AIが日常生活に欠かせぬ存在になった近未来・・・。
 世界は重大な危機に直面していた。
 かつてSF映画の中でしか考えられなかった人工知能の暴走。作り話の絵空事でしかなかったそんなロマン溢れるパニックサスペンスはしかし、民の知り得ぬところで、静かに、且つ確実に、現代社会に現出しようとしていたのだ。
 物語は、かつて或るブラウザゲームの管理に携わった一人のITエンジニアが、文科省に招聘、否、〝連行〟されてくるところから始まる。
 その男、〝真柴(ましば)怜央人(れおと)〟は、人気ブラウザゲーム〝艦隊これくしょん -艦これ-〟のゲーム管理と一部キャラクター制作に携わったことのある大手ゲームカンパニーの元社員。若くして将来を嘱望された彼だったが、ある時、己の職業の意義に対して大きな疑問を抱き、退職。
 現在は東京都八王子市の僻地に小さなカフェバーをオープンし静かに暮らしていた。
 そんな、世界の裏物語のようなブラックロマンとは一つの関わりはおろか接点すら持ちえないはずの平凡な男に対し、文科省、否、日本政府は〝或る依頼〟を真剣な面持ちで持ち込んでくる。
 それはサイバー空間における〝人工知能の暴走〟を阻止する為に力を、ひいては〝命〟を貸せ、というものだった。
 ありふれた、どこにでも居る平均よりほんの僅か程度抜けた能力しか持ちえない己に対して、政府ほどの大組織がなにゆえこのような大それた依頼を持ち込んでくるのか・・・。
 訝しみと悩みに苛まれる彼に、政府担当者が言い放った言葉は、以下のような簡潔で冷血なものだった。

 ー君に拒否権は無いー