六井旅行奇譚 ~鬼退治編~   作:犬原もとき

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第2話

「相棒相棒。今度はここから北西に38kmだってよ。そこにゃ海女肥村って小さな村があるんだが、そこにいる女が次々消えるってぇ話だ。鬼がいる可能性があるから調べて見てくれってことだな」

「やれやれ引っ切り無しだね。僕がシゴデキなのか、鬼が多いだけなのかどっちなのかな?」

「両方だよ相棒。なにせ相棒は同期ナンバーワンだからな」

「お盆に帰ってきたら自慢してやろう。顔も名前も知らんけど」

鬼殺隊はとんでもなくブラックだ。

鬼を倒せばまた鬼を倒しに行く。

しかも現在地の近辺ならまだしも、平気で二桁キロの移動を要求するもんだから質が悪い。

しかし普通の隊士ならこの移動時間は休息時間だ。

例えば今回の移動なんかは馬車を使えばだいたい6時間は休める。

道中の起伏や道の状態、馬の休息なんかを挟んでだいたい時速6kmと考えた場合の話にはなるけど、一眠りするには丁度いい時間だ。

なに?揺れて眠れないだろって?

休める時に休むのは戦士の基本だよ。

僕もぜひそうしたいけど、そうは問屋がおろさない。

騎士セットは総重量2.5t。馬2、3頭程で引かせれば余裕で運べるけど、それは騎士セットのみの話。

僕も一緒に載せようと、騎士セットを扱う僕が軽いわけもなく、もっと馬が必要になる。

そうなると費用が嵩むし、日にちも掛かる。

まぁ騎士セットはバカ重いから盗まれやしないけど、白松のデザインセンスが良いのか、そうした噂を鬼舞辻無惨が広めているのか、よく狙われる。

今のスーツケースタイプの待機状態になったのも、以前先に送っていた騎士セットが野盗に盗まれそうになったのが原因だ。

まぁ重すぎて一ミリも動かせてなかったけどね。

けど、力自慢の隠が十数名揃ってたり、馬2頭の馬車で引けたりと、条件さえ満たせば騎士セットを盗むことは出来る。

こりゃいかんと白松とディスカッションして図面を引き、作り直したのがこの猩猩鋼騎士壱式だ。

携行性を重視したものの、重量は相変わらず2tと重い。

僕なら軽く持てるとはいえ、やはり馬車で僕ごと運ぶのは難しいので、こうして徒歩で向かうわけだけど。

「北西に38kmね……ブリオ」

「あいあい。ちょいと失礼しますよっと」

ブリオを懐に入れ、鬼がいるらしい噂のある方角を見る。

グッと脚を踏み込み、一息に蹴る。

ちょっとしたクレーターをその場に残し、北西へ38km跳んでいく。

「ひゃっほーーぅ!相変わらずスゲー速度だぜ相棒ー!最近流行りの無限列車だってこんなに速くねーんじゃぁねーのぉ!?」

「無限列車か。良いね今度はそっちに行きたいな」

「いずれ田舎にも走って欲しいもんだよなぁ!相棒!」

自分では出せない速度を楽しむブリオが吹き飛ばないように、舞空術でかっ飛んでいきながら目的地を目指す。

前に向こうの世界の感覚で飛んでたら人に見つかって凄い騒ぎになったんだよなぁ。

それ以来、空を飛ぶときは周りに誰も居ないことを確認しつつ、踏み込みで加速を付けて、安定高度で飛行するようにしている。

もちろん下から見上げられても構わないように、隠蔽魔法を使って見つからないようにしている。

この世界に魔力がないことは確認済みだから、僕のエネルギー、つまりはカロリーを変換しないといけないけど、食没して貯蔵は十分あるから平気だ。

因みに気について教えて欲しいという打診が在ったけど、人に教えたことがないのでお断りした。

代わりに効率的な肉体トレーニング法を書いたマニュアルを渡したから大丈夫でしょ。

「相棒!海女肥村って女が多いらしいぜ!鬼の目的もそれかもなぁ!」

「またぁ?鬼ってやつは好き者しかなれないのかねぇ?」

「じゃあ相棒も素質在ったりしてな!」

「とっくに鬼より美しいよ」

ブリオと話しながら、視界に映る景色を吹き飛ばしつつ、目的地を目指した。

 

海女肥村は海女という字が使われているとおり、海女が有名な村だ。

海にほど近く、ここで取れる牡蠣はそれはもう絶品だとか。

加えて美しい真珠もかつては良く取れていたという。

しかし文明開化以降、海外の真珠が流行ったせいで急速に衰退。

男は出稼ぎにいき、残った女達も海女で口を糊するものの、売り物はあるが買い手がつかないという開店休業状態。

「そこへ追い打ちをかけるように貴重な海女候補の女たちが行方不明・・・か。災難だねぇ」

到着してしばらく。具体的には一月ほど、村を調査した結果をまとめながら、行きつけになった牡蠣小屋で牡蠣を食べる。

色々食べ方はあるけど、ここの岩牡蠣は焼いて食べるのが一番美味しい。

七輪の上で3分間。蓋をして待つ。

経過したら蓋を開けてひっくり返し、また待つ。

また3分経過したら能力をフル活用して、中心温度が85度以上であることを確認してから、牡蠣をとり、備え付けのナイフを牡蠣の口に滑り込ませ、貝柱を切る。

がぱぁっと開かれた貝殻から、湯気と一緒に磯の香りが混じった特有の匂いが鼻をくすぐる。

ぷりっぷりで肉厚の身が誘ってくる。あぁ、今すぐにでも食べたい。

けどまだだ。ここで焦って齧り付いてはいけない。いやこのままでも十分美味しいけど、もっと美味しく食べてやるのが美食屋としての信条!

最高の女には相応しいアクセサリーがある。

まずはカキ醤油。この村で長らく愛されている、この村の牡蠣に合わせた特製醤油だ。

合わないはずがない。

そしてこの醤油の使い方はお上品に一滴二滴なんかじゃない。

豪快に、ドバっと!

余熱ですぐさま沸騰した醤油は、ジュワァっという音と共に芳ばしい香りを辺りに振りまく。

あぁ・・・・良い。

「今日これまでの日に敬意を込めて・・・いただきます」

音が止まないうちに牡蠣の身を摘み、口の中へ。

もみゅ、もみゅ、もむ・・・・・・。

おっほおおおおおぉぉぉぉぉ♡♡たまんなぁい♡♡

肉厚ぷりっぷりの身は驚くほど柔らかく、噛む度に旨味が溢れてくる。

深ぁいコクがこの牡蠣が沢山の栄養を蓄えていたことを味となって教えてくれる。それは当に万人が好む王者の風格。これが嫌いな奴は居ない。

濃厚な旨味と一緒に流れてくる甘さも勿論健在。控えめながら主役は一人じゃないぞと自己主張するその姿勢が愛おしい。

カキ醤油の甘辛さの中に、時折のぞかせる岩牡蠣特有の苦みがアクセントになってクセになる。大人の魅力ってヤツがココにある。

口の中はまるで舞踏会。

皆が皆、自分こそが牡蠣の味だって主張してくる。

だけど喧嘩しているようで喧嘩していない。

お互いがお互いを同格ライバルだと思って、切磋琢磨し、時に励まし合い、時にぶつかり合い、誰が一番でも文句ないと態度で表している。

決めきれないよ。皆ナンバーワンだ。皆が居てこそ牡蠣なんだ。

あぁ、もう時間だ。咀嚼が終わり、嚥下し、胃という舞台袖に引っ込んでいく。

僕はもう一つの舞踏会を開いた。

 

一月ほど前から、その牡蠣小屋は異様な空気に包まれることが定期的に発生するようになった。

だいたいお昼時に来るその少女とも少年とも取れる紅目翠目の銀髪の美人は、いつも牡蠣を山程食う。

最初こそどうせ地元の話を色々聞いていたが、そんなに大きくもないので、すぐに話す内容がなくなってしまった。

行方不明者の話を特に熱心に聞いてきたが、牡蠣を食べてからは牡蠣の話しかしなくなった辺り、相当の食いしん坊なのだろうと、店主は思った。

そして美人は食べる姿が上品でありながら、どこか耽美で蠱惑的であった。

一口食べる毎に紅潮し、目をうるませ、身体を震えさせる。

食べ終える毎にほぅっと溜息を付き、愛おしげに牡蠣を摘んで口に運んでは、またうっとりと悦に浸る。

飲食店なのに、桃色な空気を醸し出している彼は、瞬く間に村の噂になり、今ではこの時間になると彼を見に村中の人間が集まるほどだった。

「いやぁ・・・今日もいい食いっぷりだわ」

「エロい顔の間違いだろ・・・クソぅ、なんであの顔で女じゃねぇんだよ」

「バカだなぁ。それが良いんじゃねぇか」

田舎の寒村ともなればよそ者にはそれなりに辺りがきつくなりそうなものだが、彼の人物は自分たちの長らく住む土地に興味を示し、あまつさえ沢山の金を落としてくれている。

人間自分に利があると見れば、多少の不満など容易く飲み込めるもので、僅か1週間のうちに、村人はもれなく彼を受け入れた。

「しっかしこの光景を見たら憧元爺さんも喜んだろうになぁ」

「だなぁ。あの人の作る牡蠣は美味かった」

「確か3ヶ月前だろ?それから行方不明が次々と・・・」

「ねぇ」

「ん?お、おぉ・・・」

「その人のこと。教えてもらえる?」

男達が今は亡き者の話しを始めると、銀色が目の前に在った。

 

「憧元・・・村の牡蠣養殖職人をやっていた50歳くらいの男性。牡蠣養殖に命をかけていた一本気質な性格。妻は30代の頃に他界。息子とは喧嘩別れしていてそれ以来独り身。3ヶ月前に突如として行方がわからなくなる」

「そんでもってそれ以来この近辺では行方不明者が次々と出るようになったって話だな。鬼の仕業だとすりゃ、この爺さんが鬼になったのは間違いねぇぜ」

これまで集めた情報を元に作成した分布図を広げ、ブリオと整理しながら、生家であったという場所に足を進める。

職人肌な人間らしかったそうだけど、人付き合いが悪いわけでなく、牡蠣作りに関しては人一倍うるさっただけで、何処にでもいる普通の人間だったそうな。

家も牡蠣作りに最適な海にほど近い場所にある。

「ここだね」

「聞いた話が正しけりゃあそうだが……なんか思ったとおりボロいな」

たどり着いた先にある家は、潮風に晒され、主をなくした悲哀を語るかのように朽ち始めている。

まだまだ住めるとは思うけど、外側に近い木材は、虫に食われたのか腕ほどの穴がいくつか空いているし、部屋の中は換気していないせいでカビ臭い。

保存されていたであろう食料品はとうに生き物が食べられる形をしておらず、元が何なのかわからなくなっている。

唯一形を保っているのは仏壇に添えられている牡蠣だ。

「お、相棒。これだけ新鮮だぜ。息子が墓参りにでも来てんのか?」

「いや、憧元が行方不明になってから一度しか来てない。浅草にすんでいて中々帰ってこれないし、今は奥さんが身重だから身辺整理は落ち着いたころにやるって話だったよ」

「その一度が昨日か今日だったんじゃあねーの?俺達はその憧元の息子の顔知らねーだろ?いやまぁ一月通ってたし大体の人間の顔は覚えてるよ?けど明らかなよそもんなんて俺らくらいしか来てねーじゃぁないか」

「忘れたのかい?僕は一度見たら忘れない」

ブリオとやり取りしながら、仏壇付近を調べる。

あいにく仏壇には供えられた新鮮な牡蠣以外に奇妙な点は見つからなかったが、その付近にはあった。

「ブリオ。これなんだと思う?」

「んぉ?なにか見つけたのか?相棒」

近づいてきたブリオに床の一部を指さして見せる。

そこは指1本分ほどの範囲が白く変色していた。外から入ってくる光を反射している辺り、光沢を持っていることが見て取れる。

そしてそれは白い粒子を伴っているようにも見える。

「んん~?なんか妙だな。白い絵の具にしちゃあちょっとピカピカしてるっつうか」

「触るなよ?ひょっとすると・・・」

「・・・・・こ、こりゃあ!?」

「・・・なるほど。めんどくさいな」

傍にあった棒切で白いものを触ると、それもまた白いものに変色した。

すぐさま窓の方へ投げ捨てると、白い部分は消滅し、木片だけになる。

どうやら感染してすぐならもとに戻れるようだ。

「血鬼術だな。けどなんであの棒は戻ったのにこれは戻んねぇんだ?」

「色々検証する必要があるけど多分、定着には時間がかかるんだろね」

薄暗い室内をじっと見つめながら、僕はスーツケースを撫でつつ、今日の夜の戦いのシミュレートを始める。

「久しぶりにこいつを使うことになるな」

改良してから使うのは初めてになる猩猩鋼騎士壱式。その初披露に思わず笑みがこぼれる。

今宵、鬼狩りの夜が来る。

 

草木も眠る丑三つ時。

寄せては返す波の音だけが辺りに響く海女肥村に、一人の人物が歩いていた。

頭巾を目部下に被り、目元はわからないものの、ちらりと覗く色白の肌と薄く引いた紅。背丈も130~140cmの間と思われ、女子供であることは間違いない。

そして村の娘だろうその人は、まるで彷徨うように海岸沿いを歩いている。

その様子をとある存在が波間に紛れ見ていた。

それは獲物が極上の肉をしていることを知るやいなや、水中にいることなどお構いなしの勢いで海から飛び出し、その人の前に着地する。

「くくく・・・良い夜だ。まさかこの村にこんな若い娘が居たとはなぁ」

全身を海水で濡らし、月明かりに照らされたその姿は、一言で言うなら海女の格好をした化け物だ。

磯メガネと肌が一体化したような出っ張った頭部。虹彩を失った真っ白な目。

筋肉のついた160cm程の男性の体をしているが、その肌は岩のような質感でありながら病人のように白い。

服はかろうじて磯着を着ているものの、長い事海水にさらされたせいなのか、それとも年季が入っている代物なのか酷く擦り切れている。

磯ナカネであろう部分はまるで尻尾のように垂れ下がり、その先には桶が繋がっている。

右手はヘラのように平べったく変形しており、左手は巨大な牡蠣のようにも見える。

これこそがこの近辺の行方不明者を生み出している元凶、人食い鬼の幻遠である。

「近頃はババァやジジィしか食ってない上、どこぞのよそもんのせいで、忌々しい臭いのする袋を吊り下げるようになったからな・・・腹が減って死ぬところだったぜ」

怯えているのか驚いているのか、口元を抑えたまま女は後退りする。

しかし今は夜も遅い。

辺りを明かすは月一つ。村までは程々に遠く、男もすぐには駆けつけない。

「美味そうだ・・・おらぁ!」

しかし幻遠はすぐには喰らわず、左手の牡蠣を突き出し、開く。

開かれた牡蠣からは何かが発射され、女に命中する。

すると女の衣服がゆっくりと白く、粒子状の光沢を持つなにかに変わっていく。

それはまるで真珠のようだった。

「くくく・・・若い女ほど肉が柔らかい。だが俺はそのまま食っても味気なくてなぁ、こうして血鬼術で表面を固めてから食うようにしてるのよ」

左手の貝を誇示するように、開けては締めてを繰り返し、自慢げに語る幻遠。

「表面だけを固めてあるから生きたまま保存することも出来る。お前くらいの女はそうしてゆっくり食うのが一番いいんだ。この後持ち帰って、半日掛けて食うのもいいし、頭だけ自由にして、食われていくさまを見せながら、恐怖の悲鳴と表情を楽しむのもいいなぁ」

ニタニタと笑いながら、服が完全に真珠となり、女の肌に侵食する。

その時だった。

「やはりそういう血鬼術だったか。解説ご苦労さん」

「は?オワッ!?」

女がニヤリと口角を上げた刹那、真珠とかした服が粉砕される。

爆発でもしたかのような勢いと音を響かせ、砕け散る真珠の服は、月光を跳ね返しキラキラと明滅する。

例えるのならば光り輝く紙吹雪。他のものが見れば、その幻想的な光景に目を奪われるだろう。

「血鬼術というのは鬼になる前の性格や癖、或いは強い執着から由来、発展するという予測をしていた。お前が3ヶ月前に行方不明になった憧元なら、牡蠣に由来するものであり、その中で一番厄介なのは対象を牡蠣にしたり真珠にするものだ」

舞い散る真珠のかけらの中、女、いや少年の声は続き、ゆっくりと足を進める。

「憧元の家を調べている最中に見つけた床。独特の粒子感のある硬質のある素材・・・アレは間違いなく真珠のそれだ。つまりお前の血鬼術はほぼ間違いなく真珠に関するものだ。問題はその過程だったが・・・いやぁその貝で直接食べるとかじゃなくてよかった。それだと面倒だったし」

気楽な調子で話しかける少年に、幻遠は当たりをつける。

チラチラと見える黒い詰め襟風の服。

腰に刀こそ刺さっていないが、この出で立ちには見覚えがある。

先日も自分の家に来たあの忌々しい刀を持った人間の同類だ。

「貴様は・・・鬼殺隊とかいう連中か!?」

「3ヶ月の間、人間を食ってきたんだ。害獣認定されてもしょうがない。だろ?」

降り注ぐ真珠の雨の中でも、その銀色の髪は際立って美しく、紅目翠目の目はよく目立つ。

幻遠がその姿を目撃した時、上空から鈍色のスーツケースが、少年の隣に落ちてくる。

ドズン!と重量のある音を響かせたそれに彼が触れると、分割を始める。

「・・・変身」

その言葉が合図だった。

スーツケーツが弾け飛ぶと、それは複雑なパーツの集合体であることが分かった。

両脚、両腕、胴体、腰、両肩。巨大な剣に巨大な盾。

それらがまるで鳥のように旋回するさまは、重量や重力と言った概念を再び問いたくなる不思議な光景であった。

「くそ!何をするが分からんが喰らえ!」

棒立ちの少年に向かって、幻遠が真珠弾を放つも、巨大な盾が俊敏に動き防ぐ。

10年以上陽光を浴び続けた猩猩鋼で出来た盾の前では、下弦未満の鬼である幻遠の血鬼術を容易く無効化される。

そうしているうちに、視認不可の触覚で操作された鎧が、一つ一つ少年の体に装着されていく。

大地に降り立ち、これから規格外の重量を支え、動き回ることになる脚。

身の丈もある剣と盾を駆使し、身を守り、鬼を打つ腕。

足と腕を繋げ、人が人である最たる部分を集約した胴と腰。

最後に自らの象徴であり、敵に情報を与えないために顔を隠す兜を装着。シールドソード(鞘の機能を持った盾に剣を収めたもの)を持ち、仁王立ちするその姿は西洋の騎士。

「さぁ、鬼狩りの時間だ」

鬼殺隊、猩猩騎士 六井志乃。

夜の闇を狩る。

 

「鬼狩りの時間だと?・・・狩られるのはお前だぁ!」

幻遠はコテのような右手を振りかぶり、志乃に向かって飛びかかった。

人間の上位種である鬼の自分に対し、自身の勝利を疑っていないその態度に我慢がならないからだ。

確かに鬼殺隊の持つ日輪刀は恐ろしい。来られれば痛いし、頸を切り落とされれば死ぬ。

しかし対抗手段を持っていようと所詮は人。種族差は言い訳が効かない。

現にこれまで来た2,3人の鬼殺隊士は難なく倒せた。

「(今までの連中と違って防御に力を入れているようだが、全身金属製ならば重くて動けまい!)くらえぃ!!」

幻遠は一歩も動かない志乃に向かって真珠弾を放つ。

コテを使うと見せかけたフェイト、牽制として打ち出したそれは、眼前に迫った今でも動かない志乃には有効だろう。

「はっ?」

ジュワッ!という音と共に効果がかき消えなければ。

「ふん!」

「げぼぉ!?」

呆気にとられている間に、詰めてしまった距離を利用した重いカウンターが、幻遠にクリーンヒットする。

ぶっ飛ばされ砂浜をゴロゴロと転がる。

思いの外衝撃が強く、幻遠は立ち上がるのに苦労した。

「こ、この野郎・・・!何だその鎧は!」

「日輪刀は知ってるか?そいつの素材をふんだんに使った鎧さ。痛いだろ?」

指を指しながら、嘲るように答える志乃。

自分よりも小さな相手になおもバカにされ、怒りで地に頭が昇る幻遠。

もとより鬼という生き物は短絡的な傾向にある。

食欲に忠実で人を見下す。

一部を除いて鬼の中でも自分こそが一番であると思っており、なんならその一部すらそのうち自分が下してやるという野心に満ちているのも多い。

そんな性質で、ただでさえ人間という劣っている人間で、おまけに自分よりも小さい相手に一杯もニ杯も食わされているという事実が、幻遠の怒りのボルテージを挙げる。

「ふん!だが守ってるだけで俺に勝てると思ってるのか!」

「せっかちだなぁ。そんなに欲しいの?」

答えるようにシールドソードから剣を引き抜く志乃。

巨大さを感じさせない軽やかな抜刀は、それが70kgもある剣だとは思わせないほど滑らかだ。これでいて志乃は必要最低限の力で握っているだけで、全力ではない。

「避けてみな。はっ!」

「ッ!?はやっ!?」

自分がひとっ飛びで詰めた距離を、同じように地面を蹴って詰めてくる。

息をつかせぬその速さに思わず幻遠も目を剥くが、それと同時に横合いから振るわれる剛剣が目に入る。

「ッ!ぐ、ぬおおぉぉ・・・・!」

「お、やるねぇ。真っ向から受け止めるなんて」

回避が間に合わないとみてコテの手で受けるも、その重さと衝撃により膝をついてしまう。

兜のせいで推し測ることは出来ないが、声色から志乃からは余裕を感じる。

「グググ・・・はっ!油断したなバカが!」

幻遠は空いている左手の貝を開き振るう。

彼の考えはこうだ。このまま相手を飲み込めれば良し。それが出来なくとも武器を奪えれば良し。

どちらにせよ、これだけの重量を着込んで動く以上、素早い動きは出来ないはずだ。

そうした考えから行った攻撃だ。

「油断?これは余裕と言うもんさ」

「ぎ、ぎゃああぁぁぁぁぁ!!!???」

相手はそれをなんとも思わず、盾を使って左腕ごと貝を粉砕した。

幻遠の考えの中には、相手も左側は空いており、防御したりカウンターできるという想定はなかった。

更にその痛みにより緩んだ力で、拮抗していたバランスが崩れ、右腕の両断を許してしまう。

「があぁぁ!?く、くそぅ!?なんでだ!?なんで再生しねぇんだ!?」

「教えてやるよ。それはこの盾の刃も剣も、今までお前が相手にした鬼殺隊の日輪刀よりも強い鋼で作られてるからさ」

「ふ、ふざけんなあぁぁぁーーー!!!」

自慢の血鬼術を破られ、武器を失った幻遠は破れかぶれの特攻をする。

狙うは関節。それも頸。

そこならばあの厄介な鎧の影響もないはずだと踏んでの行動だった。

「カッ・・・・・!」

だがそれも近づければという話。

刃渡り140cmの猩猩鋼製の刃は、幻遠の頸とともに彼の考えを切り裂いた。

もっとも仮に志乃が気まぐれに近づかせたとしても、同じく猩猩鋼製の鎖帷子によって関節という関節が覆われていたために、彼の考えは最期まで上手くいかなかった。

頸を切られ消えていく最中、幻遠ははるか水平線から僅かに顔を出した太陽を見る。

なぜ鬼になったのか。鬼にさせられたのか。鬼になったことで何人の人間を犠牲にしたのか。

後悔、義憤、悲哀。

まぜこぜになった感情が涙となって溢れるころ、昇りゆく太陽に照らされながら幻遠、いや憧元は消えた。

 

 

それから半月後、志乃は隠しにあるものを届けさせていた。

届け先は憧元の息子。品物は立派な牡蠣と日記帳。

海女肥村で一番の牡蠣、憧元牡蠣の中でも一番の出来栄えであるそれは、かつての親子の日常を書き記し、写真とともに刻まれた思い出とともに届けられる。

鬼になったものは灰すら残らない。

しかし、成ったばかりであれば残るものはある。

仏壇に恭しく飾られた、あの牡蠣のように。

無くしたと思っていても、残り続ける思いが、この世にはある。

「相棒相棒。次の任務だぜ」

「またぁ?解決してまだ半月じゃん。どんだけ不甲斐ないのさ他の隊士は」

「いやぁ事件が解決したのになんだかんだ言い訳しながら半月も粘ったからじゃぁねーかな?俺も心苦しかったんだぜ?全然ピンピンしてる相棒のことをさも重症のように報告するの」

「そういうときはね、心が土砂降りとか適当に言っておけば良いんだよ」

「すぐバレるって。相手はお館様の鎹鴉なんだぜ~?」

村を後にした一羽の鳥と一人の銀髪は、また次の舞台へ足を運ぶ。

今日もまた朝日が昇る。

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