六井旅行奇譚 ~鬼退治編~   作:犬原もとき

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第7話

新しく日輪刀を貰って最近困ったことがある。

一つは装備品が軽くなったことで行軍速度が上がったこと。

グルメ強化人間である僕でも、猩猩鋼鎧のスーツケースを持ち歩くのは大きさ的に色々苦労した。

しかし変則的なしまい方をしているとはいえ、今は一振りの大太刀になった今、明らかに軽くなったせいで、今までの調子で走るとめちゃくちゃ早く到着する。

鬼殺隊からすれば喜ばしいかもしれないが、出世に興味がない僕からすれば次から次に来る指令に辟易している。

え?断ればいいじゃんって?同期はいないし基本拒否権なんてねーのよ。

2つ目は刀になったことで誤魔化すのが大変になったこと。

今まではスーツケースだから旅芸人ですとかなんとか言っても怪しまれなかったし、そのまま持ち歩いていても不自然さはなかった。

けど、思いっきり刀になってしまったから、持ち歩きには工夫をしなければならなくなった。

幸い僕には魔法があるので、杖を振ってウエストポーチの中を拡張して、しまっているけど、これはこれで取り出す時に間が発生するから、昼間のとき以外は背中に担ぐようにしている。

それでも人に極力見られないよう、隊服に中折れ帽子、マントを羽織ってその内側に隠すようしている。

ただこの格好のメリットは、服の仕立てが良いので人目には憲兵ごっこしている子どもだと思われたことだ。おかげ変身術を使わなくて良くなった。

そして最後は

「・・・・握ると赤くなるが?」

刀型の日輪刀を握ると刀身が真っ赤になる。

鬼殺する時の力のいれ方じゃなく、普段僕が戦闘時に握る時の力だと毎回こうなる。

触ると熱いから熱も帯びているみたいだ。

行冥師匠(一応弟子みたいなもんだから師匠呼びだ)に手紙も送ったけど、返事はなにそれ知らん。怖、お館様に聞いてみるわ。だった

訳分からん代物を実践で使うわけにもいかないし、別に普通の握り方ですっぽ抜けることもないから問題ないけど、気づかずにしてた隊律違反もあるから、用心しておこう。

ちなみにブリオに聞いたら

「色変わりの刀なんだしそういうこともあるんじゃあねーの?」

という返事が返ってきた。まぁ柱である行冥師匠が知らんのだから一鎹鴉のブリオが知ってるはずもないか。

さて、今僕らは任務で町に来ている。

とはいえ別件でとある柱がこの町に先に着ているから、僕の任務はその後処理というか討ち漏らしがないかのパトロールってところだ。

その柱というのは花柱 胡蝶カナエという女性らしい。

鬼殺隊で女性の柱は珍しいらしく、僕が探している人物である可能性は高い。

もし会えたらお茶に誘ってみよう。

忘れてたけど鬼殺隊に入ったのって女の人が目当てだったんだよね。

今となっちゃ呼吸とか日輪刀の方に興味の矢印いってるけど。

ここいらで一つ目標を達成して、気持ちに一区切りつけよう。

 

「おうおうおうおう、相棒。あれがお前さんが一目惚れしたっていう相手かよぉ。流石だなぁおい。見る目あるぜ」

「あらあら、楽しそうな鎹鴉さんね」

「ありがとうございまーす!俺の名前はブリオって言います!」

「よろしくねブリオくん。私は花柱の胡蝶カナエ。カナエって呼んでね」

「はーい!♪」

はーいじゃねぇよ。僕より舞い上がってんじゃねーか。

町で偶然居合わせた僕とカナエさんは、町で評判の喫茶店で足を休めている。

喫茶店とは言うが、現代のようなスポンジケーキをつまみながらコーヒーで一息。という感じではなく、洋装のお茶屋さんってところだ。

日傘の下で方にヨウムを乗せた僕と、穏やかで美人なかなえさんが並ぶ姿は絵になるのか、道行く人が足を止めては見、去っていく。

まぁ、僕らが美しいのは当然として。流暢に喋りまくるブリオが珍しいんだと思う。ただでさえ珍しいのに、声も体も大きいから目立つし。

美人と話せて嬉しいのか喋りまくるブリオだけど、僕はと言うと結構最初から話したいことを終えてしまって手持ち無沙汰な感じだ。

入隊当初の熱量があればもっと色々話したのかもしれないけど、今はそんな熱もないし、何より鼻息荒くカナエさんと話す男(ブリオ)を見たら、傍から見たらこんなかぁ・・・と覚めてしまった。

それにブリオがマシンガントークすぎて口を挟むヒマがないってのも要因の一つだったりする。

まぁお陰でここ最近の調査を脳内で整理できるからありがたくもある。

「・・・志乃くん。ひょっとして退屈?」

「ん?あぁ、僕ですか?意外とそうでも有りませんよ」

「そう?けど最初のときから少しも喋ってないから、どうしたのかしらと思って・・・」

「それなら原因はこのお喋りヨウムのせいですよ。一人で一方的に喋って申し訳ありません」

「あぁん!?そりゃねーぜ相棒!俺は口下手で恥ずかしがり屋なおめーの代わりにこの美しーお姉様を退屈させまいとだなぁ・・・」

「嘘つけ。美女を見て鼻息荒くくっちゃべってるだけだろーが」

「相棒こそ漸く会えたお目当ての人に、カッコつけてアピールしてるだけなんじゃあねーの?」

「ちげーよ。単純に話すことなくなったのと任務のことを考えてたんだよ」

「あぁ?え~っと・・・反省極楽浄土だっけ?」

「万世極楽教だよ」

若干韻踏んでるのが腹立つな反省極楽浄土。。

それはさておき、僕らが怪しいと睨んでいる組織の名前を出すと、カナエさんの表情が引き締まる。

万世極楽教。

江戸時代中期頃から興された新興宗教組織だが、元は極楽教という名前だったらしい。信者は250人程度。その殆どが女性で構築されている。

男性もいるにはいるものの、女性に比べれば圧倒的に少ない。

”穏やかな気持ちで楽しく生きること。つらいことや苦しいことはしなくていい、する必要はない”という教えをしているようで、一言で言うなら楽して生きていこう。みたいなもんだ。運気最悪な水の女神辺りが全力同意しそうな教えだな。僕はあっちのほうが好きだけど。

僕がこの組織に目をつけたのは、ズバリ新興宗教だからだ。

宗教文化が根強い江戸時代において、それらに属しない宗教が、この時代まで生きながらえているというのはどうにも怪しい。

「特に怪しいのは信者の数だ」

「今は250人だっけ?」

「あぁ、これを見てくれ」

茶屋で広げてみせたのは、この1年間で万世極楽教に言ったという噂の人物のリストだ。

そこにはざっと30人ほどの名前が書かれている。因みに8割は女性だ。

「こんなに沢山の人が救いを求めていったのね」

「それにこれと、これ・・・・あとこれ」

「これはその前の年か。どれどれ・・・こっちは25人くらいか」

「こっちは3年前で、まぁ60人!・・・・あら?」

「気づいたみたいだね。そう、明らかに人数が合わない」

去年は30人、その前は25人、更にその前は60人で終える最古の年でも40人。

合計で155人は万世極楽教にいっていることになる。

無論元々が100人程度であれば不思議ではないし、全員が全員そのまま向かったわけではないと言われればそうだけど、勧誘に来ている男はこう言っていた。

”万世極楽教の神は苦しむすべての人を導き、招いてくださる。救われたい人を迷わせ、辿り着かせない真似はしない”と。

言葉通りに受け取るなら、こうして万世極楽教に行った人たちは何らかの方法でたどり着き、入信したと見て良い。

「そういえばよぉ、こいつら金はどうしてるのかね?」

「お金・・・・そうよね。お買い物するには必要だけど」

ブリオの疑問にカナエさんも考え込む。

万世極楽教は江戸時代中期頃から続いている組織だ。

組織である以上、何らかの手段で資金を得ているはずだ。

どんな場所でも働くものがいて、その働くものが生きるためには金を得なければいけない。

しかし勧誘した男が言うには、そうした俗世の価値観とは無縁だというのだ。

考えうる可能性として、村規模の土地を教祖が持っており、そこで自給自足の生活をしているものだ。

250人も居れば出来そうなものだが、それならそれで誰かしら見つけているだろうから、もっと名前が知られてもいいだろうし、やはり土地を管理するためにお金がいるはずだ。

同様に建物や地下に閉じ込め、生活させている可能性もあるが、250人を生活させる建物と成ればそこそこ大きくなるのでやはり目立つだろう。

「というか250人はどこにすんでるんだ?どこへ行ったんだ?」

「確かに!俺はこの辺りを飛び回ったけどそれっぽい所見なかったぜ!」

「私の鎹鴉にもお願いしたけど、それらしい場所はなかったわ」

信者を含め、万世極楽教の本部そのものがどこにあるのかすらわからないときたか。

こりゃいよいよ怪しさ満点だな。

「人数が固定の信者・・・流動性不明の資金・・・そして行方知れずの本部」

「乗り込むのか?相棒」

「あぁ、あの勧誘の男は明日までいるらしいし、連れて行ってもらおう。そんで鬼なら頸切れば良し。鬼じゃないならササッと退散だ」

「一人で行くの?危険じゃないかしら・・・」

「大丈夫ですよ。こうみえて逃げる事は叩き込まれてるんで」

心配するカナエさんに向かって手をヒラヒラ振って誤魔化す。

実際鬼なんかよりよっぽどやばいグルメモンスターたちと渡り合うのに必要なのは引き際だと思ってる。

今日は駄目だなと思ったら、諦めてさっさと逃げて、イケると思ったら無理してでも捕獲する。

言葉では言い表せないそうした予感を、向こうでは直感と呼んだ。

そうした直感は大事に、慎重に、大胆に信じてやると、大事な時にしっかり教えてくれる。

今宵、とんでもない事が起こる、とか。

妹のしのぶちゃんや、最近拾ったカナヲちゃんのことをそれはもう楽しそうに話すカナエさんに癒やされながら、僕は重苦しく響く直感に警戒をしていた。

 

その日の夜、カナエは一人夜の町を歩いていた。

合同任務でもないのに、なぜ彼女が志乃が派遣されているこの町にきたのか。

それは、彼女自身にもわからない予感であった。

現在、この町には4人の鬼殺隊士がいる。

一人は無論、六井志乃。

もう一人は花柱の胡蝶カナエ。

そしてもう一人は妹の胡蝶しのぶ。

最後に乙の鬼殺隊士の4人だ。

一人の鬼に対して柱を含め4人という状況は、厳戒態勢と言っても良い。

そしてこれはカナエしか知らない情報が要因でも在った。

十二鬼月がいる。それも上弦が。

耀哉から聞かされたカナエは、刺し違えてでもその鬼を見つけ出し、倒さなければいけないという使命感を、密かに燃やしていた。

「こんばんわ。お嬢さん」

だからだろうか。

「今日は・・・良い夜だね」

眼の前の異質に素早く気づいてしまった。

頭から血をかぶったような赤い文様のある白橡色の長い髪。

鬼の中でも見たことがない虹色の目には上弦の弐と刻まれている。

長い上背のおかげか洋装にも見える着物は見事に着こなしており、先程から浮かべている笑みも有り、女であれば一度は振り向く美形だ。

もっとも鬼である以上、カナエのような鬼殺隊士にとっては警戒するべき異形だ。

「さっきこの辺にいた鬼がやられちゃってねぇ。えっと・・・だれだったかな?まぁ良いや。ともかく俺の仲間が死んだから帰ろうかなって思ってたけど、最後にツイてたみたいだ。君のような綺麗な子に会えた」

まるで最愛の相手を見つけたような声と表情で話しかけてくる上弦の弐。

一見すると感情豊かで話が通じそうだが、カナエは直感していた。

コイツに話は通じない。

雑魚鬼のような話を聞いていないわけではなく、下弦の鬼のように理解できていないわけでなく、聞き取り理解したうえでなお話が通じない。

視点が違う。とでも言うべきだろうか。

事実今も、こちらは一言も喋っていないのにペラペラと話し続けている。

ブリオもお喋りだが、あちらは話を聞かせようとするために返事をしたくなる喋り方だが、眼の前の鬼は一方的に喋っているだけだ。まるで情報を整理するかのように。

「それで・・・あぁ、ごめんね。退屈だったよね?表では喋ることが多いからつい説教臭くなっちゃって。結局何が言いたいのかって言うと・・・君の名前を教えてほしいんだ」

上弦の弐、童磨は懐から一枚の扇を取り出しながら、カナエに向かって宣言する。

「これから君を救うために・・・君を俺の一部にするために、ね」

恐るべき、凍てつくような死の宣告を。

「・・・・・・お断りよ」

短く答え、カナエは抜刀した日輪刀を構え、童磨に向かって走る。

鬼殺の花は美しく咲く。夜は深い。

 

「コイツが今回の鬼ぃ?とんだ雑魚じゃん」

鬼を切った打刀を振って血を払い、鞘に納める。

カナエさんやしのぶちゃんまで居るらしいのにこの程度?いや、カナエさんの話じゃしのぶちゃんはしっかりものに見えてカナエさんにべったりらしいから、カナエさんにしのぶちゃんがくっついただけだろう。

ただまぁそれでも柱であるカナエさんが出るような鬼じゃない。

任務じゃないとはいえ引っかかるな。

「相棒ー!相棒ーーー!!」

「ブリオ?どうした」

「大変だ相棒!カナエちゃんが鬼と戦ってる!それも上弦らしい!」

上弦?こんな所に?

もしかして僕らが知らないだけで柱の鎹鴉は知っててカナエさんをここに?

考えても仕方ない。加勢しに行こう。

「ブリオ」

「おう相棒!こっちだ!」

ブリオがカナエさんが居るであろう方へと飛んでいく。

僕は地面を蹴って飛び上がり、その後を追いかける。

人に見られないよう杖を振って隠蔽魔法を発動し、舞空術で空を翔ける。

いつもよりも急いでいるブリオに追いつくと、眼下に長身の男と動きの鈍いカナエさんが見えた。

苦戦していると言うよりも遊ばれている。そういう印象を受けた。

このままでは一撃貰う可能性があるな。

僕は右手に気を集中させ、槍状に形成する。

「手札を切ることになるが仕方ない。ハッ!」

そしてそれを今にも切ろうとする長身の鬼と、深手を負いかねないカナエさんの間に向かって放つ。

 

僕が使いやすいように細く、鋭く、貫くような形状にした気弾、ラピードランスが着弾すると、その衝撃波で二人の体制が崩れ、お互い距離を取った。

土煙が腫れる前に着地し、あたかも僕が現れたかのように演出する。

これでバレなかったら万々歳だな。

「鬼はせっかちで良くないね。メインディッシュを食べるには順番があるんだぜ?」

「志乃くん・・・ゴホッ!」

「おや、今日は本当にいい夜だ。まだご馳走がやってきたよ」

間近で相対した長身の男、上弦の弐を見て僕は密かに気を引き締める。

今までと同じに考えれば、負けないにしても深手を負う。

 

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