【ソウルボード】
自らの魂をささげることでカードバトルができる魔法の板。カードの使用、ステータスやライフポイントの表示、戦場での命令確認などに用いられる。また、モンスターを召喚したり魔法罠カード効果を現実世界に再現することもできる。
壊れた場合でもダメージは発生せず、再契約も容易。戦場だとライフポイントが0=死亡となる。
【残印魔法・罠】
発動後もフィールドに残り続け、持続的な効果を発揮するカード。
敵の動きを誘導したり、味方を強化したりと戦場での駆け引きの要となる。
硝煙の匂いが鼻を刺す。目の前には敵兵、背後は断崖。退路はない。
敵のライフは1500。ここで削り切れなければ殺される。掌が湿り、ソウルボードを強く握った。
「俺のターンドロー!【霊導戦士セイラン】を召喚! 相手フィールドにしかモンスターがいない時、このカードは出せる!」
敵の笑みが揺らぐ。余裕を装っているが、計算外に動揺していた。
「攻撃力1800でどうする。こちらは1500、まだ残る」
「【霊導戦士セイラン】、除外した【裏霊導竜アーリス】を装備! さらに魔法カード【竜巻】発動、残印魔法を破壊!」
竜巻が戦場を巻き込み、視界が砂塵でかき消える。敵が踏み込む。刀が振り下ろされ、風が鳴った。反射的に身を捻り、通り過ぎざまに腕を掴んでねじる。
「クソッ!」
背負い投げで叩きつける。だが顎に衝撃が走り、意識が白む。歯を食いしばり、痛みで覚醒。拳を叩き込み、倒れた足を踏み抜いた。
「さらに連術罠【連鎖爆破】発動。伏せカードを2枚破壊!」
「なっ……!」
敵の顔が引きつる。刀を奪って投げ捨てる。セイランが剣を構えた。
「セイラン、攻撃!」
「了解!」
刃が閃き、敵モンスターを両断。敵兵は膝をつき、そのまま動かなくなった。首に触れると、冷気だけが伝わる。
「脈なし。死亡を確認」
水筒を口に運び、荒れた鼓動を抑える。立ち上がり、土を払った。
「移動だ。ここに長くはいられない」
「わかったわ。背中は任せて」
エンドフェイズが終わり、カードを5枚補充。森の奥へと足を運ぶ。
森の空気は湿り、息がこもる。遠くで銃声と怒号が重なり、戦場の熱が伝わってきた。
落葉を踏めば音が響く。体を低くして、葉の揺れを避ける。
「ここに敵がいるはずだ! 探せ!」
「了解!」
足音が近づく。三人分。やがて遠ざかり、直後に銃声が森を裂いた。呼吸を浅くして耳を澄ませる。腰の刀を意識しつつ、マスケット銃型ソウルボードを構える。指が冷えて硬直する。
「誰だ!」
「私だよ、ユーリ」
赤髪の少女が木陰から現れる。両手を上げ、声を落として近づいてきた。その瞳の赤に吸い込まれそうになり、慌てて視線をソウルボードへ落とす。
「今の状況は?」
「敵は退けられた。本陣に突撃するって。それと、あなた伍長に臨時就任だって」
「……今の部隊長は?」
ユーリは黙り込む。答えは不要だった。
二人で集合地点へ進む。木漏れ日の光が差し込み、眩しさに目を細めた。
「アルト上等兵、生きていたか」
「軍曹。五体満足で帰還しました」
軍曹は緑の液体が入った瓶を差し出す。速攻魔法【回復ポーション】の札が張られていた。一気に飲み干すと、鉄の味が口に広がる。舌にねばりが残り、水筒で流し込んだ。
「次の行動まで三十分。準備しろ。お前はユーリ、シュナイダーと組め」
「了解。任務を果たします!」
シュナイダーは無言で手を上げた。タバコの煙が揺れる。俺も手を合わせ、乾いた音を響かせる。
「よろしくな」
「お前の背を守る」
シュナイダーはタバコを吸いながら、うなづく。彼のデッキは墓地にモンスターを送り、エースモンスターを強化するデッキ。俺のデッキと相性がいい。ユーリはモンスターが戦闘破壊された場合残印魔法としてフィールドに残るプリズムビーストデッキを使用する。お互いの邪魔はしないだろう。ユーリのほうを見ると俺と視線があった。彼女は頬を赤くしながら目をそらす。
「ユーリ、シュナイダー。本陣に急襲する際、俺らの部隊は敵の露払いを行うとの命令だ。いいな」
「足でまといにならないように頑張るね」
ユーリは答える。シュナイダーはマスケット銃を掲げ、同意の意を示す。
戦場の空気は熱く、銃声は近づいてくる。呼吸を整え、冷たい風で頭を冷やす。手に握るカードに集中する。
「アルト、手札やフィールドの状況教えるね」
目の前にユーリがやってくる。赤髪が木洩れ日に反射し、きらきらと輝いている。ユーリは俺の隣に来るとソウルボードを見せてくれた。
「フィールドには、【ジェムロックゴーレム】と守備表示の【プリズムビースト・サファイアドッグ】、残印魔法として【カーネリアンウルフ】と【ルビーキャット】がおいてあるよ」
「なるほど、ウルフで攻撃力を上げたり、ルビーキャットで相手モンスターの効果を無効化できると」
「さらに【ジェムロックゴーレム】は【ボルケーノブレンド】で交霊召喚したから次のターンまで戦闘破壊耐性を得ているよ」
彼女の手札には速攻魔法【エクスプロージョン】とカウンター罠【マグマバリア】がある。これでモンスターを破壊しつつダメージを与えたり、モンスター破壊を無効化できると。
「わかった。サポート頼りにしているぞ」
「任せて」
彼女は胸をたたいて答えた。その姿に力強さが垣間見えた気がする。
「よし、お前ら移動するぞ」
軍曹が大声で呼びかける。立ち上がり、ソウルボードを構える。森の外から熱い空気と鉄のにおいが流れ込んでくる。歩くたびに銃声が大きくなる。後ろにつくユーリの空気が重くなるのを感じた。
「心配するな、ユーリ。俺を信じろ」
後ろを振り返り、ユーリを励ます。シュナイダーもソウルボードを掲げ、同意の意志を示す。入り込む光が多くなった。まぶしさに目を細めながら敵の本営を見る。
「ねえ、確か今の会戦では敵側の結界魔法が有利なんだよね?」
「ああ、敵軍にバフ効果が発動している。総司令官を殺し結界魔法を無効化するのが俺たちの仕事だ」
ユーリが話しかける。俺は敵の戦列をみたまま答える。
「この作戦は会戦の勝敗がかかっている。総司令官グランを殺さなければ、我が国の都市フォントは敵の手に陥落し、略奪や暴行の嵐が吹き荒れるだろう。そして、いまわが軍は窮地に陥っている。本隊が敵主力部隊に押されているそうだ」
中隊長はここで言葉を切り、再び口を開く。
「兵士たちよ、この作戦に君たちの家族の命はかかっている。心して励め!」
俺たちは無言で答えた。
「これから作戦を説明する。この森から出たところに敵の本陣がある。ここを守るのは敵の中隊200人だ。突撃するぞ! 行け! 我が本隊は3時間しか持たないそうだ。さらに敵の一部がこちらに来ているとの連絡があった。よって、本営の守備を固められるまえに30分で突破。総大将グランの殺害を30分で行え。」
中隊長が叫ぶ。部隊同士で横に広がり、マスケット銃を構えた。急がないと敵本陣の守備が固められる。
風を切り走る。開けた平原が視界いっぱいに広がる。目の前に敵の戦列が現れた。この兵士の先に敵の本営と総司令官グランがいる。手に持つカードを握りしめた。
俺たちは最右翼に配置された。周囲には欠員が出た部隊ばかり。目の前には、欠員のない5人の部隊だ。負けてられない。この戦いで負ければ国の都市が陥落してしまう。
「撃て!」
引き金を引いた。銃から後ろに引っ張る力が働くも、義務感で耐える。敵の魔法カードを破壊。左側から地を震わす音が聞こえる。平原を挟んで敵部隊と対峙。
「アルト、カードバトルはお前に任せる。俺は狙撃に徹する」
「シュナイダー。お前は絶対に守る」
次弾をポケットから取り出し、装填する。その間シュナイダーは3発発射し、敵のカードを破壊した。後ろから硝煙のにおいと煙が充満し、目と鼻を攻撃してくる。正面から銃声が鳴り響く。煙の中で銃弾を刀で断ち、痺れる手を押さえつけて振り抜いた。
「銃弾を切っただと!? ならば【漆黒の魔獣】攻撃せよ! あの女のフィールドを蹴散らせ!」
敵兵士がモンスターに攻撃を命令。四つ足の黒い魔獣が近づいてくる。ユーリを狙ったようだ。ソウルボードが赤く点滅。残印罠を使えと急かすように。三十秒もない。シュナイダーと目くばせして、俺は手札を一枚捨てて、シュナイダーの残印罠による攻撃誘導効果を発動。魔獣の攻撃をセイランに相手させる。
「セイラン、敵を斬れ!」
「任せて!」
彼女は剣を大きく掲げる。太陽の光に銀色の刀身が反射し、突っ込んできた獣を真っ二つに切り裂く。血が飛び散り視界が赤に染まる。セイランは獣の上半身を投げ捨て、太陽を遮った影が一瞬暗闇を落とす。獣は断末魔を上げ、光をまき散らして爆散した。
「まだ人数は有利だ。撃て!」
敵は撤退しない。ジェムロックゴーレムを俺の方に配置する。サファイアドッグは俺の周囲で守りを固めてくれている。
「こっちも 撃て!」
銃から反動が伝わる。手から離れそうになるのをこらえ、敵を睨む。先ほどモンスターを放ったプレイヤーに命中、その場に崩れ落ちた。ソウルボードには敵のライフポイントが0になった。
ソウルボードがピコンと鳴った。メインフェイズの合図だ。俺は急いで【交霊】を差し込む。
「ジェムロックゴーレム、セイランは敵陣をかき乱せ!」
「アルト、あと20分だ。急ぐぞ」
銃を撃とうとした敵や罠カードを発動した敵に銃弾を命中。相手は行動を中断する。2体のモンスターは2人吹き飛ばした。
「アルト、目の前の敵は残り二人。突っ込もう!」
「ユーリ、シュナイダー。後からついてこい」
セイランは銀色の剣を掲げ、またがっているドラゴンに吠えさせた。目の前の敵は怯み、動きを止める。そのすきに近づき、彼女の持っていた剣で敵を斬り伏せる。ソウルボードからピーという音が聞こえた。この音は敵のライフを削り切った音だ。呆然としている残り1人をシュナイダーが狙撃し、俺が刀で切る。
「よし、敵は全滅だ。このまま敵の側面を突き、本営までの道を開く」
マスケット銃を発射。ソウルボードが震える。敵のライフが削れると、ソウルボードが伝えてくれる。敵の戦列は崩れてきている。正面から聞こえる銃声も大きくなる。夕日はさっきよりも弱まっている。このまま押しきれることを祈るように銃を発射。
硝煙が鼻を焼き、白濁の視界で銃声が耳を裂く。土嚢の硬さが足裏に残り、喉は乾き、塩辛い汗が頬を伝う。
「撃て!」
軍曹の号令。火花が走り、硝煙が押し寄せる。
俺はソウルボードを掲げ、カードを差し込んだ。
「【霊導戦士セイラン】、突撃!」
銀の刃が陽光を反射し、敵陣を貫く。悲鳴と断末魔が重なり、風が血の匂いを運んできた。
ユーリが横で叫ぶ。
「【プリズマドラゴン・レインボウ】、咆哮!」
虹色の閃光がほとばしり、突進していた敵部隊を一瞬ひるませる。土煙が舞い、視界が揺れる。
「アルト、右から来る!」
「シュナイダー、援護しろ!」
タバコの煙をくゆらす彼が即座に狙撃。乾いた銃声と同時に、敵兵が崩れ落ちる。
だが次の瞬間、地面が揺れた。砲弾が爆ぜ、耳が割れるような衝撃音が響く。鼓膜が震え、内臓が揺さぶられた。
「ライフ、5300まで減少!」
ソウルボードが赤く点滅する。
胸の奥が冷たくなる。目の前には敵の重装兵、鎧が夕日に鈍く光っていた。金属臭と血の匂いが混ざり合い、吐き気をこらえる。
「侵入者め、全員殺せ!」
敵の怒号が響く。鎧の音が連なり、迫ってくる。
俺はカードをかざし、声を張り上げた。
「【表霊導の槍兵リオナ】召喚! さらに【表霊導の結界】発動!」
稲光が落ち、雷鳴が耳を貫く。光の壁がセイランを包み、砂塵を押し返した。
テントの布を蹴破る。熱気と血臭が一気に流れ込む。中は薄暗く、鉄鎧の擦れる音が反響していた。
「侵入者め! ここを通すな!」
重装兵たちが並ぶ。鎧が夕日を受け、鈍い光を放つ。土嚢が積まれ、遮蔽物が迷路のように配置されている。
「セイラン、リオナ、突破しろ!」
銀の剣と雷槍が閃き、轟音と稲光でモンスターを粉砕。熱風が頬を焦がし、耳鳴りだけが残った。
「アルト、右に二人!」
「任せろ!」
刀で銃弾を弾き火花が散る。鉄臭に満ちた中、セイランが敵兵を切り裂いた。
背後から殺気。振り返ると、血走った目の兵士が突きかかってくる。だが銃声が響き、兵士は胸を撃ち抜かれて崩れた。
煙を吐く銃口の向こうで、シュナイダーが無言で頷く。
「助かった」
息を整える間もなく、さらに奥から圧力が迫る。冷たい風。空気が重く、皮膚に粟が立つ。
――グランだ。
本営の奥、暗幕の中に佇む影。鎧に覆われた巨躯、燃えるような眼光。ただ立つだけで、戦場全体が沈黙したように感じる。
「よくここまで来たな、小僧ども」
低声に喉を締め付けられ息が止まる。俺はカードを握り直し、声を絞り出した。
「ここで終わらせる! お前を倒し、この戦を終結させる!」
ソウルボードが震え、手札のカードが赤く光る。ユーリもカードを構え、シュナイダーが狙撃の構えを取った。
決戦の幕が開いた。