死体を隠して風見さんに場所を伝えた後。
交通の弁のいい場所、つまり新幹線も通っている京都駅に一旦移動することになった。
だが、正直どこに移動したとて同じことだ。
ひとまず腰を落ち着けるためにファミレスに入ったわけだが。
会話は念話で行うので本当にどこでもよかった感じである。
窓際の席でみんなして無言で座るお通夜みたいな謎空間を形成。
一応念話内ではああでもないこうでもないと会話はしてるんだがな。
無言で全員で座り込んで時々電話を出して、側から見るとすごく不審だ。
ちなみに、このことは真っ先に政府関係者にも伝えてある。
だが伝えたところで何だという話だ。
人間にできることは「痛くない死に方がいいな」と祈ることぐらいだし。
電話口の政治家秘書さんはほぼ卒倒しそうな様子だった。
そんなあたりのことである。
結論が出ず話がループし出したあたりで、見覚えのある長い銀髪が視界に映り込んだ。
「おい、聞きたいことが……ある」
ジンだ。
気合が入るからと黒服に黒の帽子のいつもの姿。
どうやってここを突き止めたのか知らないが、すごく緊張しているようだ。
露骨に唇が青い。
視線が一点を凝視……ニャルをガン見している。
ああなるほど、ニャルを警戒しているのか。
とんでもなく勘が鋭い人だし、その危険性を感じ取っているのだろう。
その危険をおして話しかけるということは、それだけの危機感を抱いているということ。
ニャルは暇そうにメニュー表の間違い探しに没頭している。
印刷のわずかなずれを含めて全て洗い出すつもりらしい。
全然気にしていない様子だったので、ジンは意を決して口を開いた。
「何があった。この感覚……いつぞかの音楽祭と同じ香りがする。俺たちは明日の朝日は拝めるんだろうな?」
つまりは「何が旧支配者とか外なる神とかで地球滅亡じゃないよな?」と聞いている。
残念ながら現状滅亡色濃厚である。
降谷さんが真顔でキリリとして答えた。
「現状人類存続は難しいが、努力を続けているところだ」
「正直は美徳だがな。いつもそうってわけじゃねぇんだが」
正直すぎる回答にジンは言葉をなくしたようだ。
コナン君が水を運んできて「おわっジン!?」と驚きの声を上げた。
「せっかく神海島から出れたってのに、チッ。どこに行っても何しても吐きそうなほど焦燥感が募る」
「そういや封印解放機構を破壊してくれたんだってね。完全な状態だったら即座に復活してそのままジエンドだったろうから、助かったよ」
「俺は自分の命が惜しかっただけだ。まあ、それもこれまでのようだがな」
ううむ。本人は謙遜しているようだが、本当に現代の英雄と呼ぶに相応しい活躍なんだがなぁ。
とはいえジンはそれどころではないようで、諸伏兄が持ってきた椅子に座って苛立たしげに足を震わせている。
「こんなにもヤベェってのにどいつもこいつも、呑気に飯食える鈍感さが羨ましいぜ」
「ジン、お前のように人類が皆敏感なら、もう少し賢明に動けていただろうよ。ああ、僕はパスタで頼みます」
降谷さんの頼みで、諸伏兄が全員分のネットオーダーを完了させていく。
俺はいいや。魔術練っとかなきゃいけないし。
しかし神海島の封印解放機構か。
厄介なもんを作ってくれやがって、そんなもんなければ人類が宇宙に飛び立つぐらいまでは寝ててくれるはずだったのに。
そこまで考えて、俺はふと気づいた。
こんなもんが無ければ……か。
ニャルを見て、ジンを見て、もう一回考えて。
ふむ。
「そうだ、それで行こう!」
「行動の前に説明」
ピシャリと降谷さんに静止され、俺はしおしおになった。
いやでもこれはかなりいけてる気がする計画だぞ!
俺は人差し指をピンと立てて説明に入った。
「神海島の封印解放機構に細工をしておくんだよ。そうすれば、クトゥルフの封印が解けることもない!」
「今細工をしても……いや、そうか、時間移動による過去への干渉か!」
降谷さんが目を見開いた。
そう、過去改変によって、「魚どもの目論見は失敗に終わった」と書き換えるのだ。
やや心配そうに諸伏さんが眉間に皺を寄せる。
「ですが、それは可能なのでしょうか。貴方たちのようなものは、単純な時間にはとらわれないと聞いています」
「普段ならともかく、俺と全力戦闘中にそんな余裕無いよ。いや、これだと時間的観念の話になってるな……うーん」
言葉にするのが難しいけど、殴り合いながら背後でポーカーやっててイカサマを見抜けるか、みたいなものだろうか。
俺たちは時間的に幅を持つ存在だが、意識の範囲は限定的だ。
俺やニャルは「今」を主な居住地をしているが、例えばクトゥグアは数十億年前に居着いている。
だから活発な活動はしない。
エスカレーターの何段目に立ってるかみたいな雰囲気とも言える。
時間を場所として認識する俺らの生態は少しばかり複雑だ。
諸伏兄が問いを続ける。
「では歴史を変えたとして、今いる私たちはどうなるんですか」
「単純な時間改変を受ければ崩落して新しく作り直される。が、そこは大丈夫。俺が術式を工夫するから。ちょっと記憶が二重になっちゃうけど」
イ=スの偉大なる種族が研究してる手法を流用したものだ。
例の人間とイ=ス人の恋愛事件のあと、少し研究成果を見せてもらったからな。
流石、偉大なる種族と言われるだけあって羽虫目線の時空の仕組みとメリットデメリットが詳細にまとめられていた。
あれが無ければ俺もこの無茶な計画は立てなかったことだろう。
コナン君が興味深そうに身を乗り出した。
「具体的にはどうするの?」
「俺がクトゥルフとの戦闘をできるだけ死傷者なく引き延ばす。追い出せなくても、守りに徹するならそれくらいはできるはずだ。その間にコナン君が過去へ赴いてなんとかする!」
「僕が!?!?」
コナン君が突如大役を任せられて跳ね起きた。
彼はブレスレットをつけてるから時渡りをする際の強度としてはバッチリだし。
スロットに登録しておけば、俺の過去改変用の複雑な魔術も発動可能。
深きものどもに襲われても対処できる武力もある。
つまりパーフェクトだ。
降谷さんが目を細めて俺を見る。
「1人で何かあったらまずいだろう。僕が付き添う」
「いや、それはだめだ。俺の化身が過去でコソコソしてたらクトゥルフに警戒される。というか、コナン君は『いない人間』『前例のある虚像』だからいいんだ」
過去に送り込んで不都合が少なく、かつそうであった謂れもある。
ハイパーボリアにて謳われた「神の身元に招かれた子ども」。時空移動の前例という立場。
それは間違いなくコナン君を最適な形へと変えている。
本当は追加で大人を1人つけたかったんだが。
自分の歩んだ歴史のない大人なんて矛盾した存在はいないし………ん?
俺はしばし首を捻った。
コナン君がかなりの緊張の面持ちで問いかけられる。
「いつに行くの?」
「俺が地球にいなくて、工藤新一が生きてる時間ならいつでもいい。そうだな、仮に一年前としておこうか」
頼れる者が誰1人いない状況で、子供1人で深き者どもが彷徨く神海島に乗り込ませる。
きっと難行になるだろう。
コナン君ならきっと成し遂げてくれれと信じるしか無い。
ニュッ、とコナン君のポッケから星の精が触手を出した。
「クス……」
「あ、星の精!ずっと出てこないから心配してたよ!?」
「クスクス、ゲタァ……」
ふわぁあ、と大欠伸をしている。
どうやら朝からぐっすり寝ていたらしい。
さては昨晩こっそりコナン君のスマホでゲームしてたな。
俺はちょっと思い立ってポンと手を打った。
「星の精も一緒につけよう。相棒は必要だし、やっぱ癒しはあった方がいいからな。あと単純な手数と戦闘力になる」
「雑だぞ君。星の精が何の役に立つんだ」
「グズッ」
「酷いこと言わない。いや、純粋に星の精って現在時点においてほとんど存在を知られてないから不都合が少ないんだ。触手姿を知るものなんて数える程度だろ?マモーさんも一瞬悩んだけど、経営で影響力大きい人だし」
手直しする箇所が大きくなりすぎると俺が後でパンクするってだけだから、その辺割と融通が効く。
その点、影響の少ない星の精なら付け得だろう。
まあそれを差し引いても降谷さんは俺の化身なのでダメだが。
コナン君が「………正体を知る者がほとんどいない、大人で、戦力になる人物」と呟いた。
じっとジンを見て、苦虫を噛み潰したような顔で頷く。
「おい工藤新一。何がいいてぇ」
「ちょっと不審者すぎるけど、子供じゃ遊覧船に1人で乗れねーし、背に腹は変えられねぇか」
「1人で納得してんじゃねえ」
なるほど、ジンを旅の共にするって話か。
黒沢陣だっけ、今の本名。
でも生まれた時の名前ではないから、戸籍を作る際にジンが適当につけた名前だと聞いている。
彼ならば時間跳躍をしたところで俺の負担は最小限だろう。
俺はパンッと手を打った。
「よろしく頼む!人類の命運は君たちにかかっている!」
「クスクスクスッ!」
「臓物、ガキ、裏の人間の3人で行くのか。こんな投げやりなハリウッド映画初めて見たぜ。B級か?」
ジンが嫌そうに顔を顰めたが、否定はしてこない。
己の直感がそれに乗るべきだと告げているのだろう。
「話は掴めねぇが、このガキを神海島の例の海底神殿に送り届けりゃいいのか」
「ザッツライト!サービスに銃弾無限にしておきます。リロード要らずジャム知らず。ちちんぷいぷい」
「FPSかよ。楽でいいがな」
俺はダブルピースで調子に乗った。
エイムアシストもできるよ!ジンは必要なさそうだけど。
暇を持て余したニャルがむんずと俺の中に手を突っ込んで触手を引き摺り出した。
慌てて隠蔽魔術をかけて触手を周囲の客に見えないようにする。
ここはファミレスなんですニャルさんや!
咳払いして補足説明をする。
「一応一年前あたりの一番魔術的に負担が少ない場所に下ろすよ。つまりジンの側か、工藤君の側だけど」
「俺の側はやめた方がいい。仕事でカチ合ったら面倒なことになりかねん。このガキの側にしとけ」
「了解。じゃあ一年前の工藤君の側に下ろす。神海島には自力で向かってくれ。時間的制約はそこまで気にしなくていいが、俺が地球に到着するまでには戻らないと危険だ」
「そこまではかけないよ。一週間でけりをつける」
頼もしい言葉だ。
俺はコナン君のブレスレットを借りて、にっと笑ってみせた。
「一時間くれ。過去に仕掛ける術式を登録しておく。その間にコナン君達は時間跳躍の準備してて欲しい。持ち物の準備とかな」
「分かった。行こうジン、過去でなるべくお金は使いたくないから、食料を買わないと」
「俺はウォッカに電話する。今生最後の電話になりかねねぇからな」
「あ。そっか。俺も蘭の声聞いとくか」
2人してとことことファミレスの外に出ていく。
星の精はポッケの中でジンを警戒してるが、コナン君が自然体なのですぐに打ち解けることだろう。
コナン君がくるりと振り返って、俺を真っ直ぐに見据えた。
「安心して。ぜってー俺らがやりとげてみせっから」
「……おう。頼んだ、コナン君達」
青い青い、閃光のような瞳に、俺は我知らずほうと息をついたのだった。
・パパ=ソトース
みるみるうちにホントに出番がなくなりそうで狼狽えてる。
ニャルがこっそり鼻で笑ったので激しくいきりたった。
ぶっころ。