【CLATTANOIA】黄昏の超越者(オーバーロード)‐ファイナルファンタジーXIV‐ 作:ウルトラナポリタン
セバスが1人を確保し、その他は殲滅。周囲は血や諸々が散乱し酷い有様で、この後処理を担当する人たちに同情せざるを得ない。水はけの悪いこの裏路地で水を使うわけにもいかないとなれば、流石の光の戦士もゲンナリする大仕事だろう。
さて、捕虜となると次は
しかし光の戦士はその手の道に疎い。痛みと恐怖による人心の掌握は、相応の技術が無ければただの暴力に過ぎない。
セバスが詰めている屋敷にでも連れて行くのかと彼を眺めていたところ、光の戦士にとって予想外の方法での解決となった。
なんと、彼が捕虜の額に右手のひらを当て1秒弱、捕虜の身体がビクリと跳ねたと思えば、虚ろな目で意識が混濁しているのだ。光の戦士に相手の精神にデバフを与える技は無いが、似たような状態を見たことがある。これは、"心神喪失"だ。ダムの堤防が決壊したかのように、捕虜はセバスの質問に対して一切の淀みなくつらつらと答えを並べていく。
なんでも、彼らは八本指という犯罪組織の警備部門を統括する六腕によって鍛え上げられた暗殺者だという。セバスを殺すためにあとをつけ、接触者がいれば皆殺しにする予定だったらしい。
八本指については光の戦士も知っている。この王都で情報収集をしていれば、嫌が応にも耳に入るものだ。六腕は流石に、表立ったものでもないようで初耳だった。
素性と目的は分かったが、理由については不明なままだ。まぁセバスの息遣いと心拍数の速さから、私事なのは間違いなさそうだが。
捕虜から必要な情報を吸い上げたことを確認して、光の戦士はセバスへと視線を投げる。聡いセバスは光の戦士の意図を酌み取ったのか、ほうと小さく息を吐いて口を開いた。隠し通せないことも、同時に悟ったのだろう。
「……先日、娼館の裏で捨てられた娼婦を拾いました。瀕死の重体で傷の手当はしましたが――その娼館が、八本指の管轄だったのでしょう。彼女の所有について強請られております」
セバスの目が、ほんのわずかに揺れる。生理現象にしては規則的な動きで、動揺から来るものだ。恐らくだが、彼が口にしていた主とやらに報告していないのだろう。彼ほどの男が仕えている存在であれば、何かしらの解決策を持っていてもおかしくなさそうだが……セバスに本人に刺客が来たということは、そういうことなのだろう。
「お前が誰に仕えているかは知らんが、貴族という立場の人間に強請りをかけるなら相応の奴が顔を出していたはずだ。なんと名乗っていた?」
「サキュロント、と。スタッファン・ヘーウィッシュという巡回使も同席しておりましたが」
「ヘーウィッシュ、黒い噂が後を絶たない男でしたが、まさか八本指に与しているとは……!」
「そいつはどうでもいいが、サキュロントは六腕の1人だ。私も直接相対したことは無いが、六腕はそれぞれがアダマンタイト級冒険者に匹敵するという。……まぁ」
そこまで言って、イビルアイは横に並んでいる光の戦士の顔を見上げる。
彼女は光の戦士の正体を知っている。アダマンタイトの冒険者が千人で束になったとしても、光の戦士を打ち倒すことは不可能だ。正面切って戦うのであれば、かすり傷を付けることすら不可能だろう。
そして、光の戦士がこの世界への必要以上の干渉を避けているということも知っている。だからこそ、この事態をどう立ち回るのか気にしているのだ。
正直なところ、光の戦士はどうでもいいのであった。役人が絡んでいるのであれば一人の思惑で事が運んでいるとは考えにくく、掘り過ぎれば藪蛇になりかねない。建前上は国から独立している冒険者が首を突っ込んでも、得られるのは不確定な機密情報と恨みだけだろう。
そして何よりも、この件は光の戦士が求めている『惑星ハイデリンへの帰還』とは関係無さそうなのだ。リクがあれほどまでに慎重になっていることを考慮すれば、内部から腐り落ちている王国が情報を握っているとは到底思えない。
つまり、関わるメリットは皆無に等しい。八本指が牛耳っているという娼館で働かされている者たちは残念だが、こちらにも事情があるのだ。変に目立って、その風評が各国へ流れる方が具合が悪い。
「……」
セバスは迷っているようだ。懐刀という言葉が似合う印象な彼は、自分と主の利益を天秤にかけて苦悩している。
こちらから投げる言葉は無い。すでに、光の戦士がどうするかは決まっているからだ。
チラリ、とセバスがこちらを見た。視線ではなく意識、光の戦士の何かを感じ取ろうとしたのだろう。
どうやらその一瞬で、心が決まったようだった。イビルアイとクライムが話し続けている中、彼は空気を響かせる澄んだ声で決意をあらわにする。
「この者の言では、今ならサキュロントとヘーウィッシュもくだんの娼館に詰めているでしょう。このままでは鼬ごっこ……こちらの浅慮が原因とはいえ、広がる火の粉はここで払うことにします」
そういうことにしたらしい。イビルアイの表情は読めないが、ヒーロー然としたセバスの言葉にクライムは目を輝かせる。クライムの性格上セバスが何を言おうと何かしらの行動を起こしただろうが。
わたしも同行する。左手を水月にあて、そう呟きながら光の戦士は一歩踏み出す。まさか面倒ごとに自分から巻き込まれに行くとは思っていなかったであろうイビルアイからは「えっ」という驚愕の声が、クライムは敬仰の眼差しが向けられた。
セバスは――まるで光の戦士の動きが分かっていたかのように静かに頷いている。この場で一番付き合いの長い仮面の彼女よりも、光の戦士の内面を理解しているようだった。
光の戦士はセバスに興味を抱いている。もちろん好き嫌いのレベルではなく、彼の立場や背後に居る主についてだ。
彼の強さはこの世界の基準にそぐわず、光の戦士もまた、彼の殺気に一切の恐れを抱かなかった。この事実を互いに重く見ているのである。セバスに関わっていれば、面白い何かを掴めるかもしれない。
「わ、私も! 私も行くぞ! 魔法詠唱者は私だけだ! 私も行く!」
光の戦士がノリノリで同行するとは思っていなかったイビルアイ。赤いローブを揺らしながらぴょんぴょんと跳ね、大きく右手を挙げている。
「私も――と言いたいところですが、この場を捨て置くことは出来ません。人死にが出ている以上、私が現場にいたとは言え、事後報告ではお三方に角が立つかと」
「助かります、クライム君。それでは明日の夕暮れ以降、第三通りにある肉屋の前にお越しください。使いの者を待たせますので、改めてお会いする流れをお伝えします」
「そこまで……いえ、感謝します」
「可能な限りで結構ですが、出来るだけ我々の事は内密に」
そこまでやり取りを終え、クライムはセバスと光の戦士、イビルアイに大きく頭を下げて背を向ける。
クライムが角を曲がり見えなくなったところで、セバスは口を開いた。
「この度はご同行いただくこと、感謝申し上げます。お二方がいらっしゃれば非常に心強い」
よく言ったものである。
「制圧ならお前一人で十分だろう。私と彼は、他にいる娼婦たちの救助が目的だ」
光の戦士の感想はイビルアイが代弁してくれたが、別に慈善事業で行くわけではない。ここがハイデリンなら別だが。
まあいずれにせよ、さっさと行動するべきである。魔法か何かですでにバレているかもしれないが、あまり時間をかけると刺客が戻らないことで異常を察するだろう。
光の戦士の言葉にセバスが頷く。転がっている死体を一瞥し、セバスは聞き出した娼館へ向けて歩き出した。
イビルアイは相変わらず手を繋ぎたそうにモジモジしているが、残念ながら今はそういう雰囲気ではない。光の戦士は空気を読める男なのだ。
そうして光の戦士も足を踏み出したところで――覚えのある違和感が全身を襲った。
生命の危機でも、殺気を感じたわけでもない。心地の良い温もりが、優しく体を包み込んでいる。
うふふ! あなたの全ては、わたくしが守るもの!
頬を撫でる懐かしい雰囲気。魂のつながり、可愛らしい少女の柔らかな心地。
「メネフィナ……」
思わず漏れ出す、少女の名。ハイデリンにいた頃はいつも傍に居たかと錯覚するほどに、光の戦士へ懐いていたうら若き女神様。
覗き見られるだけでは彼女は反応しない。彼女の加護が発動したということは、光の戦士を対象に取る何かしらの干渉が行われたのだ。それが魔法かスキルか判断することは出来ないが、
「どうしました?」
すぐ後ろにくっついていたイビルアイが疑念の声を漏らす。ふと前を見てみると、すでにセバスは10mほど先を歩いている。
何でもないと告げ、改めて光の戦士は歩き始める。
当たりだな。前方で足音無く進むセバスの背中を眺めながら、光の戦士は心中で笑っていた。
♦♦
二時間ほど人目のつかない裏路地を進み、問題の娼館の表玄関前に辿り着いた光の戦士たち。セバス曰く、ここが例の娼婦を拾った場所だという。
「さて、どうしましょうか」
どうするも何も、正面切って突入するつもりだろう。光の戦士としてはセバスとその主に少しでも恩を売られればいいので、基本的には従う構えだ。既に大きな貸しも思わぬところで出来ており、釣果としては十分なので流れに身を任せるだけである。
光の戦士がセバスを視線で催促すると、彼は少し顎に手を当てたのち口を開く。
「それでは、私が正面から突入しましょう。内部でどのような情報共有が行われているか定かではありませんが、出来るだけ素早く潰します。お二方は、深部に居るであろうサキュロントとヘーウィッシュ、もしいれば他の重要人物を捕らえて下さい」
「生き死には?」
「問います、出来るだけ。可能な限り情報を引き出したいので。雑兵は皆殺しで問題ございません」
冒険者である光の戦士とイビルアイがこの場にいたという痕跡が残るのは具合が悪い。念入りに殲滅する必要がある。慎重に進まなければならない。幸いイビルアイと2人きりならナイトにこだわる必要もない。軽装かつ無駄に出血させないモンクで行くのもありだろう。
光の戦士とイビルアイは、セバスの言葉に分かったと頷く。
「さて、行きましょう」
セバスは2人に軽く頭を下げ、翻り分厚そうな金属製の扉へと靴を鳴らしながら歩いていく。光の戦士とイビルアイも、足早に娼館から数軒隣に建物前に移動した。
「ノックは4回だったか」
イビルアイが木製の扉に手を伸ばそうとした瞬間、光の戦士はするりとドアノブを握って錠前を力技で破壊しながら奥へと開く。
「わわっ!」
当然あるべき所から無くなった扉に触れられず、イビルアイは前へと体勢を崩した。普段ではありえない事だろうが光の戦士が支えてくれるとでも思ったのだろう、何もヘルプを得られなかった彼女はべちゃりと屋内の床へと体を投げ出す形になった。
光の戦士はレベル
「ぃっう……」
「なんっ」
「おま」
強くぶつけたであろう胸をさすりながら体を起こそうとするイビルアイを尻目に、聞き出していた脱出口の番兵2人の左胸を左右それぞれの拳で殴りつける。パンっという乾いた破裂音。心臓だけを破壊された2人は一度大きく痙攣し、眠るように膝から崩れ落ちた。
光の戦士は周囲を確認する。他に敵はおらず、横に2階へ繋がる階段、突き当りの部屋に続く一本道の通路のようだ。
何かへの敵対意思を持っていないからか、光の戦士の知覚に引っかかるものはない。が、気配的に奥の部屋には7人ほど詰めている。2階には気配が無く、どうやらサボりのようだ。
プンスコと静かにヘソを曲げているイビルアイをジェスチャーで抑え、静かに奥の扉へと近づいていく。はだけている右肩に視線を感じるが無視である。
部屋の前に到着した光の戦士は、優しくドアノブに手をかける。背後のイビルアイに目配らせすると、彼女は静かに頷いた。
扉を開け放つと、室内には7人の武装した男たち。部屋はそれほど大きくなく、先客だけで手狭に感じるほどだ。
それぞれの体勢でくつろいでおり、すぐ外でのコトどころか光の戦士とイビルアイの入室にも興味は無いようだ。
「
男たちがこちらを認識する前に、イビルアイの魔法が放たれる。3つの水弾がそれぞれ男の顔を覆い、音も無く呼吸を阻害した。
イビルアイの魔法の詠唱ともがき苦しむ音に、気付いた他の4人は慌てて腰の剣を抜こうとするが、光の戦士が流れ作業で首へと手刀や蹴りを叩き込みへし折っていく。残ったイビルアイの魔法を受けた3人も、大量に水を肺へと流しこまれたようで息絶えていた。
トリプレットキャストということは、任意で魔法に変化を与えられるということである。話では聞いていたが実際に見ると便利なものだと感心せざるを得ない。
さて、入り口からこの部屋まで一本道で、他にめぼしい何かは存在しない。あまりにも不用心な番兵たちだったが、ここに隠し通路的なものがあるのは確かだろう。
情報によると脱出口なので、こちらから開けることは想定していない。もしくは突かれることを想定して罠が敷かれている危険も有り。
可能性としては非常に低いが、2階に何かしらの仕掛けが施されているかも知れない。
イビルアイがここ1階、光の戦士が未探索の2階。手分けして糸口を探すことになった。
♦♦
結論として、あの娼館は壊滅する運びとなった。光の戦士とイビルアイ、そしてセバスがカチコミを行ったのだから然もありなん、という話ではあるが。
裏口組の2人が見つけた隠し扉から地下へ潜入。例の六腕のサキュロントと八本指の奴隷売買部門、コッコドールと遭遇したのだ。
これ幸いと残りの警備の殲滅をイビルアイに任せ、光の戦士は即座に目的の2人を捕縛。何やら色々罵詈雑言を叫んでいたが、全く光の戦士の目的と関係無い内容だったのでスルーである。セバスは話を聞くと言っていたが、全て引き出せばお役御免で処分されるだろう。
正面を担当していたセバスが合流。入り口から奥に詰める形で可能な限り静かに殺して行き、外に逃げた気配も無かったので大丈夫そうである。
そして、クライムが気を利かせてくれたのか遅れて兵たちが到着。重症者はいたが娼婦たちに死人はおらず、捕虜2人を抱えてトンズラに成功した。非常に素晴らしい、イイ少年だ。
「でも、良かったのですか?」
日も傾き、茜色の帰路。明日もオフだというイビルアイは光の戦士と同じ宿に泊まるらしい。別に文句を言う筋合いは無いが、パーティと一緒にいた方が良いんじゃないかという疑問も覚えていたりする。
セバスはすでに別れており、機を見て礼に赴くとのことだ。
そして、イビルアイの疑問について。セバスのあの殺気を直に受け、彼が只者ではないということは当然感じ取っていたのだろう。
恩を売ったという
確かに体裁上はそうだが、それを考慮するのはセバス側も同じだ。こちらから聞くのは野暮というものである。売ったものは、こちらでの価値が上がってから工夫して買い戻すのだ。
というのは1割冗談で、実際のところ大きな楔は打ち込み済みである。
「楔ですか」
正しくは勝手に打ち込まれていた、だが。
手を繋ぎ、隣を歩くイビルアイが仮面越しに光の戦士を見上げる。夕焼けが反射してピカピカ光り目に悪い。
詳細を話すことは出来ないのだが、クライムと別れたあの時、光の戦士は恐らく第三者から何かしらの干渉を受けたのだ。セバスが仕掛けるのはあまりに露骨なので一周回って可能性ありだが、光の戦士の勘的に、彼の背後に居る者の確率が高い。状況とタイミングからして、他の線はひとまず無視するのが得策だろう。
つまるところ、こちらが本当に接触したいであろう存在が対応を間違えたのだ。
というわけで今は"見"である。
「なるほど……それにしても、今日だけで大きく状況が動きましたね。何かの前触れでなければいいのですが」
光の戦士はコケそうになった。思ってもそういうことは口に出さない方が良い。
まぁいずれにせよ、こちらにも思惑があったとはいえ国の問題に足を突っ込んだのだ。どこかで清算する時は来るだろう。情報そのもの、ではなくその情報に辿り着くための手がかりを見つけるだけでも一仕事だ。
とりあえずブレインはもちろん、リクにも共有すべき事案だった。明日からの動きについて、一度しっかり相談するべきだろう。
ぽてぽてと歩いていると、そういえば昼食を食べ損なったことを思い出した光の戦士。
ステーキの口だったこともついでに脳裏を駆け巡り、宿に帰ったらたらふく肉を食おうと決意するのであった。
「心神喪失」
移動妨害系のデバフ。ゲーム上では操作入力を正しく受け付けなくなり、自キャラの頭上に表示され時計回りに回る指先の方向にしか移動できなくなる。エオルゼア的には文字通りの意味。
「彼女の加護/メネフィナの恋慕」
月神メネフィナから受けている加護。自身が非戦闘状態の場合、最初に受ける干渉を確定で無効化する。以前に出た"とある加護"とは別で、諜報行為、デバフ、(不意打ち含む)攻撃など、光の戦士を対象に取るものをカットできる。
この加護は、戦闘状態が解除されるとリセットされる。
「女神メネフィナ」
エオルゼア十二神の一柱、双月と慈愛を司る月神。月の衛星ダラガブの名を冠する番犬を伴に描かれる。
快活な性格の少女の姿で、光の戦士を兄のように慕っている。他の神々に漏れずすべての人を愛しており、すべてを救おうとその身を焦がす光の戦士を慈しむ。
「モンク」
FF14におけるMelee DPS(近接物理火力)ロールの一つ。3つの型と3つの功力、そして3つのチャクラを駆使して圧倒的手数で攻撃するジョブ。
聞くとややこしいが仕組みは割と単純なので、忙しさと遠距離適性が皆無な点に目を瞑ればそれなりに扱いやすい。
2.0で貰えるAF胴(ジョブの固有防具)がお古なので、一部勢力にくさいと言われてたり。