加速少年の英雄希望 作:月面旅行BD
少し進むと崖で少年を背負った緑谷くんと合流できた。
「緑谷くん!…酷い怪我じゃないか!?」
両手が変色してズタズタだ。爆轟との模擬戦の時より酷い…!
「端場くん!大丈夫だった!?」
こっちの心配をしている場合じゃねぇだろうが!
「俺は問題ない…腕は?」
「動かすくらいなら何とか…でも大丈夫、まだ足が残ってるし」
何でもないと言った風に答える緑谷くん。
…背中にいる少年に気を遣って強がっているのが見え見えだが、今はそれに乗っかるしかないか。
「オッケ分かった。取り敢えず合宿所まで戻ろう」
兎に角一度先生達と合流しないと…
「うん…洸汰くん、しっかり捕まっててね!」
背中に背負ったまま個性を発動して走り出す緑谷くん。
…いや、俺が担いだ方が良いだろ!?と言い出す間もなく走っていく。
「…あーもう!変なスイッチ入ってんじゃねーか!」
負けじと追いかけるがさっきの連続使用と過剰加速の反動で長時間の起動ができず、離されないようにするのが精一杯だ。クソっ、これじゃもう足手纏いじゃねぇか…
追いついた時にはすでに合宿所に到着していた。
「先生!!」
「緑谷…」
相澤先生は緑谷くんの怪我を見て絶句している。
「すみません、今戻りました…」
煤けた俺を見て何か言いたげな先生を差し置いて緑谷くんが話だす。
「大変です…伝えたいことがたくさんあるんですけど取り敢えず僕、マンダレイに伝えなきゃいけないことがあって…」
そんな俺達に構わず話し続ける緑谷くん。
「洸汰くんをお願いします!」
「待って緑谷くん!!」
そう言って走り出そうとする緑谷くんを制止する。
「その怪我でどうするつもり?…伝えたい事があるなら俺が行ってくるよ」
止まった緑谷くんに話しかける。
個性は本調子じゃないけど大怪我をしてる緑谷くんよりはまだ俺の方がマシだろう。
「端場…お前も限界だろうが。さっきから焦点が怪しいぞ」
相澤先生に指摘されてようやく自分がふらついていたことに気づく。
…自分では気づいてなかったが、目線が揺れていたらしい。
「それでも今の緑谷くんよりはマシなはずです」
少なくとも大怪我はしていない。
個性の発動は後一回できるかどうかってところだけど。
そう言った俺から目を切ると先生は緑谷くんに向かって尋ねる。
「緑谷、それはどうしても伝えなきゃならんことか?」
「敵の狙いはかっちゃんです。ヴィランの1人が確かにそう言っていました」
先生の問いに答える緑谷くん。
爆轟?なんで爆轟を狙うんだ?まだヒーローってわけでもないし、言っちゃ何だけどヒーローっぽくもない…
「………………分かった。ただし、伝えたらすぐに戻れ」
俺はここを離れられん。と苦渋の表情で決断を下す相澤先生。
「先生!?」
「端場、お前はもう休め。…責任は全て俺が取る」
抗議の声を上げるも一刀両断に断られる。
俺よりもボロボロの緑谷くんの方がマシだってことかよ…!
「…ありがとうございます!」
その言葉と共に走り去る緑谷くん。
去り行く背中を見ながら自分の不甲斐なさに歯噛みする。
「…お前も中に入って休め。此処は俺が対処する」
「………はい」
先生の期待に応えられたかったという情けなさと。
それでも先生に頼られる緑谷くんとの差を感じた気がして。
素直に言葉が出てこなかった。
「大丈夫だ。俺達に任せろ」
その言葉を背に、俺は合宿所へと向かう途中で。
「…おい!端場!?」
視界が傾くのを止められず、地面が近づいてくる。
手を着こうと動いたが間に合わず頭から倒れ込んだ。
クソが…これじゃ本当に足手纏いじゃねぇかよ…!
動こうとしても水の中にいるかの様に手足の動きが鈍い。
「誰か!手を貸してくれ!…」
先生の言葉が遠くなっていくのを感じながら意識を手放した。
気がつくと何時ぞやの病室に似た部屋に居た。
周りを見渡すと自分の腕に刺さった点滴やら心電図をとるための機械やらが目に入る。
「…ここは…?」
口を開くと枯れた声が出てきて驚く。
どれだけ寝てたんだ俺は…
枕元にあったナースコールを鳴らす。
…まずは状況確認しない事にはどうしようもない。
しばらく待っていると病室の入り口が騒がしくなった。
「大丈夫!?って本当に起きてる!!」
「静かに!他の病人に迷惑がかかりますから!」
看護師さんに静かに怒られてしゅんとなる葉隠さん。
…何で葉隠さんが此処に?
「葉隠さん、何でいるの?」
まさか怪我したのか!?と慌てて尋ねると
「いやいや!お見舞いに来ただけ!そしたら丁度看護師さんと合流して…」
目覚めたって聞いて安心したよ…と呟く葉隠さん。
「そっか…他のみんなは?」
A組のみんなやB組の人たちはどうなった?
そんな気持ちから聞いた言葉に返答が来る前に
「はいはい、お話はまた後で。今は診察が先です」
看護師さんの言葉に遮られた。
…まぁしょうがないね?
「…その話はまた後で、ね」
そう言うと病室を後にする葉隠さん。
なんか歯切れが悪かったけど何かあったのか?
嫌な想像が頭を過ぎる。
あれだけ大規模な襲撃だ…被害者が出ていてもおかしくない。
最悪のパターンが頭に浮かび始めた頃に
「今先生が来ますからちょっと待っててね」
看護師さんの言葉に現実に戻された。
…今考えてもしょうがない、か。
医者の先生が来て簡単な診察を受けた後、葉隠さんが再度訪ねてきてくれた。
「…調子はどう?」
「問題なし。個性の使い過ぎだってさ」
いつもの事だけど。
小さい頃は良くぶっ倒れたもんだからもう慣れちまったわ。
「そっか…それで、さっきの話の続きだけどね」
言いにくそうにしながら話し続ける葉隠さん。
「緑谷くん以外は大きな怪我もなかったんだけど…爆轟くんが」
ヴィランに攫われた。そう続けた葉隠さんは辛そうだったが。
「爆轟が!?あの爆発野郎が大人しく捕まる訳…!」
つい大声を出しちまった。ビクッとなる葉隠さん…申し訳ない。
「ごめん…それで、今も?」
こくりと頷く葉隠さんには悪いが少し考え込む。
あの戦闘センスの塊が捕えられた。
未だヒーローじゃないとは言え、並のプロヒーロー以上の戦闘力の爆轟が。
「…他のみんなは?」
「全員無事だよ」
という事は爆轟だけが攫われたわけだ。
…そういや緑谷くんが妙な事を言ってたな。
『敵の狙いはかっちゃんです。ヴィランの1人が確かにそう言ってました』
まんまと目標達成されちまった訳か。
畜生、俺があの時に未だ動けてれば…!
「何を考えてるのかは分かるが…思い上がるなよ端場」
いつの間にか病室に入って来ていた相澤先生にそう釘を刺された。
「先生!?何で此処に…」
「悪いな葉隠。…ちょっと席を外してくれるか?」
葉隠さんの驚いた声にそう返す先生。
葉隠さんはその言葉を聞いて少し躊躇うも病室を出て行った。
「じゃあね端場くん。早く良くなってね」
「大袈裟な…直ぐ退院になるよきっと」
何時もの事だし。と無理やり笑うと納得してくれたのか分からないが手を振りながら出ていった。
まぁ、見破られてるんだろうけど…そういう事にしてくれてるのは助かるわ。
「…さて、端場。体調は?」
端的に尋ねてくる相澤先生。
「問題ありません。…慣れてますから」
個性の使用限界を超えるといつもこうなっていたし。
「それは…まぁ、良い。現状は聞いたか?」
「一応は。…爆轟が攫われたって」
重々しく頷く相澤先生。
…本当の事だったんだな。嘘だとは思ってなかったが先生が肯定した事で現実だという事を嫌でも突きつけられた。
「それで雄英高校は暫く休校になる。…理由は言わずもがな、だ」
俺たちの不手際ですまない。と頭を下げてくる相澤先生。
「やめて下さいよ!先生が謝るような事じゃないでしょう!?」
悪いのは襲撃してきたヴィラン共だ。
それを予期して情報を隠して対策もしていたんだ…
「…情報が、雄英から漏れた?」
思わず口から出た言葉に自分で驚く。
あり得ない事だが…ヒーローが裏切ったのか?
「…それも踏まえて現在調査中だ。お前は回復に専念しろ」
変な考えを起こすなよ、と釘を刺して立ち上がる相澤先生。
「後の事は
そう続ける相澤先生に
「
そう返すと相澤先生は鼻を鳴らして病室を出て行った。
…ちょっとくさかったかな?でも本心だし問題ないよな?と内心でのたうち回っていると今度はかかりつけの医者の先生が来た。うへぇ…病院から連絡行ったのか面倒な…
「…端場君。君、どれだけ個性を酷使したのかね?」
重々しく尋ねてくる先生。
やっぱバレてるよな…
「…限界を超えて5秒位ですかね?」
それを聞いてため息を吐く先生。
「前にも言ったが君の個性は脳を使用する性質がある。…次はどうなるか分からないよ」
今回これだけの昏睡で済んだのは幸運だった。と続ける先生。
「個性に関しては医学の範疇に無いことも多いが…少なくとも君の場合はそうじゃない」
使えば使う程にダメージは蓄積されていく。
それはこの診断結果にも表れてるんだ。と続ける先生。
「普段通りの使用なら問題は無いだろうが…限界を超えるとリスクが跳ね上がるんだよ」
既に限界の脳を更に酷使するというのがどれだけの負荷が掛かっているのか分からないんだ。その許容量が不明だが今の使い方を続けるなら確実にラインを踏み越えるよ?そう続ける先生に
「分かってますよ…でも、そうせざるを得ないなら」
俺は喜んで使うだろう。そう返した。
「……そうする事を君の母親は求めないだろう?」
「
言い切ると何処か諦めた様に再度ため息を吐く先生。
「…これは雄英の方にも報告させてもらうよ」
カルテを軽く叩きながらそう言ってくるが…
「構いませんよ?…俺は止まりませんから」
例え周りがなんと言おうと。
「俺は俺のやりたい様に生きます」
その末でどうなろうと構わない。
俺はもう人の敷いたレールの上を歩くだけの人生はゴメンだ。
「…相変わらず頑固な患者だよ君は」
「先生も変わらずおせっかいですね」
それが医者の務めだよ。と呆れた表情で答えられるとそのまま席を立った。
「くれぐれも注意する事だね。…未だ脳に関してはブラックボックスの様なものだから」
個性発現からこっち、解明しかけていた脳のメカニズムが滅茶苦茶だ…と愚痴をこぼす。
先生も苦労してんだなぁ…俺には関係ねぇけど。
「無茶はしませんよ…できる限りは」
そう返すと先生は後ろ手に手を振りながら退室していった。
…悪い人じゃ無いんだがちょっと心配性なのが玉に瑕だな。
俺の個性は使わないと使用時間が伸びない。
小さい頃は無駄に加速しまくって使用時間を伸ばそうとしては倒れて先生に叱られたもんだが…
「今まで大丈夫だったんだ。これからも大丈夫に決まってる…」
幸い、雄英でなら教師の監視の元で訓練できる。
仮に許容限界を超えてもぶっ叩いて止めてくれるんだ。
この上ない環境で試さない訳がないだろうに。
「ようやく掴み始めたんだ。こんな所で止まれるもんかよ」
今まで何となくで使ってた個性の仕様が少し判明したんだ。
今後はもっと削る部分を増やせるか、変更出来るかを試したい…
と考えた辺りで休校になった事を思い出した。
爆轟が攫われたままだという事も。
「ダメだな…大分まいってるわ…」
起こしていた身体をベッドに横たえて顔を手で覆った。
…別の事を考えてないと嫌な事ばっかり頭に浮かんできやがる。
「何で攫われてんだよ…」
お前は俺よりも、轟くんよりも強いだろうが…!
理不尽な要求だと分かっていても思わず口に出てしまった。
「あぁクソっ!こんなん被害者に思う事じゃねぇだろ!」
直ぐに思い直して否定の言葉を口にして思い知った。
つまりは期待が過ぎたのだろう。
あの爆轟ならヴィラン程度にどうにかされるわけが無いと。
「さっさと助けられて来いよ…」
そんでもっていつもみたいに暴言吐き散らかせ。
いつもみたいに切島くんに突っ込まれてキレ散らかせよ。
普段の景色になっていた情景を思い返しながら眠りに着いた。
この爆轟を巡った一連の事件でとんでも無い事になるとはこの時の俺は知る由もなかった。
アニメが最高過ぎたので久々の更新になります。