孤児の成り上がり   作:雷光123

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本話では捕虜が犠牲になる場面があります。ご不快に感じる方は読み進める際ご注意ください。


血と鉄の牢獄で

「あそこだ!」

 

 収容所は檻が3個1組となって置かれていた。檻が整然と並んでいるところに多数の敵軍。遮蔽物は檻以外なにもない。付近にいた敵三人を斬り、動けなくさせた。中から女性のすすり泣く声が聞こえている。女性の腹部には膨大なバトルエナジーが集まって白い靄が発生している。虚ろな目で空をみあげていた。

 

「アルト……」

 

 ユーリが顔を青ざめながら俺の方につぶやく。柄の部分が壊れるほど強く握った。他にもソウルボードを破壊された状態で捨て置かれた女性や子供。ユーリは咄嗟に口を押さえた。背中をさすりながら指示を出す。

 

「捕虜を救出する。敵がカギをもっていないか確認しろ」

「アルト、俺は別の地点を確保する。二人でここを制圧しろ」

 

 シュナイダーは背中を向けながら伝えた。ユーリは下を向き、捕虜の方をみなくなった。

 

「わかった。とにかく状況の報告をしておこう。地点A確保!」

 

 空気を震わせる大声で周囲に状況を伝える。空を見上げると、赤色と藍色が混じっていた。夕暮れが近い。遠くに耳を傾けると、雄たけびと空気を裂く銃声が耳を貫く。味方の部隊と思しき旗もはっきりと見え、逃げてきた敵軍がこの檻の列に入り込んできた。

 

  鍵を探して収容所を歩いていると、傷一つない姿で座っている女性がいた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 声をかける。他の囚人と違い鎧を着たまま牢屋に座っている。手元にはマスケット銃と敵兵士の死体。殺したのだろうか。

 

「助けてください。私はマリアンヌ・ド・リエーズ。階級は一等兵。リエーズ公爵の娘ですわ」

(リエーズ公爵ってここ一帯の有力貴族よ。なんで一等兵なの?)

(セイラン、わからないがお前はしゃべるな。こいつを警戒しておけ)

「おい動くなよ。檻を叩き壊す」

 

 セイランは疑問に思っているようだが、とにかく解放を優先する。檻にこぶしをぶつける。手に衝撃が伝わるも、歯を食いしばってもう一発殴ると歪みが大きくなり三回目で完全に破壊された。彼女は泣きながら抱き着いてきた。金髪の長い髪が大きく揺れ、青い瞳が涙で満たされる。

 

「強いですわね。もしかして勇者様ですか?」

「勇者か何か知らんが出てこい。行くぞ」

 

強く抱きしめられる。やわらかいものが胸のあたりにあたった。どぎまぎしながらも、彼女の手をやさしく振りほどき、彼女に背を向けた。

 

「俺はアルト。悪いが今は戦闘中だ。北側に大隊本部がある。そこで捕虜を保護しているからついてこい」

「私も戦いますわ。軍人として」

「戦えるのか?」

 

 彼女は服の下に胸当てや鎖帷子があるのを見せる。死んだ兵士からマスケット銃とソウルボードを奪い取り、デッキを差し込む。彼女の言葉を信じて二人でユーリのところへ行った。

 

「ユーリ、新しい仲間だ。リエーズ公爵の娘、マリアンヌという。」

「ごきげんよう、私はマリアンヌ。一等兵ですわ。マリアンヌと呼んでください」

「よろしくねマリアンヌ様。アルト、ここ一帯の捕虜は解放しといたよ。それで次はどうするの?」

「私も従いますわ」

(指示よろしくね)

 

 三人の女性に指示を促される。周囲には銃声と逃げてきた敵軍。他の3地点の状況を確認するために移動する。敵に近いD地点の解放が進んでいないようだ。

 

「マリアンヌ様。銃弾は持っていますか? 今なら道具カードで具現化しますが」

「お願いしますわ。ここの兵士たちのカードはどうやら灰となっていましたので」

 

 ソウルボードを使い、銃弾を具現化。30発出てきたので、マリアンヌ様のバッグに入れる。彼女のバッグには【回復ポーション】や【毒消し】といった薬も入れた。

 

「全員、向かうぞ」

 

 彼女たちは俺の声にこたえる。

 

 D地点に続々と敵軍がやってきた。檻から正面を見る。捕虜の少女が項垂れて倒れているのが見える。敵部隊2つが味方部隊を十字砲火で倒している。敵は正面に一組、右側に一組で右側の敵は檻の壁側から近づける。ユーリにハンドサインを送る。右側の敵を倒すため檻の壁側の通路を通り、右の敵の背後を取る。

 

「撃て! 一人でも多くの敵兵を殺せ!」

「撤退しろ!」

 

 目の前の部隊が1人、1人と倒れていく。風より早くかける。

 

「突撃!」

 

 4人で近づく。一人は銀色の鎧を着た重装備の敵だ。後ろからかすった弾丸が鎧の敵に命中し倒れる。虚を突かれた3人を死ぬまで切り続けた。

 

「セイラン!」

 

 セイランは無言で重装備の敵を斬る。セイランの銀の剣は鎧をやすやすと通過し、切断面から血をあふれさせた。ピーという音が聞こえる。

 

「もう一組も行くぞ!」

「任せて! ジェムロックゴーレム、大地をたたいて!」

「私もやりますわ! 【カルラディアの騎士】、敵兵士に突撃!」

 

 蘇生していたジェムロックゴーレムが手の平で大地を揺らす。その間に馬に乗った鎧の騎士が敵戦列に突っ込み隊列を乱す。乱れたところで斬りかかり2人死亡。

 

「クソ! 死ね!」

 

 敵は狙いをつけずに銃を撃つ。銃弾が捕虜に当たり絶命。頭が熱くなったが、敵を斬り無理にでも思考をリセットする。

 

「お前ら、捕虜ごと敵を殺せ! 連れていけない捕虜は燃えるゴミだ!」

「クズが! 黙れ!」

 

 喋れないように首を斬る。全滅した。肩で大きく息をする。荒ぶる心を深呼吸して抑える。

 

「ここの状況を教えろ」

「敗走してきた敵軍が次々と防衛に来ている。ここの捕虜をどうしても奪われたくないようだ」

 

 生き残った兵士に問うていると、足音が聞こえる。敵が夕日を背負いながらやってくる。顔は見えないが、走っていることは分かった。唇をかんでいるとマリアンヌが1枚のカードを掲げながら近づく。

 

「アルト様、私に考えがありますわ」

「言ってみろ」

「結界魔法【竜の谷-ドラゴンキャニオン】を使いましょう。谷を具現化するんですわ」

「わかった。戻るぞ」

 

 ここと敵軍の間に谷を作り分断する作戦に乗った。マリアンヌからカードをもらいグランと戦った地点に戻る。

 

「ここに戦況図があるはずだ。あとはバトルエナジーの発生地点を探せ」

 

 三人に指示を下し、俺はグランが立っていたところに立つ。バトルエナジーが流れているのを感じる。

 

「アルト、敵軍の戦列は左右に分断されているみたい。左の敵は森の街道、右は東側に進んだ先にある街道を使って逃走しているね」

「倒しやすい右側の敵の退路に発動する」

 

 ソウルボードの結界魔法ゾーンを開く。ユーリが持ってきた戦況図を元に結界魔法を発動した。地面が揺れる。テントが崩れおちてくる。それでも動かない。ここで動けば現実干渉ができなくなるからだ。上から鉄骨が落ちてくる。セイランが鉄骨を切り裂き吹き飛ばした。戦況図を見ると、敵軍18万が包囲されている。

 

(これどれくらい持つのかしら?)

(残量からして二時間くらいだろう。その間に18万を倒し切ってくれるだろうから俺たちは捕虜を解放する)

 

「よし、捕虜解放戦の続きだ」

 

 戦況が有利になったためか、二人の顔色が明るい。士気の高さで押し切ろう。

 

 Bポイントでは金属をぶつける音が鳴り響いていた。

 

(近接戦は不利じゃない?)

「全員、銃を構えろ。敵の横を突く!」

 

 銃撃。敵は不意を突かれて倒れた。30人近い敵が一列になって味方10人と切りあっていたようだ。二人を転ばせて切り、5人の首に刀を当てる。首や頭といった弱点は通常の2倍のライフポイントを削る。モンスターも混じった乱戦だったが、側面には誰のモンスターもいなかった。

 

「よし、今のうちにできるだけ撃破する!」

 

 光すら吸収する暗闇に覆われる。遠ざかる足音が聞こえる。目の前の敵以外撤退したのだろうか。刀を振るうと、10人が吹き飛ばされた。視界の端に光るものが映る。振り返ろうとしたが濃厚な殺気に行動を中断させられる。

 

「覚悟ですわ!」

 

 マリアンヌも刀を振るって敵を薙ぎ払う。防御した敵のすきを突いて斬ったり、振り下ろしを避けて腹を薙ぐ。敵は残り5人。

 

「マリアンヌ、お前訓練を受けていたんだな」

「言ったでしょう。私は公爵の娘。当たり前ですわ」

 

 敵兵士たちは光るものーソウルボードを持ってきた。ソウルボードには爆弾が付いておりスイッチを握っていた。

「お前ら! これ以上は黙って殺されろ! これはここにいる捕虜のソウルボードだ! 近づいたらこれを破壊する!」

「そんな! 人のやることじゃありませんわ!」

「馬鹿なことはやめろ! おとなしく投降するんだ!」

 

 敵兵士を斬れば捕虜の命が奪われかねない。歯がゆい気持ちで武器を捨てようとした瞬間、敵兵の後ろから何かやってくる。

 

「アクセルスペル【炎風ーフラッシュバーン】」

「なんだと!?」

 

 突如割り込んだ騎兵が敵を燃やしながら切り捨てる。敵兵は炭になり爆弾が爆破。檻からも爆発音が聞こえた。

 

「私はブール市長のルシオ。第2中隊の指揮官だ。連隊長のグロイス殿はどちらに」

「都市の市長だと……」

「なぜ護衛がいないんだ……」

 

 周りの兵士たちがざわつく。俺もなんでこんなことしたと言いかけた口が止まる。3身分の一つ、市民の中隊長は捕虜を犠牲に敵を殺した。残酷だと思っていても誰も反論できない。

 

「なんでこんなことを! ソウルボードの破壊なんてひどすぎますわ!」

「一度でも許せば最終的に敵は捕虜の命を盾に領土を要求するだろう。だから平民や村人の命で済むうちに殺すのだ」

 

 誰もが言い出せない中、マリアンヌだけが前に出て詰め寄る。ルシオの言っていることは完璧だ。倫理観に反している点に目をつぶれば。マリアンヌは何か言おうと口を開くが、頭をつかんで下げさせてこの場を去る。

 

「敵の大部隊だ! 100人はいるぞ!」

 

 兵士が西側、敵の退路の方面から逃げてきた。彼は服の赤い染みを広げながら叫び倒れた。

 

「マリアンヌ、お前はユーリを連れて逃げろ」

「仲間を置いていくわけにはいきませんわ。私も最後まで御供します」

 

 顔をゆがめる。刀を握る手が小刻みに震えていた。マリアンヌは横に並び立つ。何か言うのをあきらめて二人で踏み込もうとしたとき、後ろから風が流れる。

 

「100人の兵士かちょうどいい。やれ、ヘルツ!」

 

ルシオが叫ぶ。空気が大きく揺らぐ。後ろから突風が吹き荒れ、敵の列が乱れた。

 

「誰だ!」

 

 剣の切っ先が首筋にあたるような感覚がした。敵部隊と思しき場所にさらに竜巻が現れ、金属の塊が落ちる音がした。次の風が巻き起こる。空から黒い物体。目をこらすと敵の死体が落ちてきた。

 

「なんだあいつ」

「すまない私は第2中隊の勇者ヘルツだ。敵は全滅させたから安心してくれ」

 

 金髪の男は風のように駆け抜けていった。ヘルツはルシオとともにグロイスの元へ駆けていく。目の前の敵が全滅し、死体の回収作業が進んでいく。大勢の足音ー味方が森の方からやってきた。

 

「死体の回収作業は終了! 全員野営地に戻れ!」

 

 遠くから響く声。周囲から聞こえる話し声はどれも暗い。

 

「終わったんだね……」

 

 ユーリはその場で座り込んだ。暗くて表情は見えないが、ため息をついた。

 

「俺たちも戻る。いいな」

 

 ソウルボードを見ると、バトルモードが解除されていた。これで敵軍は完全に撤退したことがわかる。セイランとメカニカルフォージ、および墓地にあるカードをデッキへ戻してシャッフルボタンを押す。

 

「マリアンヌ様、さっきはありがとう。私敵と切りあうの苦手だったんだ」

「私は狙撃とか苦手なので、あなたがいてくれて助かりましたわ」

 

 ユーリが話題を切り出した。マリアンヌがその話に乗ったので2人を先導しながら続ける。

 

「ユーリ、光精霊石が灰化した。代わりはあるか?」

「はい、どうぞ」

 

 光る石を入れたランタンを掲げ夜闇を照らす。足元が見えるため敵の死体を避けながら歩く。大隊が集まる地点が見えてきた。空に浮かぶ光の玉が左右に揺れ動く。木が割れるような音が聞こえ、煙が空を登っていく。

 

「ここが今夜の野営地ですね」

「ああ、とりあえず中隊長に帰還の報告に行くぞ」

 

 中隊長は驚いた顔をしながらもマリアンヌが俺の部隊に配属されるのを受け入れられた。中隊長は俺たちの小隊が野営する場所を教えてくれたのでそちらに向かう。

 

(中隊長、驚いていたわね。やはり彼女何かあるのかしら?)

(お前は観察に徹しろ。いくら問題ないとはいえ、いつ厄介事に巻き込まれるかわからない)

 

 割り当てられた場所に腰掛けテントを広げる。ユーリとマリアンヌの二人に手伝ってもらい設営が完了した。ユーリには小隊用の薪カードが置いてあるので、取りに行ってもらいその間にマリアンヌと負傷者の応急処置に向かう。

 

「マリアンヌ、勇者とはなんだ?」

「勇者ですか? 私も本で読んだことはありますが、一騎当千の強者で世界が滅びかけた時に現れる英雄ですわ」

「伝説の英雄か。先ほど第二中隊の勇者を見たが、ああいうのが物語の英雄になるのか?」

 

マリアンヌは目を閉じて首を横に振る。

 

「あれは偽物だと思いますわ。いくら人質を取られたとはいえ、人質を犠牲に敵を殺すのはありえませんわ」

「お前高位の軍人の娘だよな?」

 

 彼女は首を振る。ルシオと一緒にするのは失礼だから彼女に謝罪した。

 

「マリアンヌ、よければ俺の部隊に所属しないか?  お前の光明正大なところ気に入った」

 

 気がつけば勝手に口が動いていた。

 

「微力ながらお手伝いさせていただきますわ」

 

 彼女は頭を下げて俺に向き合う。その瞳には今までにない光が宿っていた。

 

「今は負傷者の救護だ。急ぐぞ」

 

 マリアンヌが、はいと答える。二人で救護所に向かうと血だらけの兵士や手足を失った兵士が倒れていた。

 

「アルト臨時軍曹。参りました」

「アルト臨時軍曹、リエーズ一等兵急いで救護してくれ。ここにはソウルボードを破壊された下層民しかいない。彼らを救ってやるんだ」

「了解!」

 

 女性兵士は作業に戻った。俺は包帯や薬品のカードを持ち、担当エリアに入る。ソウルボードで実体化させて応急処置を開始した。包帯を巻いて傷口を押さえても血が止まらない兵士や空を求めるように手を伸ばす兵士。死にゆく兵士の死におびえる表情にとげがささったような感覚を覚えた。

 

「いつみてもなれませんわね」

「人が死ぬのを慣れる機会なんて一生ないだろうな」

 

 助かる人から順番に包帯を巻いたりしていく。重傷者は専門の軍医に任されているため、こちらは比較的軽傷なものが多い。それでも大量出血で死に至るものも多い。マリアンヌは死んだ兵士の前でひざまずく。彼女の肩を支えて立ち上がる。

 

「人間ってこんなに死にやすいんですわね」

「ソウルボードがあればもっと救えたんだが……」

 

 今この瞬間も兵士たちが死んでいく。彼らはあきらめたように、光のない目で天井を見上げていた。二人で目を背けてしまった。

 

「アルト臨時軍曹。貴官の部隊はもう休むんだ。残りは我々医療班でやっておく」

「アルト様……まだやれますわ。あんな悲劇繰り返してはいけませんわ」

 

 マリアンヌは元気に返すも靴ひもを踏んで転んでしまう。彼女を受け止めて立たせる。

 

「帰るぞ。彼らも兵士だ。死ぬことを覚悟してここにきている。お前も気負いすぎるな」

 

 マリアンヌにフォローしつつも命令する。

 

「……わかりましたわ」

 

 マリアンヌは顔を伏せて答える。救護所を後にして、夜の闇に向かって歩き出した。先が見えない漆黒の海に向かってゆっくり歩き出す。足取りは自然と重くなった。

 

「なあ、マリアンヌ。身分によって待遇に差がつくなんてあり得ないと思うよな」

 

 マリアンヌは青色の瞳に驚きの光を宿す。

 

「ええ。ですが私たちに何ができるのでしょうか」

「今は何もできない。だが、俺は今回の会戦で敵総大将を殺した。おそらく下士官への昇格が決まるだろう。だから……」

 

 漆黒の海に光が生まれる。その光に向かって歩き出した。

 

 

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