貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第二十一話 報告

「頼んだのは拠点の探索だけなんだがなぁ。よもや、殲滅してくるとは」

 

 ロッテナウ村に戻ったぼくたちを出迎えた領主騎士イザベラ様は、賞賛と呆れの混ざった表情で言った。

 

「人々の暮らしを脅かす者どもをいち早く除くのが、我々冒険者の仕事ですので」

 

 ステラさんはそれに理想の冒険者そのものの言い草で応じる。良いことを言っているハズなのだが、糸目と胡散臭い笑顔のせいでなにか裏があるようにしか見えない。

 

「しかしな……聞けば、ミノタウルスまで出てきたという話ではないか」

 

「腕試しをするには丁度良い相手でした。なかなか得がたい経験をさせてもらいましたぞ」

 

「左様か。……どうやら、私はいささか金級冒険者というモノを侮っていたようだな」

 

「ふふふ。お言葉ですが、此度の働きは拙僧のみの力で成し遂げたものにあらず。ここなフェルト殿も素晴らしい活躍をしてくれましたよ。彼女は年齢に見合わぬ抜群の剣技の持ち主です」

 

 他人事みたいな顔で話を聞いていたら、突然水を向けられた。

 

「なに、それはまことか? ……ふむ、フォッケル殿。不躾で申し訳ないが、剣を見せて貰ってもよろしいか」

 

「は、はあ、どうぞ」

 

 いきなりのことで面食らったが、まあこの人ならば変なこともすまい。ぼくは大人しく腰から刀を引き抜き、鞘ごとイザベラ様に手渡した。

 

「……なるほど、ずいぶんと血脂を吸った痕がある。かなりの数のオークを斬ったな?」

 

 丁寧な所作でそれを受け取ったイザベラ様は、鞘から少しだけ刃を出してそれを改める。すると、すぐに眉が跳ね上がった。

 

「ミノタウルスも斬りました」

 

「それは凄まじい。……それだけの敵を斬ってなお、刃こぼれひとつないとは。いや、感服したよ。少しばかり悔しいが、貴殿の腕前は既に私を超えているように思える」

 

「流石に、それは。自分など、まだまだ若輩の未熟者ですので」

 

「謙遜する必要はない。三流とはいえ私も剣士、剣を見ればその使い手がどれほどの技量なのかは察しがつくさ」

 

 元気づけるようにぼくの肩を叩いてから、イザベラ様は刀を返してくれた。こうも正面から褒められると、かえって居心地が悪いな。

 

「なにはともあれ、無事に帰ってきてくれて良かった。貴殿らはこの村を救ってくれた英雄だ。領主として、深い感謝を捧げよう」

 

 そう言って、イザベラ様は深々と頭を下げた。

 

「こちらから求めた以上の仕事をしてくれたのだ。報酬は増額させてもらう。まっ、無い袖は振れぬのであまり多くは出せんが」

 

「いえ、そんな。そのようなお金があるのでしたら、オークとの戦いで目減りした戦備の補充に回すほうがよろしいのでは」

 

「そう言うな。ここまでやってくれた者たちに対して型どおりの謝礼しか出さぬのでは、私の度量が問われてしまう」

 

 領主様は譲らず、結局ボーナスを受け取ることになった。ステラさんは最後まで遠慮していたが、正直ぼくとしては有り難い。お金ないしね。

 とはいえ、冒険者のルールにおいて、報酬はギルドへの報告のあと支払われることになっている。つまり、依頼を完了するにはヴァルトブルクまで戻る必要があった。

 その日はもう遅かったのでまたも領主屋敷で一泊させてもらい、帰路につく。相変わらず辺境はモンスターまみれで、帰り道でもたびたび襲撃を受けた。

 

「オーク砦をひとつ落としたくらいでは、何も変わりませんな。辺境の平定にはまだまだ時間がかかりそうです」

 

 得意の魔法早撃ちで次々と襲撃者を屠りつつ、ステラさんが嘆息する。ぼくとしてもまったくの同感だった。一夜にして村一つが地図から消え去るような土地では、とても安心して暮らせない。

 ヴァルトブルクに帰り着いたのは出立から四日後のことだった。依頼の受諾から完了まで、二週間弱かかったわけだ。

 これで報酬は相場と同じかむしろ低いくらいなのだから、そりゃあ田舎の依頼が不人気なのも当然のことだろう。

 

「はい、確かに承りました。さすがはラッツァーティ様、仕事がお早い」

 

 冒険者ギルドで出迎えてくれたホルツヴァートさんにイザベラ様からの書簡を渡すと、彼女は満面の笑みでステラさんを称賛した。

 書簡には仕事が成功した旨とその経緯が書かれている。これの提出をもって、依頼が完了となるわけだ。この流れは他の依頼でも基本的に同じらしい。

 ふつうの冒険者ならばこれらの手続きはすべてロビーの受付で行うらしいのだが、ステラさんは金級なので特別扱いを受けている。ホルツヴァートさんはすぐにぼくたちをいつもの応接室に案内した。

 

「しかし、まさかミノタウルスとは。冒険者の仕事に不確定要素は付き物とはいえ、流石に剣呑ですね」

 

「辺境ではよくあることです。だからこそ、ホルツヴァート殿も拙僧にこの依頼を持ってきたのでしょう?」

 

「確かにそういう面もありますが」

 

 ホルツヴァートさんは物憂げな顔でため息を吐いた。

 

「しかし、こういうことが何度も続けばギルドの沽券に関わります。ラッツァーティ様のように、不測の事態が起きても難なく対処できる人材は貴重ですからね」

 

「ふふふ、過分な評価痛み入ります。しかし、今回の仕事では拙僧よりもフェルト殿の働きのほうが大きかった」

 

 優しく微笑み、ぼくの肩に手を置くステラさん。いや、それはどうだろうか? ぼくが働いたのってほぼ最後の一戦だけで、その前の段取りやら何やらはぜんぶステラさんがやっていたように思うんだけど。

 

「たしかに、依頼者様の報告書にもそう書かれていますね。……しかし、その歳でミノタウルスを相手に立ち回れる剣士ですか。私もながくギルドに勤めておりますが、これほどの逸材は初めてですよ」

 

 賞賛しつつも、ホルツヴァートさんの目には微かな疑念が窺える。報告書を丸呑みしている様子はなさそうだ。

 まあ、聞いたところによれば、高位貴族の子弟や庶子なんかが冒険者になる例も少なからずあるらしいからね。箔付けのために戦果を〝盛る〟ことだって、それなりにあるのだろう。

 そういう連中と一緒にされるのはちょっと不満だが、だからといって言い返そうとは思わない。ぼくはべつに成り上がるために冒険者になったわけじゃないからだ。

 この仕事を選んだ理由は、たんに修行と情報収集を両立できるからにすぎない。報酬は日々の糧を賄えるぶんだけで十分だろう。

 

「ぼくはただちょっとお手伝いしただけですので。しょせん、見習いは見習い。すべてはステラさんのご指導ご鞭撻の賜物ですよ」

 

「可愛げのないことをおっしゃいますねぇ」

 

「へたに可愛げを見せたらヘンな人にいたずらされかねないので」

 

 身近に変質者がいるからね。結構コワイよ。ぼくは口元を歪めながらステラさんをチラリと見た。しかし彼女はすっとぼけた顔で「はて」と小首をかしげるばかり。しらばっくれるんじゃないよ。

 

「ともかく、これで依頼は完了です。報酬をどうぞ」

 

 妙な空気を察したらしいホルツヴァートさんが、こほんと咳払いをして木箱を渡してくる。一礼してそれを受け取ったステラさんは、慣れた手つきで箱の中を改めた。

 入っていたのは、棒銀という名前で呼ばれる大型の銀貨だった。銀貨とはいいつつもその外見はコイン型からはかけ離れたインゴット状のもので、とても普段使いできる大きさではない。それが十本、きちんと揃った状態で箱の中に収まっていた。

 

「ん……五百ジルバ、確かにいただき申した」

 報酬の中に例の追加給は入っていない。そちらは現場で直接イザベラ様から貰っている。なんだかまどろっこしいが、冒険者ギルドの依頼料システムの都合上そうならざるを得ないとかなんとか。

 

「では、フェルト殿。今回の仕事の分け前です。どうぞ」

 

 そんなことを考えていたら、ステラさんが箱ごとソレをぼくに押しつけてきた。

 

「えっ、は? 全部ですか!?」

 

「初仕事のお祝いですよ。もちろん、次回以降はきちんと計算して配分いたしますゆえ」

 

 いやお祝いって……まる一年以上遊んで暮らせるような額なんだけど!? 相場より低いといったって、やはり高位冒険者向きの依頼の報酬は高い。下っ端にご祝儀感覚でぽんと渡すようなシロモノじゃないでしょ……。

 

「いや、あの、流石にちょっと困りますよ。使い道とか思い浮かばないし……」

 

 いますぐ欲しいものなんて、何もない。武具類はとりあえず揃っているし、衣食住もステラさんが提供してくれているし。

 強いて言えば、刀の予備くらいかな? 数撃ちの量産品なら、何本も買えるくらいの額ではある。とはいえナマクラがいくつもあっても困るだけだけど。

 

「そうでしょうか? フェルト殿の目標を思えば、金子はいくらでも入り用になると思いますが」

 

 さらりと言いつつ、ウィンクして見せるステラさん。糸目の人のウィンクなんて初めて見たな……。

 いや、しかし目的か。つまりは、復讐。そう考えると、確かにお金はいくらあっても足りない。情報料とか、旅費とかね。なるほど、そういうことだったのか。

 

「……ぼくの想像力が足りていませんでした。確かにお金は必要です。でも、本当によろしいのですか? ふつう、こういう仕事の見習いって無給で働くものだと思っていました」

 

 ちらりとホルツヴァートさんをうかがう。ステラさんのこの行為は、冒険者的にはかなりの非常識なのではなかろうか。

 

「職人などの見習いは、確かに無給が基本です。特殊な技能を教えてもらう授業料代わり、という考え方ですね」

 

 眼鏡を光らせつつ、ホルツヴァートさんが解説する。団体職員というより教師めいた口ぶりだ。

 

「冒険者ギルドの新人教育はこの職人の徒弟制度をまねたものではありますが、我々は基本的に新人にも報酬を支払うように指導しています。武具の手入れや消耗品の補充など、冒険者を続けていく上では様々な費用がかかりますからね。その管理法を教えるのも新人教育の一環というわけです」

 

「はぇ~」

 

 いろいろと考えられてるんだなぁ……。

 

「ああ、そう、費用。今回の仕事では、あれこれ経費がかかってるじゃないですか。馬代とか食費とか。あれはいいんですか?」

 

「追加報酬で賄える範囲です。問題ありませんよ」

 

「さようで……」

 

 いつもの笑顔でこう答えられると、もう白旗をあげるしかない。実際、この申し出がありがたいのも事実だしね。

 

「わかりました、いただきましょう。ありがとうございます、この恩は必ず返します」

 

「ぬふふ、楽しみですな。とはいえ、まっ、焦ることもありますまい。五年後、十年後に返して頂ければ十分ですよ」

 

 ステラさんの笑みがニチャリと粘着質なものに変わる。こ、この糸目狐……!

 

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