プロローグ
俺はセクエンス=エヴァンス。黒騎士ワラキアの中の人さ。
そしてこいつが相棒の黄昏ネム。
俺の背筋で動く人形さ。
糸が繋がってるんだ。
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ここは王都ディルフィニア。素晴らしいエルガン王国の首都でもある。王都周辺はたくさんの冒険者の稼ぎ場であり、ある意味危険と隣り合わせな場所だ。
そこの冒険者ギルドで3人の男女が話し込んでいた。熟練戦士の男と、魔法使いの女、明らかに見習いな少女。
「まさか、魔王級の冒険者がこんなに集まってるなんて…。ディルファニアはすごいですね…。」
冒険者には、魔王級、ドラゴン級、デーモン級、オーク級、ゴブリン級の順で等級がある。
「ああ。ここには魔王級なんざごろごろいるぜ。ちょうどあそこにいるのは【黒騎士の繰り手】黄昏ネム。ああ、女の方な。…魔王級の中じゃ中位だ。」
「中位とは言っても、今のあんたじゃ1000人いても勝てないだろうね。」
「え?あんな女の子が魔王級ってどういうことですか?」
恵体の黒騎士と、小さな少女…。このペアを見て、少女の方が魔王級だと思う人間は少ない。
「からくり士だ。俺も今までの人生で2人以上は見たことがない。」
「あのからくり…黒騎士を動かして戦闘をするのよ。魔力を伝える特別製の糸を使ってね。」
「魔法を使った方が良いのでは?」
「魔法も使いながら、からくりを動かしてるのよ。どういう理屈かわからないけどね…。」
「前、あいつの戦いを見たことがあったがよ。あれは凄いぜ。まさに完璧な連携だ。一分の隙もあったもんじゃねぇな。」
少女は目をぱちくりさせて、依頼を受ける黄昏ネムを見ていた。
「…凄い人なんですねえ。」
「なあに!お前もすぐ追いつけるさ。…いや、追いつかなきゃならねぇ。故郷を取り戻すんだろ?」
少女は目つきを変えた。
「…はい。魔王級モンスター、ベルゼブブ…あいつを倒して、故郷を取り戻します!絶対に!」
「その意気だぁ!早速修行と行こうぜ!」
「…私が教えられることは、全て教えてあげる。全力で着いてきなさい。」
一方そのころ、黄昏ネムはドラゴン級のシーサーペント退治の依頼を受けていた。川に巣くい、家畜や人を丸呑みにしてしまう恐るべき魔物…それもドラゴン級となれば、辺り周辺を支配してしまう強大な存在だ。
「ネムさん。よろしくお願いします!」
「任された。…素早く終わらせる。」
からくりの黒騎士と連れ立って出発する。移動方法はおんぶ。黄昏ネムが黒騎士の背中におぶさり、黒騎士が全力疾走するのだ。馬車並みの速度が出る。ただ、あまりに揺れがすごいので黄昏ネムの三半規管は心配されている。
1日近く疾走して、ようやく依頼の地、リブール川近くの防災キャンプへたどり着いた。辺りは水浸しで、シーサーペントの影響力が伺い知れる。
たどり着いたのは朝日が登り始めた頃であった。衛兵が出迎える。
「…おぉ!こられましたか。魔王級冒険者【黒騎士の繰り手】、黄昏ネム様…!私はマルス。リブール村の常駐です。」
「シーサーペントはどこ?」
「方向は…いえ、待ってください。1人で行かれるつもりですか?シーサーペントが大暴れすると、ここの氾濫はさらに悪化します。」
「1人で行くつもりだけど…何が言いたいの?」
「…あなただけでは、不安です!我々と合流し、作戦を立ててください!」
黒騎士はまるで意を介さず、先へ歩み出した。マルスは慌てて進路を塞ぐが、さらりと避けられる。
「…私は魔王級。侮ってもらっちゃ困る。」
「…いや、しかし、もしものことが…!」
「もういいよ。1人で探すから。…あそこか。」
大きく跳躍した黒騎士。氾濫する川の中に1匹の大蛇を発見する。シーサーペントだ。そのまま直行する。
「お待ちくださ───!…くっ、行かれてしまった…。隊長に相談しなければ。」
氾濫する川の中、躊躇なく飛び込んだ黒騎士───当然、足がつかない。強大な流れを支配するのは、ドラゴン級のシーサーペント。
流れに揉まれる黒騎士を飲み込まんと大口を開く。流れはシーサーペントのものだ。
「───【ワラキア】、やって。」
「…ギョ、イ……!」
流れの上。上空の足場に浮遊し、黄昏ネムは黒騎士を手繰る───。
黒騎士は錨のような剣先の大剣を抜き放ち、シーサーペントの牙を両断した。
怪物は己の血を見てさらに闘志をたぎらせた。
殺さねば、先はない。
「本気でやって、ワラキア。」
「…ア、ア、ア…!!」
駆動する黒騎士。水中でありながら、黒騎士は地上と遜色ない動きを発揮している。全ては上空から手繰る黄昏ネムの手腕だ。
剣を振りかぶり、そのまま回転、回転、回転───。黒騎士ワラキアは回りながら、怪物を切り裂く拷問器具となった。
あまりの異様に、怪物は避けようと考える───が、回転の勢いで、流れがワラキアに吸い込まれる。逃げようが、水流が邪魔をする。これでは───このままでは───!
大蛇の怪物は、数秒も経たずに細切れと変わった。
徐々に川の流れが戻り、降っていた雨も晴れていく。ワラキアと黄昏ネムは、その様を一瞥し、歩き去っていった。
「あーあ、びしょびしょだ…。」
「……。」
巨大な怪物の死体が川に浮かぶ。
マルスと討伐隊は目を疑った。隊長は冷静に指示を出す。
「…ま。まさか、あそこまで圧倒的に…。」
「呆けるな。シーサーペントの死体を回収しろ。下流に流れて他の魔物に喰われれば、海の方で巨大な魔物が生まれるぞ。メルマ隊、マルス隊はリブール村のキャンプの護衛を続行し、復興も手伝え。まだ魔物がうろついているかもしれん。」
「わ、わかりました!」
「…。私はここに残る。何かあれば報告しろ。」
動き出す討伐隊。1人残された隊長は、シーサーペントの方を一瞥した。
「…黄昏ネム。ファンになっちゃうかもな…。」
彼のイメージを覆す一言だった。
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これが、黄昏ネム…いや、セクエンス=エヴァンスの1日である。
背筋で美少女を動かしながら、1日近く走り続け、水中から美少女を正確に動かした上で、美少女の浮遊と自身の呼吸に魔法を使い続け、回転しながらシーサーペントを切り裂いた上で背筋で美少女を動かす男の1日だ。
この男の素性は、誰にもバレてはならない───。
誤字修正感謝です!