TS転生パルゥムがダンジョンで冒険する   作:とある社畜

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5輪目

「…ここ、どこだ?」

 

 気が付いたら俺は真っ暗闇の中にいた。

 

 周囲を見渡しても誰もいない。俺は困惑しながら昨日の記憶を思い出す。いつものようにダンジョンに潜り、ギルドで担当に疑いの目を見られながら魔石を換金し、ホクホク顔で稼ぎをもって普通に家に帰ったはずだ。

 

 こんな真っ暗な場所に見覚えなんてない。

 

「…ノア?」

 

 ふと、懐かしい声が後ろから聞こえた。思わず振り返ると、そこにはガタイのいい男が立っていた。

 

「■■!?おいおい、久しぶりじゃねえか!」

 

 俺はその懐かしい顔を見てすぐさま喜色満面に近寄って、その肩を叩いた。

 

 前世の友人だった。

 

 そいつは俺の高校以来の親友。俺とこいつは似た者同士だった。背丈もガタイも雰囲気も似ていて、当時はまさしく自分の分身のような存在。器用貧乏なのも似ていて、一人だとちょっと要領がいいだけ程度だったのが、二人そろえばそれ以上の結果を出すことができた。俺の青春において、二人が揃えばマジで最強だったのだ。

 

 文化祭で大立ち回りをしたり、他校の不良と喧嘩したこともあった。かと思えば同人誌即売会に挑戦することになったりなどなど、俺たちは高校、大学という7年間、できることにとにかく何でも挑戦し続けたものだ。

 

 なんでこんなところにいるかは分からないが、とにかく久しぶりの再会であった。

 

「マジで久しぶりだな、何年ぶりだ?なんで全然連絡してくれなかったんだよ!」

「ノア。社会人になって全く会いに来なくなっちまったのはお前のほうだろ?」

 

 俺はそいつの肩に腕を回した。

 

「ノアって誰だよおい!親友の名前忘れる奴があるか!俺の名前は―――だっての!」

「はは、悪い悪い」

 

 ■■の前に出る。

 

「なあ、久しぶりに会ったんだし、学生の頃みたいになんかしようぜ!そうだ、俺最近ダンジョンで稼いでるんだよ。俺一人でも結構稼げてるんだけどさあ、俺たちが揃えばもっともっと稼げるぞ!」

「ああ、いいなぁ。はは、お前と話してるとマジで学生の頃に戻ったみたいだ」

 

 「でも…」、と■■は俺の肩を押した。

 

「俺はもうお前とは遊ばねえよ」

「えっ、何だよ急に」

「俺はもう大人になったんだぜ?…ノア。お前、そんな身体で何ができるんだ?」

「…は?」

 

 俺の視界に白金色の前髪が垂れていた。瞬きのうちに、視線の高さがぴったり合っていたはずのそいつの顔が見えなくなった。

 

 俺は気が付いたらロリになっていたのだ。オラリオに来る前の、突如としてこの世界でパルゥムとして目を覚まし、当てもなく彷徨い、ゴミを漁って食いつなぐ卑しい姿。知識をつけるまで、まさしく俺は地獄を見た。男に襲われそうになったこともあった、ネズミのように追い出されることもあった。ただ生きているだけで尊厳を失っていく毎日だった。

 

 かつての親友にだけは、見られたくない姿だった。

 

「あ、ちが…見るな…俺は、俺は男で…」

「そもそも、俺を置いていったのはお前じゃないか…」

 

 小さい手のひらを呆然と見下ろしていたら、視線を外した■■の顔…身長の差が生まれて遥か頭上から、聞いたことのない低い声が響いた。

 

「なんで、置いていったんだよ…」

「ひっ…」

 

 見上げると、いつの間にかそいつの顔はフロッグ・シューターの頭とすげ変わっていた。

 

「一人ニシタノハオマエジャナイカ…」

「ちがっ、や、やめっ、やめぇ…っ」

 

 肩をつかまれ、カエルの口が近づいてきて――――。

 

「う、うわああああああ!…あ?」

 

 俺は荒い呼吸を繰り返しながら、天井を呆然と見上げていた。

 

 場所は寝室。掃除をして何とか寝室としての最低限の体裁を整えた俺の…というか、ヒダルガミファミリアの拠点の光景だった。

 

 俺は確か…ああ、そうだ。

 

 7階層でパープルモス相手に苦戦し、この先は武器が必要だという結論に至ってから早2週間が経過していた。

 

 そしてついに昨日、ギルドへの税金、食費などの生活費や雑費、貯蓄などなどから差し引いて、やっと10万ヴァリスを捻出することに成功したのである。

 

 今日はダンジョン探索を休みにし、その10万ヴァリスを使って武器防具を購入する予定だった。

 

 それに気が付いて、俺は思いっきり息を吐き出した。

 

「…夢かよ…くっそ、最悪な寝起きだ…」

 

 というか、どうして最初に気づけなかったのか。思えば最初から滅茶苦茶な設定だった。

 

「俺、意外と病んでるのか…?」

 

 これは…あれだろうか、やっと安定した生活が見えてきて、安心で緩んだところに不安が表面化した…みたいな。

 

 女になったこととか、ゴミを漁って生き延びたこととか、今はもう過去のことだし気にしてないはずなんだが…男に襲われそうになった時もちゃんと再起不能にしてから逃げ延びたし。

 

 まあ、新生活が始まって知らずのうちに不安が溜まっていたのだろう。思えば今日までダンジョン探索の休みは一回も取ってなかったし、気が張り詰めていたのかもしれない。

 

 今日はせっかくの休み。気分転換にもなるだろうし、やることを終わらせたらゆったりするのもいいかもしれない。

 

 さて、そうと決まれば出かける準備を始めるか。

 

「よっと…んっ?」

 

 起き上がろうとして、俺は動きを止めた。何かが俺にまとわりついていることに気が付いたのだ。俺はそいつにジト目を向けた。

 

「むっちゅ…むちゅ…んふ~…」

 

 そこにいたのは、俺を抱き枕扱いした挙句、俺の頬っぺたをそれはもうおいしそうにちゅぱちゅぱ吸っているアホ神の姿であった。

 

 フロッグシューターが出てきたの、こいつが原因か。

 

 俺はさっきよりもさらに深く息を吐き出して、無言で自由の利く腕を持ち上げて、そいつの頭に向けて振り下ろした。

 

「ふぎゃあっ」

 

 その日、廃墟街の片隅で、そんな気の抜けるような悲鳴が小さく響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…ったく、痕が残らなくてよかった…」

「うへぇ、ごめんてば~」

 

 普通の人間だったら間違いなくうっ血からの痕が色濃く残っていたのだろうが、ステイタスを得た影響か痕はついていなかった。

 

 朝の支度を終わらせて、ベッドから動かないヒダルガミ様を食卓に着かせて、朝食を済ませる。

 

「ヒダルガミ様、今日は出かけるからそのつもりでな」

「うへー、休みなのに朝から元気だねぇ。いってらっしゃーい、お土産よろ~」

「いや、アンタも行くんだけど?」

「えっ」

 

 俺は食べ終わったのを見計らって立ち上がり、親指を玄関に向けた。

 

「装備買うののついでだ。主神にいつまでも襤褸着せるわけにもいかねえしな、服買いに行くぞ」

「ええええ~…」

「嫌そうな顔しない」

 

 俺はヒダルガミ様を持ち上げて背負い、外に出た。ヒダルガミ様は朝日を浴びて「う”っ」と顔をしかめさせて、俺の首筋に顔を埋めてきた。

 

「買ってきてくれればいいのに~…」

「元男だって言っただろ。女の服なんてどう選べばいいかすら分からないんだから、無理いうな」

「今のままでもいいのにぃ…」

「良くねえから買いにいってんだろ」

 

 などと雑談をしながら、俺はあらかじめ目に付けていた服屋に入った。

 

 店の名前は『ヴァナディス』。街の隅に存在する小さな服屋で、通りがかった際にちらっと見てみたら割とお手頃価格の服が売られていたのである。

 

「いらっしゃーい…あら、可愛いお客さん!」

 

 10代くらいの女の子の店員が来て、俺とヒダルガミ様を見て目を細めて笑顔で出迎えてくれた。

 

「うちの神様の服を見繕ってほしいんだ。この襤褸以上の服なら何でもいいよ」

「あら、神様の分だけですか?」

「俺は冒険者だからな。この後戦闘衣服(バトルクロス)を買いに行く予定だからいらない」

「はぁい、分かりました!それじゃあ、採寸しますので神様お借りしますね!」

「うへ~…」

 

 ひょい、と人形みたいに持っていかれるヒダルガミ様。

 

 そして十数分後。

 

「おお、いいじゃん」

「たはは…変わり果ててしまったよ…」

 

 そこにはワンピースに身を包んだ黒髪ロリの姿があった。パジャマにもできるそのワンピースはセーラー服とよく似た襟が付いていて、色は上から黒と白のグラデーションで星がちりばめられている。

 

 靴も選んでもらっており、こちらは脱ぎ着しやすいようにサンダルだった。

 

「これ買います」

「毎度~。あ、そうだ、お客様、服はご所望でないということですが、だったら髪はいかがですか?」

「髪?」

「うち、美容室もやってまして~」

 

 そういって手で指したほうにはガラス戸があり、その向こうには散髪用の椅子があった。

 

「もともと趣味で始めたんですけど、意外と好評でして。いかがです?他の場所よりかはお安いですよ?」

「うーん…」

 

 確かに、今の俺はロングヘア。ぶっちゃけ冒険に邪魔だと常々感じていたのだ。大立ち回りをするたびに髪がぶんぶんぶらぶらと体に当たったり視界をふさいできたり。時にはゴブリンに引っ張られたりしたこともあったか。

 

 切るのは良いんだけど…実はもう自分で切っちゃおうかと思っていたところだったんだよな。装備を買うついでに適当にハサミも買う予定だったのだ。

 

 絶対そっちの方が安く済むんだけどなぁ…とはいえ、餅は餅屋という言葉もある。腕に覚えがあるというのなら、ここで任せてしまってもいいのかもしれない。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

「ありがとうございます!それではどうぞこちらへ~」

 

 というわけで、ヒダルガミ様を待合椅子に寝かせて、俺は理容椅子に座る。

 

「お客様、今日はどんな髪型にしますか?冒険者とはいえ女の子ですから、おしゃれしないともったいないですよ~?とても綺麗なプラチナブロンドですし、私、腕によりをかけますからね!」

 

 どうやら張り切ってくれているようだ。俺は早速注文を口にした。

 

「ああ、適当に坊主にしてくれ。戦闘の時邪魔だったんだよ、これ」

「…は?」

 

 鏡越しの店員の顔が、笑顔のまま固まったのが分かった。

 

 

 

 

 

「解せぬ」

 

 俺は新しい髪型…子犬のしっぽほどの小さなポニテに、前髪は髪留めで留めている…を引っ提げながら服屋からよたよたと退店していた。

 

 俺の坊主にしてくれという注文は当たり前のようになかったことにされて、店員にお任せすることになったのだが…まあ、戦闘の時邪魔しなさそうな髪型にしてくれたのだ。文句は言うまい。

 

「…で、ヒダルガミ様、本当に一人で帰れる?」

「うへ、結構近かったし大丈夫だよ~。それに今からまた買いに行くんでしょ?遠回りさせてまで家に持って帰らせるなんて申し訳ないし~」

「ま、確かに近いし大丈夫か。気を付けて帰れよ」

「は~い」

 

 というわけで、俺はここでヒダルガミ様と別れてバベルの方向に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、ノアがいなくなってからの話。

 

 ノアが装備を買いにバベルへと向かった数分後、ヒダルガミは道端に落ちていた。

 

「うへ…お腹空いた…動けない…」

「あらあら、大丈夫…ですか?」

 

 そんなヒダルガミに話しかけたのは、銀髪の少女だった。後ろにポニーテールで髪をまとめているごく普通の町娘である。

 

「うへ、フレイヤじゃん。どしたの?」

「…フレイヤ様って、オラリオでトップクラスの勢力を持つ、世界で一番美人で可愛いフレイヤファミリアの主神様の名前ですよね?人違いですよ~、私はつい先日オープンした豊穣の女主人って酒場の看板娘の、シル・フローヴァなんですからねっ、次間違えたら…めっ、ですよ?」

「あ~…ごめんごめん、人違いだったや~…」

「それで、神様、ですよね?どうしたんですか、そんなところで」

「うへぇ…」

 

 ヒダルガミは仰向けになり、シルを見上げた。

 

「ハァ…眷属に、あたしもちゃんとしてるって証明したくて…一人でおうちに帰りたかったんだけど…お腹がすいちゃってぇ…」

「はあ」

「もう疲れちゃって…全然動けなくてェ…」

「それで、行き倒れてたと」

「うん…」

 

 シルは小さくため息をついた。

 

「仕方ないなぁ…本当は休日のショッピングを楽しもうと思ってたんだけど…連れて行ってあげますね」

「うへ、ありがとう、シル~」

 

 とヒダルガミの背に片手を回して肩を貸した。後ろで手を貸そうか迷う眷属を視線だけで止めて、歩き出す。

 

「その代わり、ヒダルガミ様の初めての眷属について…ちょっとだけ教えてくださいね?」

「うへ、それは無理~」

 

 シルはヒダルガミを手放した。

 

「うごっ」

「ヒダルガミ様、私、やっぱりショッピング行ってきますね~?」

「うう…フレイヤぁ…」

 

 涙目でうめくヒダルガミに、背を向けて歩き去ろうとしていたシルは徐々に歩みを遅くして、そしてばつの悪そうな顔でため息をついた。

 

「…は~…しょうがないなぁ、もう」

 

 結局助けることにしたらしい。ヒダルガミにもう一度肩を貸して、一人の神と複数の護衛を連れたただの町娘は、えっちらおっちら廃墟街へと向かったのだった。

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