次が人生最後の食事なら、君はどうする?


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初投稿です


第1話

「船田はさー、もしも明日死ぬとしたら何食べる?」

「え、急に?」

「いやなんか流行っててさ、気になるじゃん」

弁当についている今日のふりかけはサケと海苔

「んー、やっぱ寿司とかじゃないか?」

「なんで寿司?」

唐揚げを一つ食べてみる

少しふやけた唐揚げが美味しい

「なんとなく」

「なんだよそれ」

弁当を食べているときに真剣に考えられるわけないだろう。

今まさにその欲を満たしている最中なのだから。

「俺はねぇ、カレーかな」

「やっぱり死ぬなら後悔なく死にたいじゃん!」

やはりちくわはおいしい、これを弁当のおかずの定番にしてくれた人、ありがとう。

「カレー好きすぎだろおまえ」

「俺の血はカレーで出来てるからな」

「なんだかバカの発言みたいだな」

「そんなこと言わないでも」

ミニトマトのヘタを外して口に入れる

少しだけ隣の卵焼きに手が触れた

「おまえももうちょっと考えてくれよぉ」

「うどん好きなんじゃないの?」

「うどん好きでも最後にうどん食べたいって言う人間いないだろ」

「まぁ、言われてみれば?」

最後の食事なんていう物々しいものを考えてみる。

確かに彼の言う通り自分はうどんが好きではあるものの、最後の食事といわれてみればいろんな食べ物が考えられるような気がする。

カレーやうどん、寿司、卵焼き。

手早く考え付くだけでもこれだけあるわけで、もし今思いついていないもので満足したらどうしようかなんでことを考えるわけでもあるし。

「そんな悩むもんかいね」

「カレーしか選択肢のない人間とは頭のレベルが合わなくて困るな」

「俺のこと馬鹿にしすぎだろ」

弁当の蓋を閉めて、鞄に入れる

「お前がカレーばっか食べてんのが悪い」

「ひどぉい」

昼休み終わりのチャイムが鳴る

今日の五限は移動教室だったか

「さ、次移動教室だからさっさと行こう」

「ちょっと待てやい」

風にカーテンが揺れているのが目に入ってくる

「さっさと行かないと席なくなるぞ」

「ほんとに待って、今準備するから待ってぇ」

カサカサとゴミをビニール袋にまとめている音がする

さっさと捨ててくればよかっただろうに。

 

「なぁ、今日帰りにカラオケとかどうよ。俺今日部活休みになったんだよね」

「すまん、俺今日部活あるんだよ。」

「え、休めるんじゃないの?別にいてもいなくても変わらないって言ってたじゃん」

「本当はそうなんだけどな、あんまり休みすぎるなって言われて」

「ほんとかよー、でもそのあと暇じゃない?お前夜飯一人なんだし、合流すればいいじゃん!」

「まぁ行けるってなったら言うわ、帰ってくるかもしれないし」

「おっけー」

 

 

 

意外と鉛筆の感触が好きだ。

こうやってこの場所にいる時間が好きだ、休みがちではあるが、本当に。

「ねぇねぇ、もしも明日死んじゃうとしたら船田は何食べる?」

世の中は不思議でいっぱいだ。

違う人間から同じ話題がでてくるなんてこともある。

「なんでまたその話題を」

「え?」

顔を上げると体を丁寧にこちらに向けている井上の姿

鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くして驚いているのがよく分かる表情をしている

その大げさな表情に、思わず笑いがこみ上げてくる

「なんで笑ってるのさ」

「いやなんかすごい顔してるから」

「すごい顔って何よ」

「言葉通りの意味だよ」

彼女が首をかしげてこちらを見てくる。

そういう動きをするところを言ってるんだぞ。

「たまたま今日その話を山瀬としてたんだよ」

「なるほどね、私も今日その話になったんだ」

変な偶然もあったものである

「で?何食べるの?」

なぜこんなことを聞くタイミングまで同じなんだろうか。

「今絵描いてる途中ですけど」

「いいじゃん、もう私終わっちゃったし」

そういえば昼も同じような理由で聞かれたのを思い出す

あの時は確か、うどんの気分だったか。

「うどんとかじゃない?」

「いやもうちょっと考えようよ」

「そんなこと言われても」

こんなにうどんが力不足なことあるんだろうか

うどんだっておいしいのに。

「だって、そんなすぐ決められるものじゃないでしょ?」

「じゃあ井上は何食べるんだよ」

彼女は目を閉じてわざとらしく考え込むポーズをとる

うつむいて動いた髪に光が映えている。

「うーん、やっぱりレモンかな」

「なんだそれは」

こういう話題でそれが答えになるもんなんだろうか

さすがに晩御飯で出てくるものが答えの相場だろうに

「だって一番好きなんだし、それで食べないで後悔したくないじゃん」

「まぁ、そうか?」

「そうだよ」

「そんなにレモンに思い入れがある人間を初めて見た」

「なんでもレモン味が好きなんだよね」

だから筆箱にあんなキーホルダーがついてるのか

適当につけている自分のスイカのキーホルダーとは違うものなんだな

「だからキーホルダーつけてるんだよ?」

「あー、なるほどな」

「え、スイカ好きだからつけてるんじゃないの?」

彼女は血がレモンで出来てでもいるんだろうか

「誰もがそんな理由でつけてると思うなよ。レモンから生まれてきてないとそうはならないだろ」

「人間じゃないって言いたいわけ?」

「レモン太郎的な意味で」

「花子にしてよ」

「そこかよ」

井上はよく気が回る人ではあるが、そこまで頭も回るんだな。

口をとがらせているので、ただただレモンの悪口として引っ掛かってるだけかもしれないが。

「たまたまガチャガチャで当たっただけだって」

「面白くないなぁ」

「理由あってフルーツつけてるやつの方が珍しいだろ」

「いやそんなこともないでしょ」

次は眉をひそめてこちらをのぞき込んでくる

表情が良く変わって、実ににぎやかである。

「それで船田は何食べるの?」

「まだその話続いてたんだ」

「だって答えてないじゃん」

確かにそうではあるものの、本当に何が彼女らを突き動かすのだろうか。

そんなに考えていなかったから、自分は今、何を答えようか困っているのです。

不意に彼女が立ち上がって、目の前の机に置かれているイチゴを一粒手に取る。

「何してんの」

「え、おいしそうだなって思って」

彼女はそう言ってまだデッサンしている最中だったイチゴを頬張る。

小動物のように口を小さく動かしながら味わっているらしい。

まだ描き途中のはずの、そのイチゴ。

「食べるなよそれ」

「いいじゃん。私が持ってきたんだし」

「描くために持ってきたんじゃないのかよ」

「こうやって持ってくれば合法的に部活の時間に食べれるでしょ?」

わざわざそんなことをしなくても君は鞄の中にイチゴまだたくさん持ってるじゃないか。

だからそんなに眩しい笑顔をされても困るのだ。

「あ、絶対今なんでこれを食べるんだろうって思った」

「思ってない」

「いーや、ぜったい思ってたね」

こちらを指さして、大げさにしたり顔をしている。

探偵にでもなったつもりだろうか。

「鞄のなかにいくらでも入ってるだろ」

「わかってないねぇ。いい?こうやって用途があるものを食べることに意味があってだね」

「描いてる途中だろうが。それに意味があっても変わらないだろ」

「いやいや、例えばこうやって、本当は持ってきちゃいけないお菓子を食べる、というのがおいしさを増してくれるんだよ」

彼女は鞄からスナック菓子を取り出し、こちらに見せてくる。

菓子の持ち込みは校則で禁止されているはずだったが。

「本当にダメなものを出してくるな」

「えー」

「えー、じゃない」

前を向き直して、一つになってしまったイチゴを描き始める。

時計を確認すると、もう17時を回りそうな頃合いだ。

食べられてしまったイチゴはもう描き終わっていたから、ちゃんとやれば今日中には終わるだろう。

「はい、これ」

顔を上げると、さっき見せてきたスナック菓子を1つ、こちらに差し出してきている。

なんのつもりだろうか、共犯に仕立て上げようとでもしているのだろうか。

「はやくたべてよ」

「いや食べちゃダメだろうが」

「そんなこと言わずにさぁ」

どんどんと後ろめたさをもった彼女の手が、近づいてくる。

ぐっと顔を近づけてくる彼女に、思わず口が開いてしまった。

「はい!これで共犯ね」

どちらかといえば被害者だと思う

「どう?おいしかったでしょ?」

「普通の味しかしなかったけどな」

「いーや嘘だね、嘘ついてる顔してる」

またこちらを指さして、大げさにしたり顔をしている

でも味は合ってるだろう、そのパッケージにそう書いてあるじゃないか

「ただの塩味じゃねぇか」

「そういわれるとなんも言えないけどさ、ほら、背徳感が合わさってみたいなさ!」

その笑顔に背徳感なんてものはなさそうだけど

「罪悪感の間違いだな」

「えー?なんで?」

「校則破ってるだろうが」

「それがいいんじゃん」

とはいうものの、いつも井上は女子で菓子を分け合って盛り上がっている。

今日はたまたま自分と彼女の二人しかいないわけではあるから、少しは違うのかもしれないが

「井上いつもやってるんだし、毎日やってたらそういうのも薄れるもんじゃないか?」

「え」

「え?」

「あ、うんと、慣れない、からね、こういうのは」

「そういうもんか?」

「そうだよ」

休み時間にスマホを普通に使ってるくせにそんなことを言うとは、何とも不思議だ。

これが女心というものなのだろうか、そんなこともない気がする。

「ていうか、そろそろやらないといけないんじゃない?」

「あ」

もうそろそろ下校時間が近づいてきている、早いところ書き終わらせないといけない

再度前を向きなおして描き始める。

彼女はというともうスマホをいじりだしている、ほらやっぱり背徳感なんてないじゃないか。嘘をついているのはどっちだって話だろう。

それにしても、そんなに早くスワイプして内容が入ってくるもんなんだろうか。爪がスマホに当たる音がすごいけれど

さぁ、集中しなければ

 

 

 

すっかりオレンジ色に照らされている校内、階段を二人で降りる。

「いやぁー、生徒会の手伝いをすることになるとはねぇ」

「本当にそうだな」

あの後、人が足りなかったらしい生徒会の手伝いをすることとなり、絵は完成しないまま終わってしまった。

まぁただの練習だったので後悔もないけれど。

もう下駄箱には数人分の靴しか残されていない、多分彼女の生徒会の友達くらいなもんだろう

スマホをいじっている彼女の動きが止まり、後ろを振り返る

「どうした?」

「あー、今日晩御飯外で食べないといけなくなっちゃった。お母さん帰ってこないみたい」

美術室からここまで妙に緊張してスマホをちらちらいじっていたから何か事件でもあったのかと思っていた。なんだ、そんなことか。

それにしても、本当に世の中は不思議でいっぱいである。

たまたま家にご飯がない人間が二人並んで帰る、なんて。

「ねぇ、どっかで一緒にご飯食べない?」

「はい?」

自分の親も今日は帰ってこないみたいなので大丈夫ではあるものの、そんなことを言われるとは思っていなかった

「このくらいの時間になったときに、友達と食べて帰ることあるんだよね」

「そうなんだな」

そりゃ高校生なんだし女子でも当たり前にそういうことあるか。

「どう?」

「いや、俺も暇だし行こう」

こうやって誘ってもらえるのはうれしい。

なんだか、うれしい。

「何食べよっか」

今日のことを思いだした

もしも、これが最後の食事なら自分は本当に何を選ぶんだろうか。不意に考えてしまった。

多分、自分も最後の食事では、後悔をしたくないと思う。

あれを食べておけばよかった、とか、あそこのものが食べたかった、とか。

「あー」

「何その返事」

クスッと彼女が笑う。

さっきの雰囲気とのギャップか、余計に眩しく、やわらかく見える。

「決めてよ、船田」

「うーん」

うどんじゃないんだろうなとは思う。

後悔しない選択をするとしたら自分は、満腹になることだろうか、いやそれは違う。

おいしいものを食べることだろうか、それも違う。

それよりも食べなかったら後悔するものがある、気がする。

多分それは、誰かと一緒に食べるものがいいんだと思う。

誰かと食べるご飯はすごく楽しくて好きだ。

あえて全部を選ぶんだとしたら、自分は、誰を選ぶんだろうか。何を食べるんだろうか。

どんな時間を選ぶんだろうか。

どうして選ぶんだろうか。

「い、いちご、とか」

「え。そんなに食べたかった?」

「あ、いや、そういうわけじゃない。うん、ファミレス行こう、駅前の」

「いいね。いこ」


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