六井旅行奇譚 ~鬼退治編~   作:犬原もとき

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映画を見た勢いのまま書きました。


第1話

鬼という生き物に対し、僕が思うことは一つだ。

―――――そういう生態(いきかた)をしているんだな。

これだけだ。

人を食べる生き物なんて、他にも山ほどいる。

クマはもちろん、狼も人を食べるし、カラスや野良犬、猫だって飢えていれば人を食べる。

なまじっか人間はそこら中にいる上、言語や思考する能力が有るもんだから自分たちを上に考えるけど、自然界において人間のヒエラルキーは低いもんだ。

じゃあなんで人は都合よく自分を自然界のピラミッドの上に位置づけるかというと・・・これは横道にそれるか。

とにかく僕個人としては、鬼に対してはそんなに強い執着もないし、興味もない。

偏食する生き物は珍しくないからね。

じゃあなんでわざわざこんな季節外れの藤が咲き乱れる山に来ているのかと言えば、まぁ答えは一つだ。

僕を人間として助けてくれたあの女性に一目惚れしたから。

黒い詰襟服のような制服。

廃刀令が敷かれたこの時代に帯刀している。

そして魅力的な見た目。

・・・・最後はいらなかったな。ともかくこの2つだけの情報ですぐに答えは出た。

鬼殺隊。

人食い鬼という種族に身内や友人を食い殺され、その復讐に一生をかける怨嗟の集団。

はっきり言って異常極まりないが、こうして鬼殺隊の選抜試験に潜り込んだら、その異常性がもっと色濃く浮き出た。

いや死ぬだろこれ。

寧ろ死なせるための試験だと言われたら納得して回れ右しちゃうわこれ。

こいつら全員生き残れる気がしねぇ。

これから戦う相手が自分の常識を超えた生き物だって認識はないのか?

選抜試験を超えた後の話をしてても、生き残ってなかったら意味がない。

これから向かうのはお前らが所属する鬼殺隊の支援が一切ない場所だぞ?

ピンチになって駆けつけても、推定自分並か以下の実力しかないのに、なに明るい未来を想像してるんだ。

―――――死ぬな。コイツラ。

僕は復讐の未来に燃える連中を他所に、一人選抜試験の森を駆け抜けた。

 

 

「へっへっへ・・・ついてるぜ、こんなキレーな嬢ちゃんがッ」

「柔らかそうだな・・・食わせッ」

近づいてくる鬼を一閃。【ナイフ】で首を切る。

傍目には手刀で切り裂いただけにしか見えないが、この食欲のエネルギーで構築されたトリコ師匠の特技、【ナイフ】は鬼にも有効だ。

当然だろう。なにせナイフは僕が使っても厚さ5mのコンクリートをバターのように切り裂ける。人間に毛が生えた程度の硬さしかない人食い鬼を寸断するなんて、朝飯前だ。

人食い鬼の弱点は2つ。頸を落とすか日光に当てるか。

正確に言えば日輪刀と呼ばれる特殊な武器で頸を落とす必要があり、通常の刃物でも人食い鬼にダメージを与えることは可能だ。

つまりただ生き残るだけならこうして近づいてきて鬼の頸を斬り落とし、上空15000mまで投げ飛ばせば、日没まで戻ってこれない。というか地平線の向こうから見える日光で死ぬだろう。

こんな芸当ができるのは僕が強化人間ベースのグルメ細胞ヒューマンだからだ。

まさか主催者もこんな攻略法なんて想定してないだろう。

「素手!?素手だと!?この俺が素手でええええぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・」

ドプラ―効果で遠ざかる悲鳴を聞きながら、僕は巨木の上で一眠りする。

夜はまだ長い。

 

 

夜が明ける気配をまぶたに感じ、目を覚ます。

優雅に伸びをして、集合場所と思われる付近で、生命を感じ取ると、すぐさまその方向に向けて跳んだ。

「ようこそ、生き延びられました」

「嵐の中で山程の雷鳥を相手にするより簡単だったよ」

「左様でございますか」

眼の前の男性は、驚いたことを一瞬で隠し、ねぎらいの言葉をかけてくる。

心拍数から冗談のたぐいだと思っている山程の雷鳥だが、比喩ではなくマジで相手にした。

雷鳥と言っても普通の鳥じゃなく、雷を纏い、発生させてくるライドニングホークというグルメモンスターだ。あれきっついんだ。電撃に当たるとさすがの僕でもしばらく痺れるし、嘴も常に帯電してし、大気圏内ギリギリを飛ぶし、うるさいし。

おまけに山程のサイズなんてあの種類から言えば小鳥だって言うんだから始末に終えない。けどまぁ旨いんだなぁこれが。

焼くと蓄えた雷エネルギーが口の中でパチパチ弾けて、細胞の一つ一つを刺激して活性化してくれる。ブラックペッパーでよりパンチを効かせるのもいいけど、僕的にはハーブやレモンを添えて、爽やかな香りとともに楽しむのが好きだな。お腹空いてきた。

「それではこの玉鋼の中からお一つお選びください」

あっ、いつの間にか話し終わってた。

えーっと鬼の首を獲るための日輪刀に必要な鉱石の話だったね。

猩猩緋砂鉄に猩猩緋鉱石か・・・聞いたことないな。

気になる。

どんな成分を含んでいるんだろう。それが鬼に対し、どんな影響を及ぼして死亡するプロセスを踏むんだろう。

そもそも人食い鬼のルーツはどこなんだ?

人と同じ形をしている物が多いし、人外じみていても人をベースにしていることは共通している辺り、人間が源流であることは間違いない。

何がどうなって鬼になるんだ?

興味が尽きないな。

さて・・・うーん。ぶっちゃけ個体差はないな。

見る限り現代もびっくりなほど正確に比率が整っている。

かなり腕のたつ職人がいると見た。ぜひ会いたい。

あってその技術を見てみたい。そしてその覚えた技術で僕だけの日輪刀を作りたい。

鬼殺に興味はないけど、鬼の生態やその周りの技術は非常に興味がある。

ちらりと双子を見るが、微動だにしない。これは選ばなきゃお互い帰れない感じか。

ふーむ・・・・。

 

 

「ねぇ。一つだよね?」

「はい。お一つです」

陽光を受けて輝く、白雪のような銀髪を短く切りそろえた美少女・・・ではなく美少年 六井志乃にとわれ、産屋敷家の分家筋である 雅貴は返事を返す。

今までも一つと言わず全部よこせと言って人物がいなかったわけではないが、この人物はそんな事をしないようだと、安堵した。

(きれいな顔をしている。彼も女装をさせられたのだろうか?)

産屋敷家本家の男児は、13になるまで女児の服装をするという魔除けの風習を今でも守っている。彼は分家筋であり婿入りした人間ではあるが、挨拶に伺った際に見たのは、髪色以外は瓜二つの五つ子であったために内心驚いた。

ちなみに彼は知らぬことだが、確かに志乃は女装した経験はあるが、本家筋の男児、輝利哉のようにやむおえずと言ったものではなく、本人曰く「絶対に自分が似合うから」という極めて道楽的な理由である。

閑話休題。志乃は一つ一つ玉鋼を選別していく。

この玉鋼の選択は儀式である。

玉鋼を選ぶことで、鬼殺隊にはいるという意思の表明をさせる。

鬼と戦う力の象徴である日輪刀。その源たる玉鋼を選び、取る。

それはこれから死ぬまで夜とともに生き、夜を狩るという意志の表明。

悪鬼を滅殺し、人々に知られることなく護る。

そうした決意の選択でも有る。

しかし、昨今の隊士にはそうした想いが少なくなっている。

ただ才能があったから。

ただ聞いて面白そうだったから。

ただ高給取りと聞いていたから。

運も実力の内とは言うが、薄い型しかだせない隊士ばかりが排出されている。

文明開化により、人の世は明るくなった。

そのせいで人々は夜を恐れなくなった。

夜とは本来恐ろしく、不気味で、昼の生き物たる人間が迂闊に動いていい場所ではないというのに。

耐えぬ明かりを手に入れた人は、生きる場所を勘違いしつつ有る。

きっと彼もそんな人物なのだろう。結局全ての玉鋼を手にした志乃に、雅貴は諦観を抱きそうになった。

「これで全部か。ふん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

そんなふうに勝手に値踏みしていたからだろうか。思わず口から呆れとも驚きとも取れる声が漏れる。

なんと玉鋼を素手で一つの塊にし始めた。

ギギギギギという金属音が聞こえてくるそれは、玉鋼同士が触れている部分―――今は熱を帯びて赤くなっている―――から発せられており、今目の前で玉鋼が溶接されているという意味不明な光景が現実に起きていることを叩きつけてくる。

雅貴は鎹鴉から聞かされていた眼の前の人物が行った事をすっかり忘れていた。

彼は素手で鬼の首を裂き、はるか空高くへと放り投げた人物だった。

「まぁ、こんなもんか。はいこれ。これで一つでしょう?」

差し出された歪な玉鋼と違い、志乃の表情は思わずトキメイてしまうような微笑みだった。

 

 

「なー、なー相棒。お前何やらかしたんだよ。いやまぁ知ってっけどさ。お館様だぜ?鬼殺隊のお館様からの呼び出しだぜ?鬼を狩ってすらないのにさぁ。いやまぁ俺は知ってるよ?お前さんが素手で鬼の頸を切断して、その頸をはるか空高くへと放り投げたのは。十中八九、九分九厘そのせいだと思うけどね。俺は」

「よく喋るなーお前」

「そりゃ俺は鎹鴉だからね。喋るさ?喋るとも。あぁ喋るね。それが俺の仕事だし。俺の存在意義だからね。喋らねー鎹鴉はただの鴉。鬼殺隊にいる意味なんてないね。いやまぁ俺もなんで喋れるかなんて知らねーけどさ。まぁ喋れるってのは良いもんだよ。うん。喋らなかった鳥生なんて考えたくもないね。きっと退屈で死んじゃうよ俺は」

「ほんと良く喋るな」

選抜試験後に相棒だということでよこされたこの鴉は鎹鴉というこの世界特有の鴉で、喋る上にとんでもない距離を飛べる。

けどコイツ鴉じゃなくてヨウムなんだよなぁ。名前もブリオでもろ洋名だし。

今のところどこまで言っても意地でも跳んでいるので、ひょっとすると無限に飛べるのかもしれない。今度試してみよう。

「・・・今おめー恐ろしいこと考えただろ?」

「なんのことかな?」

カンが鋭いなコイツ。鎹鴉ってそんな生き物なのかな?いやコイツはヨウムだけど。

「まぁ良いや。んで?どこに行けばいいの?」

「こっちだぜ!って案内してやりてぇが無理な話だ。お館様の住む家は俺達鎹鴉でも限られたやつしか知らねぇからな。お前さんの言う情報漏洩ってのを警戒してのことだ。実際、かなり昔に鬼殺隊の中で裏切りがあったらしいぜ?だからかお館様の住む家は柱とその鎹鴉しか知らねーんだ」

「ほーん。じゃあこの宿で待つしかないわけか」

「そーいうこったな。安心しな。滞在費くらいは恵んでくれるだろーよ」

「藤の家の関係だからそもそも掛かってないよ」

お調子者と適当に話していると、眼下に迎えだと思われる人物が見えてきた。

 

 

目隠しと耳栓をして(まぁそんな事をしても歩数を感覚で分かる)連れてゆかれたのはお館様とやらがいる大層なお屋敷だった。

かなり広く、また立派な作りをしているところから、産屋敷という名前が持つ日本国内の影響力が伺い知れる。

実際、政府非公認で廃刀令すら見逃されているようだし、思っている以上に歴史が深いんだろうな。ブリオも鎹鴉ネットワークで色々知ってるみたいだけど、全容は計れていないようだった。

「お館様のおなりです」

白髪のおかっぱちゃんがそういうが、作法がわからないのでそのまま立っておく。

隠と言われている役職の人が唖然としてたけど、別段僕はこの人になんの敬意も払ってないからね。

「やぁ、君が新しく私の子どもになってくれた子だね。私は産屋敷燿哉。いわゆるお館様というやつだね」

「ご丁寧にどうも。六井志乃だ。よろしくね」

軽く手を振って答えるが、燿哉の反応は薄い。

それもそうか。顔の状態が異常だ。

右目はかろうじて見えているようだけど、それ以外の上半分は焼けただれたように変色している。左目自体も白く濁っていて、もはや見えていないと踏んで良い。

そばにいるおかっぱちゃんが目の代わりを務めているのだろう。

「彼はどんな姿をしているんだい?」

「・・・ハッ!はい。短く切りそろえた白雪のような銀髪で、左目が赤。右目が翠。左右の目の色が違います。その・・・年は私達より少し上かと思いますが、とても美しいです」

顔を赤くして答えるおかっぱちゃん。次からは右紐ちゃんってよぼう。

「そうなんだね。ひなきがそういうのなら、それはそれは美人なんだろう」

「見る目が有るね。同時に不幸だ。僕を見たら並大抵のイケメンじゃ満足できない」

「それは大変だ。君が責任を取ってくれないかい?」

「丁重にお友達からお願いしておくよ」

軽口をたたきながら彼の放つ周波数に当たりをつける。

聞くと安らぎを感じ、高揚感を覚える。

聞く人によっては振幅すらしてしまうだろう。

これに該当するもの。それは

「f分の1のゆらぎ・・・か」

「初めて聞く名前だね。教えてくれるかい?」

「ざっくり言えば精神を落ち着かせる現象のことさ。川のせせらぎや蝋燭の火、木漏れ日や蛍の光もそうだ。君の声にはそれに類している」

もっと言えばf分の1ノイズとも呼ばれるとおり、ピンクノイズの一種とされる。

そのピンクノイズは、周波密度が周波数の逆数となるような周波スペクトル―――周波数が高いほど密度は薄くなり、周波数が低いほど厚くなるイメージだ―――をもった信号やその過程を指しており、同じ周波数成分を持つ光がピンク色に見えることからピンクノイズと呼ばれる。

関係ないけどピンクと聞いてムラムラしちゃうのは日本とフランスだけらしい。マジで関係ないけど。

「博識なんだね。その成果なのかな?素手で頸を落としたのも」

いよいよ本題にはいるか。まぁそれもそうだ。

僕は今身に着けてないが、支給された隊服はそれはもう頑丈だった。現代の作業着でもそうそうないレベルだ。

グルメ世界ならばいざ知らず、大正時代にあれだけの代物を作り上げられるのは相当の資金力があってのことだろう。経費削減のために僕の技術を教えろという話をしてくるのは予想済みだ。

「あぁ、誤解しないで欲しい。単純に面白かったんだ。素手で頸を落としたというのもそうだけど、その後で空高く放り投げたっていう話もね。私も長く生きているわけではないけれど、代々伝わる中でも史上初の内容だったからね。久しぶりに心から笑ったよ」

当時の空気が相当面白かったのか、思い出し笑いを始める燿哉。

違ったわ。早とちりだったか?

「・・・お宅に笑いの花が咲いたようで何よりだ」

「ははは。あぁ、本当にありがとう。さて・・・」

雰囲気が変わった。なるほど。これからか。

「君は鬼についてどう思う?」

見えないはずの両目が、僕を見ている気がした。

 

 

鬼についてどう思うと聞かれたが、僕の答えは一つだ。

「別に何も?」

「何も・・・憎い感情どころか、功績の材料とも思わない。ということだね」

「あぁ」

僕の人食い鬼に対する認識はタダの生物だ。

人という食料を食い、そのために襲う偏食家。

どこにでもいる、タダの野生動物。

それが人食い鬼に対する認識。

恐らく僕がいる事自体がイレギュラーなんだろう。

自覚は有る。あの選抜試験の時にいた連中は誰もが復習する自分を思い描き、そのついでに日本に住む人々を救うって人が多かった。

中には金や評価のために来た奴らもいたけど、まぁもれなく死んでたみたいだ。あとでブリオに聞いた。

まぁ顔も名前もよく知らん人が死んでも、誰それ知らんで終わる話だ。

どこそこに鬼が出た。と言われてもさっさと避難させたら?としかならない。

まぁ避難したところで逃げ切れんのが鬼という生き物らしいから、鬼殺隊なんてあるんだろう。政府非公認な理由は知らん。

「ふむ・・・じゃあなぜ鬼殺隊にきたんだい?君ほどの人間なら、どんな所でもやっていけるだろう?」

あぁ、なるほど。これはあれだな。就職面接ってやつか。それもそうだ。

なにせ皆何かしらの伝手があって来てるのに、僕だけ目的わかんないもんな。

組織のトップなら何らかの形ではっきりさせておきたいだろう。

なら僕が返す返事はこれだ。

「惚れた女が鬼殺隊だった。探している。それだけです」

「・・・・・ははははは!君は本当に面白いね。志乃」

本当に病弱なんかなこの人。よく笑うなぁ。

あっ、血ぃ吐いた。掃除大変だろうな。

「はぁ・・・はぁ・・・ふふふ。ありがとう志乃。よく聞かせてくれたね」

「それは構いませんが大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫ではないが、大丈夫だよ。ふふふ・・・それで、君を助けてくれた子供はどんな姿をしていたのかな?特徴を教えてくれれば、私が教えるよ」

「それは結構です」

燿哉の提案を僕はすぐ断る。

「・・・・なぜかな?私は子どもたちのことはたいてい記憶していると自負している。話せばすぐだと思うよ?」

「簡単なことさ」

微笑みながら僕の返事を待つ燿哉。

分かっているくせに聞くなよ。

「そいつはちょいと、ロマンに欠ける」

極めて格好つけてニヤリと笑えば、燿哉はまた笑った。

 

 

僕は今非常にむしゃくしゃしている。

その理由は一つで、未だに日輪刀とやらが届かないからだ。

暇を持て余したブリオが、他の鎹鴉の話を聞くと、大体は10~15日以内には届き、初任務に挑むらしい。

だと言うのに僕のはまだ来ない。もう20日は経った。

「なのにさー、いまだに来ないわけよ。どうなってんだろうねホント」

「イヤー、ソウダナー。ホントソウダヨナー。ワカルゼーアイボー」

なぜかカタコトで顔をそらすブリオ。

しかし顔をそらしつつも目線はさっきから上下に動いている。

「ぎ!?ぎゃ!?ぐぎゃ!?」

その先には鬼の首が有る。

そしてその鬼の首は、地面に落ちる寸前を僕の足がインステップで蹴り上げ、そのたびに鬼の表情が歪んでいる。

そう。僕は雑魚鬼の頭をねじ切ってサッカーボールよろしくリフティングしている。

日輪刀がないから殺すことも出来ない。

けど襲いかかってきた以上は撃退しなければならない。

そしてさっき日が落ちたばかりだから太陽もまだ登らない。

だもんでこうして行動できないくらいに痛めつけるしか方法がない。

「届けに来たやつに根掘り葉掘り聞こう。そして今後は僕が打つ」

「止めとけよ相棒。日輪刀の製法は門外不出だってよ。拷問されようが死のうが話さない。そういう連中だって話だ。噂じゃ日輪刀作りを初めたら周りに鬼がいようと作り上げるまで手を止めないらしいぜ?俺の口と一緒だな」

「んなこと言っても刀でしょ?似たようなもんでしょ」

「いやぁどうかな。柱と呼ばれる人たちの日輪刀は一風変わってるって話だぜ?俺もあった事も見たこともないけど、噂じゃ刀とは似ても似つかぬ形してるとかなんとか」

それを刀って呼んて良いのか?いや、ひょっとすると定義が一般のそれと違うのかもしれない。

そう言えば玉鋼の材料は猩猩緋砂鉄と猩猩緋鉱石だと言っていた。その玉鋼を使った武器を日輪刀としているのかもしれない。

うぅ~ん聞きたいことが増えたな。

どんな日輪刀があるんだろう。

「しっかしどうしたもんかね。流石に飽きてきちゃったよ」

「だ、だったら早く、グギ!止めぎゃ!止めてくれ!?」

「やだよ。一応僕鬼殺隊だし?鬼殺さなきゃだし?そうでなくても襲ってきたお前を逃がす理由ないじゃん」

「そーだそーだ。往生際が悪いぞぉブサイク。相棒はなぁ、こう見えておっかねぇんだぜぇ?なにせ・・・・」

「素手で頸落とす鬼狩りだろぉ!?知ってるよ!」

鬼の放った言葉にリフティングの足が止まる。

今なんて言ったコイツ。

 

 

知っている?コイツと僕は初対面だ。顔も名前も今覚えた。

嘘ごめん。名前は知らん。

ともかく今日初めてあった相手だ。

なのにコイツは最終選抜の時に僕がやったことを知っているらしい。

「・・・・・いつ聞いた」

「ぐぅ、へ、へへ・・・あのお方だ。お前はあのお方に目をつけられたのさ。調子こいて頸なんか斬り落としやがって。俺達鬼はあのお方から情報をもらってんのさ!オメェ見てぇなやべぇやつを殺せば、もっと良い思いができるからな」

なるほど。

こいつの言うあのお方とは、燿哉の言っていた鬼舞辻無惨のことだろう。

そいつが司令塔となって僕のような強敵の情報を共有している。

鎹鴉のような偵察個体がいるのか、それとも人食い鬼という種族を通して情報を得ているのか。

何れにせよナイフ以外は今後使わないほうが良さそうだな。

燿哉の話では鬼舞辻無惨を倒さなければ、人食い鬼がいなくなることはないらしい。

つまりどんなに強くとも、鬼舞辻無惨以下の鬼はヤツの端末に過ぎない。というのが現在の仮定であり、それを前提として作戦は遂行されている。というわけだ。

不老の僕が言うのもなんだけど、随分と気の長い話だ。

普通はどこかで恨みの火が消えそうなものだが、その鬼舞辻無惨とやらはよほど恨みを買うのが得意なんだろう。

安売りするのはスーパーの見切り品だけでいい。

「うわばばばばばば!?」

「すげぇ!すげぇぜ相棒!鬼の首を指先で高速回転するなんざ柱でも出来ねぇって!いやまぁ俺は見たことないけどよ!おもしれーぜこりゃ!お捻りもらおうぜ!」

「代金はお命ってか?高い見物料だ」

無駄な抵抗をさせないためにやってたけど、何やらブリオには受けが良かった。

今も「それもっと回してやれ!」とか「いつもより余計に回しておりますってな!いつもなんて知らねーけど!」とはしゃいでいる。

「まぁなんにせよ」

「ぶべ!て、てめぇ!?」

「生かしておく理由はなくなったな」

濁った鬼の瞳に映る僕の表情は冷たい。

情報を共有している以上、生かしておく理由はない。

恨みセールスマンな一面が見える鬼舞辻無惨だが、無能ではないようだ。

情報は大事だ。

それが分かっているやつは野生動物でも恐ろしく手強い。

なるほど1000年。鬼殺隊が追いかけてなお尻尾も掴ませない辺り、情報漏洩への対策は鬼殺隊並かそれ以上と見ていいだろう。

面白い。

 

 

知略で勝負してくるやつは好きだ。

グルメモンスターは別として、物理的な勝負ともなれば僕に敵はほとんどいないだろう。

だが知略戦は継承してきた知識と、それを活用する知性と、実現できるだけの組織力が求められる。

決して自己完結になり得ない領域。それが知略戦だ。

「有益な情報をありがとう。お礼に一思いに逝かせてやる」

「ち、ちくしょう!くたば・・・ッ!」

鬼が何かを言う直前、僕は人差し指で鬼の頭部のある箇所を貫く。

そこは海馬を刺激し、閉じられていたある情報を開き、認識させる。

「あ・・・・あぁ・・・あああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!????」

鬼の声が徐々に大きくなり、やがて絶叫に変わる。

その声色は、悲しみ。

「俺は、俺、なんてことを・・・親父ぃ・・・お袋ぉ・・・育!健太ぁ!」

家族の名前だろう。そしてブリオの話では人食い鬼が最も多いのは身内の食人だという。

鬼になると忘れるというが、人という種族が持つ記憶力は考えている以上に深く、そして膨大だ。

並大抵の人は取り出せないだけで、実際には消えることはない。

なぜそうなったのかと言えば、その方が生きていくのに有利だからだ。必要な時に、必要な分、必要なだけ取り出せればいいから。

後は単純に人の記憶力に対して、人の出力が追いついていないからなのも有るのかもしれない。

いずれにせよ。人食い鬼の源流が人であるのならば、適応するツボもほぼ同一だ。

訳分からん構造した化け物共に比べれば、寝ながらでも的確に打てる。

「悔い改めるんだな。来世では存分に家族孝行しろ」

拳を握り、鬼の頭部を殴り潰す。

同時に衝撃がノッキング効果を生むように威力を調整し、肉片が再生しないようにする。

これで後は日が昇れば死ぬし、耳や目で僕からの情報が漏れる心配もない。

「おいおいおい相棒。こんな事ができるなら最初からやればよかったじゃあねーか」

「手に血がついちゃうだろ?こんな所事情も知らんやつが見たら普通に不審者だよ」

「隊服着りゃいいんだろーが。なぁんで着ねーのかね」

「ダサいんだよ。僕の美意識に合わない」

そう言いながらその場を後にする。脅威がなくなった以上、長居する理由がないからだ。

頸を失った鬼の身体は、その後も再生しない頸を求めて、地べたを懸命に探していたが、まぁ朝日が昇れば頸と一緒に塵になるから放置だ。

「いい加減届いてろよマジで」

収穫はあったが、やはり即断即殺が出来ない理由は未だに届かない日輪刀のせいなので、まだ見ぬ刀鍛冶師に対し、恨み言を呟いた。

 

 

それから5日経った頃、遠くから何か重いものを運んでいる音が聞こえた。

この音は車か。珍しい。

「相棒相棒!ようやくきたぜ。ありゃ多分お前さんの日輪刀だよ!なんかでけーし、何より隠しの車で運んでるんだ!間違いねぇぜ!」

「嘘だったら焼き鳥にして食うからな」

「勘弁してくれよ相棒!そりゃ確かに誂ったときもあるけどよぉ、さすがの俺も命掛かった状況で出来のワリィジョークは言わねぇぜ。それに俺の身体は長く飛べるよう鍛えてっから、捌いても筋ばっかで食えたもんじゃねぇと思うぜ?いやまぁこのプリチーな身体を維持するために、ほんとちょ~っぴり肉はついてっかもしれねぇけど」

「ここんところロクに飛んでねぇくせによく言う」

ゆっくりと起き上がりながら、ブリオが翼で指す方を見ると、確かに何やら人一人分を超える何かをのせた、黒い車がこちらに向かってきているのが見える。

大正時代、まだ車は一般的でなかったはずだが、それほどに重いのかアレは。

良いね良いね。僕の体格が小さいと知っていながら重いものをもたせようとするその気狂いっぷり。

何を思ってそんな設計にしたのかすげぇ気になる。

映えるから?意外性が有るから?それとも何となく?

何れにせよ早く見せてみろ。説明しろ。

この時代の創造者なんて総じて偏屈で変態的な奴しかいないんだ。

気取るな。日和るな。流されるな。

お前の癖を見せてくれ。

上手に、綺麗に、丹念に。僕が使ってやるよ。

 

 

「お初にお目にかかります。ワタクシは貴方の日輪刀を担当させていただきます、刃金星白松といいます。この度は遅れて申し訳有りません」

会うなり土下座をかましてくる白松。

そりゃそうだ。最終選抜後から賞味30日は経過している。

間に産屋敷邸に行った期間を除いても25日。明らかに遅れすぎている。

「そうだね。で?待った時間に見合った物は出来上がったのかい?」

「はい。こちらに」

火男の面をつけているせいで表情は見えないが、雰囲気で自信作であることが伺える。

「失礼ですがこちらをは立てて公開させていただきます」

「武器なのに立たせるんだ」

「はい。なにせワタクシが溜め込んだ猩猩緋砂鉄に猩猩緋鉱石をふんだんに使いました渾身の力作です。ずっと待っていました。貴方みたいな常識外れな方が鬼殺隊に来てくださるのを」

隠の人たちがヒイコラ言いながら持ってきたそれは、奥行きも存在する立方体だった。

この時点で絶対に刀じゃない。刀に人一人が有に入る奥行きはいらない。

「里の者は言うんです。そんな大きさでは扱えない。そんな絡繰はいらない。えぇ、えぇ。分かっています。皆の言うことは正論です。正しい」

白松は立ち上がり、箱の前に立つ。

「しかしねぇ・・・ワタクシ達は技術者なんです。生み出し、作り、挑戦したい生き物なんです。ワタクシは皆と違って、刀の鋭さに一念発起する人間じゃなかった」

言われたことを思い出しているのか、愛おしげに箱を撫でるその体は徐々に震えている。

「タダそれだけなんです。だって面白くないでしょう!?皆なんで作ろうとしないんですか!?恋柱様のようなしなる日輪刀を!蟲柱様のような仕掛け刀を!?岩柱様のようなもはや刀ですらない日輪刀を!?」

興奮した様子に叫び、こちらに同意を求めるようにくるりと振り返って来るけど、その人達の日輪刀見たことないんだよなぁ。

とりあえずブリオが言ってた刀の形をしてない日輪刀の持ち主がその3人なことは分かった。

「同時に思うのです。なぜ刀でなくては駄目なんだと。隊士に傷ついてほしくないのであれば、作るべきは武器ではなく防具。そして防具が武器に、武器が防具になれば、呼吸に頼らず攻防一体を実現できる!」

拳を握り、熱く語る白松。隠の人たちは道中も聞かされたのか、それとも今持ってきたものの重みで疲れているのか、ぐったりとしている。

「しかし大人一人分の猩猩緋鉱石、猩猩緋砂鉄を用意するのは困難。しかし最終選抜に参加できる年齢は遅くとも10歳。それでは駄目だ!であれば齢12歳ほどの背丈で、なおかつ岩柱様と同じくらいに筋骨隆々である人物が最適!それがワタクシの日輪刀です!」

言い終わるやいなや、白松は扉を開けると。そこに鎮座していたのは西洋鎧と剣と盾だった。

まず目を引くのが大きさだろう。西洋鎧は小さいのか、それとも盾と剣が大きすぎるのか両方のサイズが同じだ。

鈍色の西洋鎧は140cm。だいたい僕と同じくらいの背丈だ。剣は幅広のロングソード。盾はカイトシールドをそれぞれ鎧と同じ大きくしましたって感じの見た目だ。規格外な大きさであることは言うまでもない。

盾の方は縁が研がれており、ここでも攻撃できることが見て取れる。

剣の方は真ん中にレールのような溝が掘ってあり、何かがここを通ることが示唆されているし、なんなら分割もするのだろう。じゃなきゃ鍔や柄にまで線をまっすぐ引かない。

鎧の方も一見するとファンタジー作品にでも出てきそうな聖騎士っぽい見た目だが、よくよく見れば外せるような構造や、盾と同じように縁が研がれており、武器としても機能することが分かる。

防御もしたい。攻撃もしたい。変形も分離も合体もしたい。

そんな男の娘の夢詰め合わせ特盛セットみたいな武器だ。

バカみたいだ。戦場に持ち出すような代物じゃない。

詰め込みすぎて耐久力なんて殆ど無いだろう。

「・・・・・・・」

「いかがですか?六井殿」

いかがですか・・・ねぇ。

「折り返しは?」

「ッ!全部で20回。均一に斑無く」

唐突に聞いた質問に、すぐさま白松は答える。

しかし20回か。良いね。層が厚くて何よりだ。

「火の温度は?」

「勘です。しかし灼熱よりも熱く」

つまり温度は少なく見積もって1500~2000℃。

「盾の素材は?」

「基本は猩猩緋砂鉄と猩猩緋鉱石の玉鋼で。一部に木材を使い、軽量化と耐火性を」

なるほど道理で藤の匂いがするわけだ。

「それぞれの厚さは?」

「分離、変形、合体までしますので平均で1寸。場所によってはもっと」

平均の厚さが30mmなら一番厚い所で50mm。関節にも使ってるなら10mm。

盾に至っては目算で40mm。まさに動く要塞だ。耐久性がないって評価はゴミ箱行きだ。

「重さは?その厚みなら相当だろう」

「怪力自慢の隠が10人いてなんとかといったところです」

ってことはだいたい2.5t。逆によく車が動いたな。

つうかよく凹むだけで住んでるなこの宿の床。

「幾つ有る?」

「八つ。弓、鎖鎌、槍、大斧、大剣、盾剣、双剣、双刃刀。末広がりの縁起物です」

「最高だ。当にバカヤローにしか出来ない」

「あ、ありがとうございま・・・す?」

淀みなく答えた大馬鹿野郎に称賛の言葉を送ったのに、いまいち届いてないみたいだ。

人生の経験値が足りないな。

 

 

「お察しとは思いますが、この日輪刀・・・いえ、日輪鎧と日輪盾、日輪剣の金属部は全て猩猩緋鉱石と猩猩緋砂鉄の玉鋼を使っております。触れれば色が変わりますゆえ、それで晴れて鬼殺隊の任務が始まります」

「ここまでやって変わんなかったらやべーぞ相棒」

「それでもどうにかなるでしょ。これまでもどうにかしてきたし」

肩を回しながら、鎮座する日輪鎧に近づく。

猩猩緋砂鉄と猩猩緋鉱石を使った玉鋼―――長いし猩猩鋼とでもいうか―――は色変わりという不思議な現象を引き起こすという。

どういったプロセスで行われるのか。それを今目にすることが出来るのだが

「・・・変わりませんね」

「・・・まじで変わらねーな」

「変わんないね」

変わらなかった。他の2つにも触れたけど、反応はなし。

他の隊士との違いがあるのかもしれない。色が変わらない理由とはなんだろうか?

「ブリオ。白松。日輪刀の色が変わる条件ってなんだ?」

「色が変わる条件ですか?」

「俺が聞いたのは素質のあるやつほど色が濃くなるって聞いたぜ。全く変わらないのは才能がないとか」

「鬼の首ねじ切って空高くすっ飛ばしたり、リフティング出来ることが才能に含まれないならその理屈は通るな」

「普通の人間じゃ鬼に勝てねーよ。だから風柱と岩柱はすげーつえー隊士なんだ」

つまり僕に才能がないというのは客観的に見ても主観的に考えても有りえない。

ということはそれ以外の要素があるって話だ。ふーむ。

「おかしいですねぇ。お話に聞いていた六井殿の実力ならば、はっきりと色が出るはずですが・・・」

「相棒のことを疑ってんのか?そりゃあ確かに呼吸を使わないで舐めプして鬼狩ってるがよぉー、腕は本物だぜ?俺はもう何度もこの目で見てるし、報告してるからなぁ~。冗談は言うが嘘はつかねぇぜ~」

「しかし現に対応する色に変わらないじゃないですか。せっかくこの鎧が美しく染まると思ったのに・・・第一素手で戦うだなんてどの呼吸でもやってませんよ」

「なにぉー!?俺の目が節穴だって言いてぇのか?あぁん!?」

「呼吸?呼吸が一体何だっての?」

僕がそう聞くと、1人と1羽の動きが止まる。

そしてゆっくりと僕の方に顔を向けてくる。

「お、おいおい相棒。冗談はよしてくれよ。習ってんだろ?育手からよぉー、全集中の呼吸を」

「そ、そうですよ。鬼殺隊の対しは、皆育手から呼吸を倣うものですよ」

「・・・・察するに今僕がしている呼吸とは違うものだよね?」

「・・・・うわーーー!!??こりゃマジだぜ!?まじで全集中の呼吸を知らね―やつだ!?」

「嘘でしょ!?あんなにすごいことしておいて!?」

僕の答えにありえないとばかりに驚いている。

なるほどそれか。

全集中の呼吸。恐らくそれが色変わりのために必須の条件なんだろう。

つまり僕がコイツの真価を発揮するには、その全集中の呼吸とやらを習得する必要があるわけだ。

「やれやれ。やっぱり飛び込み試験なんて受けるもんじゃないね」

「どーすんだ?相棒」

「どうもこうもないよ。鬼殺を続けながらその育手とやらを探そう。生きていれば、教えてくれる人も見つかるだろうさ」

鎧を着込みながら、ブリオに答える。

本来フルプレートアーマーは他人に着せてもらうものだけど、僕なら余裕だ。

ここには鬼殺隊の関係者しか居ない。だから遠慮なくいろいろ使う。

サニー師匠の触覚。僕のは彼ほど射程距離は長くないけれど、部屋の範囲内ならば問題ない。

「・・・・あの、鎧が浮くなんて知らないんですけど?」

「多分相棒の技だよ。相棒規格外だからな。色々」

「なんで鬼殺隊の隊士なんてやってるんです?」

「惚れた女が鬼殺隊だった。ってさ」

「え?なにそれ。意外とロマンチストなんですね」

はたから見れば誰の手も借りずに浮遊しているように見えるけど、実際には手にとって持っているのと一緒だ。

今僕の触覚が持てる最大張力は1本あたり300kg。触覚の総数は10万本だから余裕で持てる。

ふむ。どうやらまだまだ改修の余地はありそうだなこれ。

猩猩鋼を解析して成分がわかれば、インフィルオンの中で人口生成できないか試してみたいな。

「良し。これでいちいち頸をねじ切って夜明けまで待ったり、すり潰したり、叩き潰したり焼き殺したりしなくて良くなるな」

「そんな物騒な手段で倒してたんですか・・・?」

「おうよ。けど全部相棒がやった技なんだよなぁ。意味わかんねぇけど何故か相棒が触れると爆発したり、消えたり、粉微塵に吹き飛んだりするんだよ。まじで意味わかんねぇ」

「本当に惚れた女のためだけに鬼殺隊に入ったんですよね!?」

そんなにビビんなくてもスパイとかじゃないって。

 

 

漆黒の夜にビチャビチャと液体が落ちる音がする。

音の重さもさることながら、濡れ滴っている範囲からしても、相当の量であることが見て取れる。

ここに人がいれば苑むせ返るほどのにおいに顔を歪め、思わず鼻を塞いだことだろう。

その鉄臭い、血の臭いに。

その元凶となった存在は一言で言えば鬼だ。

大きい差は成人男性程度だが、釣り上がった目に額の角。岩のような肌に牙と言い換えてよい鋭い歯。

人肉を貪り食らうその姿は当に悪鬼というほかない。

人の出入りの少ない森の奥の小屋の中、攫ってきたのか迷い込んだのか、何にせよ老若男女を問わない死体の山が、偉業の食料であることは明白である。

「夜分遅くに失礼。一つよろしいかな?」

「あぁ?」

目を覆いたくなるような惨状のなか、似つかわしくない声が響く。

鬼が声のした方を向くと、そこには美しい少女が立っていた。

月の光を受けて輝く銀髪は、まるで雪を髪の毛にしたかのように美しく、紅い左目と翠の右目が優しげな目つきで見つめている。

色白だがほのかに赤い頬は、全身の柔らかそうな肉の付き方もあってか不健康とは程遠い印象を受ける。

「鬼さんどちら?」

「へっ・・・さぁな!」

上物だ。

鬼はそう判断した。

食欲優先の鬼はすぐさま目の前のごちそうを食らう決断をくだした。

なにか忘れている気がしたが、そんなことはどうでもいい。

他の誰のものにもしないために、自分の胃袋にさっさと収めてしまうのが吉だ。

飛びかかり、その柔肌に爪を立てようとして。

「げぎゃ!?」

横にすっ飛んだ。

小屋の壁を突き破り、人肉の代わりに抉れた土が口の中に入る。

衝撃は人より頑丈な鬼の頭すら揺らし、グラグラと視界が揺れている。

焦点が定まらない中、自分が吹き飛ばされて開けた穴から、銀色が出てくる。

「うーん。鬼になると知能が低下するのが厄介だ。言葉は話すし、分かるんだけど、コミニュケーションが取れない。たかが人より頑丈と言うだけで、すっかり上位存在気取りなのが、そうさせるのかな?」

不思議そうに考えながら、自分のものであろう血がついたスーツケースを引っ提げている少女。

自分のことなど眼中にない。或いは脅威とも思っていないその態度に鬼は腹を立てた。

「くそが!大人しく食われろ!」

再び襲いかかる鬼。

少女と鬼の体格差は歴然だ。少女の背丈は140cm、いや正確には135cm。

鬼は165cmとして30cmの差がある。

この大きなハンディキャップは先程のような不意打ちでなければ埋まらない。

鬼は大胆に動きながらも油断なく攻撃した。

攻撃したつもりだった。

「あらよっと」

「・・・・へっ?」

「悪いね。スローすぎて斬って欲しいのかと思ったよ」

一瞬。瞬きの間に少女は鬼の横を通り過ぎ、いつの間にか握られていた人一人分ほどはある大きさの剣で、鬼の首は両断されていた。

何をされたのかわからないうちに、落ちながら消えていく鬼。

開かれたスーツケースに、まるで手品のように大きさを無視して剣をしまっていく。

ぱちんと蓋を締めた後、地面にスーツケースをドスンと置く。

「人間の頃言われなかったかい?」

少女はスーツケースに腰掛け、膝の上で頬杖をつく。

月明かりが照らされたその顔は、ニヤリと笑っている。

「夜中に出歩いちゃいけません。ってさ」

馬鹿にするかのような物言いを咎めるものは誰も居ない。

ここには1人。銀髪の鬼殺隊士、六井志乃しかいないのだから。

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