孤児の成り上がり   作:雷光123

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帝都の暗躍者(前編)

「【盟約の竜】と【上級槍兵】を交霊! 【竜槍兵】、敵軍の側面を突け!」

「損耗した【王国の盾兵】部隊をオーバーレイゾーンに移動。彼らを圧縮し【王国の門番】をオーバーレイ召喚。そしてオーバーレイ素材を使用し、【竜槍兵】部隊の攻撃力を半分に」

 

 竜槍兵の進軍が止まる。敵軍剣士5000。左右に分かれ竜槍兵を包み込む。竜槍兵部隊を下げようとするが、盾兵500が身を挺して竜槍兵部隊の撤退を遅らせる。装置から竜槍兵の断末魔が漏れた。コントローラーを握る掌がじっとりと濡れる。

 

「クソ! 剣士部隊10000を正面突撃だ!」

「【王国の調律師】と【王国の剣士】それぞれ5000を共鳴。【王国の剣聖】をレゾナンス召喚だ」

「だが、前線は薄くなった。そのまま突破してやる!」

 

 ボタンを押し、剣士部隊の進む道を指示。剣士部隊10000は敵軍前線を二つに割ろうとしている。だが、敵軍は竜槍兵を包囲していた部隊を前線に回し前線の崩壊を防いだ。竜槍兵部隊は100に減ったがまだ生きている。槍兵と剣士を再度突撃させ、敵軍を切り裂いた。

 

「勝ったと思ったか?」

「剣聖か!」

 

 盾兵が正面を守る。側面からやってきた剣聖部隊が俺の前線部隊を側面から突き破る。互いに兵力は半分だが、剣聖部隊を持つ敵の方が有利。

 

「さらに【王国の大砲】部隊が結界魔法【王の領域】を発動。この結界内にいる味方部隊のATKを500アップだ」

「まだだ。残存する部隊を統合し、ノード召喚。【王国の二刀流剣士】」

 

 剣聖部隊が奥に突撃する。竜槍兵部隊を全滅させた。そして敵軍の砲兵部隊が味方砲兵部隊を攻撃し壊滅。剣聖部隊はノード召喚された二刀流剣士が陣を敷いているところを襲撃。残った部隊を集めたが、敵の剣士や槍兵部隊がそこに入り、二刀流剣士部隊がばらばらになった。勝ち目がなくなったため、降参ボタンを押す。

 

「降参だ」

「途中まではよかったが、最後竜槍兵部隊が待ち伏せで包囲されたのは痛かったな」

「ああ、伏兵の配置が上手だった。まさか林に隠しておくとはな」

 

 現実なら、半数以上は死んでいた。シュナイダーと戦闘シミュレーションをすること2日。帝都カルラディアのポータルはいまだ開かない。連隊長のグロイスは宿屋を借り上げて兵士たちを宿泊させた。

 

「軍用の宿泊施設がすべて使われているなんてな」

「ここは国全体の星王国領ポータルに移動できる場所だ。鉄道や水路も整備されているから近場の部隊もやってくる。部隊規模が小さい俺たちは軍施設を使えないだろ」

「わかってはいるんだがな」

 

 ポータルの待機所やホテル、旧演習場など軍が使用できる箇所はすべて使われていた。兵士たちに聞くと、一週間前からこんな感じらしい。

 

「ここは中層だ。滅多な事件は起きないだろう」

「そうだな。一番危険なのは下層だしな」

 

 下層はデスバトルを仕掛けてきたり、闇市に直結していたりと治安が悪い。町を見ると銃撃の音が聞こえてきた。帝都は上層と中層しか見ていないが、全域に舗装が敷かれていた。細かく見ると、銃弾が転がっていたり血痕が残っていたりする。

 

「中層でも銃撃事件が起きてるな」

「帝都は人間が多いからな」

 

 ふたたび乾いた破裂音が聞こえてきた。悲鳴が聞こえ空に溶けていった。

 

「シュナイダー、宿から出るか」

「ポータルを使えるのは三日後。その間は待機を命じられたからな」

 

 窓の外をのぞく。さっきまでの春風は止み、代わりに灰を巻く突風が街を叩いていた。草や灰が空気の流れに沿って舞い上がる。暗い空が心に重くのしかかるような感覚を覚えさせる。

 

「シュナイダー、カードパックは開けたか?」

「開けた。だがいいカードは入ってなかった」

「収録カードは1000万種を超えるからな。人類の歴史の中で出たカードすべてを収録しているとか」

「孤児院時代に教えられるカードの基礎知識だな」

 

 シュナイダーはシミュレーション装置を片付ける。彼は机に置いてあったお茶を飲みながらゆっくりと外を見ている。カードパックを開けて中身を確認する。目を丸くする。このカードは……。

 

「助けてください!」

 

 静かな空間を引き裂く大声。何事かと振り向くと血だらけの女性が立っていた。さっきのカードをアストラルデッキに突っ込んで、俺とシュナイダーは女性の方を見る。

 

「何があったんですか?」

「私たちの住処が……襲撃されました! 一人の男に……皆が!」

「シュナイダー、向かうぞ!」

「アルト、お前は先に行け! 俺は小隊全員を連れて向かう」

 

 親指を立てて、宿を立つ。女性に案内してもらい、事件現場へと向かった。

 

「こちらです!」

 

 事件現場を見ると、商人やカードを持った人間など複数人が倒れている。

 

「ひどいな。敵はどこへ行った」

 

 少女が指さす。その先は下に伸びる下水道。汚水から緑色のガスが噴き出ている。近づくと体温が奪われるような錯覚がした。

 

 階段を踏みしめるたび、金属と油の匂いが濃くなっていった。一歩踏むたびに靴底が水を叩く鈍い音が響く。

その音だけが、この闇の奥で“生きている証”のように思えた。

 

 階段を降り立つと下水の音が耳を占領する。光精霊灯の明かりが届かない。壁に貼られた検印札は黄ばみ、角が剥がれかけていた。鼻をつまみ、目を細めて先へ進む。

 

 下水道を進んでいくと風が止んだ。血と薬品の混じった臭気が肌にまとわりつく。鼻を抑え、前を見据える。視界が黒い。3m先は見えず、腰に差した刀を意識しながら前を進む。

 

「この先です」

 

 女性の声が震えていた。指さす先、薄闇の奥で赤い光が瞬いた。

 

 足元の瓦礫を蹴ると、焼け焦げたカードの破片が転がった。触れた靴底が、じりと熱を返す。

 

「……ひどいな」

 

 崩れた露店。弾痕の残る木箱、焦げた布。床一面に灰と血が混ざり、まだ煙の匂いが立ち上っている。

 

「アルト少尉、こちらに」

 

 声の方を向くと、レオン・ハルトが立っていた。灰にまみれた軍服の襟を整え、俺に敬礼する。

 

「現場の確認は?」 

「死亡三名、重傷五名。精霊三体、灰化」

 

 淡々と報告する声の底に、かすかな苛立ちがあった

 

「敵は一人。銃撃とカードの併用。ですが──」

「ですが?」

「使用痕が帝国規格じゃありません。カードの構文印が……おかしい」

 

 視線を落とす。地面には焼け焦げた輪。その中央に、幾何の線が絡み合っていた。

 

 灰の中で、欠けたカードが淡く光っている。俺は膝をつき、指先を伸ばす。

 

 途端に、掌の奥で何かが脈打った。心臓と逆の拍で、内側から叩くような感覚。

 

(アルト、そのカードから手を離して!)

「触るな、アルト」

 

 セイランとシュナイダーから同時に警告された。背後を振り向くと、階段の上にシュナイダーがいた。彼は目を鋭くしてカードを睨む。

 

 光精霊灯の青が、彼の瞳を冷たく染める。兵たちが続き、銃口が一斉に闇へ向いた。

 

「第一分隊、負傷者を収容しろ。第二分隊は外周警戒」

「了解!」

 

 レオンが指揮に移り、残ったのは俺とシュナイダーだけ。焦げ跡の中心を見つめながら、彼が低く言った。

 

「見ろ。この術式印……俺たちのカード規格と形が違う」

「異界品か?」

「断定はできん。だが、こいつは“誰か”が作り替えた」

 

 その言葉に、胸の奥が静かにざわめいた。

 外の風も届かないこの地下で、世界がどこか別の方向へずれていくような感覚。

 

 灰の中で光る欠片が、ゆっくりと明滅を繰り返していた。

 

「それで加害者はどこにいる?」

「わかりません……逃げました。下水の奥です」

 

 少女の声が震えていた。涙と汚水で頬が濡れている。

 

「わかった。ここは任せろ」

 

 少女の頭に手を置きなでる。彼女は少しずつ涙が減っていった。

 

 背後のシュナイダーを振り返った。彼はすでに油壺を手に取り、灰の上に注いでいた。

 

「焼くのか?」

「ああ。再起動の気配がある。これ以上、誰にも触らせん」

 

 火が灯る。青白い炎が輪を舐め、焦げた印を溶かしていく。鼻腔に油と灰の匂いが広がり、胸の奥がざらついた。

 

「後を頼む。俺は犯人を追う」

「一人で行く気か」

「この臭い……まだ新しい。今なら追える」

 

 シュナイダーは何も言わず、短く頷いた。その眼が、言葉よりも重かった。

 

 階段を駆け下りる。下水道の奥は闇と湿気が混じり、壁面に光精霊灯の残光が滲んでいる。足元が滑らかで柔らかいものが転がる。足にも目にも神経を集中させる感覚。呼吸が無意識に速くなる。口を抑えゆっくりと空気を通す。

 

 足音が反響する。空気を吸い込む音が四方八方に反響し方向感覚が消える。

 水面に落ちた自分の影が揺れ、何か別の生き物のように蠢いた。

 

 銃を構えた。指先が汗で滑る。冷たい金属の感触が、わずかな恐怖を誤魔化してくれる。

 

 進むごとに空気が変わる。

 鉄の匂いが濃くなり、どこかで水音が弾けた。

 

「そこか……」

 

 小さな物音。影が動く。反射的に銃口を向ける。

 

 その先で、誰かが立っていた。

 

 黒いコート。顔の半分を覆う仮面。右手には、焦げたカードの断片。震える手でトリガーに手をかけると深呼吸。

 

 視線が合った。その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 

 ──この男、ただの人間じゃない。

 

 銃を構え直す。だが、彼は微動だにしなかった。

 

「帝国軍か。……ここまで来るとは思わなかった」

 

 低く、濁った声。

 それはまるで、誰か別の存在が喉を借りて話しているようだった。

 

 足元の水がざわめく。薄い霧が立ち上がり、男の周囲を包む。

 

 次の瞬間、光が弾けた。耳をつんざく音とともに、何かが現れる──。

 

 反射的に引き金を引いた。閃光の中で、影が割れる。

 

 銃声が、帝都の底を震わせた。

 

 水滴が頭上から落ちた。

 冷たい線が首筋を伝い、胸の奥がひやりとする。

 

 闇の奥、わずかな足音。奴が走っている。走り出し追いかける。濡れた床を蹴るたび、水しぶきが壁に弾け、足音がもう一人の自分のように追いかけてくる。一歩踏むたびに三歩先を行かれる。敵の影はどんどん小さくなる。

 

「止まれ!」

 

 声が反響し、金属の壁を震わせた。その瞬間、闇の向こうで何かが閃く。

 

 銃口を向けたが、弾は届かない。逃げる足音は、下水の水流を飛び越えるように遠ざかっていく。

 

 腰のソウルボードを叩く。淡い光が浮かび上がり、宙に文字が浮かぶ。

 

《件名:下層第七区北排水路 敵影一》

《本文:黒外套・仮面・右手に焦げたカード。逃走中。構文印異常。至急包囲を要請》

 

 指先で“送信”を押すと、青い光が弾けて霧散した。

 魂の通信路を通り、シュナイダーのもとへ届く。

 

 数秒後、返信が浮かぶ。

 

《了解。第一・第二分隊を展開。逃走路を封鎖する。お前は追跡を継続しろ》

 

 短い文面だった。

 それだけで十分だ。

 

「逃がすか……!」

 

 濡れた床を蹴り、全力で走る。息が焼ける。壁に手をつきながら曲がると、暗闇の中に影が見えた。

 

 黒い外套の背中。肩越しに、一瞬だけこちらを振り返った。

 

 その瞳。光を拒むように深く、何か別のものが宿っていた。

 

 足音が交錯する。分隊の銃声が遠くで響く。包囲が狭まっている。

 

 犯人は進路を変えた。排水管を蹴って、壁面を登る。人間離れした動きだった。

 

「チッ……!」

 

 銃を構え、狙いを定める。引き金を引くと、火花が散って闇が照らされた。

 

 弾は掠った。外套が裂け、赤い滴が飛ぶ。

 

 だが、止まらない。そのまま上層へ抜けようとする。

 

 上から複数の銃口が光った。光精霊灯が順に点き、狭い通路が昼のように照らされる。

 

 黒外套の男が眩しそうに腕を上げた。輪を描くように分隊が取り囲み、銃口が一斉に向く。

 

 ソウルボードに新たな文が浮かぶ。

 

《包囲完了。指示を》

 

 シュナイダーの署名が光る。俺は短く打ち返した。

 

《交戦は避けろ。拘束を優先》

 

 男がゆっくりと顔を上げた。仮面の奥で、笑う気配だけが見えた。

 

「お前は包囲された。あきらめて投降しろ!」

「断る」

 

 包囲の輪が狭まる。黒外套の男は一瞬の隙を突き、右手のカードを掲げた。灰の粒が舞い、脚元の術式が光を帯びる。

 

「逃げる気か!」

 

 銃声。マスケット弾が足元の石を砕き、男の外套を裂いた。動きが止まる。煙の中で、片膝をついた影が低く笑う。

 

 銃声が止み、足音も消えた。代わりに、水滴が一滴、石に落ちる音だけが残る。

 

 俺はソウルボードを展開した。薄青い魔法陣が手元に浮かび、カードを一枚セットする。

 

「バトルを望むなら応じてやる。お前が勝てば見逃す! みんないいな!」

 

 シュナイダーを見る。彼は大きくうなづいた。ソウルボードを突き出し構えた。男も応じるように、焦げたカードを掲げた。その構文印がこの世界のものではないと、直感で理解した。

 

 ーーここから先は戦場だ。

 

 生唾を飲み込む。デッキをシャッフルしカードを5枚引く。男は不敵に笑う。額の汗をぬぐい、息を整える。

 

 俺は外套の男との戦いに――臨んだ。

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