勇者ロトの弟にチート持ちで転生したけど、異世界のダンジョンに転移したのは間違っているだろうか 作:醜い蛭子
「それで結局その子に絆されて、ここまで連れてきたって訳ね」
「……はい」
アリーゼの言葉に身を縮こまらせて返事をするノクスの横で、リリルカもまた同じように小さな身体をより一層小さくしている。
依頼という名目でお腹を空かせたリリルカにジャガ丸くんを御馳走したノクスであったが、流石にそのまま解散という雰囲気にはならず改めてその身の上を聞く事になった。
そして前世の記憶により元から知っていた話であるに拘らず、いざリリルカ本人から悲惨な過去を語られると同情心を抑えられなかったノクス。
未来の事を考えるとリリルカとあまり関わるべきでないという考えは何処へやら、何か力になれる事はないかと『星屑の庭』に連れ帰ったのだ。
「おやおや、『俺は正義について語るような言葉は持ち合わせていない』とか『正義を理由に行動を起こせるような高潔さは微塵もない』と随分なしたり顔で仰ってた御仁は何処へやら?これは
「うぐっ」
輝夜の嫌味ったらしくも至極真っ当で古傷を抉るような指摘にノクスは思わずたじろぐ。
正義云々は別にしても少々リリルカに肩入れし過ぎている自覚はノクスにもあった。
しかし図らずとも今回の異世界転移を経て、ノクスは自分が如何に恵まれた人生を送って来たかも痛感してしまったのだ。
転生者というイレギュラーな存在でありながらも優しく頼りになる両親に囲まれ、兄が齎した平和を享受する日々。
勿論まだ魔物や盗賊といった脅威が完全に無くなった訳では無かったが、それでも目に見えるような悲劇とノクスは今まで遭遇した事がなかった。
だがここオラリオは違う。
ダンジョンの探索によるリスクは冒険者の自己責任もあるとはいえ、長きに渡って人々の心を蝕み苦難の日々が続いた暗黒期、例え闇派閥でなくともリリルカのように身勝手な神や人間の犠牲になる事もある。
物語でない現実としてそれを目の当たりにした時に義憤を感じないと言えば嘘になるし、思わず手を差し伸べてしまう程度の善性を有する自分をノクスは否定できない。
「まぁまぁ、ノクスもすっかり
アリーゼの言葉を聞いてノクスは恨めしそうにアストレアに目を向けるが、罰が悪そうに顔を逸らされてしまう。
知らず知らずの内にファミリア内で弟分という立場が定着しつつあると共に、アストレアからは冷静な自己分析をキャラを作ってるだけだと勘違いされているらしい事を知って戦慄を覚えるノクス。
何やら自分の立ち位置が妙な事になっている事を実感させられながらも、新参者である事は間違いないのでノクスも現状で余計な口は挟めなかった。
「お言葉ですが団長殿。確かにその小人族の境遇には同情すべき点が無いとは言いませんが、今のオラリオに似たような子供は五万とおります。それを一々拾っていてはキリが無いのでは?」
「心苦しいけど輝夜の言う事は尤もね。
何処か懐古の念と共に哀愁を感じさせる表情をアリーゼだけでなくアストレア・ファミリアの面々が各々に浮かべる。
その脳裏に浮かぶ少女の名前はアーディ・ヴァルマ。
違うファミリアの所属ながらも同じ志を抱く同士であり、そして卑劣な罠によって二年前に儚くも命を散らしたアーディの生き様は今もアストレア・ファミリアに深く根付いている。
まだアーディ自身について詳しく話を聞いた事はなかったが、前世の知識からアリーゼの言うあの子というのがアーディである事はノクスも容易に想像がついた。
正義巡継──人との繋がりによって巡り紡がれる正義の軌跡。
決して高二病という的外れな診断を認める訳ではないものの、かつてよりノクスが抱いていた転生者という世界に対する自分自身の異物感。
そこに今回の異世界転移も相まって、余計に意固地になっていた面はあるかもしれないとノクスは少し考えを改める。
「さてノクスを弄るのもそれくらいにして、そろそろ現実的な話をしようぜ。アタシとしてはこのガキの面倒を見るっていうのは賛成だ」
「同族としての同情ですかしら?」
「馬鹿言え、アタシはそこまで甘くねえよ。ただこのガキは何もせずにアタシ達の世話になろうって言ってんじゃなくて、あくまでサポーターとして雇って欲しいって言ってんだ。その覚悟は本物だよな?」
「は、はい!両親が死んだリリをここまで育ててくださったソーマ様への恩はありますが、本当はもうあのファミリアには戻りたくないんです。けどファミリアを脱退するにはお金が必要で、それを稼ぐ為に噂に高いアストレア・ファミリアで働かせて欲しいんです」
「
「ヘヘ、確かにそれもあります。まさかノクス様が噂のアストレア・ファミリアに取り入った悪い虫だとは思いもしませんでしたけど……」
(え!?俺ってそんな風に周りから見られてるの!?)
しかし考えるまでもなくアストレア・ファミリアは正義の味方としてオラリオの人々から慕われ、ご覧の通り見た目麗しい眷属ばかりで構成されている。
同じ新メンバーでもセレネなら何の遜色もないだろうが、ノクスは容姿以前に男というだけで浮いて見えるのかもしれない。
それに悪い虫と評されている辺り何やら嫉妬や私怨も混じっていそうで、これはやはり変な噂にならないよう気を付けなければならないとノクスは人知れず心を引き締めた。
「見ての通りそれなりに知恵も働きそうだ。そしてノクスとセレネが加わった今、確実にアタシ達のダンジョン探索も進む事になる。このタイミングで専門のサポーターを増員するのは悪くねえと思うぞ」
「まぁライラの言うことも一理あるとはいえ、本当にサポーターとしてこの子を同行させるなら非戦闘員に対する守りも考慮しませんと」
「それは私が引き受けるわ」
そう名乗り出たのはノクスと同じく新参者である故にファミリアの決定には口を出さずにいたセレネであった。
「アリーゼやリューとも話したけど、パーティーのバランスを考えるなら暫く私は回復と補助に専念して欲しいって。だとすれば必然的に私は後衛になるし、攻撃に参加しない分の余裕は生まれると思う」
「リリ何かの為によろしいですか?」
「勿論よ。それに昔からノクスが持ち込んだ問題の対処に当たるのが私の役割だから」
「それはお互い様だろ!」
「という事みたいだけどまだ何か異論はある、輝夜?」
「他にも色々詰めなければならない点はあると思いますが、団長殿が最終的に決めた事ならそれに従いましょう」
こうしてリリルカはソーマ・ファミリアを脱退するまでの間、仮入団という形でアストレア・ファミリアと行動を共にする事が決まった。
結局リリルカの運命を変える後押しをしてしまった訳だが、安心した表情を浮かべるリリルカを見てノクスはこれで良かったと取り合えず納得する事にする。
そして食事を終えてノクスは新たに寝起きする為に用意した部屋に戻ると、改めて自分の行動指針に関して考えを巡らせるのであった。
打算的であるとは、即ち心配性であるという事。
そしてノクスが一体自分が何を一番恐れているか考えた時、それは自分のせいで余計な犠牲が出てしまう事だった。
だから元々死すべき運命にあったアストレア・ファミリアに対しては迷わず行動出来たのに反して、少なくとも五年後の時点で生存が確認出来ているリリルカの未来が大きく変わってしまう可能性を憂慮したのだ。
しかしバタフライ効果というものが本当に存在するかどうかは定かでないが、リューを除いた全滅を逃れた時点でアストレアを含めた12人の運命は既に大きく変わっている。
そこから派生する影響を考えれば、ノクスがあれこれ一人で考える事は馬鹿らしいだけでなく烏滸がましい事なのかもしれない。
とはいえ今でも自分が知る物語の人物と積極的に関わろうという思いは全く生じないが、少なくとも今回のようなイレギュラーな遭遇を一々恐れていても仕方ないとノクスはある程度なら割り切る事を決めた。
その一方でこの世界に転移してきた理由を考え始めると、中々煮え切らないものがある。
只の偶発なのか、それとも気付かぬ間に何か使命や宿命のようなものを帯びているのか。
転生者として【
だとすれば帰る方法は簡単に見つからないかもしれないという悲壮感が生まれると同時に、巻き込んでしまったであろうセレネに対する罪悪感のようなものがノクスの中で込み上げてきた。
セレネ本人はこの新天地における冒険に前向きとはいえ、ダンジョンの探索に限らずノクスはこの世界が終末に向かっている事を知っている。
例え何が起ころうとセレネだけは絶対に守り抜く事がノクスの中に大前提であるのと同様に、今となっては打算抜きでアストレア・ファミリアやリリルカが犠牲になる事も許容出来ない程には情が移っていた。
しかし
【
そんな事を考えながら眠りについた事がノクスに新たな魔法を目覚めさせる切っ掛けになったのかもしれない。
それから更に五日後。
ノクスとセレネの装備の新調に加えて、新たに加わる事になったリリルカを交えた陣形の確認などを経て今度はファミリア全体でダンジョン下層への遠征が決まった。
そして少しでも無事に生還する確率を高める為に多くのファミリアではダンジョンの探索前にステイタス更新を行うのが通例となっており、先日更新を行ったばかりのノクスも念の為にと他のメンバーと一緒にステイタス更新をして貰った。
「ノクス、貴方に新しく魔法が発現してるわ。でも毎度の事ながら私の理解が追いつかない内容だから自分で確認してくれる?」
少しキャラが崩れている気がするアストレアからノクスはステイタスが写された羊皮紙を受け取るとノクスは言われた通りに内容へ目を通す。
そこに記されていたのは……。
ノクス
Lv.3(レベル39)
職業:勇者
力:xxx
耐久:xxx
器用:xxx
俊敏:xxx
魔力:xxx
勇者:S
闘気:S
《魔法》
【ダーマ】
・転職魔法
・詠唱式「この世の全ての命を司る神よ!新たな人生を歩ませたまえ!」
【】
【】
《スキル》
【想技魂刻レリアーティオ】
・対象のイメージに基づくスキルを発現させる
【勇者模倣ヴィルフォルティス】
・異界の勇者に纏わる能力を発現
・逆境時全アビリティに超高補正
【異邦摂理クレスケーレ】
・異邦の理に則って成長する
・成長が確約される
この魔法の効果を確かめる為に、結局遠征は更に一日先延ばしになるのだった。