できるだけ原作を読み込み、原作に忠実なキャラ解釈にしました。
よろしくお願いします。
続編は、こちらです。連載小説です。
「御幸引退後の沢村とのあれこれストーリー」
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御幸、大好きだよ。お前が青道野球部からいなくなっても、お前が俺にとって最高の相棒であるのには変わらない。
愛してる、御幸。これからもずっと。この命、尽きるまでだ。
「どうした? そんな顔して。俺はこの世からいなくなるわけじゃないぞ」
ここは野球部のグラウンドの外にある、川岸の草地だった。もう夕暮れ時を過ぎ、食事も終わってここにいた。もうすぐ寮に戻らなくてはならないが、今は御幸と二人きりでいたかった。
「分かってるよ。でも、寂しくなるなんて気持ちじゃ言い尽くせない、俺はずっと御幸と一緒にいたかった。それが無理だと分かっていてもだ」
夏はもう終わった。念願叶って夏の甲子園に出場することが出来たが、その後には三年生との別れが待っている。とりわけ、バッテリーを組み続けてきた御幸との別れは沢村にとって辛いものだった。
だけど俺は御幸に余計な心配を掛けたくはない。
沢村はそう思った。
安心して、こいつなら俺がいなくても大丈夫、青道野球部エースは、これからも強く前向きであり続けるだろうと、そんな風に思ってもらわなくてはならない。
「俺も、お前とずっと一緒にいたかった」
御幸はそう言ってくれた。どこか寂しそうな顔をしている、と沢村は思った。
眼鏡の奥のまなざしが、後輩のエースピッチャーではなく、彼の足元の地面に落ちていた。
「ごめん、御幸。今言ったのは忘れてくれ。お前を喜んで送り出したい。お前に余計な心配は掛けたくない。この一年キャップは、ずっと俺たちのために頑張ってきてくれたんだ。キャッチャーとして、四番としても。本当に感謝している。御幸と同じチームになれて、本当によかった」
御幸はそれを聞くと笑った。沢村が初めて見る、どこか悲しそうで儚げな笑みだった。
「ありがとう、沢村。俺のほうこそ、お前に出会えてよかった」
お前に出会えてよかった。
さらにもう一度繰り返す。
「引退したらどうするんだよ?」
「まだ、決めてない」
すぐに指名されてプロ入りか、リーダー、いや結城先輩のようにいったん大学へ行くのか。
沢村は思う。
たとえどこに行こうと、俺はお前を応援し続けるよ、と。
「俺は、お前とずっとバッテリーを組んでいたかった、御幸」
言っても仕方のないことだけどな、と付け加えつつ。
「はは、さすがにそれは無理だな」
御幸は笑った。なんの屈託もない笑い方、でもどこか寂しそうだった。
「でも俺は、プロになったら億を稼いで、俺を男手一つで育てて野球させてくれた親父に楽させてやるんだ」
不意に御幸がそう言った。まるでつぶやくように、同時に沢村に打ち明けるように。
それは沢村がエースナンバーを背負うようになって間もなく、強豪の市大三高を相手に一人で投げ抜き、見事に勝利投手となった日の夜に、控えの投手になった降谷に言った言葉とほぼ同じだった。
「そうか、すごいな、さすがキャップ。ところで、御幸の親父さんってどんな人なんだよ?」
「うーん、まあそうだな、職人気質で無口な親父だよ」
そうか、と沢村。何となくステロタイプな職人気質の男の姿を思い浮かべるが、あまり目の前にいる御幸とは似ていないように思える。
「なあ、俺は高校を卒業したら御幸の親父さんに挨拶しに行きたいな。いいよな、行っても」
それを聞くと、御幸はふっと笑った。
「いいよ。俺が飯作ってやる。駅まで来てくれたら、後は連れて行くから」
「御幸、料理できるのか?」
「ああ、簡単な物ならな」
「そっか、俺はキャップの作った飯食えるんだ!」
もうじき、キャップと呼ぶのも終わりになる。御幸は青道野球部からいなくなってしまう。
沢村は、胸が締め付けられるような寂しさを感じた。でも、ここで御幸に心残りを感じさせてはいけないとも思った。喜んで送り出して、御幸がいなくてもやっていけると、そう思ってもらわなくてはならない。
自分が一年生だった夏の、稲実との決勝戦、忘れられないあの苦い敗北の後、リーダーの、結城キャプテン時代の三年生が引退した後、御幸がキャプテンになって苦労してチームを引っ張ってくれたのを忘れてはいない。
あの時は沢村も、稲実の白河にデッドボールをぶつけて負傷させてしまったショックから、イップスに苦しんでいた。あの時にチームを支えたのは、投打に活躍して、一年生の時から怪物と呼ばれた降谷であった。
「あの時、御幸は俺を見限らないでくれた。自分も苦しかったのに、俺の事ずっと見守ってくれてたんだ」
「あはは、そんな事もあったな」
「御幸のおかげで、俺はここまで成長できた。だけど、これからは御幸無しでもやっていける。だから安心して引退していいよ」
御幸は、また笑った。今度はからかうようなニヤニヤ笑いだ。
「そうだな、お前らにはまだ一年ある。その一年を、俺も見守っている。お前らがどこまで行けるのか、俺は期待しているぞ」
「うん」
御幸は降谷ともお別れだ。降谷もまた、沢村に対するのとは違う意味で、御幸にとってかけがえのない存在だ。
それを沢村は分かっている。今はもう、それを妬ましいと思う事はなかった。
「御幸の親父さんに会う時はさ、きっと甲子園のマウンドに立つより緊張するんだろうな」
でも俺は御幸の一生のパートナーとなる男だ。あくまでも筋は通すぞ。
沢村は、思わず握りこぶしを固く握った。
「俺も、沢村、お前の家族に会いたい。お前の故郷の長野に行きたい。まあ今すぐは無理だけどな。そのうちに、必ず」
「…うん」
沢村は嬉しそうに、御幸の右手をそっと握った。御幸も握り返してきた。
ああ、そうだ。これから始まるんだ。
俺たちの、二人の本当のパートナーとしての関係は。
二人はお互いに、同じ事を考えていた。
終わり