日本最強、錆白兵の友達   作:113(いちいちさん)

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第拾捌話 鬼殺隊の二大巨頭

「最も重要なのは体の中心、足腰である。強靭な足腰で体を安定させる事は正確な攻撃と崩れぬ防御へと繋がる」

 

 自身の修業を中断した悲鳴嶼は炭治郎と善逸に訓練内容を伝える。

 

「まず滝に打たれる修業をしてもらい・・・丸太三本を担ぐ修業・・・最後にこの岩を一町先まで押して運ぶ修業・・・」

 

 炭治郎達の視線の先には縦横共に2メートルを超える岩が佇んでいた。

 

「私の修業はこの三つのみの簡単なもの・・・下から火で炙るのは危険な為無しとする」

「すみません善逸が気絶しました」

「川に浸けなさい」

 

 容赦無く川に沈められる善逸。

 

「ギャアアアッ!!づべてぇええええ!!」

 

 極寒の川よりも冷たい水に一瞬で覚醒し震え上がる善逸。そこに見知った人物から声が掛かる。

 

「久しぶりだな・・・岩にくっつけ・・・あったかいぞ・・・」

 

 そこには岩にしがみついた村田と隊士達がいた。

 その言葉を聞いた瞬間、雷の如き速さで岩にしがみつく善逸。

 

「(あったけぇ・・・!岩ってこんなにあったけぇんだ・・・!!)」

 

 岩の温もりに感動する善逸であった。

 

 

 

 炭治郎達が滝行を始めて数時間後、彼らは焚火を囲んで昼食をとっていた。

 

「はい皆さん、温かいお茶です」

「ありがとう沙代ちゃん」

 

 稽古の手伝いをする沙代にお茶を手渡され礼を言う炭治郎達。過酷な修業の中、可憐で優しい沙代の存在は隊士達にとって数少ない癒しとなっていた。

 

「沙代ちゃんはきっと良いお嫁さんになるよ」

「結婚してくれぇ・・・」

「うーん、私、結婚するなら先生(悲鳴嶼)みたいな人が良いかな?」

「「「「「それは無理だ・・・」」」」」

 

 沙代の理想とする男性像に戦慄する隊士達。

 そんな彼女を見て炭治郎は今は亡き妹の花子を思い出していた。

 彼女達の容姿はよく似ており、成長した花子も可愛かっただろうなと一人感傷に浸っていた。

 

「そう言えばよぉ、すげぇよあの玉ジャリジャリ(悲鳴嶼)親父」

 

 そこに夢中で焼き魚を頬張っていた伊之助が悲鳴嶼の話題に反応し話しかけてくる。

 

「岩柱の悲鳴嶼さんな?変なアダ名をつけちゃ駄目だよ?」

「初めて会った時からビビッと来たぜ、間違いねぇアイツ・・・」

「骨も食べるのか伊之助・・・!?」

黒焦げ親父(黒兵衛)と同格だ

「やっぱりそうかー、あと黒兵衛さんね?」

 

 伊之助の言葉に同意する炭治郎。

 

「お前ら知らないのか?あの人は川柱が直々に勧誘して来た人で、"鬼殺隊の二大巨頭"って呼ばれてる凄い人なんだぜ」

 

 そこにこの中で鬼殺隊歴が最も長い村田が補足する。

 

「俺一度だけあの人達と一緒の任務に就いた事があるんだけど、マジで次元が違ったよ・・・鬼が消えて行くんだもの」

「あの二人はもう戦いじゃないよな・・・」

「鬼殺隊最強はどっちかよく話題になるよな?」

「技の川柱、力の岩柱って言うよな」

「俺は信じないぜ、あのオッサンはきっと自分もあんな岩一町も動かせねぇよ・・・若手をいびって楽しんでんだよ」

 

 隊士達の話を聞いて、修業の過酷さからいつものヒステリックになった善逸はそう吐き捨てる。

 しかしそんな善逸の眼前を修業で使われる物の()()()()大きさの岩を押す悲鳴嶼が通り過ぎて行く。

 

南無阿弥陀・・・南無阿弥陀・・・

「あ、ちょうど通ってるな」

「先生頑張って〜!」

・・・・・・南無阿弥陀、南無阿弥陀

 

 沙代からの声援を聞いた悲鳴嶼は一瞬動きを止めると、涙を流しながら先程より少し速い速度で岩を動かし始めた。

 

「凄いなぁ悲鳴嶼さん!俺もあんな風になれるかな!?」

「なれてたまるかあ!!」

 

 そんなこんなで数日後。

 滝行と丸太担ぎを早々に終えた炭治郎は、岩を動かす修業で行き詰まっていた。

 

「駄目だ・・・ん?」

 

 修業を行う炭治郎は、複雑な感情の匂いを嗅ぎ取った。

 その匂いが無性に気になった炭治郎が匂いの元に向かうと、そこには岩を押そうとする一人の隊士がいた。

 

「クソっ何で動かねぇんだ・・・!!」

 

 そこにいたのは善逸の兄弟子である獪岳であった。

 

「(これは・・・焦りに苛立ち、恐怖に罪悪感?よく分からないけど、色んな負の感情が混ざった複雑な匂いがする)」

 

 炭治郎はとりあえず木陰から出て話しかける事にした。

 

「あの!」

「ぁあ?誰だお前?」

「竈門炭治郎と言います!何か悩み事ですか?よければ話を聞きますよ?」

「うるせぇな、あっち行ってろ!」

「(ああ、これは本気で迷惑がってる匂いだ・・・)」

 

 炭治郎は獪岳が本気で拒絶している事を嗅ぎ取り一旦離れる事にした。

 

「あの、いつでも相談に乗りますので!」

「余計なお世話だ!」

 

 炭治郎がその場から離れると、同じ様に木陰から獪岳を心配そうに覗き込む沙代を見つけた。

 

「獪岳・・・」

「あれ、沙代ちゃん?」

「あっ炭治郎さん」

「もしかして知り合い?」

「はい、昔先生達と一緒に暮らしてた事があって・・・」

 

 そこで沙代の表情が曇る。

 

「あの夜・・・みんなが追い出して・・・うぅっ!」

「沙代ちゃん!!」

 

 沙代の顔は青褪め、身体が震え出しその場に蹲る。

 炭治郎は急いで彼女に駆け寄り背中を摩りながら、強い恐怖の匂いに顔を顰める。

 彼女は鬼に襲われた日の事を思い出そうとすると体が強い拒絶反応を起こす様になっていた。自身の精神を守る為、過去の記憶に一部蓋をしているのである。

 

「ごめんなさい、思い出そうとすると・・・」

「ごめん!怖い事思い出させちゃって!」

「でも・・・先生なら覚えてるかも・・・」

「悲鳴嶼さんが?」

 

 炭治郎は獪岳の様子が気になったが、彼らの事情に自分が踏み込んで良いものか判らず先ずは目の前の修業に集中する事にした。

 その後、再会した玄弥に岩を動かすコツとして反復動作のやり方を教わり、幾度となく挑戦する事により見事岩を動かす事に成功した。

 因みにその光景を見た伊之助は対抗心に火が点き瞬く間に反復動作を習得してしまった。

 そして一人置いて行かれる事にショックを受ける善逸であった。

 

 

 

 見事岩を一町動かす事に成功した炭治郎であったが、あまりに集中していた為脱水症状に陥っている事に気が付くのが遅れてしまい死の淵を彷徨っていた。

 しかし間一髪の所で悲鳴嶼に水を飲まされ事なきを得た。

 

「岩の訓練も達成した。それに加えて里での正しき行動、私は君を認める・・・」

「里?」

「君は刀鍛冶の里で鬼の妹の命より、里の人間の命を優先した・・・」

「あっ、それは・・・」

「恥じる事はない、君は剣士の鑑だ。自分の正しき行動を誇ると良い・・・」

「いいえ違います。決断したのは禰豆子であって俺ではありません。俺は決断ができず危うく里の人が死ぬ所でした。認められては困ります」

「・・・・・・」

「いつもどんな時も間違いのない道を進みたいと思っていますが、先のことはわかりません。いつだって誰かが助けてくれて俺は結果間違わずに済んでいるだけです。あの時も本当に危なかったんだ」

 

 炭治郎は俯いていた顔を上げ悲鳴嶼の顔を真っ直ぐ見つめる。

 

「だから俺のことを簡単に認めないで下さい!」

 

 悲鳴嶼は炭治郎の心からの本音を聴き、彼への評価を改めた。

 

「疑いは晴れた。誰が何と言おうと私は君を認める、竈門炭治郎」

「ええっ・・・どうしてですか?」

「私は昔、寺で身寄りの無い子供達を育てていた・・・」

 

 悲鳴嶼は炭治郎に自分の過去を話した。

 九人の子供と共に本当の家族同然に暮らしていた事。ある夜一人の子供が勝手に出歩き、運悪く鬼と遭遇した事。その子供が自分の命と引き換えに悲鳴嶼と八人の子供の命を鬼に差し出した事。自分の言う事を聞かずに沙代以外の子供が皆殺された事。沙代を守る為たった一人で素手で鬼と戦った事。

 この話を聞いて炭治郎は初めて悲鳴嶼が盲目だという事を知った。

 

「もしかしてその子供が・・・」

「そう、獪岳だ・・・」

「そんな・・・」

「覚悟の無い子供が自分の命惜しさに他者を差し出すのは、仕方が無い事でもある・・・」

 

 悲鳴嶼の話にショックを受ける炭治郎。

 

「子供というのは純粋無垢で、弱く、すぐ嘘をつき残酷なことを平気でする、我欲の塊だ・・・しかし・・・」

 

 悲鳴嶼は初めて黒兵衛に出会った朝の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

「遅かったか・・・」

 

 肩に白鴉を乗せた黒兵衛がぽつりと呟く。

 朝日が昇り鬼は塵となり、子供の亡骸に囲まれた血塗れの悲鳴嶼、そして部屋の片隅で啜り泣く沙代の二人だけの本堂が照らされていた。

 

「・・・誰か?」

「安心しろ敵じゃない、何があった?」

「ひっぐ・・・うあ・・・!」

 

 入り口に現れた大人の姿を見て沙代が駆け寄って言う。

 

あの人は化け物・・・!みんなあの人が・・・!みんな殺した・・・!

「ハッ!?」

 

 沙代の言葉にショックを受ける悲鳴嶼。

 しかし、鬼殺隊士である黒兵衛は全てを察した。

 

「そうか・・・安心しな、悪い化け物はあのお兄ちゃんがやっつけてくれたからな?」

「・・・あっ!」

 

 その言葉を聞いた沙代は駆け出し悲鳴嶼に抱き付く。

 

「守ってくれてありがとう・・・!先生・・・!」

「あぁ・・・お前だけでも生きててくれてよかった・・・」

 

 二人が抱き合い涙を流す光景を黒兵衛達は静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

「それと同時に、言葉足らずで些細なすれ違いから取り返しのつかない誤解を生む事もある」

「ッ・・・!」

「もしもあの時現れたのがあの人では無く鬼を知らぬ唯の村人であったなら、恐らく私は一生沙代を誤解したまま生きていた」

 

 過去を振り返る悲鳴嶼。今の彼には獪岳に対する怒りや悲しみではなく、あの夜の真実を知りたいという気持ちだけがあった。

 

「私は、獪岳があの日何故言いつけを守らず外にいたのか、本当の事を話してくれるのを待つつもりだ」

「・・・獪岳さんも、後悔してるみたいでした」

「そうだろうな、人一倍臆病な彼が今も鬼殺隊に残っている事が何よりの証だ。それに今はあの人がついている」

 

 

 

 その日の夕方。

 

「よお!久しぶりだな獪岳!」

「あ、兄貴・・・」

 

 岩の側で座って休んでいた獪岳が顔を上げると、いつの間にか岩の上から黒兵衛が見下ろしていた。

 彼は岩から飛び降りると音も無く獪岳の隣に着地した。

 

「どうした?これくらいの岩お前ならどうって事ない筈だろ?」

「いえ・・・」

「また何か悩み事かい?お前は不安になるとすぐこれだからな」

 

 獪岳は本来かなりの実力があるが、不安や緊張が高まると本来の力が発揮できなくなるという大きな欠点があった。

 彼が雷の呼吸の壱ノ型が使えなかった理由も、敵の前で刀をしまう事への恐怖や最初の一撃を防がれたらという不安から来るもので、黒兵衛からの虚刀流を参考にした助言により、武器を手放さず常に攻撃可能な籠手型の日輪刀と呼吸の型を繋げた連続技を編み出した事で解消したのだ。

 

「それで、今度は何が不安なんだ?」

「それは・・・いや、兄貴になら・・・」

 

 獪岳は一瞬言い淀んだが、黒兵衛を信頼し意を決して話すことにした。

 

「聞いてくれますか?俺の罪を・・・」

 

 彼は自身の過去を黒兵衛に話した。

 昔は悲鳴嶼達と暮らしていた事。ある時町で酒飲みが博打で大当たりをしたという話を聞き、自分もそれで大金を手に入れればもっと暮らしが裕福になり悲鳴嶼からも褒められると思った事。そのために寺の金をこっそり持ち出そうとしたが他の子供達にバレ、言い訳を聞き入れられず追い出されてしまった事。翌日、ほとぼりが冷めた頃に戻ろうとしていたが運悪く鬼に遭遇し、自身が助かる為に寺の皆を差し出した事。

 

「馬鹿だよな・・・博打に勝てる保証は何処にもなかったってのに・・・」

 

 獪岳は自傷気味に笑う。

 

「俺は自分の命惜しさに仲間を売ったクズだ・・・軽蔑しただろ・・・」

 

 獪岳は隣に座り話を黙って聴いていた黒兵衛に問いかけるが、彼の表情は普段と全く変わっていなかった。

 

「いや?言っちゃあ悪いが、俺からしたらガキの命乞いなんて可愛いもんだ」

 

 残酷な話だが、鬼狩りを長年続けて来た黒兵衛にとって仲間を売るという行為は日常茶飯事であった。それどころか弱みや悪意を持って鬼に協力する者も山程見て来た。

 直近で言えば無限列車の車掌達に身近な存在では伊黒の一族など。

 それらに比べれば何の覚悟も無い子供が命惜しさに仲間を差し出した程度で今更獪岳への評価を変える事は無かった。

 

「確かにお前は取り返しのつかない事をした。だがな、こうして鬼殺隊として罪を償おうとするお前は立派だと思うぜ?」

「兄貴・・・」

「とにかく行冥と話せ、アイツも突っぱねるような男じゃねぇよ」

「・・・はい」

 

 そこに突然白鴉が現れ黒兵衛の肩に止まった。

 

「黒兵衛、そろそろ陽が沈むでござるよ」

「・・・そうだな」

 

 白鴉の言葉を聞き立ち上がる黒兵衛。

 

「それじゃあな、お前ももう休め。それと()()()()()も忘れるなよ?」

「?・・・はい」

 

 そう言うと彼は来た時と同じく一瞬で獪岳の前からいなくなった。

 

 

 

 その日の夜。

 白鴉から今夜の稽古が中止になった事を聞いた悲鳴嶼以外の柱達は各々帰路についていた。

 

「ったく・・・今日の稽古はまだしも、柱同士の稽古も禁止たぁどういう了見だァ?」

「今夜はしっかり休めとの事だが・・・あの人の事だ、何か考えがあるのだろう」

 

 実弥と伊黒は共に歩いていたが、何かの気配を感じて立ち止まる。

 

「ッ!」

グシャッ!!

 

 叢から飛び出して来たものを反射的に握り潰す実弥。手を広げると、そこには「参」と描かれた目玉があった。

 

「何だそれは?・・・ッ!!」

「ッ!!侵入された!?」

 

 

 

 深夜の産屋敷邸。

 縁側のある座敷にて病床に臥せる耀哉と付添のあまねの下に遂に彼が辿り着いた。

 

「・・・やあ、来たのかい?」

 

 全身に包帯を巻き息をするのがやっとな状態の耀哉が話しかける。

 

「・・・初めましてだね・・・鬼舞辻・・・無惨・・・」

・・・何とも醜悪な姿だな、産屋敷

 

 月明かりに照らされる白いスーツの上に黒いコートを羽織った黒髪の優男、彼こそが千年もの永きに渡り鬼狩りと争い続けてきた鬼の首領、鬼舞辻無惨である。

 

 

 

 遂に現れた鬼舞辻無惨。千年続いた彼らの戦に今夜、終止符が打たれるのでございます。




大正コソコソ噂話
 獪岳の壱ノ型云々については先駆者様方の設定を使わせてもらいました。また、彼らの過去については完全に作者の捏造です。この作品の獪岳はこういう存在です。
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