王国の混乱の中、ネムの髪素材を持ち帰った俺をペルス島にて待ち受けていたのはヘレネ師匠だった。港で待ち構えていたのだ。
「良かった、セクエンス。探しましたよ。今日は約束を果たしてください。」
「約束って、側仕えとして働くということですか?」
「もちろんです。その荷物の置き場所もあるでしょう。とりあえず私の拠点に。」
あれよあれよと言われるがまま、ヘレネ師匠について行くことになった。
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長い時間を生きてきたヘレネ師匠だが、人外というわけではない。精霊と人間のハーフ、アレクス族というらしい。血の度合いによって、アレクス族は幽霊のような姿にもなる。
その点、美人でありながらアレクス族の長命をしっかり受け継いだヘレネ師匠は完全無欠の人物と言えよう。
「セクエンス。そこに着替えを用意しておきました。着てください。」
まぁ、側仕えということだからわかっていたけど、執事服だな。一般的にイメージされる。しかし、ヘレネ師匠はお嬢様のつもりなのだろうか?世界中を泥臭く冒険し生き抜いてきた師匠が、今更執事を欲しがるなんてイメージに合わないけれど。ま、趣味なわけないか…。
師匠と一緒に着替える。
「別にいいですが、今日は何の予定なんですか?俺を連れ回す必要性がわかりませんよ。」
「これから、世界に起こる大きな波乱についてです。【絶対なるデウス教会】のことは分かりますか?セクエンス。」
「分かりません。」
「では、【聖職者】という存在については?」
───聖職者。
この世界では祈りを捧げ、魔を滅し、傷を癒やすというような一種の魔術基盤を扱う者達である。彼らは【戒律】というルールを守り、その身を神に捧げることで強力な【聖詠魔法】を扱う。(聖職者の中には《魔法》と呼ばれるのを嫌がる者もいる。)
「魔術とはまた異なる…魔力に依存しない魔法、【聖詠】を用いる能力者集団です。」
「その通り。デウス教会はその中でも【アレクス族至上主義】を掲げた教会であり、人類に聖詠を与えたのは精霊だと主張する教団です。長命種のアレクス族がトップなこともあってか、歴史もあり、その分広く認知されています。」
デウス教会の他にも、【隣人教会】(聖詠の始祖の正体は多種族の連合)、【人間教会】(土着の信仰と混ざって歴史上の人物が始祖となったもの)、【勉強教会】(特に決まった主張は持たず、布教と情報収集に徹する教会)などがあるらしい。
「話を続けます。先日、エルガン王国が予言の書について声明を出しましたが…デウス教会は、予言の書の原本を保有しているのです。また、予言の内容について周知するために、今回の会合を開いています。」
「師匠。予言とは信憑性があるものでしょうか。」
「私は専門外です。」
「…準備ができました。行きましょうか。」
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ヘレネのからくり、巨大な鳥のしもべ【機鳳】に乗り、王都ディルフィニア近辺へと到着した。丸めた巨体を空間拡張型のマジックバックに納め、ヘレネ一行は会場であるデウス教会に向け歩き出す。
フォーマルドレスに身を包んだ師匠は、どこぞの王族の女性と見間違えるような気品を纏っている。青に薄く染まった銀髪が風に揺れていた。
「便利ですね、機鳳。後で俺にも貸してくれませんか?」
「その分メンテナンスが地獄ですよ、セクエンス。…ちょうどいい機会ですから、後でオーバーホールお願いします。」
「嫌ですよ。ネムに会いたくないんですか?俺を拘束するのは逆効果でしょ。」
「やってくれてもいいですよね?」
「……。まぁ。」
「助かります!」
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予言の書の真実。この発表次第で、世界は大きな転機を迎えることだろう。場には様々な国の代表、魔王級冒険者、6の氏族の末裔達がひしめき合っている。
場が俄かに暗くなり、ステージが照らされる。青白く発光する幽霊のような青年が語り出した。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます。【絶対なるデウス教会】、教団長、メルソナル=アレクスです。予言の書について、まず、掻い摘んだ内容をお話しします。皆様は、事前にお配りしたお手元の写本をご覧ください。」
───【五百年の眠りを破り、封ぜられし災厄、今再び大地に甦らん。】
【再び現れし魔王、万の力を一に束ね、大陸ひとつを呑みて、世界は劫の炎に沈むであろう。】
【されど、大波、軍勢を越え、聖剣を掲げし勇者在り。闇を裂き、魔を滅ぼす。】
【聖剣はノルドの地に隠され、精霊はその歩みを照らさん。】
【嘆くことなかれ。為すべきことはわずかなれど、導きの光は汝らを見捨てぬ。】
【我が言葉の続く限り、エルガンは滅びることなく、永劫の息吹を保たん。】