転生特典が「キノコ栽培」だったので戦闘は避けるようにします。 作:菱形の面積
おはようございまーす。レーナさんと共にキノコ鍋をつついたその翌朝である。俺はさわやかな気持ちでベッドから体を起こす。昨日は久しぶりに前世の味を堪能できたおかげか、今までにないくらい心が晴れ渡っている。俺の抱えている仕事も、大きなヤマは片付いた。
とんでもなくすがすがしいぜ。
であると同時に、少しだけ暇になった。なぜだろう。あれだけ休みたい休みたいと思っていながら、いざ暇になると落ち着かなくなってしまう。
その時、圧倒的な閃きが俺の脳内ではじけた。
護衛にワサビがいるんだから、森の奥で珍しいキノコとか滅茶苦茶採取できるんじゃねえか???
もちろん鉄斧ガントレットに正式に依頼を出すのもいいんだが、ワイバーンを討伐した強豪に素材採取の護衛なんてことをさせるのはさすがに心苦しい。
そしたら長らく使っていなかった俺のスキル、「キノコ栽培」。久しぶりに使ってパークポイントゲットしてゲーマーらしくチート級のパーク取得してチートライフしようぜ。
俺は眼をこすりながら冒険の支度を始める。何はともあれ、朝飯だ。
小一時間もしたころ、俺とワサビはいつもの森の入り口に立っていた。もともとワサビが統べていた縄張りがどこかは知らないが、気まずそうな様子はないためこの先の心配はしなくてもよさそうだ。
「いいかワサビ。今回のミッションは『レアなキノコの採取』および『俺のスキル経験値の回収』だ。だが、最優先事項は互いに無傷での帰還。ゼロ災で行こう、ヨシ!」
「我輩の権能により、貴殿の周りには悪意ある魔物は寄っては来れぬよ」
ワサビの呆れたような声を受け取り、俺たちは鬱蒼とした森へと足を踏み入れた。
膝までもある下草や、湿った土を踏みしめる感触が心地良い。本来ならゴブリンやコボルトの出現を警戒して剣を構えるべき場面だろうが、俺の相棒は規格外だ。なんでも「森羅の狼」とかいう種族の元長なんだぜ。ワサビが前を歩くだけで、茂みの奥からは獣の悲鳴と共に、何かが全力で逃走していく気配がする。
おかげで俺は、レアそうなキノコの生えてそうな場所探しだけに集中できる。
「ふむ。湿度が上がってきた。風通しは悪いが、日照条件は悪くないぞ」
ワサビが告げる。その瞬間、俺の直感がある一点に反応する。巨大な古木の根元。倒木が折り重なり、絶妙な日陰を作っているポイントだ。
「あったぞ、ワサビ」
そこに生えていたのは、見たこともないキノコだった。
半透明のキノコで、傘には時計の文字盤のような模様がある。
鑑定せずとも分かる。これはレアものだ。そういう雰囲気をしている。
「そういえば、貴殿が権能を使う場面は見たことがなかったな」
ワサビはそのキノコをのぞき込む。俺は膝をつき、目の前の「宝」に魅入っていた。
「何て名前のキノコだ?」
「キザミキノコであるな。食えぬ」
俺は『キノコ大百科』を発動させる。
【キザミキノコ。このキノコを乾燥させた粉末を醸造中の酒や、熟成中の薬品に少量加えると、化学反応の時間を劇的に早めることができる。数年かかる果実酒をわずか数日で作ったり、調合に一週間かかるポーションを、数分で完成させたりできる。また、栽培する土に混ぜ込むことで作物の生育をも早める。即時栽培可能】
放置ゲームみたいな機能のキノコしてんな??? スタミナ使用して自動周回する機能ってことか???
俺はキザミキノコに向けてキノコ栽培スキルを発動する。あっという間に、周りから山ほどのキノコが生まれた。俺はもう慣れたが、これはワサビにとっては強烈だったらしい。
「信じられん……キザミキノコがこれほどの短時間で、しかも密集して発生するなどありえん」
心なしかワサビの声は震えていた。それほどありえないことなのだろう。
「主よ……貴殿の権能は自然に干渉しすぎる。ゆめゆめ使いどころには気を付けてくれ給えよ?」
「わかってるよ。見境なしに使いまくったらこの森が全部キノコで覆われそうだもんな」
ワサビの心配の声を受けながら、キノコをありったけストレージに入れた。
「ところでワサビ、もっとレアそうなキノコの生える場所って知らない?」
俺の素朴な問いに、ワサビは少しだけ考え込む様子を見せ、そして答えを導く。