俺はセクエンス=エヴァンス。
そしてこいつが…こいつが…。
…居ない……!?
盗まれた………!?
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昼前の冒険者ギルド。混む時間帯から少し遅れたぐらいに、黒騎士は現れた。だが、黒騎士だけである。おかしい。いつもならからくり士の少女が横にいるはずである。
黒騎士は何かと焦っていた。ギルドに入るや否や、受付に駆け込む。これは只事ではない。
「…黄昏ネムが…攫われた…。」
「え!?」
「捜索の依頼をしたい…。」
場は騒然となった。
「おいおい。あの黒騎士、喋れたのかよ。大した出来の
「しかし、ネムさんをどうやって…。」
「確かに、あの黒騎士が付いていながらみすみす攫われるなんて想像し難いねぇ。」
様々な冒険者が野次馬をしに聞き耳を立てる。
「…状況を話してもらえますか?黒騎士さん。」
「昨日、私と私のマスターの黄昏ネムは宿に泊まり、一晩を過ごした。そして目覚めると、マスターが消えていた…。私とマスターは意識を共有しているため、寝る時は私の意識も眠っている。が、それでも多少の物音があれば起きれるようにはなっている。…犯人が見当もつかなくて困っている。」
これは、なかなかに難儀な話だった。
常識的に考えれば、転移の魔法を使って攫ったのだろうが、この世界だと魔法を使えば音が出てしまう。空間が魔力現象に強く抵抗を持つためである。
すなわち、犯人は魔法を使わず、かつ、黒騎士に気づかれぬよう黄昏ネムを抱えて外に出たことになる。まぁ、現実的ではあるが、魔王級の冒険者がそのような物音を見過ごすだろうか…。
「私とマスターを繋ぐ糸は全て断たれていた。…探し物が得意な人はいないだろうか。」
「うーん…貼り出しておきますが。確実にとはいきません。」
「…依頼料として、金貨100枚を出す。よろしく頼む。」
シーサーペントを退治した時の報酬が金貨4枚である。100枚となると、魔王級のモンスターの剥製とか、ほぼ骨の状態から再生させる霊薬とか、常にひんやりしている氷の宝剣などを買えてしまうほどの大金だ。
「…こりゃ、只事じゃねぇなぁ。」
「一攫千金だが、魔王級の冒険者を攫う奴なんて相当だぜ。」
「命が危ねぇですわね…。」
「気の毒だがなぁ…。」
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黒騎士は昼間からとぼとぼディルフィニアを歩き回っていた。くまなくぐるぐるしていた。
(…どうしようかなぁ。今までこんなこと、一度だってなかったのに…。)
今まで、盗まれるのはからくりだと思われている自分の方だった。なので毎回気付いては撃退してきたのだ。
(気が気じゃない。酷い目にあっているかもしれない。でもどうしようもない…。)
呆けている黒騎士に、ローブを纏った謎の人物が接触してきた。
「…もし。そこな御人。」
「はい。」
「…黄昏ネムの場所を知りたいですか?」
「はい。」
剣の柄に手をかける黒騎士。
「彼女は西のダルデル湖に移動しています。」
「あなたは何者ですか。」
謎の人物は、ローブのフードを外して、顔を見せた。
「この顔を忘れましたか?セクエンス。」
「…師匠でしたか。」
美少女人形黄昏ネムの生みの親、ヘレネであった。ヘレネは伝説と謳われる人形師である。セクエンスの師匠でもある。
「細かい話は後にしましょう。ダルデル湖に向かうのです。あなた1人で。」
「わかりました。」
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全力疾走して二日経ち、セクエンスはダルデル湖に到着した。
「待っていましたよ。黒騎士ワラキア。いえ、セクエンス=エヴァンス。」
待ち受けていたのは、いかにも魔術師の男であった。黄昏ネムは男のそばにある立派な椅子に座らされている。
セクエンスは男の真意を問うた。
「なんでこんなことをしたんですか?」
「彼女が可愛いからです。」
道理だ…。
「わからないこともない。しかし、泥棒は良くない。」
「あ、いえ。先ほどのは冗談ですよ?…自己紹介をしましょう。私の名は、エリオット。───エリオット=エヴァンス。【100年前】に失踪したあなたの家を継ぐ者です。」
「……!」
「代々、エルガン王国海軍の重鎮を務めるエヴァンス家の当主であったあなたが、突然失踪したことにより当家は大混乱。有体に言うと、没落したのです。…全てはあなたのせいだ。」
「…すまなかった。」
「謝って済む。そうであれば良かったのですがね。ま、私とてフワフワした私怨だけでこのようなことをするほど、馬鹿ではありません。きちんと実益があるのです。」
エリオットの鋭い瞳が、黒騎士を貫く。その背中の大剣を。
「エヴァンス家の秘宝。【結錨の大剣】…それを当家に返してください。この黄昏ネムと交換です。」
「わかった。」
「おや。物分かりがいいですね。」
黒騎士は、本心を吐露した。
「…この剣を持ち出してしまい、苦労をかけてしまった。しかし、俺としては…100年前の
黒騎士は抜け抜けと言い放つ。その姿に、エリオットは怒りを滲ませる。
「確かに、エヴァンスの港はもうありません。…しかし、あなたには人の心はないのですか?」
「…。すまない。」
「…いえ、失礼。」
つつがなく、大剣と人形の交換は終わった。
「それではご先祖様、ご機嫌よう。」
「帰る前に聞かせてくれ。ネムをどうやって盗んだ?答えてくれてもいいだろう。」
「…私から言うわけにはいかないのです。」
「ではその質問には、私が答えましょう。」
木の影から現れたのは、セクエンスの師匠、ヘレネだった。
「ヘレネ様…。」
「エリオット。話は済んだみたいですね。…セクエンス、強引な手口になってしまったのは謝ります。黄昏ネムをここまで動かしたのは、私なのです。」
「師匠…。」
「…さぁ、エリオット、帰りなさい。私はセクエンスと話があります。」
「わかりました。…ありがとうございました。ヘレネ様…。」
エリオットは大剣を抱えて去っていった。
「師匠。話はわかりました。俺も特に言うことはありません。エヴァンスの家が続いていたのに、何もしなかった。不甲斐ない自分が悔しい…。」
セクエンスは硬く握った握り拳を、やらせなさそうに腰にぶつけた。しかし、ヘレネがしたい話は、そういった心情的な話ではなかった。
「セクエンス。
「…!?」
「魔王級モンスターが続々と、ここより西に新たに発見されたミノス島に集結しています。私と一緒に来なさい。」
新たなる危機───100年前に立ち向かえなかった
「……わかりました。この命、100年前のあの時からあなたのしもべ。伝説のからくり士、黄昏ネムとして───全力を尽くします。」
ヘレネのからくり、巨大な鳥のしもべ【機鳳】に乗り、ミノス島を目指すセクエンス達。
───明らかに、人間の能力を超えているセクエンス、伝説のからくり士、黄昏ネム、百年前の
「ところで師匠、実はディルフィニアで黄昏ネム捜索依頼を出しちゃったんですが、戻れますか?すぐ済ませます。」
「心配は無用です。あれの依頼は私が達成扱いにしておきましたよ。」
「金貨100枚は…。」
「私が貰いました。」
「そうですか…。」