物語としての艦これがもっと増えたらいいな、こんな感じの物語だったらいいな、と思いながら書いてみることにしました。
それではよろしくお願いいたします。
しん、とした静寂が鼓動を早めるのだろうか?
或いは、目前に果てしなく広がる真の暗闇が焦りを煽るのだろうか?
今この瞬間、自分は何をしているのか
或いはまた、今のこの瞬間とは一体
それらに回答する術は、この、まるで不気味な無機質の墨汁の海に、根無し草の如く浮かんでいるかのような今の自分の五感では、到底無いと言わざるを得なかった
果てしのない闇―――
目を閉じているのか開いているのかすらも曖昧にするほどの、完全なる闇―――
そんな常軌を逸した空間の中で、男はただ一人、孤独と退屈に身を委ね続けた
感覚にして数十分おきにやってくる、何が原因かも解らぬ動悸
或いは、焦り
なぜそんなものを感じるのか、今の自分に出せる答えはなかった
こうなることは予期していたはずではないか?
甚だ理不尽で不条理とは言え、こうなることを最後に決断したのは自分自身の意思であったはずではないか?
たとえ〝これ〟で天寿を終えても後悔など無かったはずではないか?
今更〝向こう〟に何ら未練は無かったはずではないか?
男は動悸と焦りが訪れるたびに、己の心にそのように言い聞かせ続けた
そう―――
今更誰が何と言おうと、こうなることを決断した〝あの時の自分〟の意思を否定することも、翻すこともできないのだ
だからこそ、この不気味な暗黒と静寂の空間で、男は延々と自己説得を続けるしかなかった
あとどれくらい居続けることになるかもわからない、この空間で―――
終わりはいつ頃なのか
ひょっとするとあと100年も続くかもしれない
或いは1秒後にはその終わりとやらが訪れるかもしれない
あれこれと不毛なことを考えていると、生理的理由からか、記憶の断片が瞬間的に、しかしその一つ一つが驚くほど鮮明に、脳裏に蘇ってきた
これをすなわち、走馬灯と呼ぶのだろうか?
幼い頃の記憶
学生時代の記憶
社会人になってからの記憶
善い記憶も悪い記憶も、等しく己の行動の結果として齎されたものであり、中には目を背けたくなるような記憶も在ったはずだが、何故か今は、そんな記憶すらも愛おしく感じる
どうやら、計画は失敗したらしい
こんなものを見るようでは、きっと自分はもう〝死んだ〟のだ―――
別に何とも思わない
覚悟していたことだし、なにより、早くドロップアウトしたいとさえ思っていた、クソに塗れた様な人生だった
どうせ死ぬなら一度くらい、ほんの僅かであっても誰かの役に立って死ぬのも良い
そんな考えから受けた〝この仕事〟だったのだ
何の未練もない
そう、何の未練もないのだ
男の鼓動は、知らぬうちに穏やかになっていた
この先何がどうなるのかは知る由もない
しかし、何がどうなるのであれ、こうなってしまえばもう怖いものなど無い
この世界に身を委ねよう
永遠に続くやも知れぬこの底なしの暗闇の世界に抱かれて、眠ろう
思えば、〝向こう〟ではいつも疲れていた
一度飽きるほど、ゆっくり眠りたいと思っていたものだ
今ならそれができる
誰にも文句は言われない
男はとうに失った感覚の中で、何故か自分の頬が心地好く綻んで行くのだけははっきりと感じ取ることができた
が、そのような感覚は、本来この世界に絶対に有るはずのない〝もの〟を感じ取った瞬間、脆くも崩れ去った
聞こえる―――
これは何と言ったかな?
そうだ、〝音〟だ
音、それも、ただの音じゃない、そう―――
〝声〟だ
〝向こう〟に居た時はいつも誰かの〝声〟を聞いていた
時にやかましく、時に心地好く、時に胸糞悪い―――
できればもう聞きたくなかった〝音〟の一種だ
なぜ、聞こえてくるのだろう?
いや、なぜ、
未練は無いはずではなかったか?
己の決断ではななかったか?
・・・
いや―――
違う―――
そんな浅薄な話ではない
この〝音〟は、否、この〝声〟は、
他ならぬ、この自分自身にとって
なぜなら―――
そこまで考えて、男は不意に今まで感じたことのない感覚を覚えた
それは、眠気
果てしない暗闇の空間では〝眠ろう〟と考えることはできても、〝眠い〟と感じることはなかった
それが今は、〝眠い〟
それも激しく
遠のく―――
意識が遠のく―――
目前に暗闇が果てしなく広がっていた事実さえも、揺らぐ
暗闇など、本当に在ったのか?
実はすべて、これまで感じていたものすべて、幻だったのではないのか?
〝声〟は相変わらず続く
自分はこの〝声〟に聞き覚えがある
一度は生まれてきてくれた、しかし、
男の意識はほぼ全てが眠気に覆われた
薄れゆく意識の中、男の脳裏に最後に聞こえた〝声〟は、はっきりと、しかし繊細な音色でこのように響いた
『ていとく―――』
その瞬間、
次回から本編に入ります。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。