVIPたちが不満の声を挙げるという欠点はある策だが、それでも安全に敵を処理できるはずだ。
そう思うのだが、リーダーは首を横に振っている。
「分かっていないな。デイブ。その策は不確定要素を加味していない。もっと完璧な策がある」
「完璧な策?」
「そうだ。」
「そんな策があるのか?」
「ある」
「本当に?」
「本当だ」
「それは一体」
「俺が行ってぶっ飛ばす!つまり、暴力で分からせる」
「「「あぁ~」」」
この瞬間、紅の狼のメンバーの心が一つになった。そう言えばこの人こういう人だったなぁ、と。リーダーは時には頭を使うこともある。仕事を教えるのは上手い方だ。仲間を信頼してない訳でもない。
けれど、あくまでも最後に信じるのは己の拳。もっと言えば、策を弄するのは、敵の狙いを理解しようとするのは、自らの手で確実に敵に拳を叩きこむためだ。
そして、敵の位置と向かう方向さえわかれば待ち構えられる。リーダーの目的はそれだった。
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ホテル街東地区、他のホテル街と比べると商業地区まで少し遠く、所感立地の悪い場所にある。米太郎と蓮、左近の三人はそんな東地区にあるホテルの一棟で向き合っていた。
「それじゃあ米太郎は囚われた人をお願いね。ボクと左近で暗殺に向かうから」
「うん、気を付けてね」
「なぁに、儂がいるんじゃ、大船に乗ったつもりでいるんじゃな!」
蓮と左近は米太郎へと一時の別れを告げると、競技区画北地区へと駆けだす。
勿論駆け出すと言っても、出来るだけ敵に見つからない様に物陰に隠れながらの移動を心掛け、時に屋根の上、時に路地の裏などを縦横無尽に行き来している。
忍者ならではの移動法だ。
そんな中、表通りへと視線を向けた左近は蓮に話しかける。
「蓮の予想に反して兵士の数が多くないかのう?」
「うん、ボクもそう思う。相手には何か策があるのか?
…いや、取り敢えず競技区画北地区に向かおう。そこに行けば何か分かるかもしれない。」
「うむ、承知した。」
その後、警備兵の多さに見つかることも増えた。ただ、身を隠すだけなら兎も角、競技区画北地区に向かう関係上どうしても他人の目を避けては通れない場所があったのだ。だが、幸運なのか、それとも相手に何らかの狙いがあったのか、こちらを積極的に攻撃してくることは無かった。
(なんじゃ?こ奴らは何がしたい?)
左近はその不可解な行動に眉間を寄せるが、答えが分かる訳もない。
答えが分かったのは、実際に相手の策に嵌ってから、いや、これを策と呼んでいいのか分からないが――、
「随分好き勝手に遊んでくれたじゃないか?糞餓鬼ども。少し灸をすえる必要がありそうだ」
警備兵の服を着た男達が突如空から降ってきて左近と蓮の前に立ち塞がった。
一人は金髪オールバックにサングラスを掛けた男。もう一人は――、
「どもども~、お邪魔しま…お邪魔されてます~。自分はリックっていうんですけど。あなた達の名前教えて貰ってもいいですか~」
殺し合いの前とは思えない軽薄な態度の男だった。
明日も次話投稿します。
時間は未定