バットマンとして活動を始めた大富豪ブルース・ウェイン。

しかし、現実は思うようにいかない。

失意の中、彼の目の前に現れたのは喋るパンだった。

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第1話

パンだ。

 

目の前にパンが立っていた。しかも喋っていた。

 

 

 

こんなことを書けば、コカインでもキめたのかと笑われるか医者を呼ばれるかもしれないが、間違いなく事実だ。

 

私の名はブルース・ウェイン。

 

アメリカのゴッサムシティに居を構える大富豪だ。

 

こう切り出せば、私を苦労知らずのボンボンだと思うだろう。

 

そうとも。

 

 

 

そうでなくてはならない。

 

私の本当の顔の上には、そのマクスが常に被っていなくてはならない。

 

十歳の頃だ。

私は両親と共に演劇を鑑賞していた。

 

その劇に演出として蝙蝠が出てきた。大きくて黒くて、怖かった。

その恐ろしさに負けた私は、両親にせがんで途中退席した。

 

そうして帰路に着く私の前に突き出されたのは、執事のアルフレッドが淹れてくれた温かいココアではなく冷たい拳銃だった。

 

金を出せとがなる小汚い男。

父は私を庇って前に出て、失せろと一喝した。

 

しかし、男の興味はそんな忠告よりも母の首から下げられた真珠のネックレスに注がれたようだった。

 

男は母の喉に拳銃を押し当ててそれを奪おうとした。

妻から離れろと声を荒げる父。

恐怖で叫ぶ母。

 

三者が揉みくちゃになり、撃鉄がネックレスに引っかかった。

 

ぱんっという乾いた音と閃光と共に真珠が空を舞い、母の脳漿が私の顔に撒き散らされた。

 

聞いたことがないような悲鳴とも怒号とも形容しようのない父の声と、錯乱した男の声。

 

二度目の発砲と閃光が奔って私が目を開けた時には、父も母の横で転がっていた。

 

 

そこからのことはよく覚えていない。

 

覚えているのは悲鳴とパトカーの音。

 

私を抱きしめるアルフレッド。

 

そして、震える私に「世界の終わりじゃ無い」とコートをかけてくれた名もしれぬ刑事。

 

 

私のせいだ。

 

私がぐずって早々と劇場を出なければ。

私が急かせて両親に治安の悪い路地裏を歩かせなければ。

私が作り物の蝙蝠などに恐怖で負けていなければ。

両親は死なずに済んだ。

 

父は二度とテストで良い点をとっても私を褒めてくれない。

母はもう二度と私にアップルパイを焼いてくれない。

 

父はこの先二度と人を治療出来ない。

母はこの先二度と慈善活動を行えない。

 

両親だけではない。彼ら二人が救うはずだった全ての人々の可能性は、私が恐怖に負けたせいで断たれた。

 

 

だから私は蝙蝠(恐怖)を纏うことにした。

あの日の消えない悔恨をそのまま力にするのだ。

 

私がゴッサムを変えてやる。

私のような思いをする人がもう二度と現れないように。

 

それから十年以上の歳月をかけ、私は必要な多くのことを学んでゴッサムに舞い戻った。

武術・探偵術・犯罪学。

ウェイン財閥の総力を結集させた秘密兵器。

 

私の決意は固かった。

 

 

 

しかし、現実はそう上手くいかない。

 

ゴッサム市警は汚職と腐敗に塗れ、裏でギャングと手を結んで守るべき市民を食い物にしていた。

 

志を同じくした若き検事は酸で顔を焼かれて精神に異常をきたした。

 

ある強盗は私を見た恐怖で錯乱し、薬液のたっぷり詰まったタンクに落ちて帰らぬ人となった。

 

 

 

 

お前はなんなのだ、ブルース・ウェイン。

 

アルフレッドはお前のせいでみるみる白髪が増えている。

 

両親の遺した遺産を増やすどころか食い潰し、馬鹿げた玩具に囲まれている。

 

 

昼は軽薄な色狂いのドラ息子。

夜は狂ったコスプレ自警団。

 

何様だお前は。

 

 

 

失意のまま、いつの間にか足は両親の眠る墓地に己を運んでいた。

 

雨の中、膝をついて冷たい墓標に頭を擦り付けた。

 

「ごめんよ、父さん、母さん。上手くいかないよ...。

___もういいかな?

やれるだけのことはやったんだ....。

もしかしたら、こんなことしなくてもゴッサムは良くなるかもしれない。

寄付だっていっぱいするよ。

免許は無いけど、治療の心得はあるんだ。いまから勉強して医大に通えば、父さんみたいな立派な医者になれるかもしれない。」

 

返事を期待するが、墓標から返答があるはずもない。

「…とうさん、かあさん、声が聞きたいよ。」

彼らはもう喋ることも無く、地中深く眠っている。そうなった原因が、どの面を下げて期待しているのか。

 

顔を濡らすものが、空から落ちているのか眼窩から流れているのかもわからなくなった。

 

喉からありったけの声で叫びそうになった瞬間、閃光が奔る。

それは落雷だったのか。それともあの日と同じように誰かの凶弾だったのか。

 

確かめる術もなく、私は意識を手放した。

 

 

どれくらい意識を失っていたのだろうか。

小鳥の囀る美しい声が聞こえる。

握った手に、青々しく柔らかい若葉が触れた。

 

若葉?

 

おかしい。今は秋のはずだ。

 

そうして目を開いた私の顔を覗き込むのは、頭にパンを載せたミュータントだった。

 

神よ、これは試練か。それともあの世への旅路か。

 

「大丈夫?」 

パンは少年とも女性ともとれる柔らかい声色で、膝をついて心配そうに私を見ている。

 

「あ....あ....。」

恐怖で動けなかった。喋るパン。冗談じゃない。

不思議の国のアリスじゃないんだぞ。

 

逃げようとするが、足に力が入らない。

 

「あ、待って!急に動いたら危ないよ!」

 

待てと言われて待てるわけがない。背を大木に預けて身を起こし、眼下を見下ろす。

 

下は崖だ。グラップリング・ガンはホルスターに収められている。ガスも充分だ。この大木なら私の体重でも支え切れるだろう。

 

そうして思案していると、音が鳴った。

 

喋るパンからではない。

私の腹の虫だ。

 

「....」「....」

 

そうして気まずい雰囲気が流れた。

しかし、それは一瞬だった。

パンは優しく微笑むと、その頭を千切って私に差し出してきたのだ。

 

「あ...頭が...!」

「さ、食べて。とっても元気が出るよ。」

 

このミュータントに痛覚は無いのか!

 

そう叫びそうになりながらも、差し出されたそれをまじまじと見つめた。

 

断面から黒い粒が見えていた。

たしか、小豆が原料の餡という中国発祥の甘味の一種だ。

パンに挟むのはそれが古代に伝来した隣国・日本の文化だったはずだ。

パンは汚れひとつなく、焼きたてであるかのように温かかった。

 

ごくりと生唾を飲み込む。

餡は食べたことがない。

しかも、差し出してきたのは未知のミュータントだ。

 

しかし、味などまるで想像がつかないのにとても美味しそうだった。

 

なによりこの喋るパンから敵意や悪意は微塵も感じられなかった。

 

恐る恐るそれを口に含む。

色味は多少似ているがチョコレートとは違う甘さだった。どちらかといえばパンプキンに近いかもしれないが、馴染みのない味なのは確かだった。

 

「...美味しい。」

 

それなのに、不思議と力が湧いてきた。

月並みな言葉かもしれないが、確かに元気が出てきた。

 

「良かった!ジャムおじさんのつくるパンはとっても美味しいんだ。」

 

そう言って朗らかにパンは笑った。

 

「おじさん、名前は?僕はアンパンマン。」

 

「わ、私はブル....いや、バットマン。バットマンだ。」

 

「ああ!ネギーおじさんとナガネギマンみたいに名前が二つあるんだね。」

 

勝手に納得しないでほしい。

ナガネギマンとは誰だ。この世界はパンだけではなくネギ(leek)も喋るのか。

 

人の良さそうな笑みでうんうんと頷くアンパンマンだが、その背後から金切り声のがなり声が響く。

 

「はーひふーへほー!!」

 

未確認飛行物体(UFO)が飛んでいた。

 

そう、アメリカ航空宇宙局(NASA)が大真面目に研究しているアレだ。

それを蝿をデフォルメしたかのような黒いミュータントが操縦していた。誰かを追いかけ回している。

 

「全部寄越せー!俺様は腹が減ってるんだ!」

「やめて!これは子供達のおやつよ!」

 

キャラメルだ。キャラメルのお母さんが小さなキャラメルの子供を抱えて蝿から逃げている。

 

あんぱんにキャラメル。そして蝿。食品なら確かに蝿が媒介する病原体は天敵だろう。この時点で私は考えるのをやめた。

 

「やめるんだ!バイキンマン!」

「またお前かアンパンマン!今日という今日はギッタンギタンにしてやる!」

 

バットウイングのように静かに浮かぶUFOは、底部から巨大なドリルを展開してアンパンマンに襲いかかった。

 

それをアンパンマンは空を飛んでひらりと避ける。

 

そう、後で知ったがこの世界のパンはマントひとつで飛べるのだ。

 

正直いろいろ言いたいことはあったが、そのときの私はそれよりも大事なことがあった。

 

「君たち!早くこっちに!森の中に逃げるんだ!」 

 

キャラメルの親子に駆け寄り、空の目から逃れるために共に森に逃げ込んだ。

 

怯える彼らが、かつての自分と母に重なった。私の目の前であのような悲劇は二度と繰り返させない。

 

「あ、貴方は...?」「ママ、このおじさん画風が全然ちがうよ!」

「いいから早く!安全なところに!」

 

木の覆い茂る場所に彼らを隠し、戦場に目を向ける。

アンパンマンはひらひらと舞いながら、バイキンマンと呼ばれる悪党のドリルを紙一重で避けていた。防戦一方と言わざるを得ない。であれば私がするべきことはひとつだった。

 

「よし。」

私は彼ら親子に向き直り、膝をつく。かつて私を勇気づけてくれた、あの名も知らぬ刑事のように。

 

「私はいまからアンパンマンの加勢にいく。貴方たちは隠れていてくれ。」

 

その言葉を聞き、小さなキャラメルの坊やは声を荒げた。

「やだ!僕も戦う!」「ぼうや!いけません!」

その子の母親は顔を真っ赤にして怒るが、私は自然と笑みを浮かべていた。

なんと強い子だろう。あの日の私など、比べものにもならないほどに。

 

「いいかい、坊や。この三人の中でバイキンマンと戦うのは私にしか出来ない。

だから坊やも、君にしかできないことをしてくれ。」

 

「僕にしかできないこと?」

「そうだ。ママを守ってあげなさい。それは私には出来なかったことだ。」

 

そして、私はキャラメルママに向き直る。

彼女は何も言わずにうなずいた。とても強い女性だ。

私もそれに倣おう。

 

 

 

アンパンマンは巧みなマント捌きでドリルの猛攻を避けていたが、ついにその端をドリルが捉えた。

 

「しまった!」

 

咄嗟の判断で、彼はマントを千切って巻き込まれを防ぐ。見事な判断だった。しかし、代償としてマントの面積は大きく減ってしまった。

彼の機動力が目に見えて落ちていく。

 

「貰ったぞ!アンパンマン!!」

バイキンマンのUFOから伸びる巨大なピンク色のマジックハンドが、容赦なくアンパンマンに襲いかかった。

 

「うわああっ!」

腕を十字に構えてダメージを最低限に抑えたアンパンマンは、大きく弾き飛ばされる。

 

身動きが取れない彼は、このままでは谷底に真っ逆さまに落ちるしかない。

 

「間に合った!」

私は左手で落下していく彼を抱え、右手で打ち込んだアンカーを軸に崖下を抉るように旋回した。

 

バイキンマンの目を掻い潜るようにアンパンマンを抱えて崖をよじ登り、茂みに身を隠す。

勝利を確信したのか、バイキンマンは空に高笑いを響かせていた。

 

「あ、ありがとうバットマン。キャラメルママたちは?」

「無事だ!今は向こうの森に隠れてもらっている!いまは協力して奴を倒そう。」

 

木を背にしたアンパンマンは息も絶え絶えといった様子だった。

 

「大丈夫か?どこか打ちどころが悪かったか?」

 

頭には餡子しか詰まっていないはずだが、()震盪を起こしているのなら無理に動かすべきではない。しかし、アンパンマンはゆっくり被りを振った。

 

「心配してくれてありがとう。顔が減ると力も減っちゃうんだ。でもこれくらい平気さ。」

気丈に振る舞うが、彼が先ほどより弱っているのは火を見るより明らかだ。

 

「顔が...。まさか、私が食べたからか!?

どうして...。君が危なくなっては意味がないではないか!」

「意味はあるよ。わかるでしょ?」

「...!」

 

そう言って、アンパンマンは欠けた頭とどこまでも真っ直ぐな目を私に向けた。

 

「きっと、僕と君はおんなじだよ。だからわかるんだ。君もそうしてきたんでしょ?」

「同じなものか....!私は弱くてっ!誰も救えない!」

「そんなことはないよ。だって今、僕は君に救ってもらったよ。」

「!」

 

愛と勇気(Love&Brave)

 

言葉にしてしまえばなんと短く、軽いことか。

しかしそれを抱えて生きることがどれほど重く、難しく、気高いことか。

 

私の胸には、ずっと癒えない傷が痛んでいる。

 

私の心は、あの日からずっと斃れた両親の亡骸の横で泣いている。

 

だから私は恐れを力に変えた。

 

 

おそらく彼は、恐れではなく愛と勇気を抱えて多くの人を救ってきたのだ。いままでも、これからも。

 

きっと、私は彼のようにはなれない。

 

きっと、彼も私のようにはならないだろう。

 

しかし、それでも私たちは同じ名前で呼ぶことができるはずだ。

 

「一緒に戦ってくれるか、アンパンマン(ヒーロー)。」「もちろんだよ。バットマン(ヒーロー)。」

 

 

 

 

 

 

黄昏時を過ぎ始めた森を、バイキンマンのUFOがゆっくりと飛行していく。

 

「ん~~なんだいまの!?」

 

その頭上を、大きな影が飛来した。

 

慌てて目で追うが、視界にはなにも映らない。

 

怪訝そうに目を凝らすが、次の瞬間に操縦席を覆う窓ガラスが真っ黒に染まる。

 

トリモチのように頑固にへばりついたそれは、特殊な薬剤でなければ剥がせない。

 

バイキンマンの視界は完全に奪われた。

 

「わっ!なんだなんだ!?」

 

 

 

そしてドンドンとせわしなくドアを叩くような音。

 

 

ガリガリと装甲を引っ搔く音。

 

 

じゅるじゅるとなにかが絞り出される音。

 

 

獣とも人ともとれない不気味な息遣い。

 

 

それらが反響して、一人しかいないはずの操縦席に響く。

 

次に聞こえてきたのは、耳を塞ぎたくなる悲鳴のような金属音。

 

 

 

暗所・閉所・異音。

 

 

それらは根源的な恐怖を生み出す素養となる。

 

 

 

 

 

 

そして恐怖とは、波があるからこそ恐ろしいのだ。

 

 

突如、異音が止んだ。

 

しかし、相変わらず操縦席に光は差し込まない。

 

 

この小さな世界から、音も光も消え去ったようだった。

 

 

 

 

 

数秒置いて、凄まじい爆発音が発生した。

 

球体の操縦席に衝撃の逃げ場はなく、攪拌される内部でバイキンマンは重力に引っ張られるのを感じた。

 

UFOの姿勢制御装置が破壊されたからだ。

 

 

墜落とともに、ぐしゃりと卵が潰れたような音が走る。

 

天蓋に蜘蛛の巣のような亀裂がいくつも走った。

 

目を回すバイキンマンの前にガラスを突き破り、大木のような黒い腕が突き出された。

 

 

「ぎゃああああ!怖い!なんなんだ!!?鳥か!飛行機か!」

 

「違う。私はバットマンだ。」

 

 

 

そこから先は圧倒的だった。

 

私がトリモチ弾や爆破ジェルで時間稼ぎをしている間に、彼の協力者であるジャムおじさんが駆るアンパンマン号というアメイジングなスーパーカーが駆けつけ、彼に焼き立てのあんぱんを届けてくれた。

 

バタコさんという聡明そうな女性が、本場のメジャーリーガーも裸足で逃げ出しそうな卓越した制球と球威で投げたその焼き立てパンは、ぴたりとアンパンマンの頭に納まって彼を復活させた。

 

そうして元気百倍という表現が誇張でないことを感じさせる彼のアンパンチが、バイキンマンを空の彼方まで吹き飛ばしていったのだ。

 

もしこれがアニメイションなら、TROPES(お約束)の一言に尽きるのだろう。

 

 

そうして私はというと、キャラメルママとその坊やが無事帰路に就くのを見届けた後、行く当てもないのでジャムおじさんのパン工場に寝床を借りていた。

 

流石にただ飯食らいというのは彼等にも私を育ててくれた両親にも申し訳が立たないので、パン作りの手伝いを申し出たのだが、これがなかなかどうして難しかった。

 

言い訳に聞こえるかもしれないが、バットマンになるための修行にパン作りなど含まれていなかったのだ。

 

Bakeries start their day early(パン屋の一日は早い) とはよく言ったものである。バットマンは夜が更けてからが本番だが、パン屋は夜が明け始めてからが本番なのだ。

 

アンパンマン、ジャムおじさん、バタコさん、しょくぱんまん、カレーパンマン、メロンパンナちゃん、それからチーズ。

 

彼等はただ悪者を退治するだけではない。

 

その焼き立てのおいしそうなパンをどっさり抱えて、町の人たちに提供するのだ。

 

その姿に、ハロウィーンに孤児院の子供たちに菓子を配っていた母の姿が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

そうして穏やかな日々とバイキンマンとの激闘という日常を繰り返したころ、私の帰路への目途が立った。

 

「ブルースさん、もう帰っちゃうの?」

 

「ああ、次元転移システムがようやく完成したよ。ジャムおじさん、手伝ってくれてありがとう。」

 

「いいんだよ。私も、色んな発見があって楽しかったからね。」

 

あの凄まじいメカの数々を独自開発したジャムおじさんの技術力は、誇張抜きに頼りになった。

この純朴とした世界で『新兵器・かまど放射器』などという物騒な兵器がアンパンマン号に搭載されていることを知ったときは仰天したが、彼等ならきっと馬鹿な使い方はしないのだろう。

 

「ああそれから、発信器で居場所を突き止めたバイキンマンの根城からいくつか部品を拝借してしまったんだ。

リストアップしておいたから、分解して今度彼に会ったら返してあげて欲しい。

それと、『黙って持って行ってのに直接謝れなくてすまない。』ともね。」

 

そう言い残し、私は次元転移システムに乗り込む。

何故かそのフォルムはパン焼き窯そっくりだった。

 

設計したのは私だが、決して意図してそうなったわけではない。

次元の揺らぎを効率的に捉える構造にしたら、何故かこうなってしまったのだ。

 

まあきっと、彼等なら余計な部品を外した後にこれで美味しいパンを焼いてくれるはずだ。

 

腰を屈めて転移装置に入り、中から顔を出す。

 

示し合わせたように、丸いアンパンと目が合った。差し出されるその黄色くて丸い手を、しっかりと掴んだ。

 

「ありがとう、アンパンマン。君のことは忘れないよ。」

「ありがとう、バットマン。僕も忘れないよ。」

 

そうして扉は閉じられ、アンパンマンがしっかりとロックを閉めることを確認した私はスイッチを入れて帰還した。

 

 

 

あの懐かしのゴッサムシティに。

 

 

 

目覚めた私の手が掴んだのは、春の若葉ではなく秋の枯葉だった。

 

時間を確認すれば、数分と経っていない。

 

すべて夢だったのか。

そう考え、すぐに否定する。

 

あのパンの味も、生地の捏ね方も、彼らのことも、しっかり覚えていた。

 

 

マスクに通信が入った。

 

 

『34番地区で強盗発生。同時に、同エリア内で複数の火災と燃えて飛ぶ人影が確認されています。』

 

ガーフィールド・リンズ(FireFly)か。すぐに向かう。」

 

『おや、声に張りが戻りましたな。てっきり折れてしまわれたのかと思っておりましたが。』

そんな執事の小言が、妙に懐かしく感じた。そうだ、アルフレッドは彼らに負けないくらいに頼りになるのだ。

そんなこと、この世で私が一番知っているはずじゃないか。

 

「問題ない。それと、小麦粉を注文してくれ。」

『はて。ガーフィールド氏相手に粉塵爆発でも起こすつもりですか。不殺の誓いを破られる、と?』

 

「馬鹿を言うな。小麦粉は焼いて食べるものだ。

孤児院の子供たちに配る。

だがその前に、帰ったら私がお前に手ずからスコーンだろうがイングリッシュマフィンだろうが焼いてやる。」

 

『…いいでしょう。見事ガーフィールド氏を捕らえた暁には、その挑戦を英国人として謹んで受けて立ちましょう。』




朝ドラ便乗?

山ちゃんはそりゃいるよなと思ったら続いてでてくるツダケン。そして満を持してのマチルダさん。

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