六井旅行奇譚 ~鬼退治編~   作:犬原もとき

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第11話

「一つ聞きたいことがある」

「お、おぉう?」

いきなり義勇くんに話しかけられた。

びっくりした。急に話すじゃん。

「鬼になった者を戻す方法はあるか?」

「前提から話してくんない?」

本題も急にぶっこんでくるじゃん。

「分かった。あれは先日任務に出かけた日のことだ・・・」

マジで話しだしたよこの人。

まぁ、良いけどさ。

最後まで話を聞いた限り、少年の妹が鬼になったけど、不思議なことに鬼になったのに直ぐ側にいる兄を襲わなかったという。

後に隠にも場所を教えて彼らの生家であった場所を見てみると、明らかに遺体を埋めたであろう墓と、簡易的な弔いの跡があったとか。

悪かったけど墓を暴いて、遺体を確認したところ鬼化の兆候は見られず、また人食の痕跡もなかったという。

良かったね。ここで人食の可能性あったら、義勇くんまた少年に恨まれなきゃならんからね。

今は彼の育手であり、元水柱の鱗滝左近次さんという人の場所に向かっているらしい。

なるほど。自分の師なら安心できるし、話も通じやすいだろうね。いい案だと思う。

で、その鬼になった妹ちゃんのために人間に戻る方法がないか聞きたいと。

「う~ん・・・結論から言えば今はないかなぁ」

おう、その意外!みたいな反応やめろや。

「藤重山の鬼を補充する際に捕獲した鬼を使って細胞を観察して分かったことなんだけどね。鬼の細胞はグルメ細胞に近しい性質を持っているみたいなんだ」

これは僕も意外だったけど、調べるほど鬼の細胞とグルメ細胞は似ている部分が多い。

注入することで適合化、適合すると超再生能力、超人化、好きなものを食べるほど強くなる。

これらはグルメ細胞も持つ特徴だ。また鬼の細胞―――鬼舞辻細胞とでも言おうか―――は鬼舞辻無惨からの直接注入からしか出来ない。そして適合できなければ死ぬしか無いし、適合できても鬼舞辻無惨の支配下にあるから、グルメ細胞のように完全な個として成立していない。また日光や藤の花の毒、日輪刀といった明確な弱点が存在する。グルメ細胞と違うのはその辺りだろう。

「細胞が変質するっていうのは通常の沙汰じゃない。内部構造をまるまる入れ替えるわけだからね。だからグルメ細胞だってリスクを抑えてゆっくり馴染ませるか、リスクを取って直接ぶち込むかするしかない。それだって万人が成功するわけじゃない。一度変えたものを戻すのは、溢れた水を一滴残らず瓶に戻すのと同じ意味なんだよ」

いわゆる覆水盆に返らずってやつだ。

無論なにかしら手段はあるかもしれないけど、今は見つけられていない。

秘密裏にインフィルオンに細胞片を持ち込んでAIのレガリアを使って研究させているけど、それでも情報が足らなすぎて解析が進んでいない。

(今思えば殺すの惜しかったなあの下弦の参)

鬼は無惨の血が多いほどより強くなる。

十二鬼月と呼ばれる鬼は、雑魚鬼よりも多く無惨の血を入れられているだろうから、研究対象としては望ましかっただろう。

まぁ実際今の状況でもあの鬼は殺しただろうけど。じゃなきゃ現実に帰れないし。

「まぁこっちでも研究は続けてみるけど、よほどのイレギュラーでも起こらない限り妹ちゃんは残念だけど元に戻れないんじゃないかな」

「・・・・・(お前ほどの男がそこまで言うのなら仕方ない)諦めるか」

「悪いね。力になれなくて。あっ、そうそう、このことはちゃんと他の人にも報告した?」

「あぁ(恐らくお館様を通して)知っているはずだ」

・・・・・・・怪しい。

この子けっこう抜けてる所あるからな。おまけに言葉足らずと言うか、脳内で考えていることを吟味しすぎて、声に出すべきことを出さないことがあるし。

あとで耀哉に聞いておこう。

 

「まだ伝えてないね」

「なんでだよ」

いつもの気の注入をしに行ったついでに聞いてみたら、返事はまさかのNO。

こういう報連相って組織行動の上ではめっちゃ大事なんじゃないの~?

「普通は伝達をすべきなんだけどね。だけどこの話はギリギリまで隠しておいて方が良いと思っているんだ」

「ほ~、そりゃまたなんで?」

「そうだね。一つは確証がないからかな。人を食べていないのは今だけだからかもしれない。これから先、鬼の兄が気の迷いか、或いは妹可愛さに人を食べさせ始めるかもしれない。私は義勇のいう子を何も知らないから、その子を伝聞だけで信じるしか無い。けれど柱の言う事だからという理由で信じては、お館様なんて言われている私の立場がないだろう?」

そりゃそうだ。

鬼を殺す猟師が鬼殺隊なんだから、鬼を殺すのは当たり前の仕事だ。

そしてそれらを統括し、管理するのが耀哉の立場であり責任だ。

安易に死ぬことが許されないのと同じくらいに、簡単に流されてはいけない。

言ってみれば鬼殺隊の大黒柱だ。彼がブレては鬼殺隊自体が成り立たない。

「だが同時にこうも思ってるんだ。これはなにか大きな・・・鬼殺隊の長い戦いに変化をもたらす決定的なナニカになる」

耀哉の声に熱がこもっている。

興奮するとすぐに吐血しそうになるんだから少し自重しなよ。

「今はまだハッキリとは言えない・・・けれど、彼らがこの長い鬼殺の歴史の節目になる。それだけは分かるんだ」

だけどそれほどのことなんだろう。

顔など見なくとも分かるほどに、爛々と輝く気配は、それなりに顔を突き合わせるようになった僕でも感じたことがないものだ。

耀哉は未来予知じみた思考力を持っている。その精度は強化人間である僕の演算能力を上回っており、ほぼ間違いないといった的中率を誇る。

そんな彼が言うのなら、恐らく鬼の妹とその兄は鬼殺隊に大きな意味をもたらすのだろう。

ふぅむ。こっそり会いに行こうかな。僕ならすぐに行けるでしょ。

「うんうん。それは良い考えだ。私も君から太鼓判を押されると安心できる」

「ナチュラルに人の思考を当てるんじゃないよ」

ニコニコと言った雰囲気で、僕の思考に返答する耀哉。

しっかし耀哉が気になるほどの子か・・・鬼殺隊の歴史の中で今までそういう時はなかったのかな?

いや、在ったのだろう。ただ鬼殺隊の鬼に対する憎しみは異常なまでに深い。

普通1000年以上も一つの対象を恨み続けられるか?

まるで鬼を恨め。鬼舞辻を許すなと洗脳しているようにも思える。

これも産屋敷の呪いに関係があるのだろうか?

確かに怒り、恨みというものは爆発力のある強い感情だ。

しかしそれが長続きすることはない。そういった感情持ち続けるのは、精神的に不衛生であり、また身体に過度なストレスを与え続けるので最初は良くても割と早期にパフォーマンスが落ちてしまう。

それを常に最高の状態で維持しているし、なんならその憎悪に肉体が追いついていない者も入る。

実際度重なる出動と命の危険、心身疲労が重なりドロップアウトなんて話は結構あるみたいだ。

耀哉もこの体質は変えたいと思ってはいるものの、現体制以上に効率のいいやり方がないそうだ。

「無惨は賢く、用心深いからね。政府と繋がって全国規模で探し始めたらより影に潜むだろう。政界を抑えるのは十二鬼月にやらせれば良いしね」

政界を抑える鬼と聞き、思わず顔をしかめる。

そんな事ができるのは上弦の弐だろう。信仰心というのは厄介だ。

人は誰かしら、何かしらを信じ、孤独を紛らわせる生き物だ。

孤高そうに見える者ですら、道具か或いは自分自身を信じて、孤独を紛らわせている。

宗教とは信じる存在を共有し、それを通してルールを設け、空手形の約束をもって守らせる代物だ。少なくとも僕はそういう風に認識している。

騙されているとは知りながら離れられないのは、人が群れで生きる生き物であり、どんな形であれ別の群れがない状態で、今所属している群れから離れるのを本能的に嫌うからだろう。

あの上弦の弐のことだ。腹が立つが頭が良いし、これくらいは考えて行動しているだろう。

政界にいる人間に手が及んでいないのは本人の趣向外がほとんどだからで、時代が進み2000年以降になれば、歴史に泊がかかり手がつけられなくなる。

うん。何があっても上弦の弐はブチのめそう。あいつが一番厄介だ。

「うし。こんなところかな」

「ありがとう志乃。君のお陰で色んなことが順調に解消されていくよ。本当に助かっている」

「そりゃあ僕は超絶かわいい上に、超有能な強化人間だからね。これくらい朝飯前さ」

「うんうん。これならひなきを安心して送り出せるよ」

「その話はやめろや」

十分な気の注入を終えて、背中を叩いていつものやり取りをする。

それは今日の治療が終わった合図であり、周りに対して心配するなというアピールでも在った。

 

去っていく友人を見送ると、耀哉はいつものように陽の光を浴びる。

こうすることで呪いの進行と、注入してもらった気の減りが遅くなる気がするからだ。

(治療の時間が長くなってきている。それほどまでに私の呪いは進行しているのだろう)

両目が見えるまでに回復した自分の体だが、それ以降は一進一退を繰り返している。

最初は1分もかからなかったものが、今や30分にも伸びている。

曰く入れた側から漏れているらしい。

穴の空いた枡のごとく、入れてはすぐに出ていってしまうため、並大抵の量を入れては意味がない。

そしてその穴は日に日に大きくなっているらしく、気で穴を修復しながら注入していく高度な技術を要していると、耀哉はカナエづてに聞いていた。

(あまね達のいる前で話さないのは、ひなきや輝利哉達を不安がらせないようにだろうね)

産屋敷家の人間として覚悟を決めている実子達だが、やはり家族の不調には敏感だ。

今、こうして普通の親子のように接しているものの、志乃が来る前と後では遠慮の差に大きな違いが出ている。

遊びに誘う力の強さ。走る時の速さ。声の大きさとそれに乗る感情。

全てに遠慮がなく、ともすれば引っ張られて無茶をしそうになる。

(前にあまりに元気に感じるから思い切って遊んだら悪化したからね)

思い返したのは気の注入が開始して1週間経過した日のことだ。

すっかり元気になり、傍目には健康そのものになった耀哉を見て、柱や家族は泣いて喜んだ。

かかりつけ医からもお墨付きをもらい、もはや疑うものは自分を含めていなかった。

舞い上がっていた。と冷静に当時を振り返れば思えるが、年々ままならなくなる身体が、若返って健康になったとなれば無理からぬことだとも思う。

子どもたちと全力で遊んだ結果、注入された気が一気に消耗し、1日で空になった。

『お前のことはもっと冷静で大人な人間だと思ってたよ』

と呆れた顔で叱られたのは実に新鮮な体験だったと、耀哉は懐かしむ。

他人から肯定や哀れみ以外の感情を向けられるのは久方ぶりだった。

自分のもつf分の1の揺らぎという技能のお陰か、他人から信頼されたり、好意を買わせるのは得意だった。

あまねを始めとする家族、友を失ったばかりの実弥という例外もいるにはいるが、前者は実の家族であり、後者は特殊な状況下だった為、純粋な意味で対等に接してくれるのは志乃が始めてだった。

(だが彼も全てにおいて万能ではない。彼は人に成りたがっている)

耀哉は志乃の抱える孤独を見抜いていた。

友人としてみているからか、或いは彼の持つ驚異的な演算能力が導き出したのか、耀哉は性質は異なれど、自身と同じように志乃が孤独を抱えていると確信している。

どんなに精巧に人として振る舞っていても、どこか距離を感じる。

親しみを感じるものの、一定のラインを引いている。

人当たりの良さは他人との距離感への先制攻撃であり、自然と踏み込ませない一線を相手に教えてくる。

耀夜が考えるに、それを超えると好きなのに志乃自らが、自身の人外性を理由に遠ざかろうとするだろう。

(やはりひなきでは難しいかもしれないね)

一目惚れしたようなので、ひなきを志乃に充てようとしている耀哉だが、内心では冗談3割本気3割諦め4割だったりする

世間一般的な斜め後ろからついてくる女性では、彼のラインを超えたうえで、彼の心をつかむことは出来ないだろう。

(まぁまだひなきも8歳だし、慌てる必要はないか)

自身か、或いは輝利哉の代で産屋敷家の呪いと鬼殺隊の戦いに終止符が打たれる。

そうした確信を持った耀哉は、既に未来に向けた思考でひなきにどんな教育をしようかと、脳内で育成プランを練り始めるのだった。

 

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