【竜導姫セイラン=ブレイズ・ストライカー】
レベル6/闇属性/ドラゴン族/ATK2500/DEF1500
【霊導戦士セイラン】+ドラゴン族モンスター(レベル4以下)
①:交霊召喚成功時に発動できる。除外されている「裏霊導」モンスター1体を特殊召喚する。
②:1ターンに1度、自分の墓地のレベル3以下の機械族モンスター1体を装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。装備カードはこのカードが戦闘で破壊されるとき代わりに墓地に送ることで破壊されない。
③:このカードがモンスターを戦闘で破壊した時、そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。
④:装備カードが墓地へ送られた場合、相手フィールドのカード1枚を破壊できる。
⑤:このカードが相手によって破壊された場合、自分の除外ゾーンの「裏霊導」モンスター1体を手札に加える。
汽笛が朝霧を裂く。灰を巻き上げた風が、目の奥を鈍く撫でた。金属の響きに胸がざらつく。戦場を離れたはずなのに、鼓膜の奥がまだ震えている。
線路の向こうから、鈍い鉄の塊が煙を吐きながら近づいてきた。その音は大地の呻きに似ていて、どこか懐かしい。
「これが汽車……」
ユーリの声が霞に溶けた。怯えてはいない。けれど、瞳の奥がわずかに揺れた。彼女の赤い瞳には、いつも燃え残ったような光がある。失ったものを信じるように汽車を見つめた。
列車が軋みを上げて止まり、扉が開く。兵と避難民が列をなし、順番に乗り込んでいく。
「この列車でダブロ駅に向かい、本線に乗り換え。その後はリエーズ公爵領に向かい、星帝国領首都カルラディアへポータルで移動だよ」
ユーリの声が霧に吸い込まれていく。灰のにおいが喉を刺し、呼吸が少し重くなった。
列車が動き出すと、腹の底で震動が響く。窓の外に広がるのは、割れた鉄橋、沈んだ街、煤けた川。復興という言葉が遠すぎて、いまはまだ祈りにすら届かない。
「車内の巡回だ。ユーリ、マリアンヌ行くぞ」
油と金属のにおいが混ざり合う。床には泥の跡、座席には焦げ跡。光精霊灯が鈍く揺れ、呼気の白が窓を曇らせた。
ユーリは小さく息を呑んだまま、無言で俺の後ろを歩く。彼女の手は震えていたが、足取りは止まらない。恐怖を噛み殺す音が、靴底の摩擦と重なった。
マリアンヌは視線を正面に固定している。姿勢の端々に、王族の残り香がある。かつての誇りが彼女を支えているようだ。この戦で彼女は捕虜となり、暗殺者を差し向けられた。それでも彼女は、背筋を伸ばして今日を生きる。
車内を見回す。座席の影に、小さな子精霊がいた。首輪の金具が鈍く光り、手の中のカードを握り締めている。
その仕草がやけに人間らしくて、胸の奥が少し痛んだ。
「避難民の代表はどこに?」
母親と思しき精霊が黙って指を差した。指の先には、筋骨の厚い男。肩が天井に触れそうで、服の縫い目には鉄片が継ぎ当てられていた。
「……代表の方で間違いないですね?」
「そうだ。俺たちはエクソス戦で敗れた。故郷を焼かれ、逃げてきた」
言葉の端が硬く、鈍い刃のようだった。視線を下げると、足首に鎖。刻印が光を弾いていた。
「その鎖は、誰につけられた?」
「精霊難民軍の残党だ。俺たちは捕虜のまま逃げ延びた」
言葉が途切れ、空気が張る。ヒューマノイド型子精霊がこちらを睨み、玩具の銃を構えた。母親が慌てて押さえる。
「奴隷に触るな! 殺すぞ!」
「落ち着け。俺たちは敵じゃない」
声を張った。自分でも驚くほど、声が掠れていた。母親が深く頭を下げ、周囲の兵も銃口を下げる。その瞬間、列車が揺れた。車輪が軋み、大地の音が流れ去っていく。
ソウルボードが震え、中隊長からの連絡が入る。――避難民の身元を確認し、危険があれば報告せよ。
「了解」
短く返し人間の代表者に精霊難民軍の代表者を教えてもらう。精霊難民軍の代表者は日を浴びて光輝いている。
「あなたたちはどこから来た? この世界の精霊ではないと聞いたが」
「超広域国家だ。あそこでは百のコスモスが血を流している。俺たちは敗北者だ」
その言葉が胸に沈む。超広域国家――シルヴァーンから聞いた名前で、実体が不明な存在。だが、そこから“何か”が流れ込んでいるのは確かだ。カードも、精霊も、そして戦争の理も。
「それで、なぜ奴隷を?」
「我々は戦乱から逃げた後、奴隷を失った。彼らはその代替だ」
「なら解放してもらう。でなければ、ダブロ駅で撃たねばならなくなる」
「奴隷を解放すれば、俺たちはまた奪われる。あんたらは遠くから正義を言うだけだ。原始人のように撃ち殺してやる!」
その瞬間、子どもの銃口が火を噴いた。咄嗟に抜刀し、刃で弾丸を弾いた。火花が散り、耳鳴りが残る。
ユーリは口を塞いだまま立ち尽くしていた。震える肩を見て、俺は短く息を吐く。恐怖を押し殺す姿が、数年前の自分に重なった。
マリアンヌが前へ出た。目の奥に青い火が灯っている。
「いきなり発砲なんて……」
声は静かだったが、刃よりも鋭かった。
「マリアンヌ、やめろ。少年、決闘裁判で決着をつけよう」
「望むところだ!」
ソウルボードを展開し、デッキを構える。焔が走り、カードの輪郭が光の線になる。
「ドロー! スパークの効果により自らを墓地に送る! そして手札より【交霊】!」
【竜導姫セイラン=ブレイズ・ストライカー】を召喚。叫びと同時に、炎が走る。魂の感覚が全身を焼くように駆け抜けた。セイランはアーリスとスパークを御す。アーリスに敵のカードを切り裂かせ、スパークの炎がフィールドを呑む。勝敗が決した瞬間、俺は剣を下ろし、深く息を吐いた。
「奴隷を解放してもらう。代表者、わかったな」
「……奴隷の首輪を外せ! 今すぐだ!」
車内の空気が動き、息が混ざる。鎖が外れる音が次々と鳴り、光がひとつずつ消えていった。
列車が停まり、鉄の息が押し出される。焼けた匂いが漂うプラットフォーム。赤い光精霊灯の列が、霧の中にぼんやりと伸びていた。
ダブロ駅――石壁と煙突の要塞駅。屋根の砲座、煤の降る天井、油の匂い。この国の心臓は、まだ戦場のままだ。
「ここがあなたたちの降車地だ。軍の保護下に入る」
「保護? 監視の間違いだろう」
「どちらでも同じだ。生き延びることが先だ」
母親が子の手を引き、深く頭を下げた。赤い瞳が光に揺れて、灰がその周りで舞った。
消毒薬の匂い、復興札の読み上げ、冷たい声。その中で俺は帳面を開き、乾いたペン先を走らせた。
――第六鉄道防衛中隊報告。精霊難民群・灰界行団、到着確認。非武装化完了。
風が紙をめくり、灰が字を薄くした。
「出発準備完了です。この後は終点のフェロア伯爵領まで行き、高速鉄道で一気にリエーズ公爵領まで行きましょう」
「了解。残留者はいないな?」
「はい。皆……置いていくものも置いていきました」
振り返ると、プラットフォームの端に首輪の金具が転がっていた。金属片が光を失い、灰の中に沈んでいく。
汽笛が鳴る。霧が巻き上がり、煙が空を覆う。列車はゆっくりと動き出した。窓越しに見える石壁には、無数のカードが貼られている。名前があり、祈りがあり、灰があった。
この国はまだ、復興を夢と呼ぶしかない。それでも、列車は前へ進んでいた。
列車が平原を抜けるころ、空の色が変わり始めた。灰の幕が薄れ、雲の切れ間から光精霊灯の反射が覗く。リエーズ公爵領――かつては交易の中心だったと聞くが、今はただの中継地だ。
窓の外に広がるのは、壊れた工房と再建途中の線路。煙突から立つ白煙は、希望というよりも未完成の証に見えた。
「あと一時間でポータル駅だ」
声に出しても、誰も返事はしなかった。兵士たちは疲れ切った顔で座席にもたれ、ユーリは膝の上でカードを弄んでいた。光を受けて赤い瞳が瞬く。その反射がかすかに震えている。
マリアンヌは窓際で記録板を開き、淡々と情報を書き込んでいる。線を引くたびに、ペンの音が妙に乾いて聞こえた。彼女の指の動きには迷いがなかった。戦場であれ、列車であれ、彼女にとって記録は祈りに近い。
「本当に……どこまでも灰が続くね」
ユーリの声が小さく響いた。俺は返せなかった。それに何を足しても、慰めにならない気がした。
列車が速度を落とす。鉄の軋みとともに、窓の外に青白い光の柱が見えてきた。あれがポータル塔だ。霧の中でも異様な存在感を放っている。
プラットフォームに降り立つと、空気が変わった。灰の匂いが薄れ、代わりに冷たい金属臭が鼻を刺す。都市の音がする。人の声、足音、機械の駆動音。ここだけが、まだ生きているように思えた。
「一時間後、ポータルで移動だ。リエーズ公爵領から王国領首都、そこから帝国領へ」
「了解!」
列が蛇のように伸びていた。資源カードの木箱を肩から下ろすと、木の角が掌に食い込む。乾いた木と汗の匂いが混ざり、喉の奥がざらついた。
検印台は三つ。手前に軍務局、隣に神殿、奥に市民ギルド。それぞれ違う光精霊灯を掲げ、札を透かしている。同じ国の機関なのに、誰も同じ方向を見ていなかった。
「軍輸送は最優先だ。前に出せ」
軍務局の腕章が命じた。だが神殿の祈祷師がその腕を押さえる。
「二重封印が先です。霊位の確認なく通せば、輪が歪む」
奥のギルド検印官が冷たく笑った。指を鳴らし、札束を秤に載せる。
「税率は緊急時の五分増し。記録に残します」
三者の声がぶつかり、列が止まった。誰も引かない。戦場で命令が交錯した時と同じ空気だった。息を吸うだけで肺がきしむ。
「止まるな。呼吸を合わせろ」
群衆の方からヤジが聞こえる。彼らは木箱をずらし、札束を上に置き替える。光の輪を通すと、刻印が骨の奥でわずかに震えた。その震えが、過去の戦場に似ていた。
聖油の霧が降る。金属と香草の匂いが入り混じり、額に見えない印を押された気がした。神の加護でも、魔導でもない。ただ制度という名の“手形”が、皮膚に焼き付いたようだった。
祈祷師が頷き、軍務局が印を押し、ギルドが数を唱える。三つの刻印が重なり、札の端が冷たく硬くなる。
「次!」
列がまた進む。背後から小声が漏れた。
「封鎖になるかもしれん。去年の灰霧の日と同じだ」
誰かが大きな声で告げる。ざわめきが広がり、誰かが息を呑んだ。灰霧の夜の映像が脳裏を掠める。輪が閉じず、数百人が消えた。霧の向こうに、帰らぬ声だけが残った。
俺は深く息を吐き、部下に顎で合図した。
「通過列に移動しろ! 散開するな」
石の基台に足を乗せると、低い鼓動が靴底を叩いた。空気が波打ち、鼓膜が震える。胸骨の裏側が内側から押し出されるような感覚。
「——起動」
塔の上で音が鳴った。鐘ではない。空気そのものが鳴っていた。ゴウン、ゴウンと腹に響き、心臓の拍動がずれる。世界のリズムが一瞬、俺の体から外れる。
四層の光輪が反転し、銀青の線が空を縫い直す。
視界が歪み、距離の感覚が一瞬で失われた。
灰の匂いが途切れ、代わりに冷たい金属の空気が肺を満たす。
聖油の甘さが舌の奥に張りつき、喉が痺れた。指先が震える。あれほどの魔導機構を前にしても、もはや驚きはなかった。ただ、慣れという言葉の恐ろしさだけが残る。
「三、二、一——」
誰かが数を終えると同時に、世界が瞬いた。足元の石が変わる。空気が切り替わる。灰のざらつきが消え、冷気だけが残った。
振り返る。塔の輪はまだ脈打っている。閉じなかった年——灰霧の日。あの時、俺は別の街で生存者を拾った。焦げたカードと、半分だけ残った名札を。それを埋めるために、何百もの死体を数えた。その匂いが今も鼻の奥に残っている。
光の塔を見上げる。祝福の色をして、点検の声は尋問のように響いていた。人は便利さを神と呼び、その神を管理するために列を作る。それが、文明という名の儀式だ。
「前へ進め」
木箱を担ぎ直した。列がまた動き出す。音もなく、ただ光だけが俺たちを押し流していく。
「ここが帝都か?」
「そうです」
複数のポータルを乗り継いでついに帝都のポータルに到着した。ポータルの外に出てポータル塔を振り返る。ポータル塔の前に立つと、圧迫感が胸にのしかかる。四層構造の光輪が空を貫き、空間をわずかに歪めていた。あれほど精密な魔導機構を見ても、もはや驚きはない。便利は、刃を鞘に収めたまま鈍く光る。
周囲では避難民や商人たちが列を成している。荷を抱えた精霊、鎖をつけられた人間、泣き出す子供。全員が無言のまま掲示板を見上げていた。
【告示:ポータル第五層・稼働率127%。一般利用制限中】
「……詰まってるのか?」
「帝都の層が飽和してます。今日中は無理でしょう」
マリアンヌの声は抑えていたが、眉がわずかに寄っている。
兵士の一人が通信板を確認し、顔をしかめた。
「誤射事件が起きたらしい。帝都南層で」
「巻き込まれた者は?」
「確認中。……ですが、民間人が多数」
息を整えた。帝都――戦争の終わった街のはずだった。けれど、平和が続くほどに人は焦燥を溜める。銃を持つことが当たり前になれば、暴発もまた日常になる。
「……都市は危険だよ」
「誰もが銃を持つ時代だ。誤射や暴発で戦闘が起きるのもそう珍しいことではない」
ユーリがぽつりと呟いた。彼女の言葉に返事を返す。
「帝都は人口密度が高いうえに銃や大砲、騎馬などが入り乱れますわ。それゆえに喧嘩から戦闘に発展してしまうことも珍しくありませんわ」
マリアンヌの言葉の端に、かすかな震えがあった。都市によっぽど嫌な思い出があったのだろうか。表情に影が差したが、すぐに光を取り戻す。
「帝都の空は、白じゃないんだね」
「久々に見ましたけど、だいぶ雲がかかっていますわね」
ユーリが空を見上げた。
視線を上げる。雲の代わりに、光精霊塔が層を重ねて伸びている。四つの環が交差し、銀色の光を放っていた。その輪のひとつひとつが、別の国と別の時間を繋いでいる。だがその光は、祈りというよりも監視灯のように見えた。
遠くで警笛が鳴る。銃声ではない――けれど、響き方は戦場のそれに似ていた。人の群れが一瞬ざわめき、また黙り込む。
「……ポータルが動けないのか?」
「はい。今日中は全層封鎖です」
兵士が報告し、俺は頷いた。進めない。だが、ここに留まるのも危うい。焦燥よりも先に、疲労が押し寄せてくる。
マリアンヌが目を伏せて言った。
「帝都は戦争をしていないのに、戦場の匂いがしますね」
「戦争が終わっても、武器が残る。人が武器を捨てない限り、この国に“終わり”なんて来ないさ」
自分の声が驚くほど冷たく聞こえた。マリアンヌも、ユーリも、何も言わなかった。風が通り抜け、灰と光が混ざる。ポータルの輪が静かに脈打ち、帝都の鼓動のように空を震わせていた。