六井旅行奇譚 ~鬼退治編~   作:犬原もとき

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第12話

藤襲山。

鬼殺隊の隊士にとっては色々と想い出深いこの場所に、今年も鬼殺しに取り憑かれたイカれた野郎どもがやってきた。

今年の受験生もまぁ沢山いる。

毎度毎度良くもこんなに人から恨みを買われるもんだ。

たしかに鬼は強いかもしれないけど、人間の技術力の進歩も凄まじい。

産屋敷家が早々に日本政府を巻き込んで技術力に全ブッパしてたら、研究中の日輪銃が完成していた可能性は高い。

まぁ弾丸に使えるほど猩々鋼が足りないんですけどね。

とりあえず今はレガリアに任せて同性質の鉱物がないか探してるけど、いかんせん特殊すぎるからなぁ。地球にはないかもしれない。

今度探索範囲を太陽系に広めてみるか。インフィルオンなら無人だと秒速10光年は出せるから、太陽系内なら割とあっと言う間だ。

さてどうして僕がこの藤襲山にいるのかというと、端的に言えば監査役だ。

どうも過去の受験者の死亡歴なんかを見る限り、特定の育手出身の子を集中して狙っている鬼がいるみたいだ。

育手の名前は鱗滝左近次。富岡くんの育手だ。

推測が当たっていれば少なくとも47年はこの藤襲山で生きながらえている。

富岡くんの時にも遭遇し、その時は彼の兄弟子、姉弟子と思われる人物が犠牲になっている。

今年は彼の弟弟子である竈門炭治郎くんが受けるし、そいつが出てくる可能性は高い。

もし血鬼術に目覚め、十全に使いこなしているようであれば、彼らには荷が重いので僕が助ける予定だ。

そのために来ているけど、正直いらんお世話かもしれない。

なにせ今年の候補生の中にはカナエさんとしのぶちゃんが手ずから育てた花の呼吸の継子 栗花落カナヲちゃんが参戦している。

女性にして柱に至った二人がその技術を惜しむことなく注ぎ込んだ彼女は、候補生の中でも頭一つ抜けている。

今回は勝手に来たらしいが、まぁこの様子なら突破は余裕だろう。

なにせしのぶちゃんが勝手に持ち出したグルメ植物たちを使った訓練も耐えきったしな!

仮に血鬼術を使われても余裕で対処できるっしょ!

勝手に持ち出されたグルメ植物の訓練にも耐えきったし!

元凶には生態系云々の話をしてかなり厳重に叱りつけた。人食い鬼以外の脅威を産もうとするんじゃない。

次は桑島さんところの我妻善逸。贔屓目無しに彼の実力はカナヲに並ぶか超えるほどのものがある。

なんかのっけからネガティブぶちかましてるけど、だいぶゆるく構えていたとはいえ、わずかながら僕の気配に気づいたのは驚嘆に値する。

事前情報だと彼は壱の型しか使えないらしいが、敢えてそれだけを追求した育て方をしたそうだ。

そして結論から言えばそれは大成功と言える。

あの足から繰り出される速さはかなりのものと見た。

殆どの鬼は視覚することなく頸を斬られるだろう。

・・・・・まぁさっきから怯えすぎてクソやかましいんだけど。戦えるのかなアレ?

次は行冥師匠のところに厄介になっている不死川玄弥くん。

彼は呼吸の適性がなかったはずだけど何故かここにいる。

大方気の適性があったから、ワンチャン賭けて受講しに来たんだろうね。

悪いけど気の力で鬼を倒すには、最低限相手の顔を消し飛ばせるくらいの気がないとダメだよ。

玄弥くんまだ修行中の身なんだし、大人しくしときなさいって。

………まぁ無理だろうね。彼は彼で誤解して別れた兄と会いたいって決意があるし。

実弥にいったらもっとはっきり引き止めてくれって言われそうだけど、はっきりダメだと言っても、こうして勝手に受けにくるんだから諦めるしか無い。

彼が鬼殺隊を辞める時は、実弥と腹わって腰据えて話し合ったあとに、ワンチャンあるくらいじゃないかなぁ。

ただ気の力は応用が効くし、なにげに今でも短時間であれば空も飛べるから、他の候補生に比べれば目はあるんじゃないかな。

あくまで試験の合否は生き延びて再び神社にたどり着くことだから、極論鬼をスルーしても達成される。

玄弥くんがそこに気付けるかどうかだけど・・・無理だろうなぁ。彼ってば結構短絡的な所あるし。気の修行をつける時にその辺も矯正したかったけど、やっぱり人に教えるのは難しいね。逆に意固地になっちゃったよ

行冥師匠にはマジゴメンって謝っといたけど、曰く「思春期だろうからそんなもん」らしい。

思春期ってあんな感じなのか。

そうそう、今ここにはいないけど、一番乗りしてた猪頭の子はインパクトあったなぁ。

着くやいなや、かなたちゃんと輝利哉くんに詰め寄って誰より早く試験内容を聞いて、速攻で森の中へ入ってったな。

入れ違いで到着した玄弥は目を丸くしてたし、善逸はクソうるさかった。

カナヲ?相変わらずの鉄仮面ぷりだったけど、この数年間側にいた僕は彼女が驚いてた事が分かった。

そして最後に来たのが・・・件の少年、竈門炭治郎。

水の呼吸を習わせたって言ってたけど良かったのかな?

なんというかパッと見た感じでは彼には馴染んでないように思える。

ただ他の呼吸ならどうだって言われるとそもそも僕は岩の呼吸以外で見たことあるのは水の呼吸くらいしかない。

鬼殺隊の隊士の殆どは水の呼吸の使い手だ。だから自然と目にする機会も多いから、全ての型はある程度覚えた。

次いで炎の呼吸が多く、そこからガクッと下がって雷。更にそれ以外の呼吸ともなると、継子か柱くらいしか使い手のいない派生呼吸位しかない。岩の呼吸なんて基本の呼吸のくせに条件が厳しすぎるから行冥師匠を除くと僕くらいしかいない。玄弥はそもそも全集中の呼吸の適性がないから論外。

そんなわけで他の呼吸に関しては絶賛学習中だ。一度でいいから全部見せてもらえば僕がマニュアル化して残せるんだけどなぁ。

快く見せてくれた人なんて師匠を除けば新炎柱の杏寿郎くんと天元くらいだった。

しのぶちゃんの蟲の呼吸はボクと考えたようなもんだから知ってて当然として、まさか義勇くんが断ってくるとは思わなかった。そういえば意外と実弥が乗り気だったな。まぁ玄弥くんの様子を聞くついでだろうけど。

「そして初の試みとして選抜試験官がおられます。柱の皆様より、最終選抜で優秀な隊士候補生が見定める物が必要との要請により、今回は試験的に導入しております」

「選抜試験中、試験官に助けられたものは、試験官が例外と判断した場合を除き、その場で失格となります」

かなたちゃんと輝利哉くんが交互に説明したのは、僕が提案した選抜試験の候補者の救済措置だ。

選抜試験中に義勇くんの兄弟子のように、実力があるのに他人を庇ってばかりだったせいで死んだり、実力不足で鬼の餌にするくらいなら追い返して二度と来んなってしたほうが良いでしょっと説得して導入させた。

僕なら一日くらい空けてもすぐに前線復帰できるし、自分で言うのも何だけど情に流されない判断ができるし、公平な目で見定めることが出来る。

ちなみにこれに盛大に賛成したのは勿論弟大好き実弥くんだ。

弱い隊士は要らないと鼻息荒く豪語していたけど、本音は玄弥くんをなんとしてでも落として欲しいってところだろう。

まぁ公平に判断してちゃんと試験を突破したら合格にするし、突破できないなら不合格にはすると言っておいた。

さっきの通りこの選抜試験の合格条件は夜明けまでに藤襲山の頂上に生きてたどり着くことだ。

そしてその過程に鬼の討伐数は特に明言されていない。

現に義勇くんの言葉が正しいなら、彼の世代は一匹も鬼を倒してないのに、犠牲になった兄弟子と姉弟子以外は合格している。

重要なのは生き残ることであり、彼我の実力を正しく認めることだ。

そういう意味では今までのやり方は間違っていないけど、まぁ今後を考えるならリスキーすぎる。

この先どれくらいの期間がかかるか分からない以上、リスクマネジメントは大事だ。

齢を取らない上に割と鬼くらいじゃ平気に対処できる僕なら、恒常的に試験官を出来る。

僕が飽きない限りはこのやり方は続けられるだろう。

最も耀夜の勘を信じるなら、その心配は杞憂らしいけど。

「さぁって・・・何人落ちるかな」

自分を助けてくれる存在を知り、明らかに空気が緩む受験者達を見ながら呟いた言葉は、藤の花とともに流されていった。

 

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