あの惨劇から、二週間あまりが過ぎていた。
不死川は、着実にあの鬼の居場所を暴こうとしている。その命をめぐる影の戦いは、一刻の猶予もなくなっていた。
昼下がりの蝶屋敷。薬湯と消毒液の匂いが満ちる静寂の中、胡蝶しのぶは眠る姉の傍らで、思考の刃を研ぎ澄ませていた。
カサリ、と手の中の報告書が立てる乾いた音が、やけに大きく響く。不死川の部隊の広範な捜索網。その周辺を嗅ぎまわっている存在。盤上の駒が、一斉に動き出していた。
こらえきれない激情が、胸の奥で荒れ狂う。なぜ、誰も彼もが姉の思いを踏みにじるのか。
姉の穏やかな寝息が聞こえる。今にも起き上がりそうなのに、その意識は今だ闇の中にあった。
――もし、このまま姉さんが。
弱気な考えが頭をよぎるたび、しのぶは無理やりそれを打ち消す。自分が信じなくて、誰が姉を信じるというのか。そうして、祈るように姉の手を握った、その時だった。
ぴくり、と。握っていたカナエの指が、微かに動いた。
しのぶは息を呑み、眠っているはずの姉の顔を見る。薄く開かれた目と、視線が重なった。
「……しのぶ……?」
愛情だけが込められた、優しい声音。ひどく久々に感じる、世界で一番大切な、愛しい姉の声だった。
「姉さん……!姉さん!」
「……ああ、よかった……。しのぶは、無事だったのね……」
思わず抱きついたしのぶの耳に届いた言葉。カナエは安心したように穏やかに微笑んでいた。姉さんの笑顔だ。胸の奥から、陽だまりのような温かい安堵が込み上げてきて、視界がぼやける。
「私のことより、姉さんが……!」
「……うん、分かってる。もう、柱としては戦えないわね、こんな体じゃ……」
その声に悲壮感はなかったが、滲む無念さに胸が痛む。しかし、しのぶにとっては些細なことだった。
「……生きてて、良かった……!」
心配かけてごめんね。耳元でそんな言葉が聞こえる。
姉の温かさに身を委ね、いくらかの時間が経った。
ふと、彼女はしのぶに問いかける。その瞳には、切実な光が宿っていた。
「……あの人は……斎鬼くんは、どうなったの……?無事……?」
「……」
冷や水をかけられたように、胸を満たしていた陽だまりが消えた。姉の口から出た、鬼の名。
安堵の裏側から、じわりと苦い何かがせり上がってくる。しのぶは、その響きが胸の奥で静かに掻き立てる憎悪を、必死に押し殺した。
「……今、保護に動いてるところよ。細かいことは、あとで話す」
「そう……。生きて、いるのね…。よかった…」
心底安堵したような姉の表情に、しのぶの心は再びかき乱される。なぜ、鬼の心配など。
その問いを飲み込んだしのぶの耳に、控えめな咳払いが聞こえた。
***
数日後、カナエの体調が少しばかり安定したのを見計らい、蝶屋敷の一室で正式な事情聴取が行われた。
聴取役を務めるのは、耀哉の命を受けた音柱・宇髄天元。その隣には、目撃者である水柱・冨岡義勇と、看病人として胡蝶しのぶが同席していた。
宇髄が、カナエの手記をめくりながら、口火を切る。
「――さて、花柱サマ。単刀直入に聞かせてもらうぜ。お前さんと、その『斎鬼』って鬼は、どういう関係だ?」
宇髄の問いは、彼の派手な見た目とは裏腹に、鋭く、的確だった。布団の上に体を起こしたカナエは、まだ顔色は白いものの、凛とした声で静かに語り始めた。
斎鬼との出会い。人を喰わず、同族を狩る彼の異質さ。耀哉の許可を得て、監視を続けていたこと。そこで得た、鬼殺隊が得られなかった鬼の情報。稽古を重ね、言葉を交わすうちに、彼が抱える罪の意識と、人間だった頃の記憶に苦しんでいることを知ったこと。そして、利害を超えた『友達』になったこと。
「……彼は、鬼であることに絶望しながらも、人間であろうと足掻いている、とても悲しい『人』よ」
カナエの静かな告白への反応は、三者三様だった。
宇髄は、組んでいた腕を微動だにさせない。だが、その瞳の奥に獲物を見つけたかのような鋭い光が宿っている。戦局を覆し得る新たな駒の価値を、冷静に見極めている者の目だった。
その隣で、冨岡はふっと息を漏らした。あの夜からずっと頭の中で散らばっていた点と点が、一本の線として繋がる音。己が見た信じがたい光景の、最後のピースが埋まったかのような、静かな納得。彼は再び、安堵とは違う重い息を吐いた。
しのぶの胸中は、痛々しいほどに荒れ狂っていた。心の奥で蓋をし続けていた黒い感情が、あふれ出る。膝の上で固く握りしめられた彼女の拳は、血の気が引いて白くなっていた。
姉と鬼との間に流れた時間。自分が知らなかった、姉の秘密。その一つ一つが、彼女の心を鋭く抉る。
「……姉さん、本気で言ってるの?鬼と、友達になんて」
手記で何度も見た言葉。だが、姉の声でそれを聞いたとき、何かが壊れる音がした。
「鬼は父さんと母さんを殺したじゃない!その鬼だって、元は人を喰ってた下弦の鬼なんでしょ!?どうしてそんなものを……!姉さんがこんな目に遭ってもまだ、そんな甘いこと言えるの!?」
怒りと恐怖で声が震える。しかし、それが誰に対しての情動なのか、しのぶにはもうわからなかった。
「……しのぶ」
カナエは、妹の痛みを全て受け止めるように、優しく、しかし決して譲らない瞳で彼女を見つめた。
「ええ、そうね。…憎いでしょう。私も、あの日からずっと憎いもの」
カナエは、しのぶの激しい言葉を否定せず、静かに受け止めた。その上で、あの夜を思い出すように、ふと視線を宙に彷徨わせる。
「でもね、しのぶ。私、あの上弦の鬼を前にした時…。あの鬼の、あの何も映さない虹の瞳を見た時、憎しみよりも先に、底知れない恐怖を感じてしまったの」
その声は、柱としての威厳ではなく、死の淵を覗いた一人の人間としての、か細い震えを伴っていた。
「あの鬼は、空っぽだった。喜びも、悲しみも、何も持っていなかった。ただ、生きているだけの美しい人形みたいで…。本当に、怖かった」
微かに手が震えている。それを押さえつけるように大きく息を吸うと、今度はあの夜の斎鬼を思い出すように、その瞳に確かな光を宿す。
「でも、斎鬼くんは違う。彼は、苦しんでいたわ。私たちが、父さんと母さんを失って今も苦しんでいるのと同じように…。自分が犯した罪の記憶に、その心はずっと苛まれ続けている。それは、とても…人間らしい痛みだと、私は思ったの」
カナエは、涙で潤むしのぶの瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。
「その痛みを知っている人を…その心を持って、私を助けてくれた人を、私にはどうしても斬ることができない。ごめんなさい、しのぶ。これは、私の我儘なのよ」
そう言って、カナエは妹に許しを乞うように、小さく頭を下げた。
隊律違反となりうる、命を懸けた証言。それは、単なる鬼への同情ではなかった。鬼殺隊の誰もが見ようとしなかった、『鬼』という存在のもう一つの側面を照らし出そうとする、あまりにも切実な叫びだった。
聴取を終えた宇髄は、静かに立ち上がる。
「……話はわかった。柱合会議では、ありのままを報告する」
彼の言葉を最後に、その場の重い空気は、ひとまず解散となった。
だが、その場にいた三人の心には、決して消えることのない、大きな波紋が広がっていた。 鬼とは何か。正義とは何か。その答えを、彼らはこれから自らの目で、心で見つけ出していかなければならなかった。
***
聴取が終わった後、しのぶは一人、月明かりが差し込む縁側に座っていた。
カナエの言葉が、脳裏で何度も反響する。友達。鬼が抱える、人間らしい苦しみ。
姉の言葉は、正しいのかもしれない。そしてあまりにも美しく、今のしのぶには眩しすぎた。鬼に全てを奪われた自分には、その正しさを受け入れられなかった。
――姉さんのようには、なれない。
しのぶは、ぎゅっと着物の袖を握りしめる。カナエのように鬼を赦すことなど、未来永劫できないだろう。
「でも」
二週間後に迫る柱合会議。鬼の裁定は、そこで決まる。
今のままでは、あの鬼はその前に消されるだろう。
余計な情報を拒むように、目を閉じる。瞼の裏に浮かぶ、姉が命を懸けて繋いだあの鬼が、ただ憎しみのままに、無意味に殺される光景。ふつふつと湧き上がる怒り。それは、姉の想いを、その命懸けの行動を否定することに他ならない。
何に対するものかさえわからない怒りで、視界がゆがむ。それは、鬼へ向ける憎悪か、姉の思いを無に帰す者への激情か。聴取後に姉がわずかに見せた、縋るような目。今もきっと、あの鬼が消される不安と戦っている。
あと二週間を生き抜き、柱合会議で価値を示す。あの鬼が生き残る術は、それしかない。
大きく息を吐き、静かに立ち上がる。冷え切ったその目は、最も確実な道を見据えていた。
***
岩柱・悲鳴嶼行冥の屋敷へと続く道は、人の気配が薄れていくにつれて、空気が肌を刺すように澄み渡り、ただ滝の音だけが近づいてくる。胡蝶しのぶは、一途に前だけを見据え、思考の刃を研ぎ澄ませていた。
鬼殺隊という組織を動かす上で、最後に、そして最初に立ちはだかる人。ここを乗り越えなくては、柱合会議であの鬼は殺される。
——悲鳴嶼行冥。
ただ最強なだけではない。柱たちを束ねる精神的な支柱。あの人の言葉は、他の柱全員の言葉よりも重い。そして、誰よりも慈悲深いあの人だからこそ、誰よりも鬼の本質を冷徹に見据え、決して心を許さないだろう。
これから行うのは『交渉』ではない。『戦い』だ。しのぶは、きゅっと拳を握りしめた。
屋敷の庭に足を踏み入れると、巨大な岩のような男は、まるで彼女が来ることを予期していたかのように、滝の前に静座していた。その背中から発せられる気配は、威圧感というよりも、山そのものがそこにあるかのような、絶対的な存在感だった。
「……よく来たな、しのぶ」
その声は、大地を揺るがすように低く、それでいて、かつて自分と姉を救ってくれた時の温かさが確かにあった。しのぶは背筋を伸ばし、深く礼をする。
「悲鳴嶼さん。…お時間をいただき、ありがとうございます」
「カナエのこと、そしてあの鬼のことだな。…お前が来ることは、分かっていた」
その言葉にしのぶは驚きつつも、覚悟を決めて語り始めた。斎鬼という鬼が持つ戦略的価値。十二鬼月の内情、上弦の弐と刃を交えた戦闘情報、そして、この二週間、人を守り鬼を狩ったという事実。
「――彼は、人を襲いません。そして彼を生かすことは、我々が鬼舞辻無惨を滅するという大願を果たすための、最も合理的な判断であると考えます」
全てを聞き終えた悲鳴嶼の目から、はらりはらりと大粒の涙が零れ落ちた。
「…カナエの命が救われたこと、喜ばしく思う。お前の言う理も、確かによく分かった。だが、それとこれとは話が別だ、しのぶ」
その声の響きに、しのぶの心臓が小さく跳ねた。慈愛に満ちている。だが、その奥にある拒絶の響きは、岩のように硬い。用意してきた理屈が揺らぐ恐怖が、胸中で膨れ上がっていく。
「たった一つの例外が、千の規律を無に帰す。その鬼一体を生かすために、我々が積み上げてきた『悪鬼滅殺』という絶対の礎を揺るがせば、隊は内側から瓦解しよう」
「ですが、姉さんは彼に命を救われました!」
身を焼くような焦燥感で、思わず声が大きくなる。
「鬼殺隊の柱を救ったという事実。その命を、私たち自身の手で奪うことが、果たして隊の結束を守ることに繋がりますか!」
「繋がる」
即答だった。しのぶの言葉は、悲鳴嶼の悲しみの記憶に火をつけたようだった。
「私も、かつては信じたかった。だが、そうして幾つもの命が失われた。鬼になった母を、父を、兄弟を、友人をかばい、そうして死んでいった者。『信じる』ことの危うさを、我々は積み重ねすぎた」
その言葉は、しのぶの胸に深く突き刺さる。彼の憎悪は、不死川の激情とは違う。それは、あまりにも深い絶望と、守れなかった者への無限の贖罪から生まれる、静かで、揺るぎない理そのものだった。しのぶの喉が、からからに乾いていく。
「カナエの命は尊い。だが、その尊い一つの命のために、隊士の命を、これから鬼に殺されるであろう幾万の民の命を危険に晒すことは、柱として断じてできない」
問答を繰り返すほどに、岩の壁が目の前にせり上がってくるような絶望感。
この人の正しさは、あまりに血塗られている。積み上げた理屈も、姉を救われた事実も、この巨大な悲しみの前では砂の城だ。己のふがいなさに、奥歯を砕いてしまいたかった。
悲鳴嶼は、それが最後通告だとでも言うように、静かに告げる。
「これ以上、問答は無用だ。私の心は変わらぬ」
断固として、受け入れられない。その揺るぎない事実が、しのぶの心を叩きのめした。視線が下がり、俯く。何とかしないといけないのに、思考がぐるぐると巡り、まとまらない。
話は終わりだと悲鳴嶼が立ち去ろうとした、その瞬間。脳裏に、病床で穏やかに微笑む姉の顔が浮かんだ。あの鬼の生存を知り安堵した、あの表情。
そうだ。歴史がなんだ。この人が、鬼殺隊が積み重ねてきた血塗られた正しさが、なんだというのだ。姉さんの想いを、無様に終わらせてたまるものか。そのために、私はここに来たんだ。拳を強く握る。
ふつふつと、腹の底に冷たい熱が灯った。憎悪とは違う、静かで、無機質な怒り。恩義はある。だが、姉さんの願いを、姉さんが信じた鬼の命を、この人の理屈で無下になどさせてたまるものか。
しのぶは、伏せていた顔を上げた。
その瞳から、絶望の色は消え失せていた。そこに映るのは、燃え盛る炎とは違う、絶対零度の覚悟。
「……分かりました」
その声は、静かだったが、庭の滝の音にも負けないほど、凛と響いた。
「言葉では足りない、歴史が信じさせてくれない、と言うのなら」
息を吸う。覚悟は決まった。
「だったら、悲鳴嶼さん。その柱合会議で、貴方が、そして柱の皆が信用せざるを得ないほどの『事実』を、見せてみせます」
それは、まぎれもない挑戦状だった。
しのぶは、返事を待たずに深く一礼すると、毅然と背を向け、その場を去った。庭に残されたのは、その小さな背中が見えなくなるまで見送っていた悲鳴嶼のみ。やがて、その目からまた一筋、涙がこぼれ落ちた。
「…南無…。カナエも、お前も、あの鬼も。あまりに哀れな子だ…」
***
その翌日、蝶屋敷の一室に、穏やかな昼下がりの光が差し込んでいた。
薬湯を煎じる匂いに混じって、庭で咲き始めた秋桜の香りが、風に乗って微かに漂ってくる。季節は、あの凄惨な夜から着実に歩を進め、世界は何も変わらぬように穏やかな顔をしている。対照的に、この部屋に流れる時間はどこかぎこちなかった。
胡蝶カナエは、寝台の上で半身を起こしながら、薬を調合する妹の背中を静かに見つめていた。乳鉢で薬草をすり潰す音も、薬瓶を並べる指先も、かつて自分が教えていた頃とは比べ物にならないほど正確で、淀みがない。
横顔から覗くしのぶの目。その目を見るたびに胸の奥が痛んだ。真っすぐで、危なっかしくて、目が離せなくて。自分が守らなければと思っていた、たった一人の大切な妹。その妹が、心を殺して戦おうとしている。その事実が、癒えぬ傷のように心を苛む。
薬湯を差し出すしのぶの手は、驚くほど冷たかった。
「はい、姉さん。今日のお薬です。少し苦いけど我慢してね」
「いつもありがとう、しのぶ」
カナエが力なく微笑む。そして、意を決したように、静かに口を開いた。
「しのぶ」
道具を片付けていたしのぶの肩が、ほんのわずかに強張った。
「しのぶ。あなたは、戦わなくていい」
ぴたり、と動きが止まる。やがて、諦めたような、それでいてどこか安堵したような小さなため息が、しのぶの唇から漏れた。
「……知ってたんだ」
その言葉に、カナエは首を横に振る。
「いいえ。でも、顔を見たらわかるわ。家族だもの」
しのぶは何か言おうとするも、口を閉ざした。カナエは続ける。
「斎鬼くんのことで、動いてくれてるんでしょう?本当は私がやるべきことなのに…ごめんなさい」
部屋を沈黙が包む。時間が嫌に長く感じられた。
どれだけ時間が経っただろうか、しのぶが訥々と話し始めた。
「…納得は、できてない。鬼は憎い。鬼と仲良くなんて無理。人を殺した鬼に同情なんていらない」
しのぶの力強い目が、カナエの目を捉える。その奥には、決して消えることのない憎悪の炎が、静かに燃えていた。
「しのぶ…」
「――だけど」
被せ気味に続く言葉。しのぶの目の奥に燃える憎悪の炎が揺らぐ。そこに混ざる、穏やかな光。
「だけど、姉さんを守った鬼が、姉さんが守った鬼が、無意味に殺されるのも嫌。姉さんが信じるなら、私も信じてみる。そのためにも、できることはしないと」
しのぶはふっと息を吐くと、どこか吹っ切れたような、力の抜けた笑みを浮かべた。
「昨日、悲鳴嶼さんのところへ行ったの。でも、駄目。あの人は揺るがなかった」
その言葉に、カナエは息を呑む。たった一人で、あの巨大な壁に挑んだという事実に。
「だから、決めた。言葉で駄目なら、ぐうの音もでないほどに、見せつけてやるって」
強い光を宿した瞳。しのぶは、恐怖も葛藤も乗り越えようとしている。ほかならぬ、私のために。
ふいに、しのぶが羽織を着て戦う姿が脳裏をよぎった。大切なものを守るため、知恵と覚悟で未来を見つめている瞳。頸を斬れない非力な剣士。でもきっと、それすらも乗り越えるのだろう。
チクリと、胸の奥が痛んだ気がした。
「……しのぶが頑張ってくれるなら、私も頑張らないとね」
「ならまずは、はやくケガを治して。ベッドの空きにも余裕があるわけじゃないんだから」
「そうね、早く元気にならないとね。…それで、どう動くつもりなの?」
しのぶが打ち明ける計画に、カナエが助言を添える。そこに、先ほどまでのぎこちなさはない。再び薬を煎じる音と、穏やかな会話だけが部屋を満たしていく。
窓の外では、秋桜が風に揺れていた。
これから始まる戦いの苛烈さなどおくびにも出さず、ただ静かに、二人の覚悟を見守るように。