You Tubeなどであのドラマの評判を見て、書こうと思っていたのですが…だいぶ時間が経ってしまいました。

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モラハラ、托卵、そして残忍な大和(あるいは、マシな方を選べない女の話)

四年前、私・美羽は仕事を辞めて、宏樹さんと結婚した。

この結婚は、本当に良いご縁だった。

宏樹さんはとても優しい人で、いつだって私を、私の家族のことも気遣ってくれた。

 

「君を必ず、最高に幸せにしてみせる…神に誓うよ。」

宏樹さんは元々仕事熱心な人だったけれど、私との結婚を境に、こう言ってますます仕事熱心になっていった。

 

…宏樹さんのお仕事については、私もよくは知らない。

ただ、本当にお仕事が大変なんだということだけは、何となくわかった。

私にも何か出来ないか…出来ることはないか…。

そう思いながら、私は宏樹さんに接しようとしたけれど…。

 

「君に出来ることなんてないよ。」

「君にはわからないよ。」

…確かに、私には本当はどうしたら良いのかなんてわからなかった、けれど…。

 

 

結婚したはじめの頃から、私は子供が欲しいと思っていた。

はじめの頃は、宏樹さんも…その…積極的だったけれど、お仕事に根を詰めるようになってからは…。

 

「またその話?」

「…暇だから子供が欲しいんだろ?」

…私は宏樹さんとの間に、溝を感じるようになっていった。

 

 

宏樹さんとの間に溝を感じるようになった時、私は…亮介と再会した。

亮介は、中学時代の同級生で…私の、初恋の相手だった。

面倒見が良くて、優しい人だった。

あの時の恋は、中学卒業と同時に終わってしまったけれど、十何年かぶりに会った亮介は、あの時のままの、面倒見の良い、優しい亮介のままだった。

 

再会してから、私は時々亮介と会うようになった。

神に誓って言うけれど、この時、私たちには疚しい点は無かった。

 

…けれどその間にも、私と宏樹さんの間の溝は、大きく、深くなっていった。

そんな溝の大きさと深さに耐えられなくなった私は…ついに一線を越えてしまった。

 

 私は、亮介の子を身籠もり…出産した。

 

 

私は娘を…結花を身籠もり、出産した。

宏樹さんとの子ではない、亮介との子。

でも私は、その事実を宏樹さんに明かすことは出来なかった。

その事実を知らない宏樹さんは、私の出産を喜んでくれた。

…本当に、喜んでくれた。

結花の誕生を期に、私と宏樹さんとの間の溝は、埋まり始めた。

だから、なおさら事実を明かすことなど、出来るはずもなかった…。

 

そして、絶対に暴かれない嘘はない。

結花が三歳になる今年…些細なきっかけから、宏樹さんはついに事実を知ってしまった…。

 

私と宏樹さん、そして周囲の人たちは混乱に陥ってしまった。

宏樹さんが事実を知ってしまってからこの時に至るまでの出来事を、私が言葉にして説明するのはほとんど不可能に近い。

どうしてそういう状態に落ち着いたのかは、私にも説明出来ないけれど、私は結花を連れて安アパートで暮らすようになっていた。

…この時点ではまだ、離婚などの具体的な話は出ていない。

この時の混乱は、そんな話が出てこないほどの混乱だった。

 

でも、いつまでもこのままの状態では居られない。

私と宏樹さんは、渡辺さん―――私と宏樹さんの、共通の知人だ―――の提案で、話し合いの席を持つことになった。

 

 

そしてこの日、私はその喫茶店へ―――話し合いの場へ赴いた。

 

 

その喫茶店に入って先ず目に入ったのは、席の一つに着いていた女の人…とても大きな女の人だった。

ポニーテイルに纏められた長い焦茶色の髪、温かみを帯びた白い肌。

その女の人は人間ではなくて…艦娘の戦艦大和だった。

 

今の時代、艦娘は私たち人間にとって身近な存在になっている。

だから街頭で艦娘を見かけることは、それほど珍しいことではない。

でも、戦艦大和という艦娘をこれほど間近に見たのは、私も初めてだった。

 

私がここに来たのは、宏樹さんと話し合いをするため。

大和さんのことは措いて、私は話し合いの立合いをしてくれる渡辺さんの姿を探した。

そうしていると、座っていた大和さんが席を立って、私の方に歩み寄ってきた…。

 

「美羽さんですね?」

大和さんが、私に話しかけてきた。

「えっ?は、はい…そうです、けど…あ、あの…あなたは…?」

 

「失礼しました…ご覧の通り、私は大和…通り名を黒鉄大和と申します。」

「私は渡辺さんの…まあ、知人で、急用でここに来られなくなった渡辺さんに代わり、貴方とご主人の話し合いに、立会わせていただくことになりました。」

「なにぶん、渡辺さんにとっても急なことでしたので…渡辺さんも、申し訳ないと仰っていました。」

 

この大和さんが、渡辺さんの知り合い?

渡辺さんの代わりに、私たちの話し合いに立会う?

当惑はしたけれど、考えても仕方のないことだった。

私は大和さんに促されて、席に着いた。

 

程なくして、宏樹さんもお店に姿を現した。

私の正面に大和さんが座っていたのを見て、少し驚いたようだった。

 

「宏樹さんですね?お待ちしていました…さ、こちらへどうぞ。」

大和さんは席を立ち、自分が座っていた席に宏樹さんを座らせた。

そして座る所が無くなった大和さんは…どこにも座らず、私たちが座るテーブルの傍に立った。

 

「あの…あなたは…?」

宏樹さんは大和さんに問いかけた。

「私は渡辺さんの代理です。」

…大和さんは、素っ気なく返していた。

 

私と宏樹さんが正面から向き合ったところで、話し合いが始まった…。

 

「美羽…君は、自分が何をしたかわかってるのか?」

「君は僕の妻…”僕の”配偶者なんだぞ?」

「それなのに…それなのにっ!」

「中学の同級生だか何だか知らないが…僕以外の男と…ッ!」

「君は、君は結婚しているということが、僕の妻であるということがどういうことなのか、わかっているのか?」

 

「それに、結花のこと…!」

「…確かに僕は、君との子供のことについては、気が無い風に言ってしまったさ!」

「で、でも、それでも、君と子供を設けることが出来たら良いなとは、思ってたんだ!」

「だ、だからっ…君に子供ができたって聞いた時は…本当に…本当に良かったと思ったんだ!」

「君が僕の子を産んでくれたって思って…!」

「今まで君に辛く当たってたってことも、それでやっと自覚出来たんだ!」

「だ、だから…これからは君のために、結花のためにって…そう思ってたのに…!」

「なのに…なのに、結花は、僕の子じゃなかった、なんて…!」

「そんなことって…そんなことって…あって良いことなのか!」

 

話し合いが始まるなり、宏樹さんは私を責め立てた。

わかってる。

これもそれも、全部わかってる。

…私はどうかしていた。

でも「どうかしていた」の一言では済まないということも、わかってる。

私は何も言い返せない…。

私は黙って、宏樹さんに責められていた。

 

「ファ…。」

 

…?

流れが途切れたように感じた。

何が起こったのかと思えば…その場に立っていた大和さんが、欠伸をしていた。

 

欠伸を。

その欠伸に私は違和感を覚えて…宏樹さんは憤りを感じたようだった。

「…!?」

「な、何ですか!大和さん…!こっ、こんな時に…!」

 

宏樹さんに咎められて、大和さんは言葉を返した…。

「ああ…すみません。」

「でも宏樹さん、今のお話、何の意味があったんですか。」

 

「意味…って!」

「美羽は!僕を…夫であるこの僕を!裏切ったんですよ!」

「美羽には自分が何をしたのか!わからせないといけないでしょう!?」

 

「何をしたのかわからせないといけない?」

「美羽さんがなさったことと言えば…」

「…宏樹さんという伴侶がある身で、他の男性と関係を持って」

「宏樹さんではなく、その男性の子を身籠もって」

「その子を宏樹さんの子と偽って出産した…でしたね。」

「今、宏樹さんがされたお話の内容も、要約すれば大体そんな感じでした。」

「ですが宏樹さんがお話をされている間」

「美羽さんは反論も訂正もしませんでした。」

「宏樹さんは、美羽さんにわからせないといけないと仰いましたが」

「美羽さんが反論も訂正もしなかったと言うことは」

「自分が何をなさったのか、美羽さんもわかっているということを意味しています。」

「そして美羽さんがなさったことについては」

「既に私も、渡辺さんから聞いています。」

「宏樹さんは美羽さんにわからせないといけないと仰いましたが」

「今、宏樹さんが話されたことは」

「この場に居る三人には、既に周知の事実です。」

「美羽さんが何をなさったのか?」

「それはこの場に居る全員が、既にわかっていることです。」

「既にわかっていることをわからせると言うのは、一体どういう意味なのですか?」

 

「そ、それは…と、とにかく、わ、わからせないと…!」

 

「美羽さんにわかっていないことがあるとすれば」

「それは自分が何をなさったのか、ではなく、これから自分がどうなるのか、ということでしょう。」

「ならば宏樹さんがお話しすることは…今なさることは」

「美羽さんが”何をなさったのか”を説明することではなく」

「離婚届とその他必要な書類を差し出して、美羽さんに署名を求めることです。」

「そして慰謝料なども請求する旨を伝えることです。」

「でも宏樹さんは現実に、”美羽さんが何をなさったのか”を改めて説明されました。」

「これには何の意味があったのですか?何の目的があったのですか?」

 

「それは…!それは…!」

 

大和さんの語り口はとてもゆっくりとして、穏やかだった。

でも大和さんの言葉は、宏樹さんを精神的に追い込んでいた。

…私は、この大和さんを、恐ろしいと思った…。

 

「意味も目的も答えられない。」

「そうすると、今のお話には何の意味も目的も無かったということになります。」

「他の意味も他の目的も無く、ただ話すことそれ自体が意味であり、目的であったということになります。」

 

「話すこと自体が目的…って!」

「僕はただ!美羽に常識を!人の道を!わからせたかっただけです!」

「じゃあ何ですか!僕が、人の道を盾に、ただ美羽を嬲ってたって言うんですか!」

 

激昂した宏樹さんが、そう言って大和さんに食って掛かった。

その時、大和さんは穏やかに微笑んでいた…。

穏やかに微笑んでいた。

私はその穏やかな微笑みに…寒気を覚えた。

 

「私は、話すこと自体が意味であり目的であったのでしょう、と言っただけですが…」

「…そうですか…人の道を盾に、美羽さんを…ねぇ…。」

「宏樹さんって…そういう方なんですねぇ…。」

 

「!!ち、違う!ぼ、僕は…そんなんじゃ…!」

「大和さん!ぼ、僕という人間を、勝手に決めつけないでくださいッ!」

 

「私はあくまでも、話すこと自体が意味であり、目的だったのでしょうと言っただけです。」

「人の道を盾にするとか、美羽さんを嬲るとか言い出したのは…」

「…宏樹さん、あなたの方ですよ。」

 

「…!」

「違う…僕は…そんな人間じゃ…!」

 

「そう仰るなら、今のお話が何のためのお話だったのか、わからせてください。」

宏樹さんは、窒息したように沈黙した…。

 

 

大和さんは激昂した宏樹さんを黙らせた。

…でも、大和さんが私を庇ってくれたわけではないということは、何となくわかった。

そして、大和さんの言葉が…牙が、今度は私に向けられるかもしれないとも思った。

…その予感は、現実になった。

 

大和さんは、私の方を見て話し始めた…。

「さて…美羽さん。」

「あなたが、宏樹さんではない男性…亮介さんと仰いましたか…と関係を持たれた時」

「あなたと宏樹さんの間には”溝”があったということですが」

「ご夫婦の間に溝があったことと、亮介さんと関係を持つことには、何の関係があったのですか。」

 

…そんなこと、考えたことも無かった…。

私はただ、あの時…あの時…。

?…どうだったんだろう?…わからない…答えられない…。

 

大和さんは続けた。

「…確かに”子は鎹”の喩えもあります。」

「その子の父親が”誰であったとしても”、他ならぬあなたが子供を産めば」

「夫である宏樹さんも、父親として夫として、あなたに対する接し方を見直してくれる」

「とにかく母親になれば、宏樹さんもまた優しく、寛容になってくれる」

「…そうお考えだったのですか?」

 

あの時、私は本当にどうかしていた。

私が子供を産んで母親になれば、宏樹さんが私に優しくなってくれる?

その子供が宏樹さんの子供でなかったとしても?

…常識的に考えて、そんなことあるわけがないのに…。

 

私が答えられないでいると、宏樹さんが口を挿んできた。

「…それはどういう意味ですか!?」

「僕は、僕は裏切られたんですよ!」

「美羽は、僕という夫がありながら、他の男と…ッ!」

「そんな妻を許せる夫なんてッ!居るわけないじゃありませんか!」

 

「いますよ。」

 

…?

大和さんの返しに、また流れが途切れた。

妻が夫以外の男と関係を持って、そんな妻を許す夫が…居る?

ありえない…確かに、ありえない…。

 

宏樹さんは、大和さんの、奇を衒ったとしか思えない答に激昂した。

「ふ…ふざけてるんですか?あなたには常識が無いんですか!?」

「他の男と関係を持つ妻を許して!それで夫婦関係が成り立つわけがないでしょう!」

「他の男と関係を持つ妻を許す夫なんて!居るわけがありませんっ!」

「デ…デタラメを!言わないでください!」

 

「デタラメではありません。」

「そういう”夫”は、今ここに居ます…私です。」

 

「!?」

 

そういえば、大和さんは人間ではなくて、艦娘だった。

艦娘は人間の男性だけではなくて、人間の女性とも、他の艦娘とも交わって子供を産めると聞いたことがある。

(艦娘が人間の女性を妊娠させることは出来ないけれど。)

だから大和さんが他の艦娘を”妻”にしていることは、確かにあり得ることだった。

 

「私にも”妻”が…妻と呼べる相手が居ます。」

「でもあの子ったら、私という”夫”がいるのに」

「提督や金剛さんとも肉体関係を持っているんです。」

「それに営業所…鎮守府外で、ちょっと親しくなった人間や艦娘にも、何の躊躇いもなく肉体を許します。」

「…でも、誰かと肌を合わせて、満たされて私の所に帰ってくるあの子の肉体は…」

「…得も言われぬ色香と色艶を放っています。」

「あの子は得も言われぬ色香と色艶を放ちながら、”私の所に帰ってくる”のです。」

「その興奮と歓喜に比べたら、浮気なんて些末なことのように感じます。」

「浮気してきた?」

「…それなら、あの子が誰の”妻”なのか、あの子の肉体にわからせるまでのことです。」

「嫌とは言わせません…まぁもっとも、あの子も嫌とは言いませんけど…。」

「あの子が提督か金剛さんの、他の誰かの子供を産むかもしれない?」

「…それなら、その次は必ず私の子供を産ませるまでのことです。」

 

私も艦娘についてはそれほど詳しい方ではない。

けど私も、大和という艦娘については、ある程度のイメージを持っていた。

でも…この大和さんは…普通の大和じゃない…。

普通とか、常識とか…そんなものが通じない大和…だ…。

私がこの大和さんに恐怖を感じていると、宏樹さんが大和さんに噛みついていた。

 

「…ッ!」

「そ、それじゃ、大和さんは…!」

「僕の器が小さいと!僕が狭量だと!そう言いたいんですか!」

ああ、宏樹さん…そんな言い方をしたら…。

 

「私は”そんな夫などありえない”という主張に対して反例を示しただけです。」

「そして―――些か恥ずかしくはありましたが―――私の性癖?を白状しただけです。」

「宏樹さんの器量の話など、いつ出てきましたか?」

 

「あ…!う…ぐ…ウウッ!」

宏樹さんは再び、大和さんに沈黙…窒息させられた。

 

 

大和さんは宏樹さんを黙らせ…窒息させると、改めて私に言葉を…牙を向けてきた。

「それで?美羽さん?美羽さんのお答えはどうなのですか?」

「…宏樹さん自身は否定されましたが…」

「美羽さんは、宏樹さんが…その…”私のような”夫だと思っていたのですか?」

 

「…いえ…。」

私も、そんな”夫”が存在し得るなんて、思ってもいなかった…。

…だからこそ結花を身籠もった時、宏樹さんの子だと…偽ってしまった。

 

「それでは、なぜ美羽さんは亮介さんと…」

「…宏樹さんではない男性と関係を持ち、その男性と子を生したのですか?」

「宏樹さんが私のような”変わり者”なら」

「あるいは美羽さんが、宏樹さんのことを、私のような”変わり者”だと思っていたのなら」

「とにかく母親になってしまうという選択は、理に適っていたかもしれませんが。」

「でも宏樹さんはそんな変わり者ではありませんでしたし」

「美羽さんも宏樹さんのことをそんな変わり者だとは思っていなかった。」

「ならば、なぜ?」

「…現実の美羽さんは、宏樹さんから不貞行為について追及されています。」

「私も法律については素人ですが、慰謝料とか損害賠償とかを請求されることは不可避でしょう。」

「美羽さんが窮地に立たされていることは、素人目にも明らかです。」

「美羽さんのなさったことは、全く不合理だと言わざるを得ません。」

「ならば、なぜなのですか?」

 

…わからない…。

大和さんの言う通り、私がしたことは、世間が許してくれるはずもないこと…。

そのぐらいのことは、わかってたはずなのに…でも、現実の私は…。

どうして…?どうして…?どうして…?どうして…?どうして…?どうして…?

 

私が答えられないでいると、大和さんは…。

「…答えられない?」

「なら、そうすること自体が目的だったから、としか言えませんね。」

 

「…そうすること自体が、目的って…どういう意味…ですか。」

この大和さんと話していると、息が苦しくなってくる…。

でも、どうにか言葉を絞り出すことができた。

 

私の問いに対して、大和さんは…。

「誰かと肌を合わせること、誰かと体を重ねること自体が目的だった、ということですよ。」

 

「体を重ねること自体が目的だった…って!」

「ち、違います!違います!」

「わ、私ッ!そんなのじゃ…そんなのじゃありませんッ!」

「私は、ただ…ただ…!」

 

「なぜそんなにムキになるのですか?」

「私も女の肉体を…人間の肉体を持つ存在として言わせてもらいますが」

「誰かと肌を合わせ、体を重ね、欲望を満たし合い、気持ち良いという感覚を交わし合うあの営みは」

「誰に何を言われようと、確かに素敵な営み、素敵な感覚です。」

「あの子の…妻の浮気自体は、確かに私にとっては面白くないことですが」

「…でもあの感覚の素晴らしさを思えば」

「あの子が出会う人出会う人と、躊躇いなくあの感覚を分かち合おうとすることは、理解できてしまいます。」

「誰かと肌を合わせること自体、誰かと体を重ねること自体も、立派に行為の目的・意味たり得ますよ。」

 

「違うんです!違うんです!」

「私は…私は、ただ…!ただ…!」

 

「違う?…では、なぜなのですか?」

 

…結局、私は…答えることが出来なかった…。

 

いきり立っていた宏樹さんの心は、暗い水底に沈められた。

元々沈んでいた私の心も、さらに深い水底に沈められた。

私も宏樹さんも、それぞれの心を大和さんによって水底に沈められて、その日の話し合いは終わった。

 

 

 

後日、私も宏樹さんも弁護士を立てて、離婚の協議が始まった。

離婚の協議は、何の引っかかりも無く、流れるように進んだ。

私の弁護士も、宏樹さんの弁護士も、流れるように進む協議に戸惑っているように見えた。

…私には協議の場で、何か言うための気力が無かった。

宏樹さんも、それは同じだったらしい。

本当に、流れるように協議は終わり、離婚届は提出され、私と宏樹さんの離婚は成立した。

 

そういえば協議の時、宏樹さんの弁護士が宏樹さんに「本当にこれで良いんですか」と念押ししていた。

算定された慰謝料は―――確かに高額ではあったけど―――私がしたことを考えれば、過酷な額ではなかった。

宏樹さんに、私を責めたり追い込んだりする気力の無いことが、このことにも表れていた。

 

結花は私が引き取ることになった。

そして、私は四年ぶりに働きに出ることになった…。

 

私が再就職した経緯について、今の職場の人たちには正直に話しておいた。

下手に隠しておくのは、却って良くないと思えたから。

実際、今の職場で離婚のことについて触れられることは無かった。

…今の職場に、何かにつけ私を気遣ってくれる男性が一人居た。

彼はこんな私に対して、親身になってくれて…

…私が彼に身を委ねるまでに、それほど時間はかからなかった。

 

…………。

いえ、本当は最初からわかっていた。

彼の目当てが、最初からこれだったと言うことは。

それでも、私は…。

…やっぱり、大和さんの指摘は正しかったのだろうか。

正しかったのだろうか。

認めきることが出来ないまま、私はこの日も彼と…。

 

私も若くなくなれば、自然とこんなことも無くなっていくのだろうけど…。

 

 

結花。

結花が大きくなって、物事がわかるようになったとき、結花は私のことを理解してくれるだろうか。

…いや、理解してくれなくても、受け容れてくれなくても良い。

 

ただ…こんな私を、悪いお手本だとだけでも思ってくれれば…。

 


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