【彼は何処に?】
日本・某所、DA本部の司令室にて。
「ーーーで、彼は今も消息不明なのか?」
楠木は書類に眼をやりながら言う。彼女と話している相手は春川フキだった。
「はい、退院以降どこにいることすら見当もつかず・・・」
フキの言葉に呆れたのか、それとも召喚した彼に呆れたのか、或いは両方なのか?楠木は書類を雑に置いてフキに命令する。
「彼を何が何でも見つけるんだ。」
「何が何でも・・・ですか?」
楠木の言葉にフキが戸惑う。
「あぁ、ここだけの話だがお前たちとと千束たちに教官を据え、独立した強襲組織を持って欲しいという理由がーーー」
「は、はぁ・・・」
フキにはわからなかった。彼女らの教官に彼を据える必要があるのかすら、今の今まで明らかにしてなかった。
ましてや、彼が事件解決のベテランであり、歴戦の勇士であるαチームと千束とたきなに必要かというと、現在では不要だとフキは思っていた。それでも楠木が言うには、
「まだ”彼”に教わる必要があるだろう。」
と頑なに認めなかった。それだけ彼に依存していることだろう。だが、その彼が日本に帰国して以来、楠木は何かと教官になったばっかりの彼に仕事を押し付けた結果、消息不明となった。
フキは、
(因果応報と思うんですが・・・)
なーんて思っていたりした。
しかしながら、フキたちも違和感があった。違和感を拭いきれない理由としては、ラジアータが彼の居場所を特定してないからだ。特定人物であればすぐに顔が割れる。約1年前、彼が所属していた傭兵集団が入国した時も直ぐに顔が割れた。が、今では彼自身すら特定に至っていない。もっとも情報部からは、インフラプログラムにも異物混入の報告が入ってない。
見つかっていないだけかもしれない。それでも、彼が消息不明になってからこの1週間で慌ただしく、情報網の一部を失った状態でDAの情報網は欠落したまま動いているのが事実だ。
DAという組織が彼に依存した結果、体をなっていない・・・というのはまさにこのこと。楠木からの発言をほっぽいて、聞き流してはある程度話し終えたところでフキは退室した。
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フキが退室した廊下にはサクラやエリカ、ヒバナ。息が上がっている千束とたきな。そして傭兵集団時代にセカンドに推薦された磯部モモがいた。
それぞれフキに対してヒヨドリが餌を求めるように叫んだ。
「先輩!どうなったんすか!?」
「フキ、どうなった!?」
「彼を見つけたんですか?」
「あー!もう!うるさいっ!」
彼女らはフキの一喝で、
(スンっ・・・)
とした。
「言いたいことはわかるが、司令ですらもずっと混乱状態なんだっ!私らがどうすることもできないのは十分承知の上だろう。」
フキの答えに異議を呈したのは千束だった。
「でもさぁ、このままだと”フレディ”さんが居ないまま訓練しろって言われても、レベル上がんないよ?」
フレディ。
そう、教官であり彼の偽名だ。本名は過去に明かされたが、彼自身が望んでいないので偽名で呼び合うことにしたのだ。千束たちはずっとフレディのことが心配で小言を言うがフキは払いのけた。
「わぁーってる!でも手の打ちようがない上に、私たちだけでは見つけることが出来ないからチェコ人の女教官に聞いてみた方が良い。」
”チェコ人の女教官”というのはフレディが連れて来た戦術指揮官をそのまま教官としてあてがわれた。
「まずは彼女にも聴こう。話はそれからだ。」
「「はーい。」」
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「ーーーはぁ?あんな鈍感男なんて知らないわよ。」
チェコ人の女教官は流暢な日本語で声を荒げる。もっとも彼女ですらフレディの居場所なんぞ知らず、ずっとサードリコリスの教官をやらされていた。
彼女の不満はそれだけじゃない。先の作戦で、フキやサクラ、モモのみならず作戦外の千束たちを庇い、自ら殿を努めて身体を失いながらも帰還したことに腹が立ってしょうがないのだ。
「だからあんな鈍感男は知らないわよ。」
と吐き捨てる女教官。
「で、でも・・・”イーダ”さんなら何か知っているかと・・・」
フキは精一杯の言い分を言うが、イーダと言われた女教官は鼻を鳴らして言い放つ。
「知っていたなら、私に手を出した件もひっくるめて先に殴りに行ったわよ。」
と、フキたちの前から去っていた。まだ子供であるフキたちにはその言い分がわからずに突っ立ていた。千束がフキの隣に立って呟く。
「フキぃ・・・どうする?」
「どうしようもないだろう。そっちですら掴めてない以上諦めるほかない。」
そっちというのはクルミのことであり、クルミですら居場所を特定してないからだ。
「でもでも先輩!アタシらまだ『ありがとう』すら言ってないすよ・・・」
サクラが過去のことを掘り返すが・・・
「彼にとっての『ありがとう』は私たちが生き残っていることだ。」
と一蹴された。
フレディは闇社会に生きる人間とは裏腹に、千束やフキのような若い子に戦いを行かせない人間であった。その理由として、彼の青年時代は少年兵で7歳の時から血を奪っている死神の子だからだ。
14歳の時は脳を含んだ左半身を戦場で失うものの、アラン機関によって一命をとりとめ、再び戦場で帰り咲いた。その影響で自分より若い世代を長生きするために、『生か死か』の訓練でたゆまぬ努力をしている。延空木事件では愉快犯・真島とのサシとの勝負で千束をたきなに任せて自ら死にに行ったし、直後の作戦ではフキたちを庇って殿を受け持ち、子供たちの平和を護るためならば自死を選ぶ人間なのだ。
そんな彼が行方を眩ます理由は1つ。
『若い子に戦いを教えられない。』
というのが妥当だろう。
フキはどうしたものかと考えた。すると最年少であるモモが提案した。
「あのーフキ先輩に千束先輩・・・よろしいでしょうか?」
「なんだ?」「なになに?モモちゃん?」
「一応、思い当たるフシがあるんです。フレディさんが悪巧みして隠れそうなところをーーー」
「知っているのか?」「んもぉ~先に言ってよ~」
「はい。で、場所がたきな先輩が失脚したビルに居ると思うんです。」
モモ以外の全員が耳を疑った。
たきながスタンドプレイしたビルに彼が居るはずが・・・ーーーいや、ある。
彼の事だ。自分を悪者にして”そこにいる”と見せかけた方が悪意が滲み出る。彼らしいやり口だ。いくらなんでも悪趣味な居場所ではあるが、あり得てしまうのが笑えない。
「とりあえず行ってみるか。」
そうフキが呟くと皆が皆、支度を始めた。
⇒次回【悪趣味な教官】