「1年B組の仲間に新しく加わることになりました。星野星子ちゃんです。さあ、ご挨拶しましょうね」
「くすくす!初めまして、星野星子だよ!星子はね、みんなと仲良くなりたい!」
「ひとまず空いている後ろの席に座ってもらうね。みんな拍手!」
星の精の姿はウェーブの桜色の髪をピンで止めて、クスクスと嬉しそうに笑っている。
黄衣とニャルラトホテプが考えただけあって、非常に整っていて子役にでもなれそうな将来有望そうな顔立ちだ。
白い肌が淡く色づいて、お姫様のような愛らしさであった。
クラスの子からわっと質問が飛んでくる。
前の学校はどこにいたのかとか、そういう他愛無い話だ。
灰原がコナンへと声をかける。
「良かったわね。あの子、上手く馴染めそうで」
「ああ。最近ずっと頑張ってたからな」
特別ナラトゥース人間文化速習コース、と題された勉学を終えたのは先週のことだ。
もちろん講師は旧支配者ナラトゥース。
星の精と人間、どちらの生態と文化にも詳しい彼だからこそできる二週間特別コースだ。
合格はちまきを締めて、星の精は朝から晩まで頑張った。
もちろん実践形式でその間は人間の姿のまま。
基本的な家具の使い方、体の動かし方のおさらい。
遊具の使い方、言葉遣い、トイレの使い方、どのぐらいの力で怪我をするか。
「星の精」という一人称を「星子」に改めたのも違和感を少なくするためだ。
夜はコナンと遊ぶこともなく爆睡するほど疲れていて、それはもう努力していた。
その甲斐あって、学校はつつがなく過ごすことができているようだ。
きちんと授業に出るのは初めてのことだが、プリントも勉強もきちんとついていけている。
歌はちょっぴり音痴だが、なんとなく耳に馴染む。
まさか自分の音程をそのまま真似ているのでは……と疑いつつ。
とはいえ、まだまだ馴染むのは先のことだろう。
星の精は社交的な性格をしているから、きっと物怖じせずみんなと仲良くできるはずだ。
お昼は学んだ通りに箸を上手に使うことができたようだ。
今日は卵の入ったスープとご飯だ。
星の精は卵が大層気に入ったようだが牛乳が微妙らしい。
薄い味がする……と渋い顔で飲み干している。
血液と大元は同じはずなのだが、やはり星の精的にはイマイチらしい。
あっというまの初めての学校が終わると、下校の時間がやってくる。
家が一緒だから、下校のグループもコナンと一緒だ。
少年探偵団の輪に加わり、本当に嬉しそうにずっとクスクス言っている。
星の精がコナンに笑いかけた。
「友達!帰ろ!」
「おう。どうだ、友達はできたか?」
「探偵団のみんな以外も星子はたくさん仲良くした!くす!友達たくさん!」
「歩美も前からの友達だったんだよって紹介したの。星の精ちゃんは可愛いからみんなに人気だったよね!」
歩美の同意を得られ、星の精は鼻高々になったようだ。
光彦が「星の精ちゃんはコナンくんに似て運動もできますもんね」とニコニコした。
ハッとした顔になった歩美がパタパタと手を振る。
「だめ!コナン君はダメだよ!」
「くす?ダメ?星子は友達とずっと一緒。おんなじ仕事して一緒に暮らすの。きっと楽しい!」
「だめーーーー!!!」
思わぬライバル出現に、歩美は大慌てで叫んでいる。
灰原が肩をすくめてコナンに流し目を向けた。
「どうするのかしら、恋多き探偵さん」
「どうもこうもねーだろ。俺は蘭一筋っつってんだろ」
「あら。星の精は一緒に暮らすつもり見たいよ」
「………それは、その。将来星の精を探偵事務所のバイトとして迎え入れるとか」
星の精の情緒がバイトできるほど育つのはコナンの死後かもしれないが、多少の雑務ならば可能だろう。
それか黄衣になんとかしてもらうか。
悶々と頭を悩ませていると、灰原がため息をついた。
「贅沢な悩みね。まあいいわ。もうすぐアポトキシンの解毒薬も開発を終えるわ」
「!!本当か!?」
「ええ。とはいえ、安全を担保するならもう2年は見たいわね。もしかしたら死ぬかもしれないけど、あなたなら黄衣さんがなんとかしてくれるでしょう」
「そんなロシアンルーレットみたいなことあるか!?まあいいけど。そろそろ本気で留年の危機だし」
コナンは肩を落として項垂れた。
留年探偵はあまりにもこう、推理に疑問符がつく称号だ。
帝丹は私立だから融通は効くとはいえ、限度はある。
ともかく帰路へと着く。
星の精はたくさんのクラスメイトに囲まれて、バイバイと手を振って歩き出した。
なんとなく子が独り立ちをしたような妙な寂しさを覚えてしまう。
こんなふうに人間と仲良くできているのが、元は人喰いの種族とは。
まったくもって、世の中分からないものだ。
コナンの隣を歩美が素早く陣取って、その反対側に星の精がムギュと擦り寄る。
光彦が微妙な顔をした。
灰原も同じく揶揄って「両手に華ね。マセガキにもほどがあるんじゃない?」と鼻で笑う。
星の精は特に気にせず、人の体でピースを作って嬉しそうにした。
「くすくす!星子は頑張った!」
「そうだな。頑張ったな」
頭を撫でてやると、星の精は頬を紅潮させて満面の笑みでクスクス笑った。
コナンは同じ学校にずっと通ってはいられない。
でもあと少し、あと少しだけこの子のために小学生を続けようか。
この子が学校に馴染めるまで、少年探偵団と一緒に成長していけるまで。
こいつらが、自分無しで困難に立ち向かえるように。
夕暮れに鳥が鳴いている。
事務所にはいつものように、たくさんの依頼が届いていることだろう。
難事件もあるかもしれない。悍ましい神話的恐怖もあるかもしれない。
コナンは少しだけ笑って、夕日にまた一歩足を踏み出したのだった。