黒騎士と黄昏ネム、ヘレネの一行はミノス島の方へゆく商船に乗っていた。…だが、予想もしない連れ合いができた。エリオット=エヴァンスである。
「…。ねぇ。エリオット。あなたはなんでこの船に乗ってるの?」
黄昏ネムが問う。エリオットは苦虫を噛み潰した顔をしている。
「…わざわざあなたの本当の事を言いふらす事もありませんが、私からすればあなたから話しかけられるのは微妙な気分です。」
「で、なんで乗ってるの?」
「…エヴァンス家は100年前の
「私たちの行き先はそのペルス島です。しばらくはそこを拠点にすることになるでしょう。」
「ふーん。ありがとう。師匠、エリオット。」
「……ですが、黄昏ネム。もう私との縁は切れたものと思ってください。」
「エリオット。あなたはペルス島の島主になるのですから、冒険者と関わる機会も増えますよ。当然ネムとも関わることになります。」
「…だってさ、エリオット。」
「…ヘレネ様の言う通り…ですね。まあ、うちに帰ってから考えることにします。」
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船から降りたヘレネと黄昏ネムはエリオットと別れ、一軒の住居にたどり着いた。いい感じにオリエンタルな建物である。
「ネム。当面の寝泊まりはここを使ってくださいね。とりあえず今日はこの島を見回るように。」
「師匠、ミノス島のことは…。」
「
「わかりました。」
手荷物を置く。ヘレネは伝説の人形師なだけあって、たくさんの国に住居を持っている。ここもその一つだ。
ネムの視界に、ある写真が目に入った。黄昏ネムとヘレネ、そして若き日のセクエンスが写っている。
「………。」
黒騎士は口を開こうとしたが、やめた。
「師匠。…もういないか。」
ヘレネは何か仕事をしに行ったようだ。
「言われた通りにするしかなさそうだね。ワラキア。」
黒騎士は頷いた。
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ペルス島の冒険者ギルド…は閑散としていた。
「…おーう。冒険者?依頼はそこらへんに張り出してあるから、取っといてくれや。」
「あなたが受付?どうしてこんなに人がいないの?」
「そりゃペルス島なんて田舎な場所、冒険者が多いわけがねぇよぉ。依頼なんてほぼねぇしよ。」
「ふーん。魔王級モンスターがミノス島に集まってるって聞いたから、相当混雑してると思ったけど。」
魔王級モンスターを追って来た冒険者も、少なくはないとヘレネから聞いている。
「ミノス島!?そりゃ立ち入り禁止だよ!ほら、これ、正式なお触れが出てるよ。エルガン王国軍からだ。」
「…それじゃここは本当に、ミノス島には関係ない…。」
「ああ。悪いがうちじゃ取り扱いはねぇな。」
その時だった!ドアをバーン!と蹴り破って、派手な格好をした若者が現れたのだ。お供にたくさんのならずものがついている。
「頼もう!我が名は海賊魔神のミカドラド=ドーラ!」
「このお方はミカドラド=ドーラ!海賊魔神とは、好き勝手に略奪するもの!」
「好き勝手にひれ伏すがいい!お前の誇りと命は貰っていく!」
ババーン!拍手をする人員もいる。
「…受付のおやじさん。あの人たちは?」
「見ての通り、悪ガキだ。…ミカは自分を海賊魔神と名乗っちゃいるが、船一つ持っちゃいねぇ。」
「船持ってないんだ…。」
「やいやい!聞こえてるぞ畜生め!ミカ様に言っちゃいけないこと言っちまったなぁ!」
「…船は、ある!この前までは!」
ミカドラドは腕を組みながら吠えた。
「前エリオット様に喧嘩ふっかけて、負けて没収されたんだ。自作だからオンボロでな。フェニックス号だったか?」
「フェニックス号は燃え尽きてもまた再生するッ!」
「ところでほんとに何の用?」
ネムが指を動かすと、黒騎士は剣の柄に手をかけた。今まで使っていた大剣が無くなったので、普通の直剣である。
「このミカドラド直々の頼みだ…。───ミノス島に!入らせてくれ!!」
「エリオット様に言え!!」
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この受付のおじさん───【蒼炎のテイル】は魔王級の冒険者だったらしい。今は隠居生活中とのこと。
そして海賊魔神ミカドラドの軍団の要求はどんどん変化していった。
「テイルさんは元魔王級で船も持ってる!ミノス島まで連れてって!」
「許可取れねぇよ!というかミノス島まで行きたきゃエリオット様に言えよ!」
「じゃ、テイルさん。この海賊魔神の仲間になってくれないか!」
「ならねえよ!」
黄昏ネムは蚊帳の外だったが、気になることがあった。
「テイルさん。なんでエリオット…様に言うとミノス島まで行けるようになるの?」
「そりゃ、エリオット様は島主だ。ミノス島への立ち入り禁止令を出してるエルガン王国軍とも屋敷で協議している。魔王級モンスター達への対策も立てていることだろう。」
「ふーん。」
「じゃ、エリオットんとこにカチコミといこう!」
「待て待て、…聞いてなかったが、なんでお前らミノス島に行きたいんだよ。魔王級が集まってることぐらいは新聞で知ってるだろ?危険なことは、軍に任せときゃいいんだ。」
「…面白そうだから。この島、家の手伝いしかやることないし…。」
「馬鹿ァ!」
「あイタ!」
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全体的にふわふわした連中だったな、と思う。ディルフィニアの冒険者だったら、魔王級が一つの島に集合だなんて言葉を聞いた瞬間ひっくり返ることだろう。まぁ、若者というのはそんなものだ。この島が平和である証拠のようなものだろう。
「さすがに海賊魔神は名前負けだけどね。」
日も落ちたペルス島。涼しい風と、穏やかな街灯が街を照らしていた。
「……。」
家路をぽつりぽつりと歩いていく。
「ねぇ。ワラキア…いや、セクエンス。」
「…。」
「あなたは、ずっとそうするの?少しくらい…出て来てくれてもいいのに。」
黒騎士は喋らない。
「ここは楽しい場所だよ。」
黒騎士は、目線をネムに向けた。
「…ダカラ、コソ。」
「…うん。」
「オレハ、アナタニ、シアワセニナッテホシイ。」
「…。」
2人の間の糸。
からくり仕掛けの2人。
(…師匠がここにいたら、なんて言うだろうか。)
「…。」
「戻ろうか、ワラキア。」
「…ギョイ。」
100年前───。師匠と彼女に命を救われ、それで俺はここに立っている。
でも俺は、ここにいるべきじゃない。彼女の側にいていい存在じゃない。…俺は、
その魂が身体を持っただけの───魔物なのだから。