カプ厨ユミルに目をつけられた   作:三軒過歩

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ようやくユミル登場!読者的にはそんなにかも知れませんが私的にはこの話をだいぶ最初の方に書いたのでようやくここまできたと達成感があります。


(4-5)カプ厨ユミルに目をつけられた

星々がきらめく夜空に、光り輝く樹木のようなもの。一面に広がる砂浜に、女の子が一人。

 

「ようやく話せる。あなたみたいな人をずっと待ってたの。」

 

遠目に見ていたはずなのに気づいた時にはすぐそばにいる。急に変なところに飛ばされたことに何か知っていないかと口を開いた。

 

「君は何者だ?俺は今どうなってる?どうやったら元の場所に戻れるんだ。」

「記憶を植え付けても壊れない人、私の目的のために不可欠な存在!」

 

こちらの言葉が届いていないようにだけれどもとても嬉しそうに話し出す。

 

「ああ、ごめんなさい。つい興奮しちゃったの。聞きたいことがあるんでしょう。何でも聞いていいよ。ここでの出来事は永遠なのに一瞬だから。」

 

今は一刻を争う時だ。現状唯一の手がかりである少女に矢継ぎ早に質問を浴びせていくが求める答えとは少しずれた回答ばかりが届く。

 

「元の場所への戻り方」

「私がいいと言えば今すぐにでも」

「どうすれば良いと言う」

「君が私に協力してくれると言う確信が持てたらかな」

「目的は…いや、まず君は何者だ」

「始祖ユミル、目的はエレミカの成立!」

「エレミカ?それは何だ」

「エレンとミカサをくっつけるの!」

「ふざけているのか?」

「大真面目だよ」

「…その目的と俺になんの関係がある」

「これから教えてあげるよ。少し長くなるけど」

「今はのんびりしている場合じゃない。人類の危機だ」

「ここでの出来事は一瞬って言ったでしょ」

「体感ならもう何時間もお前の前にいる気がするが」

「そう?私は数秒も立ってないと思うけどな」

「ふざけているのか?」

「大真面目だよ」

 

深くため息をついた。目の前の少女はどうやら人知を超えた力を持っているようで、だからか、一般人の感性とは合わないらしい。

 

「お前は俺がループさせてる犯人か?」

 

核心を突いた質問だ。これを聞いたらもう戻れなくなるような気がした。その問いに彼女は深い笑みを作ると言い放つ。

 

「そうだよ。私が君を何度もやり直させてる。」

「エレンとミカサをくっつけるために?」

「そう。」

「ふざけているのか?」

「大真面目だよ」

 

その顔が雰囲気が本気であると何よりも雄弁に語る。

 

「疑問は尽きた?じゃあ本題。私の目的と君がどういう関係なのか教えてあげる。」

 

そういうと少女は砂浜に座り込むように促す。

 

「今から見せるのはエレンが納得したこれからの世界の話だ。」

 

 

俺からすれば一周目、女型の巨人に殺された瞬間から俺とユミルの世界行脚が始まった。

 

「選べ、自分を信じるか、俺たち調査兵団を信じるか。」

 

「撃てえ!!!!」

 

調査兵団は知性のある巨人の捕獲に成功する。全体の三割の兵士を使い潰し、それでも成果を上げられるなら二周目で決別した意味があったのだろうに。

 

「エルヴィン、どうしてリヴァイに補給をさせたの?」

「君は、女型の中身が食われるのを見たか、俺は見てない。」

 

「刃が通らねえ…」

 

その意味もなかったと知る。

 

「なあ、二周目はどうなったんだ。俺が下手に干渉したせいでよりひどいことになってないか。」

 

どうなったとしても見る責任がある気がした。

 

「君の二回目の挑戦で多少は変化がある。君取っては朗報だろうけど、リーザがかけた保険のおかげでグンタ・シュルツ以外のリヴァイ班は撤退できた。この壁外調査ではね。」

 

含みのある言い方にこの先、彼らもまた心臓を捧げるのだろうと、予感する。

 

「結末は大きくは変わらない。二周目の時間軸にしようか。」

 

その言葉で場面はエレン達が壁外調査から帰還した場面に移る。

 

「知性のある巨人、いや、エレンと同じ巨人化できる人間か。巨人化する練度もエレンよりはるかに高い。」

「俺は…! 確かに巨人化の練度はあの女型の巨人のほうが優れてるんでしょうけど、巨人同士の格闘戦なら負けません。だからあの時…!」

「それ以上はだめよエレン。時間は巻き戻せないの。オルオが言ってたでしょう。新兵は無事に帰れば一人前って。よくやったわ。本当にね。」

 

ストへス区襲撃事件、地下に幽閉する第一次作戦は失敗し、第二次作戦、ストへス区を鳥かごに女型をとらえる段階へと移行する。その作戦の主軸はエレンのはずだった。ローレが、彼らを生かさなければ。

 

「私が賭けたのはここからだから!」

 

「ハンジの指定した地点まで女型をおびき寄せる。生け捕りが絶対条件だ、行くぞ。」

「「「了解!!!」」」

 

調査兵団特別作戦班、一周目と違って万全の状態であるリヴァイを筆頭とした四人の精鋭。

 

「さあ、次はどうやってこのどん詰まりの状態から逃げるんだ。」

 

次々と打ち込まれていく楔に衰弱していく女型の巨人。ここでは巨人も呼べない。巨大樹の森と違って時間も十分にある。うなじを硬質化しているとはいえ、永遠に使えるのであれば、巨人化直後から硬質化していないのはおかしい。いずれ硬質化も溶けるだろう。

 

「アニ!もうお前は詰んでるんだよ!さっさと出てこい!…出てきて、教えろよ、あの時…なんで今更、泣いてたんだ!」

 

その問いの答えはない。巨人が熱気とともに蒸発し、水晶の中に引きこもったアニが出てくる。その瞼は涙で濡れている。

 

「俺にとって女型の巨人は調査兵団の三割以上を殺した人殺しだ。…けど、エレンにとってはそれだけじゃなかったんだろうな。」

 

アニ・レオンハート、エレンと同じく104期訓練兵として三年間同じ釜の飯を食った仲間。俺にとってはオルオ達みたいなものなんだろうか。だとすれば、だとしても、どんな事情があれば同情してやれるだろうか。

 

「君が何度もやり直すきっかけとなった女型の巨人の騒動はこれにて決着だ。さあ次の場面に進もう。」

 

その言葉と同時に景色が変わる。映し出されたのはアニと同じ場所で三年間寝食を共にした104期調査兵団だ。

 

「元の名前を名乗って生きろ。」

 

104期にアニの仲間がいる可能性は高いからこその隔離措置だが、だからこその窮地、しかしそれが奇しくもほかの知性巨人のあぶり出しに成功した。だが、ユミルは少なくともアニの仲間ではないらしい。何より訳知り顔の彼女の存在は調査兵団、ひいては人類にとって大きな前進につながると希望を持てた矢先に。

 

「俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人ってやつだ。」

 

まるで、世間話をするかのように、正体を暴露したライナーとベルトルトが巨人化する。刃が通らない鎧の巨人と、高温で近づけない超大型巨人に、リヴァイ達特別作戦班でさえも手が出せず、エレンは連れ去られる。

 

「敵は何だ!」

「そりゃ言っちまえばせ―」

 

ユミルの言葉はさえぎられ、状況が動き始める。

 

「どんな事情があればアニに同情できるかって思ったでしょ。その事情がこれから明かされるよ。アニだけじゃない、鎧の巨人や超大型巨人の中身であったライナーやベルトルトも同じ事情を抱えている。」

 

その始祖ユミルの言葉と同時に場面が大きく動いた。

 

 

「無事、とはいかなかったみたいだがひとまずお疲れ様。大きくなったなあライナー、ベルトルト。」

「いえ、あの…」

「その様子だとマルセルやアニちゃんはやられたのか。ってことは後ろにいる奴はどっちかの継承者ってことかな。」

「…はい。こいつは顎の巨人継承者のユミルです。アニはパラディ島勢力に捕まったようで、状況は把握できていません。」

「分かった。本当にご苦労だったな。ひとまず休めと言いたいが、俺がここに来た理由は始祖の奪取だ。始祖の巨人について知りえた情報を教えてくれ。」

 

ライナーはマレー軍に持ちえた情報を伝えていく。始祖の巨人の持ち主と、王家の血を引くレイス家の存在、そしてその両方がパラディ島戦力の最前線にあるということも。

 

「ただ、調査兵団もレイス家の重要性に気づく可能性が出てきました。おそらくですが近いうちに調査兵団と現政府で内紛が起こると思われます。」

 

エレンを手に入れようとしてきた憲兵団はエレンを尊厳死させようとしていた。現政府はエレンを王家の血を引くものに食わせようとしているのは明らかだが、調査兵団は全力でそれを阻止するだろう。この機に乗じてアニを救出し、その後盤石な状態でエレンを奪おうとライナーは目論みは、ジークの一言でとん挫する。

 

「いや、アニちゃんは後だ。座標の奪還を優先する。」

「なぜです! パラディ島民が内紛している今がアニを救出する好機であることは明白です。戦士長の獣の巨人に、ピークの車力の巨人が加わった。アニの救出は難しくないですし、女型の能力があればエレンの奪取の方法だって幅が…」

「あのさあ、ここで待ってれば座標のほうから来るんだから、そのほうがどう考えても座標を奪うには有利でしょ。」

「しかし…!」

「ベルトルトまで。俺そんなに難しいこと言ってるか? お前ら賢かっただろうが。島の悪魔どもと過ごしておかしくなっちまったか?」

 

溜息一つで凄んで見せた。それに一瞬怯んだライナーはそれでもと言い募る。せめて自分だけでも壁内に行かせてくれないかと。

 

「鎧の巨人の力は座標奪還作戦でも重要な戦力だぜ。わざわざ切り離す理由がない。だが、そういう不条理を分からないはずもないのに言ってくるんだから、仕方ないよな。」

 

そういってジークは巨人化する。

 

「ライナー、俺と勝負してもらう。負けたらおとなしく俺の指揮に従え。お前が勝ったらアニちゃん救出を優先しよう。」

「ジーク戦士長、さすがに…」

 

ピークが止めに入ろうと口を開くがそれを遮るようにライナーが巨人化した。

 

「恨みっこなしだからな。」

 

その言葉をきっかけに巨人同士の戦いが始まる。結果は一方的だった。

 

 

「どこだ、ここは。」

 

薄暗い部屋の一室、棚には雑多な医療に関連したものであふれていて、どうやら医者をやっている人物の部屋であろうということは分かるが、ここに連れてきて何が分かるというのだろうか。

 

「私から説明してもよかったんだけど、この場面を見せるのが一番手っ取り早かったんだよね。」

 

見計らったかのように扉が蹴破られる。入ってきたのはリヴァイ兵長にハンジ分隊長、そしてエレンとミカサだ。彼らは何かを探しているようで、やがて二重底になっている棚から三冊の本を取り出した。一冊はグリシャ・イエーガーの半生、一冊は巨人について知りうる歴史のすべて、一冊は壁外世界の情報が書かれている。それは今までの世界の常識を覆す、世界の真実だ。

 

「知性を持った巨人の存在から、壁の、ウォールマリアの外にも人間がいる可能性は考えたことがある。最も、世界がこんなに広いなんて想像もつかなかったけれど。」

「納得した?」

「疑問が次から次へとわいてくるよ。お前はその疑問に答えてくれるのか?」

「私が知っていることならね。」

 

始祖ユミルと少女は名乗った。であれば巨人の歴史すべての内容の真実をこいつは全部知っている。道を通せばグリシャの半生も見ることができる。まさに全知にふさわしい存在だ。だがしかし、壁外世界の情報、特に技術革新についてのことはよく知らないと前置きをされる。それでも十分だ。少なくとも自分は技術屋ではない。ここにハンジ分隊長を連れてこれるなら話は別だが。

 

「不戦の契りとは、どういうものだ。」

「154代目フリッツ王の思想を始祖の巨人継承者に植え付けること。」

「グリシャやエレンはそんなことになってないようだが?」

「彼らは王家の血をひいてないから。始祖の巨人の力を引き出せない。そういう人が始祖を持った場合に思想を植え付けることは不戦の契りにない。」

 

なにか引っ掛かる言い分だ。その違和感を無視して次の質問に移る。

 

「始祖の力をフリッツ王の思想から離れて使う方法はないのか。」

「あるよ。王家の血を引く人間を巨人化させて、そいつに始祖の巨人を持つ者が触れば始祖の力を使える。」

 

真っ先に思い浮かぶのはジーク・イエーガー、彼は王家の血を引く者だ。こいつを利用すれば始祖の力を使える。問題は彼が敵勢力筆頭ということだろうか。あとはパラディ島で無垢巨人として徘徊しているだろうダイナ・イエーガー、そして代々始祖を継承してきたレイス家一族。あとは誰かいるかと考えを巡らす中とんでもないことに気づく。

 

「王家の血を引く者、まさかーー」

「へえ、知ってたんだ。知らないものだと思ってた。」

「今、その可能性に気付いたんだよ。それが可能性ではなく事実だとたった今知った。」

 

衝撃の事実だが今の状況に関係はない。少なくとも今は。だからこの世界の真実に対応するため、壁内人類のために何ができるかを考える。すでに巨人化してしまっていて、たった今生きている王家の血を引く巨人、ダイナについて。

 

「ダイナをどうすれば生け捕りにできる。」

 

ダイナに確実に接触できるのは二回。シガンシナ襲撃時点と、ライナーとベルトルトからエレンを奪還するタイミングだ。

 

「無理でしょ。どちらにおいても道具も人員も何もかもが足りてない。」

「シガンシナ襲撃の時はそうだが、エレン奪還の際は問題ないだろう。無垢巨人を操れるのだから。」

「あの場面でエレンがダイナを殺さないように説得することはできないよ。」

 

また引っ掛かる言い分だ。こいつは俺にまだ明かしていないことがあるように感じる。だが、それを追求するのは後だ。得られたはず情報まで捨てることにならないために。

 

「なぜ十三年という縛りがある。」

 

三周目、レイス家の始祖の巨人継承者、ウーリ・レイスに会ったことがある。そして四周目で俺が始祖の護衛として就いた時はフリーダ・レイスに継承されていた。十三年という縛りは始祖の巨人でさえ乗り越えられないという事実も明らかになった。

 

「私が巨人になれるようになってから十三年しか生きられなかったから。」

「それと他の継承者にどういう関係があるんだ?」

「分からない?私の中では筋が通ってるからこれ以上の説明はできないよ。」

「巨人化能力を死なずに継承する方法はないのか。」

「普通は無理だね。例えばライナーの脊椎液を取り出して飲んでも鎧の巨人の力は引き出せない。ライナーが生きている限りはね。」

 

普通、ということは例外があるのだろうか。その例外は再現できることなのか。

 

「エレンはもうすぐ進撃の巨人を継承するだろ。」

「そうだねまさに今、継承されようとしているところ……いや道でこの言い方はよくないね。フリーダから始祖を奪った日から三日後の夕方だよ。」

「エレンは後十三年しか生きられない。それが分かっていてエレンとミカサをくっつけようって言ってんのか。」

「そうだけど。」

「ふざけているのか。」

「大真面目だよ。」

 

天を仰ぐ。綺麗な星空が広がっているが、気分は最悪だ。始祖ユミルに一般的な感性を求めるほうがおかしいのだろうか。

 

「とりあえずいいかな。じゃあ続き。」

「いや、もう少しだけ待ってくれ。まだ聞きたいことがある。それにあの本の内容からあいつらの事情もおおよそ察せられる。」

 

俺たちが巨人を化け物と断じて忌み嫌うように、壁の外の人間にとって俺たちは巨人になれる化け物なんだろう。だから、忌み嫌われて、悪魔と呼ばれる。そんな常識で育てられた子供が、ただ、命令に従っただけだ。彼らの大切な人たちのために。

 

「俺のループする起点は自由に決められるのか?」

「まあ私に都合がいいところにしてたよ。生まれた直後とかは無理だけど、ループタイミングの提案があるなら聞くよ。」

 

今この瞬間、始祖と進撃の戦いは壁内人類にとっての特異点だった。自分次第で未来を大きく変えられる可能性を秘めていた。そして俺は何度でもやり直せる。

 

「俺を始祖と進撃の戦いの前に戻してくれ。とりあえず始祖を勝たせて、うまくいったらエレミカ成立とやらを手伝ってやる。」

 

ミカサの方は言うまでもないがエレンもミカサを意識していないことはない。成立したあとのことは当人次第だがそこまでだったらやってもいい。エレンに巨人が継承されるのを阻止できるならミカサに割く時間もないとは言わせない。

 

「それは無理。」

「……なんの嫌がらせだ?」

 

感情を殺した声で予想外の返答をされ頭が痛くなる。

 

「どうせまた俺をやり直させるんだろう。だから道に呼んだ。それなら訓練兵団入団前日に戻しても、戦いの前に戻しても、俺は始祖と進撃の戦いに介入する。」

「あなたが起こす改変をエレンに気づかれたらいけないの。」

「意味がわからない。一周目ではエレミカが成立しなかったんだろう。だから俺にやり直させてる。改変を起こさずにエレミカを成立させるのは不可能だ。第一、俺とお前以外に一周目との違いに気づける奴なんていないだろう。」

 

万が一気付いたところでユミルはエルディア人の記憶を操作できるんだ。何の問題もない。

 

「最後まで見せてないからそんなことが言えるんだよ。結末を見れば分かる。」

 

そう言う彼女が鎖で雁字搦めになっている姿が幻視された。

 

「私がエレンの奴隷だってことにね。」

「は?」

 

衝撃の一言を理解するより先に状況が変わる。

 

 

「すべてのユミルの民に告ぐ。」

 

気づけば二人しかいなかった道に無数の人間、ユミルの民がいる。

 

「始祖の巨人の力を介し、すべてのユミルの民に話しかけている。」

 

目の前の彼女から発される声が、道にいるすべてのユミルの民に届く。そこに彼女の意思は存在しない。ただのスピーカーだ。

 

「この島の外にあるすべての地表を踏み潰す。そこにある命をこの世から駆逐するまで。」

 

(おい!)

 

(!?)

 

どういうことだと叫んだはずだった。だが声が出ない。声が出ないように拘束されている。それをしたのはユミルだ。そのユミルも自由には動けないようだった。ユミルは道から自分以外のユミルの民を追い出すと、ローレに向かって告げる。

 

「私はバカだから、この虐殺を止める方法がこれしか思いつかなかったの。だからお願い、どうか、私の共犯者になってよ。」

「ッ!お前ってやつは……!」

 

こいつはずっと後悔してたんだろう。巨人の力を手に入れてから、その力を暴力に使ったことを。後悔するころにはもうフリッツ王の愛の奴隷になっていて、それから彼女はエレンによって解放されて、されたのに、今度はエレンの奴隷になった。

 

「協力してやる。何度でもやり直してこの未来を変えてやるから。」

 

こいつは大馬鹿者だ。最初からそう言ってくれれば、何度でも抗って、抗って、お前をー

 

 

ー救ってやる。そう決断できたのに。

 

 

現実世界に帰還する。洞窟で気絶したはずなのに、どこかの家の一室、ベットの上だ。知らない天井、ではない。この装飾は覚えがある。ウォール教の関連施設だ。

 

「目を覚まされましたか。こんな時に、いえこんな時だからなのでしょうか。」

「……し…あ?」

 

口を動かそうとしてうまく動かない。声を出そうとして、うまく出せない。体も起こせなかった。体の不調というわけではない。ただ動かし方を思い出すのに時間がかかるといった具合だ。

 

「ええ。そうです。今はもう()()()()()()()()()()、シアン・マクナです。」

 

唯一のという言葉、その意味を問わずとも答えてくれた。どうやら自分は五年以上眠っていたらしい。その間に、クーデターが起きて、政府はすげ変わり、ウォール教の権威は失墜した。今残っているのはわずかな信者のみだと。

 

「壁外には私たち以外の人類がいた……その様子だと知っていらしたんですね。これから何が起きるのかも。」

「ええ。シアン、これまで迷惑を掛けました。」

 

司祭とシアンは名乗った。ローレの持つ特別性、死を起点とするループができることを知ってしまったのだろう。五年以上の昏睡、報われないと、ローレがやり直すだろうと分かっていながら看病をさせた。

 

「あなたのこれまでの献身に比べれば私の献身など塵ですらない。」

 

その声には深い無力感が宿っていた。苦難のすべてを肩代わりすることはできないと自分を責めている。

 

「シアン」

 

その一言でシアンは察する。ローレがやり直すつもりだと。

 

「あなたの献身を知らず救いを求め続けたウォール教の浅ましいこれまでを深くお詫びいたします。そして献身を知りながら救いを求め続ける大罪を積み重ねる私をいつか必ず裁いてください。」

 

何を言っても追い詰めるだけな気がした。それでも。この残酷な世界で、それでも。

 

「あなたの罪を許します。いくら積み重ねようとも許し続けます。だから――」

「いってらっしゃいませ。どうかすべてが終わった後に安らかでありますよう。」

 

 

 

 

 

ローレ・サマルブルクの心臓はまだ捧げられない。




一応ここまでで第一部完となります。第二部が始まるわけですが、執筆の進行度的にだいぶお待たせすることになりそうです。気長にお待ちいただけますと幸いです。
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