クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ大統領(偽)   作:けつだけせいじん

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雲黒斎の野望 1

 

 

「ヨシ、こんなものか」

 

 

 日課となった大統領ロールプレイを切り上げ、ゴロンと地面に横たわる。

 

 大声を出して火照った身体。

 それを湿り気を含んだ大地が熱を冷まし、心地良い気分にさせてくれる。

 

 ……寝返りを打ってしまうと巨大な角が地面にブチあたり、止まるどころか掘り進んでしまうのは難点だけども。

 

 

 それはさておき。

 

 ーー何故、俺が大統領ロールプレイをしていたのか。

 

 それには理由がある。

 

 ブリブリ王国の秘宝編で判明した事実は主に二つ。

 

 

 一つ目はブリブリ魔人によって与えられた情報だ。

 

 

 異なる世界を創り出せる空想樹。

 有り得ざるもしものIF。

 この先の未来が無いという事で、世界の容量を軽量化する為に剪定された世界。

 

 ブリブリ魔人によると、そんな大層な代物が大統領の宝具によって空想樹を生み出せるらしい。

 

 現代のゲームがしたい。

 小説を読みたい。漫画を見たいという欲求は日々高まる一方だ。

 だがそれも、何故かクレヨンしんちゃんの世界に来てしまった現状では叶わない夢だ。夢だった。

 

 そう。“夢だった”だ。

 過去形なのである。

 

 かつて自由に触れられた上質な娯楽達。

 空想樹さえあれば、シミュレーションによってその求めに求めた娯楽達を再現できる。

 

 

 そこで重要になってくるのが二つ目の事実。

 

 

 U-オルガマリーのロールプレイを行うと、大統領スペックが順次解放されて行く謎システムが俺に搭載されているのだ。

 

 これがどういう事かというと。

 

 多分大統領の力を上手く扱えないのは、大統領の外殻と、俺という魂の中身が一致していないからだ。

 外と中の波長が上手く噛み合わさっていないが故に、振るえる権能に制限がかけられている。

 

 

 例として上げるならドラゴンボールのギニュー隊長を想像して貰えば分かりやすいだろうか。

 

 ギニュー隊長は“チェンジ”という掛け声と共に身体を交換する特殊能力を持っているのだが、なんと作中で悟空さの超パワーに目をつけた後、悟空の身体を奪ってしまうのだ。

 

 馴染む! 実に馴染むぞッ! 

 

 と、奪った直後は某吸血鬼のようにはしゃいで居たのも束の間。

 

 イキりイキって戦闘力を高めてもスカウターによる戦闘力観測で「え、たったのこれだけ……?」との反応になってしまう。

 そうなったのは正義の身体に悪の心が入り込むので上手くパワーを出せないから、と描写されていた。

 

 それと俺の現状も同じようなものだ。

 

 大統領の身体に、俺という魂が合致していない。

 だからFGOでは振るえた筈の強大で強力な権能の数々が使用不可になっているのだろう。

 

 それ故に大統領に備わっているハズの宝具を解放すべく、日夜大統領っぽい振る舞いを春日部地下の拠点で行っている。

 

 いるんだけど。

 

 

 ーーちっとも目が出てこないんだな。これが。

 

 

 あれから暫く時間が経ったというのに、新たに解放された力とか全くなかったりする。

 

 なんでさ。

 おかしくない? 

 

 

 地面を手のひらでバンバン叩く。

 それだけで強大な衝撃が広がり、土煙が舞う。

 

 

 俺、覚醒したじゃん。

 バリバリ大統領の力に目覚めてブリブリ魔人もブッ倒したじゃん。

 なんかこう、これから大統領の力がどんどん解放されて行く流れだったと思うの。

 

 おかしい……おかしくない? 

 

 天下一武道会でピッコロを倒した後、サイヤ人編になる時まで殆ど成長してなかった悟空くらい代わり無いんですけど。

 そりゃ確かに持ち前の魔術とか重力操術の技術は向上したさ。

 

 でも、それは俺の望んだ成長ではないんですけど。

 何か? 莫大な成長がしたいならナメック星の最長老様にでも潜在能力解放してもらえってか? 

 

 いねーよそんなもん。

 

 

 

 ひとしきり愚痴を吐いた所で、むくりと上半身を起こす。

 

 ……まぁ。実の所。

 何故、大統領のロールプレイをしているのに新しい能力が手に入らないのか。

 なんとなく予想は付いている。

 

 それは、“観客”の有無だ。

 

 自分一人だけでロールプレイを行ったとしても、其れで本当に大統領っぽい言動が出来ていたか? 

 と問われたら『NO』としか言えない。

 

 そりゃ、演技の天才でもあれば話は簡単だったろうが、生憎と俺は演技なんてとんと縁がない人生を送って来た。

 尊大であり、臆病でもあり、気難しいかと思えば案外チョロかったりする性格を完璧に模倣するのは一般ピーポーには土台不可能なのだ。

 

 特にツンデレみたいな演技は対人なしにどうしたらいいのかさっぱり分からない。

 何に対してツンしてデレろと。

 

 演技なんて齧った事もない一般人たる我が身が出来る事と言ったら、口調を真似ることが精々だった。

 だから精神を大統領に寄せるに形から……人を練習台にして入る必要がある。

 

 なのでロールプレイをするなら対人関係がほぼ必須と言える。

 

 無論、そんな羞恥心が極端に刺激される罰ゲームなんてやりたいはずもなく。

 どうにか単独で出来ないかとアレコレやっていたのだが、今のところ、進退窮まったとしか言えないのが実情だったりする。

 

 

 ……とりあえず。明日からなんか頑張ろう! 

 

 そう先延ばしにしつつ、また日課になっている大統領の詩を通じ、野原一家の日常を覗き見る。

 これは休憩だからセーフ。

 明日への英気を養うだけだからセーフ。

 

 誰にも言う訳でもなく、内心で言い訳をする。

 

 おっと、いけない。

 動画鑑賞には飲食が必要だな。

 いや、動画では無いんだけども。

 

 簡素なちゃぶ台と湯呑みを作り出し、コポコポと麦茶を入れる。

 次いでにお茶請けとして煎餅も出して、パリッと齧る。

 

 やはりお茶と言ったら煎餅だよな。

 ポップコーンにコーラも悪く無いが、たまの味変も良き。

 

 どれどれ……。

 今日の野原家の様子はっと。

 

 

『私と一緒に行っていただきたいのです』

 

 

 其処に映し出されていたのは、野原家の飼育犬ことシロが二足立ちして喋っている珍妙な光景だった。

 

 

 えっ! シロが喋ってる!! 

 

 思わず、摘んで居た煎餅を握り締め、パラパラと粉微塵になってちゃぶ台の上を彩る。

 

 あっ、とーちゃん(ひろし)が「俺達が、戦国時代に」とか言ってる。

 

 待て待て待て。この一連の流れ、見覚えあるぞ。

 雲黒斎だ。雲黒斎の野望編始まったぞコレ! 

 

 

 雲黒斎の野望。

 

 それは時空改変を目論んだ未来人。

 ヒエール・ジョコマンという人物を端に発生した事件。

 

 いわば時間犯罪案件である。

 

 当然、犯罪を犯す者もいれば、取り締まる者もいる。

 今現在進行形で喋っているシロは同じく未来人のリング・スノー・ストームというタイムパトロール女性隊員が乗っ取った姿だ。

 発生した異変を調査中、突然急襲を受けこの時代に不時着した結果、機体ごと地面に埋まり、偶然近場に居た哺乳類……犬のシロに乗り移った。

 

 野原一家に地面を掘り起こして本体を救出してもらわないのは、やはり人目を気にしているからだろう。

 地面に埋まっている時間跳躍可能な機械。

 壊れかけとはいえ、過去の時代からしたら超絶技術を詰め込んだ代物。

 

 まー地面に深々と埋まってるものを短時間、少人数で掘るなんて無理がある。

 まず間違いなく近所の噂好きのおばさんによって発見され、噂を広められ、騒ぎになるだろう。

 

 そうなれば必然、彼女自身も時間改変を起こす事となってしまう。

 だから苦肉の策として野原一家に助けを求めたんだろうけど。

 

 

 これに対し、俺はどうすべきかといえば難しい。

 

 

 う、うーん。未来人。未来人かぁ。

 未来では俺に対する扱いってどうなってんだろ。

 

 ぶっちゃけた話。

 俺もその理論で言うと、時間改変犯罪者に違いはないんだよね……。

 

 タイムパトロール的に言えば、過去を改変したもの。

 それは等しく時間犯罪だろう。

 

 類に盛れず、俺はおもっきし原作に存在しなかった異物なのにあちこち介入しまくっている。

 

 これで時間改変してません! は無理がある。

 

 

 重大な改変はしてないからセーフか? 

 でもテロリストの親玉であるアナコンダ伯爵とか、あの後ひっそり助かってるしな……。

 

 実は潜水艦とか飛行機とかを借金してこさえていたらしい伯爵は、あの後差し押さえを受けて立派な債務者となったらしく。

 今では立派にカニ漁船の一員として頑張っている。

 

 ブリブリ魔人の願いに一点賭けし過ぎだろ。

 

 ちょっぴり可哀想とは思わなくもないが、壺ごと永遠に封印されないよりはマシだろう。

 命拾いしただけで儲けもんだ。

 

 

 そんな感じで、ちょこちょこ改変してしまっているのが現状だ。

 

 おそらくタイムパトロールがこの時代に来た彼女以外現れていないから、多分セーフ……だと思いたい。

 

 うん。そうだよな。

 俺が起こした数々の介入だって何かあればタイムパトロールが即座に突っ込んで来たハズだし。

 

 無罪! 圧倒的無罪! 

 

 無罪……のはずだ。

 

 そんな訳で自己弁護を成立させた俺は、ちゃぶ台を消し、重い腰を上げる。

 

 本音を言えば雲黒斎の野望編が始まったのは、丁度良いタイミングだったのかもしれない。

 

 大統領ロールプレイも行き詰まっていた所だし、何とかしなくちゃいけない焦燥感もあった。

 

 未だに大統領ロールプレイを人前で披露するのは気恥しいが、うだうだ言って、ここで芋引けば宝具解放なんて夢のまた夢だ。

 今勇気を出して介入しなければ、またずるずると先延ばしにしてしまうだろう。

 

 ここはいっちょ、野原一家に大統領ロールプレイをぶちかましてやるとしますか。

 

 

 俺は迷彩化を発動し、緊急用の過去へ跳躍する片道切符行きの船にバレないように、機械の上部にへばりついた。

 

 獣であるから時間耐性もバッチリ。

 重力操術と迷彩化によって、俺は存在しないも同然。

 

 内部は流石に三人と一匹でぎゅうぎゅうなので入れ無いが、外でも大統領スペックによって安全な環境となっている。

 

 

 フッフッフ。

 待っていろよ。雲黒斎、もといヒエール・ジョコマン。

 縛りプレイのあったハイグレ魔王とは違い、今なら本気を出せるのだ。

 

 全力を出した大統領スペックの力。

 目にものを言わせてやるぜ! 

 

 

 時間遡行中、俺は景色に酔って吐いた。

 

 

 

 

 

 

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