統率個体暗殺作戦決行の日。
ミノス島周辺では魔王級モンスターとの合戦が始まっている。天候は荒れに荒れているが、魔術師の結界により航行は可能である。
「よろしくね。ワラキア。」
「ギョイ。」
統率個体は必ず存在する。広すぎる島でもない。勝つ算段も存在する。一行はミノス島に到着した。
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統率個体は人を模した魔物である。魔物にとっての天敵が人間であるからこそなのだが、その進化は合理的ではない。
人の強みとは、数が多いこと。そして、知識を引き継げること。統率個体は1個体である為に、人としての強みを捨てている。
が、しかし、魔法、剣術、それらを用いた戦法に於いては1000年修行した達人をも上回る。
魔物達の死の記憶が、統率個体に引き継がれている為に。
『…ここまでか、セクエンス。』
『…げ、ほ…。』
『逃げるのは…無理だね。』
『…ネム…。』
黒騎士ワラキアになる前の記憶がフラッシュバックする。
「───統率個体…!」
ミノス島にて、ネムと黒騎士は今代の統率個体と遭遇した…ッ!
統率個体の姿は、セクエンスと瓜二つ。すなわち黒騎士である。
「結界を張った。これで、魔王級に魔力で連絡は行かない。……行くよ。一撃で決めて。」
からくり使いが糸を手繰る。
統率個体は緊急時でもなければ常に直立し静止している。他の仲間に指示を出す為だろう。無防備な状態の今こそが、最大のチャンスなのだ。
「御意に。」
黒騎士は剣を構えた。水流を操ることができる巨王剣エルンホルン。刀身には水が纏わり付いており、傷口から水を染み込ませ体液に混ぜ操ることで、傷を回復させず内部破壊することができる。
黒騎士は上段に構えた剣を、思い切り振り下ろした。過去は皮膚に刃が通らなかったが、今回は違う。エルンホルンの切れ味は想像以上だ。統率個体の外皮を引き裂いてそのまま両断してしまった。
が、それでは足りない。再生が始まっている。エルンホルンの力で阻害されているにもかかわらず、だ。統率個体は不死身である。焼いても凍らせてもいずれ再生する。
したがって、黄昏ネムは師匠のヘレネと相談して一つ答えを出した。できるだけ細やかに切り裂いた後、肉片をからくりの中に封印する。
「オオオオオッッ!!」
からくりの中は魔力遮断の結界が貼られていて、統率個体は他の魔王級に指示を出すことができず、かつ、内部に入れられた虫達によって肉片は消化され、いずれは再生できなくなるはずだ。
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大した抵抗はなかった。黒騎士は統率個体が放つあらゆる攻撃を意に介さなかった。
肉片を50に分割し、それぞれ用意しておいたからくりの中へ閉じ込めた。これで統率個体は無力化できたはずだ。ヤマクジラの大剣がなければ、ここまで完璧には行かなかっただろう。
「ネム。撤収するぞ。」
全てのからくりを袋に詰め、黒騎士は撤収しようとする。
「…ごめんね。セクエンス。私、ここまでみたい。」
だが、ネムが倒れ込んだ。
「!?どうした!ネム!!」
ネムの身体が、ひび割れていく…。割れたところから【魔石】が顔を覗かせた。ぱりんと砕けた。
「…なんだこれは。どうしてこんな!?」
「思い出して。でも、決して自分を責めないで。お陰でミノス島は、エリオットのペルス島は救えた。セクエンス。あなたのおかげで。」
「どういうことだ。何を言って…うッ…ア、あぐ…ッ!?」
頭が、割れるように痛い。
でもその痛みはまやかしだ。
まやかしだと、ネムは言った。
勝手に苦しんでいただけで、思い出を痛みで消そうとしていただけだった。
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あの日の真実。
過去の
「ここまでか、セクエンス。まだ動ける?」
「………。」
「…もう、死んじゃった?……。」
ぴくりとも動かない。セクエンスは、統率個体に殺された。魔王が、この木陰に近づいてくる。残った人間を始末する為に。
「ごめんね、師匠。私の考えが甘かった。」
当時のネムが操っていたからくりは完膚なきまでに破壊され、無防備なネムを庇ってセクエンスが殺された。
「じゃあね。セクエンス。」
結魂の儀。
術者の魂を材料に対象の肉体と任意の魂を引き合わせ、くっつかせる。
成功した場合、一つの肉体に二つの魂が存在することになり、二重人格状態となる。そのあとは大抵、後から入った魂が環境の負荷に絶えきれずに消滅する。
しかし、統率個体は込み入った思考を持たず、危険がなければ休眠する。故に、常に表層にセクエンスの人格が出ることができる。そうなると逆に統率個体の魂が消滅するのだ。
「ごめんね。」
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ネムの死後、命を拾った俺はヘレネ師匠に世話になっていた。
師匠は、ネムそっくりの人形を作ってくれた。気も紛れるだろう、と。
だが、逆に俺は…ネムのことを諦められなくなった。その時、一緒にネムの魔石を貰った。
優れた魔術師は体の骨格を全て魔石としてしまうらしい。生前使っていた魔術が刻まれている。それに触れた瞬間、俺の中にネムの記憶が流れ込んできた。
おそらくは、結魂の儀の材料にネムの魂が使われていたからだろう。それが魔石に刺激されて呼び起こされた…ならば。俺の中にネムがいるッ!
魔石を骨格に、ネムそっくりのからくりを作った。試しに魔力を繋ぎ操作してみるとますます俺の中にネムの存在が広がっていった。記憶、性格、反応…俺を介してネムが蘇ったのだ。
俺は黄昏ネムを再現することにした。背筋を鍛え、ネムを背中で操作できるようにし、自分はからくりとして振る舞った。
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「でも、それももう終わり。」
ネムの魔石は寿命を迎えていた。
セクエンスから与えられる魔力に絶えきれずに壊れていく。
「セクエンス。あなたももう、休もう。今度こそ
結局、統率個体を倒せても、集まった魔王級を処理しきれず100年前の
今回の戦いは優勢だ。ヤマクジラの資源が軍や冒険者の勢いを盤石なものとしている。
「…黄昏ネムはおわり。」
「やめてくれ。」
「さようなら、セクエンス。楽しかった。」
最後に、やめてくれとしか言えないのか。
最後まで彼女を笑顔にできないのか。
なんて、情けない。
「ネム。」
もう、彼女はここにいない。
黄昏ネムは死んだ。