幻想世界のからくり主従   作:K+#ガソ林

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ヘレネ/再起

 戻ってきたセクエンス=エヴァンスの横に、黄昏ネムの姿はなかった。

 

「…統率個体の肉片を、からくり虫の中に閉じ込めた。中に虫を忍ばせてある。前例はないが、消化できるはずだ。奴らの再生能力とて、1日も閉じ込めればなくなる。」

 

「く、黒騎士殿。その、黄昏ネムは…。」

 

「死んだ。後のことは、師匠に。」

 

 それきり、黒騎士は眠りについた。

 徐々に天候が凪いでいく。いくつかの方面で魔王級が倒された。

 

(ペルス島は、救えたか。)

 

 セクエンスの心中では、己への葛藤があった。

 あの黄昏ネムは、本人では無い。

 あの時死んだ黄昏ネムを、俺は、辱めていたのでは、ないか。

 

───────────────

 

 セクエンスの仕事は終わった。統率個体を処理すれば、魔界の形成は止まる。また、軍や冒険者の腕利達が魔王級モンスターの処理はしてくれる。テセウス港の自宅で閉じこもっていても、何も言われない。

 

(俺の身体は、統率個体のもの。)

 

 ネムとて死んだが、セクエンスとて死んでいる。

 人を模したとは言え、これは統率個体(魔物)の肉体だ。

 

(じゃあなんだ。俺は、あの日死んでおけば幸せだったのか?)

 

 命を拾ったのはネムのおかげだ。

 だが、命を拾ったせいで、ネムを求め続けている。虚脱感と共に床に転がり、体を開いて天井を見上げた。

 

───────────────

 

 がちゃ、扉が開き、光が差し込む。

 ヘレネ師匠だった。

 

「邪魔します。セクエンス。」

 

 つかつかとこちらに歩いてくる。何か喋る気にもならないが、謝らなければと思った。

 

「…ヘレネ師匠。ごめん。俺は…。」

 

「ネムはどうしたんですか?」

 

「…壊れて、割れてしまって。破片はそこの袋に…。」

 

「セクエンス。」

 

「…はい。」

 

「ネムを復活させましょう。」

 

 ……。

 

「え?」

 

「ネムを復活させましょう。」

 

「ネムは、死んだんですよ?」

 

「ネムの力が必要です。」

 

「何を言って…人は死ぬんだ。なのに、こっちが勝手に望んで、蘇らせて、虚しくなるだけでしょう。本物じゃないんだから。」

 

「セクエンス。本物とは何ですか?」

 

「…師匠、何を。」

 

「生命が特別だと思いますか?」

 

「…。」

 

 生きていることは、大事なことだ。

 ネムはもう死んだ。あの時に助けられなかった。俺が演じていたのは偽物だ。実際、俺が知りうる余地がない知識が、ネムの魔石に触れた時に呼び起こされたのは事実だが…ネム本人の意識が俺の肉体に宿っていたとは思えない。

 

「ええ。そうでしょう。ネムは、1人だけだ。もう死んでしまったネムだけだ。そうじゃないのか。」

 

「セクエンス、それは虚しいものでしたか?」

 

「…?」

 

「あなたが新しいネムと過ごした日々は、虚しいものでしたか?」

 

 …ペルス島で、冒険者ギルドで、色々な場所で、ネムと過ごした思い出は…。

 エリオット、レギーナ、受付のテイル、海賊魔神、鍛治ギルド…さまざまな人と出会い、過ごした日々は虚しいものではなかった。

 

「虚しい、わけがない。でも…。」

 

「あなたにはネムが必要なのです。写真を見て故人を思い出し、生きる力を得るように───からくりのネムはあなたに力を与えてくれる存在なのですよ。」

 

「そんな。」

 

 そんな、こと。

 

「まどろっこしい。セクエンス。さっさとネムを新しく作るのです。私はネムにもう一度会いたい。ただの人形でも充分だ。あなたがネムの体を作ったのでしょう。今すぐやりなさい!材料として、統率個体の魔石を用意してきました。死んだ後に取り出したので、問題ありません。使いなさい。」

 

「師匠。俺には───。」

 

「明日までに何も作れてなかったら、お仕置きです。しばらく私の供として働いてもらいますからね!では!」

 

 ばたん!ヘレネ師匠は去っていった。

 

「…無茶苦茶だ。」

 

 1日で終わる仕事じゃないぞ。新しいネムを作るなら、7日は欲しいものだ。…仕方ない。お仕置きは甘んじて受け入れよう。

 

「ネムに関しては、妥協する気はない。…作ってやろうじゃないか。新しい黄昏ネムを。」

 

 

 

【セクエンス。】

 

【私の考えた未来とは違ったけど、あなたが笑顔なら、それでいい。】

 

【そういうことなら、黄昏ネムは休止ということにしておく。】

 

【───ありがとう。】

 

 

 幻聴だろうか。

 まだ、頭の中に黄昏ネムが残っているのかもしれない。俺の考えた、『都合のいい黄昏ネム』が。

 …本物か、偽物か、なんてどうでも良くなってきた。

 

「…俺は、ネムのことを考えるだけで───幸せになれるのだから。」

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