究極の救済、そのニセモノ 作:Dr.パックマン
10年間ありがとうございました!
結局制御することは叶わず、疲労面から体を鍛えることと並行して1日に1時間だけ練習を許可することになった。
これは集中力が途切れて暴発したら腕に酷い怪我を負うため。
そうすれば余計に制御まで遠くなることを再び伝えたら出久も納得するしかなく、オールマイトはそれを破らないかの監視役としても居る必要になったので結果オーライかもしれない。
それに破った瞬間、重夢が怒るのは間違いないので少なくともオールマイトはサボることはないだう。
ただ流石に二日連続見ることは出来ないため、次に来る時にその人がいいと言ったら連れてきて紹介すると伝えたあとは解散した。
それから言った通りヒーロー活動をまた増やして、特に体調を崩すこともなく一週間後。
重夢はバイクで後ろに人を乗せたまま多古場海浜公園に辿り着く。
バイクから降りてヘルメットを置いてから歩いていくと、ちょうど緑谷が冷蔵庫を背負って運んでいるところだった。
オールマイト--トゥルーフォームだが、そんな緑谷をしっかりと見守っている。
邪魔をしても悪いため、重夢はオールマイトに声をかけた。
「俊典さん」
俊典。
オールマイトの本名は八木俊典であり、オールマイトのことを話すにせよ本人同士直接会わせた方が話すべきか隠すべきか決められる。
故に重夢は珍しく本名で声を掛けた。
「やあ、重夢くん。それで……彼女が?」
「はい。本人から許可は出ているので」
重夢の白衣の後ろに隠れるように金髪の女の子が俊典を見ている。
女の子らしくおしゃれしており、黄色の服にスカートといった服装。
「私は八木俊典。彼とは古い友人でね。こんな見た目で怖がらせてしまったならごめんね」
「い、いえ。渡我被身子です。鳳生先生の知り合いなら悪い人じゃないのは分かります……」
「すみません、まだ慣れてないみたいで。特に大人の人は少し」
仮野明日菜こと、ポッピーのことは被身子は平気なのだが、それはポッピーの性格と雰囲気に依るものだろう。
ちなみにパラドはもう一人の重夢みたいなものだからか普通に接していたりはする。
ただやはり、元々の環境が環境で”異常者“として”普通“であることを強制されてきたこともあるだろう。
それも両親から。
あと普通に俊典の外見は骸骨みたいなのもあるかもしれない。
「なに、私のことは気にしないでくれ。その子にはこれから迷惑をかけちゃうわけだしね。それより緑谷少年を呼ぼうか。若い子同士の方が話も合うだろう」
「そうですね、その方がいいかもしれません」
「……鳳生先生も若いと思います」
「いや、僕はもうすぐ……」
「若いです」
「あ、うん……」
「!! あの重夢くんが押し負けるとは……!」
「貴方は僕をなんだと思ってるんですか」
真顔で強く言われて強い圧を感じたため、あっさり引いた重夢を見てオールマイトは被身子を二度見した。
実際には俊典が言い負かされてばかりなだけなのと、被身子に対して重夢が甘いだけなのだが。
俊典の呼びかけに気づいた緑谷は持っていたものを降ろしてすぐに駆けてくる。
たどり着いた緑谷は息切れを起こしていて両手を膝にやりながら顔だけを挙げる。
タイミング的には良かったかもしれない。
「ほ、鳳生……せん、せい。お、おま……たせ、しま……し……た……」
「大丈夫。ゆっくりでいいから深呼吸して。それから汗を拭いて水分補給をしてね。少量ずつ飲むといいよ」
テキパキと必要なことを言うと緑谷が深呼吸してる間にタオルと水筒を持ってきて差し出すと、お礼を言いながら緑谷は受け取っていた。
なおその背後では手を伸ばす俊典の姿が。
ガーン、と出番が取られたとでも言わんばかりに落ち込んでいて、被身子はスマホで重夢の姿をカメラで撮っており、他のことは目が入ってない様子。
「ふぅ……少し、落ち着きました」
「よかった。それじゃあ早速紹介させてもらうよ。被身子ちゃん」
「はい! ご紹介に預かった渡我被身子です! よろしく!」
「ピェ!?」
「?」
「? えー……とこっちが緑谷出久くん。説明したからわかってると思うけど、個性が発現したてでね、まだ上手く扱えないんだ」
年下は問題ないのか被身子は前のめりになりつつ自己紹介すると、変な奇声が聴こえた。
何故か緑谷が完全にフリーズしてしまったため、代わりに重夢が紹介する。
「緑谷出久くん! あれ、でも中学生くらいですよね? 発現したてって聞いてたのでもっと幼いかと思ってました。そんな遅れて発現なんてあるのかな?」
「いい質問だね。個性は分かってないことが多い。でも無個性だと思ってたらある条件下で個性が発現した例はあるんだ。第一、僕だってエグゼイドに変身できるようになったのは雄英の入試直前だしね」
「えっ!?」
「そうなの!?」
カミングアウトとはこのこと。
正確にはパラドが分離したのが中学生の頃でそこから勉強も含めて全部トップクラスの成績を叩き出した。
短期間でそれだけ出来るということは国家試験すら突破した頭脳は流石と言うべきか。
天才ゲーマーの名は伊達ではない。
「貴方は知ってると思ってたんですけど……。でも本当のことだ。僕は特殊な例だから参考にはならないけど、ちゃんとした個性で遅れて発現した人は実際にいる。有り得ない話じゃないんだ」
「いや……君、入試前って。歴代最高記録を叩き出してたよね……? 未だにあの記録更新されてないからね?」
「そこはほら、天才ゲーマーとして火がついてしまって」
「……君の代の同級生が霞んでしまう理由がわかってしまうな」
「む……鳳生先生のこと詳しそうです」
発言から考えるならば重夢はエグゼイドに変身したのは入試初日だろう。
つまり初変身で鍛えてきたであろう人たちに打ち勝ったのだ。
あの可愛らしい見た目をしたレベル1で。
それはそうとやけに詳しそうな俊典に渡我は頬を膨らませながら見つめていた。
バレたのではとちょっと焦る俊典。
「それより出久くん。さっきから反応無いけど、大丈夫?」
「--ッ!? は、初めて女子と喋っちゃった……!」
「待って。落ち着くんだ、出久くん。君はまだ一言も喋ってない。それは話したに入らない。それに自己紹介されたら自分も返さなきゃ、でしょ?」
「あっ……」
重夢は意識を取り戻させた緑谷の背を目を細めて見つめている被身子と冷や汗を掻いている俊典の方に押すと、気づいたのか被身子は見るのをやめて緑谷に視線を移す。
「あ、ああああああああの!」
顔を真っ赤に緊張しているのか背筋が真っ直ぐとなって起立の体勢だ。
翡翠の瞳と黄色の瞳が交差している。
被身子は優しく見守っていて、出久は深い深呼吸を挟む。
「み、緑谷出久です!」
「はい、よろしくです出久くん!」
「わ、わあああああ!?」
片手で手を取った被身子が両手で抱えるように握りしめて笑顔を浮かべると、何故か緑谷は悲鳴のようなものを挙げている。
それが面白いのかくすくすと笑っていて、重夢は微笑ましそうに見守っていた。
落ち着くためにも一旦休憩を挟み、その間にも被身子と緑谷は話していた。
と言ってもほとんど一方的だ。
そのお陰で出久もマシになってきたのか喋れるまでにはなっていた。
まだ少し、ぎこちないが。
「--雄英の生徒だったんですか……!?」
「うん、まだヒーロー科で一年生なの」
「す、すごい! 雄英は偏差値79で倍率300倍の超難関校! その中でもヒーロー科は例年多くの人が受けるのにそんな中で合格するだけでどれだけ凄いことか……!」
「ふふん、それほどでもあるのです。出久くんも雄英なんだよね?」
「は、はい。一応そのつもりですけど、ただ僕自身まだまだで……」
「大丈夫! 私も鳳生先生と出会うまでは全然だったもん。出久が入学出来るように私も応援する。だから頑張ろ?」
「あ、ありがとうございます!」
この調子なら心配なさそうかなと重夢は思っていた。
自分がいなくても任せて大丈夫だろう、と。
「さぁ緑谷少年! 再開するぞ!」
「あ、はい!」
「頑張ってください、出久くん! オールマイトも無茶なことはダメです」
「う、うん!」
「わかってるさ、渡我少女」
ちなみにだがオールマイトのことは既に話してある。
流石に秘密が秘密なので、OFAのことは伏せているが。
オールマイトの正体自体は知っている人は割と居るらしい。
理由はまだ秘密だが、重夢はその理由は既に聞いてある。
すぐに再開し、オールマイトを乗せたタイヤを緑谷が引っ張っている。
必死で頑張る姿を見ていると彼に言われたことを重夢は思い出していた。
”未来に希望を持つ“という言葉に自分は救われたと。お陰でこうして居られると感謝されたことだ。
重夢自身はただインタビューで経験談を話しただけのつもりだっただけで誰かの助けになればいいなと思っていたが、まさかこうも身近に救われた人が居たのは予想外だった。
「--未来に希望、か」
「……鳳生先生?」
ふと頭の中に記憶が流れてくる。
もうないはずの、懐かしい記憶。
それはきっと、救われたという言葉がキーワードとなったのだろう。
真っ白な部屋。消毒液の匂いに包まれた部屋の一室。外の景色が見えるように配置された個室。
自分の姿は見えず、ただ管がいっぱい繋がっていることから正常ではないのは確か。
視点から考えると点滴が必要な状態で、実際にされている。
近くには顔が見えないものの、担当医と思われる医者が座っていて。
ただ世界から色が消えた毎日を過ごしていた記憶があった。
『--諦めちゃダメだ。--くんはこれからどうなりたい? 将来の夢とかは、何かあるかな?』
『将来……? そんなこと言われたって……意味ないよ。あったって僕にみらいなんて、もう--』
『--未来に希望があれば人は笑顔になれる』
『え……?』
『笑顔でいれば人生は救われる……僕はそう信じてるんだ。病も気から……って言ってね。心の持ち方って大切だよ。それに希望があるから笑顔になれる。希望があるから人は生きようと思える……そのために頑張ろうと思えるんだ。■■■くんが好きなものでもいいから何か見つけてみようよ』
『でも……』
『……先生はこう見えてゲームが好きでね。ドクターになる前は徹夜して限界までやったりとか色々やったかな』
『……僕も。ゲームは好き、だよ。お母さんが居なくなってもお父さんが居なくなっても、みんな居なくなってもゲームだけは僕の傍に居てくれたから……。僕の心をいやしてくれた……。それもきっと、出来なくなる』
『……大丈夫。君の病気は必ず僕たちドクターが治す。君の運命は僕たちが変えてみせる。だから……先生と一緒に戦おう?』
『戦う……?』
『そう、ゲームと同じだ。どうしたって勝てない相手が居たとしても協力プレイなら話は違ってくるでしょ? ゲームと違ってコンティニューは出来ないけれど……だからこそ、ノーコンティニューでクリアするんだ』
『ノーコンティニュー……。そう、かも。ねえ……先生。僕にはまだそんな希望なんてものないけど。でも今は、大好きなゲームのために--』
顔も声も思い出せない。
ただその時握られた手の温度と寄り添ってくれた優しい言葉だけは記憶の中から浮上してきた。
どうして今、こんなことを思い出したのか。
その人の言葉で世界が色付いたような感覚を覚えたような記憶がうっすらとある。
もしかしたら前世の自分にこの時の経験があったから、医者になろうと思ったのもあるかもしれない。
恭太郎先生のお陰でもあるけれど、このことが何処かに残っていたのかもしれない、と。
前世の記憶というものがほぼ全て欠落している重夢には分からないことだが、思い出したってことはそれほど大切だったということだろう。
不完全な思い出した方をしたというのに不思議なことに胸が温かかった。
「……先生。鳳生先生?」
「……あ。ごめんね、何かな」
頭の中から弾けたように消え、それ以上の言葉も光景も思い出すことは出来なかった。
気が付けば被身子が心配そうな表情で覗き込んでいて、少し申し訳なく思いながら返事するとほっとしたようだ。
「ずっと無を見ていたから心配だったのです。やっぱりお疲れですか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ。なんて言えばいいかな……僕はちゃんとドクターなんだなあって」
「??? 先生は先生です。やっぱりお疲れなんじゃあ……」
「大丈夫大丈夫。それより出久くんとは仲良く出来そう?」
「はい! とってもいい子でした。それにあんな風に頑張ってる姿を見てると応援したくなっちゃいます」
「そうだね。被身子ちゃんにとっては後輩になるかもしれないもんね」
「後輩……私が先輩。それはいいかもです! 出久くん、頑張って!!」
被身子の応援が耳に入ったのか重夢たちの方を見た緑谷の顔が赤くなっていた。
笑顔で応援してるからなのか、それとも贔屓目抜きで客観的に見れば容姿のいい女子に応援されたことにか。
重夢は青春だなあなんて思いながら優しく見守っていた。
なお、オールマイトも同様の考えだったりする。
普通に十歳以上離れてるので仕方がないのかもしれないが。
その日から被身子は顔を出すことが多くなり、重夢はヒーローとドクターとしての仕事を両立し、時間があればたまに覗くようにしていた。
「変身の個性……。そういえば確かに雄英体育祭で姿を変えて場を狂わせていた人が……あれって渡我さんだったのか……! てっきり身体能力そのものも変わるものかと思ってたけれど、まさか自前だったなんて」
「鳳生先生に鍛えてもらったのです! ……レベル2相手に一度も勝てたことないですけど。先生はレベルアップする必要があるくらいには凄いなんて褒めてくれましたけど先生はまだまだ上があるから嬉しくなくて……」
「あ、ああ〜……エグゼイドにはまだまだ上がありますもんね……というか渡我さんの体術でも通用しないのか……!
でも鳳生先生って教え方上手そうだなあ」
「うん、とっても上手! 丁寧で優しくて。ただ怒らせたら怒鳴るわけじゃないからとっても怖いのです……」
「お、オールマイトも震えてたけど実際に経験したらそこまでなんですか……」
「出久くんは気をつけてください……!」
「は、はい……」
「出久くん指怪我してる……?」
「あっ、さっき切れちゃったみたいで--」
「ってわああああああ! と、渡我さんななななにゃにを!?」
「ふぁにっふぇ……チウチウ?」
「そ、そそそそんな衛生的に良くないというか……っ! と、というか口のなかっ、 生温、やわらか……ああっ!」
「はぁ、はぁ……ッ!」
「嫌な思いさせたならごめんなさい、出久くん」
「い、いえ。その恥ずかしくはありましたけど……でもどうして急に……?」
「それは……」
「ご、ごめんなさい! 話したくないことって人にはあると思うし、今のは忘れて……」
「……」
「……私ね、昔から血を見るのが好きなの」
「え?」
「見るだけじゃなくて血を吸いたくなって、その人のようになりたい。好きな人に対して傷をつけて血を流して相手をかぁいくしたい。同じになりたいって」
「でもそれは『普通』じゃないから。両親にも鳳生先生とは違う病院の先生にも『普通』で居ることを押し付けられて。受け入れられなくて。
誰も認めてくれなかった中で、”普通“を押し付けられて我慢していた中で、鳳生先生と出会った。鳳生先生だけはありのままの私を肯定してくれた。他の人の普通と私の普通は同じじゃなくて、それもまた個々が持っていい、人が持っていい固有の特性なんだって。人を傷つけるためにあるものじゃなくて、人の命を救えるような立派な個性って。その言葉で……初めて救われたの」
「そう……なんだ。でもそれって……渡我さんの個性の影響……なんだよね。血を摂取することで姿形を変えて、文字通りその人に”変身“する個性……個性が影響を及ぼすケースは少なくない見たいですし吸血衝動があるのも仕方がないんじゃないかな……と。僕は、思います。その、僕は気にしてませんから、元気出してください」
「でも……嫌じゃない? 私のこと嫌いにならない? 不気味でしょ? おかしいでしょ?」
「そんなこと……! 初めて会った時なら分かりませんけど……僕は渡我さんがどんな人なのか知ってます。感情が豊かで優しい方で……笑顔が素敵な女の子だって。
僕でいいかは分かりませんけど、どうしても我慢出来ないなら僕の血で良ければ吸っていただいていいですし……」
「出久くん……。本当に……いいの?」
「はい。渡我さんがいいなら……ですが」
「……どうしてそこまでしてくれるの? 出久くんにとって私は特別な存在でもないのに」
「理由……って言ったらいいか分からないけど……”助けを求めるような顔をしてた“から、かな。そ、それに普段から僕は渡我さんに迷惑かけてるわけだし、何かお返ししたいなとも思っていて!」
「出久くん……。カッコいいです。出久くんはヒーローになれます」
「へ?」
「私が保証します。必ず……雄英に合格してね」
「……はい!」
被身子の衝動についても緑谷は受け入れていた。
重夢の中での唯一の不安要素であったが、数ヶ月の関わりが幸をそうしたというべきか。
そうして、少しずつ入試の日が近づき、12月----
個性の制御が未だ上手くいかないことを聞かされ、どうにか出来ないかと被身子に相談された重夢は強引に時間を確保すると。
「出久くん、躊躇しなくていい。僕を殺す気で個性を使うんだ」
緑谷と対峙していた。
その理由は簡単で取りたくはなかった最終手段を取ることにしたのだ。
その手段とは、人に向けて個性を放つことである。
個性の使用はプロヒーローである重夢とオールマイトが許可してる場であるなら免許無しでも問題ないため、使用可能だ。
問題は被身子にやらせる訳には行かないし関係のない人を巻き込むわけにも行かない。
絶対に大丈夫だと分かる人物であり、相手には分からない人物。
つまり重夢である。
「ほ、本当にやるんですか!? 鳳生先生ならよく分かってるはずです! この力は……!」
「君が制御に成功すれば僕は怪我をしないよ。ちょっと強引な手段になるけど、残り期間を考えるならもうこうするしかないと思う。君のその力は、普通の増強型とは違うからね。人に向けて放つ……これが力のセーブに繋がるかもしれない」
「で、でももし失敗したら……」
「失敗を考えてたら成功なんてしないよ。それに君が思ってるようなことには絶対にならない。僕の力は君自身がよくわかってるはずだ。僕のこと、結構知ってるでしょ?」
「鳳生先生……」
今まで出久は一度しか使用したことがない。
継承後の一発。
それは海に向けて放ったらしく、人に向けて放ったことはないという。
しかしオンオフの感覚は掴んでも、どうにもどれくらいの出力なのか分からない。分からない限り怪我のしない出力なんて理解もできない。
同じようにしては腕を無駄に怪我させてしまうだけ。
ならば、と重夢がエグゼイドではなく生身の自分にやる、という提案したのだ。
オールマイトではない理由はオールマイトなら大丈夫だという絶対的な信頼が緑谷の中にあるからだ。
いくら同じ力とはいえその程度でやられるようならNo.1など務まらない。
だが生身の重夢は耐久力に関しては一般人。
オールマイトの一撃など受けようものなら大怪我じゃ済まないだろう。
無論、緑谷には伏せてあるが、命を大切にする重夢が無駄にするような行動をする訳もなくちゃんと対策を考えての提案。
これはオールマイトも被身子にも教えてあり、重夢しか出来ないことでもある。
何よりいざとなれば重夢の中にいるパラドが守ることも出来るため、彼にしか出来ない役目だ。
「覚悟を決めるんだ。ヒーローになるんでしょ。それとも僕の言葉は信用出来ないかな?」
「……分かり、ました。鳳生先生がそこまで言うなら……信じます」
「うん。いつでもおいで」
これから命の危機があるかもしれないとは思えない様子で余裕のある姿は流石はバグスターとの戦いを乗り越えたヒーローというべきか。
変身前だというのに、緑谷は巨大な壁を見ているような感覚を覚える。
「大丈夫……でしょうか」
「信じるしかないさ。……重夢くんは心配する必要はないだろうけれどね」
そんな二人を不安そうに見ている被身子と、重夢の強さをよく知っているオールマイトは問題となる緑谷の方を心配していた。
緑谷は意識を切り替えるためか幾度か深呼吸を繰り返して、覚悟を決めたかのように顔を引き締める。
「……行きます!!」
そして、緑谷が走る。
一歩も動かない重夢に真っ直ぐ。
(腕が壊れないイメージ、例えば、そう! 電子レンジの中で卵が爆発しないような!
そんな腕が壊れないイメージ! 壊れないイメージ壊れないイメージ壊れないイメージ壊れないイメージ--!!)
腕を振り絞り、OFAの力が腕に宿っていく。
赤く強い光が纏わりつき、緑谷は必死に腕が壊れないように出力を最大限抑えるように意識しつつ、上手く行くようにと祈りに近い願いを込めながらついに腕を伸ばす。
「SMASH!!」
緑谷の拳から放たれたのは人を遥かに凌駕する一撃。
凄まじい風圧が公園を走り抜け、射線状にあった車の山が崩れる。
緑谷の腕は--
「壊れ、てない……ッ!? で、でも……鳳生先生!!」
無事だった。
しかし目の前に居たはずの重夢の姿はなく、緑谷の拳には間違いなく殴った感触が残っていた。
エグゼイドとしてならまだしも、鳳生重夢はただの人間だ。
まさか、と最悪な事態が頭に浮かんで顔を真っ青にしたところで--
『ムテキレベルアップ!』
『マイティマイティアクションX!!』
『アガッチャ!』
そんな音声が聞こえたかと思えばエグゼイドが粉々となって分解された車の瓦礫の山からエグゼイドが飛び出てくる。
レベル2のマイティアクションXの姿。
ただし金色に光り輝き、独特なBGMが流れていて。
『な、言ったろ?』
「よ、かっぁ……」
ムテキガシャットを使用することで一時的な無敵モードを可能とする形態。
10秒しか持たない形態だ。
それを見た緑谷はエグゼイドが無事だと理解したようで腰が抜けたかのように座り込んでしまった。
何故これを黙っていたのか。
本当に最悪の事態になってしまったのではと緑谷は気が気でなかった。
『だって言ったら大丈夫だと分かるだろ。それじゃ何の解決にもならない。
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「たっ確かに……そうですけど…… 。でもこの方法だからこそ制御出来たのは……そうかもしれません……」
手を差し伸べてきたエグゼイドの手を取り、立ち上がった緑谷だが、エグゼイドの言葉を否定しきれなかった。
今までどれだけ出力を抑えようと考えても全く上手くいかず、0か100しか出来なかったのだ。
言ってた通り、無意識に脳がセーブを掛けたのだろう。
『タイムアップ!』
それはそうと時間切れとなり、強制射出されたムテキガシャットをエグゼイドが右手を頭上に伸ばしてキャッチする。
予め変身してなかった理由も同様だろう。
エグゼイドに放っても意味がなく、重夢にやるからこそ意味があったからだ。
何故ハイパームテキじゃないのかに関しては純粋にタイミングを考えたら間に合わないと分かっていたからである。
と言っても殴られる直前で変身することが出来たのは緑谷が目で簡単に追える程度だったからで、もしオールマイト相手にやろうものなら今頃余裕でぶっ飛ばされているのだが。
起こりえない未来を考えたって意味はない。
「重夢くん! 緑谷少年!」
「二人とも大丈夫ですか!?」
重夢のことは問題ないとわかっていても心配なのは心配だったのだろう。
すぐに駆けつけてきたオールマイトと被身子にエグゼイドと緑谷は問題ないことを伝えるとほっと息を吐いていた。
そんな2人に申し訳なく思いつつエグゼイドはガシャットを抜き取り、変身を解くとオールマイトに耳打ちした。
『ガッシューン……』
「オールマイトさん。今の力はどれくらいでしたか?」
「だいたい5%くらいかな……」
「……微妙ですね」
「十分前進だと思うよ。むしろ君のお陰でこれからはコントロール出来るようになるだろう。あとは扱える出力に慣れればだが……」
「……本当にそう思います?」
「ん? どういうことだい?」
「はぁ……」
自分がいなければどうしてたのだろうかと改めて思って、思わずため息を吐く。
そんな重夢にオールマイトはピンと来てなかった。
「このままじゃ出久くんは強くなれませんよ」
「……うん? だが力は扱えるように……」
「言ったでしょう。出久くんは貴方じゃない。何度も見てきましたがオールマイトさんは必要に応じて力を引き出している。ぶっちゃけた話、それはオールマイトさんが天才だから出来たことだ。確かに彼は5%の力を扱えるようになって、少しずつ出力も上げていけるかもしれません。でもそれで精一杯。
出久くんは力を循環させる速度があまりに遅すぎて、戦いにおいてはその数秒が致命的すぎる弱点になる」
「あ……」
「あ……じゃないですよ、まったく」
問題点は山積みだが、一番の問題はそこだ。
常にコントロールを意識して使う度に両手足を壊さないように考えながらやる。
それは格下の相手ならば何とかなるだろうが、格上と戦うことになれば話は変わってくる。
相手が自身を超える相手ならば一手先を読まねば勝つことなど出来ない。相手は待ってくれないのだ。
ヒーローを目指す以上、自身より強い敵と敵対することなんてザラだ。
重夢ですら公となっている最強形態のマキシマムマイティXを生み出した後でも幾度も敗北した。
ハイパームテキを使えるようになってからは無敵という名に相応しく敗けることはないが。
そのことを師匠という立場であるオールマイトが気づいて欲しかったと重夢は心の底から思った。
『まったくだ。変わらないな、オールマイトも』
そしてそれは重夢の中にいるパラドも同意見だったらしく。
こんなんじゃどっちが指導者なのか。
頭を軽く抑え、気を取り直して被身子に体を触られて固まっている緑谷に近づくと邪魔しないためか怪我がないことを確かめた後に被身子はさっと身を引いていた。
目で感謝を送りつつ、重夢は出久に話すべきを告げる。
「出久くん。セーブ出来たのは喜ばしいことだけど喜んでる暇は無いよ。これから君はもっと忙しくなる。だから僕からアドバイス出来ることはただ一つだ」
「! はい」
「君は君だけの戦い方を見つけるべきだ」
「僕自身……ですか?」
「出久くんはオールマイトさんにはなれない。君だけじゃなく、当然僕もオールマイトさんにはなれない。君も僕もそれぞれ別の個の存在であり、同じ人間でも違う人間だ。戦い方もまた変わってくる。そして個性はあくまで身体機能の一部。それは君自身の体でもあるんだ。
「個性は……必殺じゃない……?」
誰であっても同じ人間など居ない。
必ず何処かに差異が生まれるのが人間という人種。
使い方も戦い方も突然異なるものだ。
パワー重視のオールマイト。様々な状況に合わせて力を使うどちらかといえば技巧派のエグゼイドのように。
「そう。個性は君であり、君自身の力だ。みんなは君より早くに扱えるようになって、息を吸うように出来るようになっている。この中だと被身子ちゃんみたいにね。オールマイトさんを参考にするのはいいけど足枷にならない程度にした方がいいよ」
「私もそう思う。私は感覚的にやっているが、緑谷少年は頭脳派だろうしね。私を追うのではなく、君がやりやすい方法を模索して行こう。私も一緒に考えるよ」
「オールマイトだけじゃないです。私も知恵を貸しますね」
「鳳生先生……オールマイト……渡我さん……。はい、よろしくお願いします」
「オンオフを繰り返してきたから今の、5%の力は多分問題なく出来るから受験までにその方法を確立しないとね」
「そうだ。受験までもう時間は少ない……。ようやくコントロール出来るようになったと言っても油断をすれば必ず僕は腕を壊してしまう。オールマイトの戦い方……今の僕がやるなら足に移動させて、次に腕、足、同時とやっていかなくちゃいけない。僕がそれを出来るかと言われれば難しいとしか言えないだろうし--」
ブツブツと癖なんだろうなと数ヶ月見てきて分かったため、緑谷の独り言モードに三人は苦笑していた。
少なくとも身体を鍛えるだけではなく、ようやく個性の方も前進した。
あとはここからどう扱うようになっていくかが大切になるだろう。
雄英入試まで残り2ヶ月。
残された時間はそんなにないのだから。
レジェンドライダーは?
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冬映画的な感じ
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先行登場的な感じ
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短編(ドライブやゴーストの特別編的な)
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単話
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お祭り的な感じ(春映画)
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エグゼイドのみ(なし)