六井旅行奇譚 ~鬼退治編~   作:犬原もとき

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第13話

「俺がここに来た。つまりはそういうことだ。帰れ」

銀色の長髪を一つ結びにした長身の男性が放った言葉に、日輪刀を持った少年はがっくりと項垂れる。

黙って指さされた方とその反対側、彼の目的地であった藤襲山の頂上の方を何度も見ながら、最終的に彼は日輪刀を持って黙って山を降りた。

「ま、後は彼次第だね。来年も受けに来ればそれはそれでガッツがある」

少年の姿が見えなくなったのを確認した男は、先ほどとは違う高い声で独りごちる。

その声を知る者がいれば驚くだろう。

なにせその声の主は、普段は少女のように愛らしく、小さな体をしているのだから。

結論から言えば、この人物は変身術で姿を変えた志乃である。

普段の姿では確実にナメられるのは目に見えていたので、彼の中で仕事のできるナイスガイである、かつての戦友の姿を借りている。

背丈は宇髄天元と同じくらいだが、スラっと伸びた足と程よい筋肉量。流し目が映える目つきと爽やかな笑顔の似合う顔立ちは、ベクトルの違う格好良さを見せている。

多少志乃の思い出補正もあるだろうが、貫禄を出したいという目論見は成功しており、今のところ彼の言うことに異を唱える人物は少ない。

(それはそれで問題だけどなぁ)

そうはいっても組織の性質上、あまり受け身でも困る。

命を大事にするのは大変結構であり間違っていないものの、鬼殺隊として本格的にやっていくのであれば、ある程度揺るがない個の意思は必要だ。

なにせこの選抜試験が終われば、10日もすれば日輪刀が届き、本格的に隊士として活動を開始しなければいけない。

そうなれば試験中のように助けてくれる人物はおらず、共同任務ともなれば自分以上の実力を持った鬼と戦わないといけない。

そうなると最後の一押しを奮い立たせてくれるものは、自分自身の揺るがぬナニカであり、それこそがこの最終選抜で試される部分だと志乃は考えている。

試験官としてみるべき部分はそこであり、いくら泣き叫び逃げ回っていようと、実力を持っていたり、或いは実力が足りていなくても自身の目的のためにあらゆる手段を用いようとするものは、どんなに命の危険があろうと志乃は助けないことにしている。

逆に実力は十分なのにその精神面が不十分であれば、彼は容赦なく不合格を言い渡した。

そうした人物は最初こそ噛みつくが、内心を言い当ててやれば基本的には言い返せずに自分から逃げていく。

なお、志乃の言葉に逆らい藤襲山に向かった者に関しては助けなかった。

彼が助けるのは鬼殺隊最終選抜の受験者であり、不合格を言い渡した時点で選抜は終了しており、危険地帯である場所へ向かう自殺志願者を助ける義務はない。という判断である。

 

 

「これで10人目くらいか?随分手厳しいじゃあねーの?」

「命掛けるんだぜ?まだ手緩いくらいだよ」

肩に止まってきたブリオに返事をしながら、僕は実弥くんのある言葉を思い出す。

ーーーー隊士の質が落ちている。

ぼんやりとしか感じていなかったけど、こうして試験官として参加した今、そのセリフの実感を浴びている。

弱い。

端的に言えばその一言に尽きる。

才能や肉体面では適正だと思える人材はいる。

しかし実践、すなわち命の危機に瀕した時の対応が素人どころか一般人と同レベルだ。

下手をすると一般人のほうがまだ動けている場合もある。

鬼殺隊を引退した後の隊士の多くは、そのまま育手になることが多い。

鬼殺隊という組織の性質上、訓練校を作ったり、外部委託するわけにもいかないから、引退した隊士に、次代の育成を頼むのは間違っていない。

だが名選手が名監督とは限らない。

炭治郎くんや善逸くんやカナヲちゃんのように、育手が鬼殺隊隊士としても柱になるほどの腕前で、なおかつ教えるのが上手なパターンは少なく、大抵は感性と自身の模倣で教えるため、その人物にあった身体の動かし方ではなかったりする。

そうした子にはそれとなくアドバイスをするけど、招待制だから他に行く場所もないから、育手に嫌われるのを覚悟でやるか、矯正して慣らすかしかない。

僕みたいなのならいざ知らず、普通の人がそれをやると10年くらいはかかると思う

そしてその頃にはもう良い年齢になっている子がほとんどなので、結局は現役期間が短くなる。

体力勝負だしね。鬼殺隊。それを補うのが全集中の呼吸であり常中なんだけど、どうやら常中を教えてない育手が殆どらしい。

聞けば昔は出来て当然の技術だったんだとか。

まぁ今よりも移動手段に乏しい次代から存在しているんだし、馬を使って移動するよりも、人の足で高速移動できるなら、それに越したことはない。ということで自然とそうなったのかもしれない。

そんなわけで、常中を訓練して教えることが出来るのは、蝶屋敷だけということになる。

見込みのある隊士が、怪我をしなくちゃたどり着かないって割とバグだろ。

「早く終わんないかなー。退屈だよ全く」

「相棒は待つっていうのが苦手だからなぁー」

「違うよ。無駄な時間が苦手なんだよ」

「無駄な時間を楽しめよ相棒。不老不死なんだろ?行き急ぐこたぁねぇじゃあねーか」

「不死じゃないよ。老いないだけ」

「どっちも変わりゃしねーだろ。相棒つえーんだし」

次の落第生を探しながら、ブリオと喋り倒す。

こういう時に相棒の有り難さに感謝をしている。

一人の夜は寒くて辛い。

 

「おー、いたいた。ってもう交戦してんじゃん」

「手ぇばっかだなあの鬼。手鬼って感じだな」

しばらくして森の中をぶらついていると、例の鱗滝氏の出身を付け狙っているだろう鬼をみつけた。

ブリオの言う通り、件の鬼は全身を手で覆っており、一筋縄ではいかないのは一目みて分かる。

あれ下手すると並の隊士でもキツイな。

まず腕の太さだ。普通の人の何杯もある。トリコ師匠くらいでかいな。

あれを切るっていうだけでも結構な重労働だ。

カナヲちゃん辺りならなんとか対応できるって感じかな。それでも油断すれば怪しい。

身体が大きい分発展している様子は無いけど、外に出したらそれが本格的な血鬼術に変化する可能性もある。

瞳孔の形が通常の形と違うのもその可能性を示唆している。

血鬼術に目覚めた鬼は、共通して目に変化が現れている。

視覚を必要としなくなるのか、或いは別の要因なのかはわからないけど、それは目印として鬼殺隊に共有している。

アイツもまたその要項に該当している。過酷なこの選抜試験だけど、流石に隊士にもなっていない奴らに、推定血鬼術持ちを任せるのはいくらなんでも荷が重い。

「動き出したな」

「獲物を見つけたのかもしれないぜ相棒」

「かもな」

だが僕らは移動を開始する手鬼の後ろを着いていくだけに留める。

理由は今回の試験にカナヲちゃんがいるから。

頭一つ抜けた実力をしているあの子がここにいる以上、今回は対応可能ということで、必要以上の介入は制限されてしまった。

隙だらけの背後を見ながら、日輪刀を納めている鞘に手が伸びる。

「逆を言えばカナヲちゃん以外が鉢合わせたら良いわけだ」

そう。あくまで対応可能なのはカナヲちゃんだけだ。

我妻くんや炭治郎くんも、ひょっとすれば出来るかもしれないけど、将来有望な隊士を、むざむざ死なせる理由もない。

「しっかし相棒の言う通りに動くかね?アイツも腹ペコなんだろうし、他の奴らを襲うんじゃあねぇの?」

「寄り道はするだろうけど、そう遠くないうちにいくさ」

「自信アリげだな。なんでだい?」

「富岡くん以来のラブレターだぜ?返事をするのがマナーってもんだろ」

ウインクして返してやれば、ブリオは器用に肩を竦めるジェスチャーをした。

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