幻想世界のからくり主従   作:K+#ガソ林

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対ヤマクジラ防衛戦線/海に捧げる鎮魂歌

「と、言うふうに大王鮫を処理したよ。」

 

『わかりました。であれば、ヤマクジラが本格的に襲来するかもしれませんね。ドラゴン級3匹が偶然で沿岸まで通りかかることはないでしょうから。』

 

 ヘレネとネムは会話をしている。からくりを動かす糸を用いた長距離通信である。通信を繋ぐ用途のからくり蜘蛛を使ってネットワークが形成されている。

 

「今日中?」

 

『夜か朝かは分かりませんが、警戒と住民の避難を。』

 

「わかった。行くよ、ワラキア。」

 

「…ギョイ…。」

 

 黒騎士とネムは部屋を飛び出した。エルガン軍の臨時基地である教会へ向かう。

 

───────────────

 

 エルガン軍の防衛隊長、ディアス・レイは『襲来が今日』という衝撃的な報告にも動じず、冷静さを保っていた。

 ネムと黒騎士は沙汰を待つ。

 

「事情はわかりました。軍としても異論はありません。それで、襲来時にはどう動けば良いでしょうか。」

 

「私に聞くの?」

 

「意見をお聞かせ願いたい。」

 

「…ヤマクジラが来たら、かなり高度な浮遊が使えないと使い物にならない。沿岸に配備した兵も波に攫われるよ。射撃武器も、相当な速度がないと波や風で逸らされる。魔術師が結界で天候を操作してくれるらしいけど、当てにしない方がいい。」

 

「…わかりました。兵は住民と共に避難させましょう。精鋭を使ってドラゴン級やデーモン級の相手をさせていただきます。」

 

「それじゃ、もう海岸の方に行くね。…魔王級は伊達じゃない。でも、万が一があるかもしれない。その時はよろしく。」

 

「…了解です。ご武運を。」

 

 そうして、少ない人数でヤマクジラとその取り巻きを相手することになったのであった。

 

───────────────

 

 荒れていく海。まだ天候は晴れだが、にわか雨が降り始めている。

 

「最後の作戦会議と行きましょう。」

 

 【薔薇剣のレギーナ】。

 

「うん。」

 

 【黒騎士の繰り手】。

 

「…ウスッ!」

 

 そして、軍所属の『騎士』達…冒険者で言えばドラゴン級の実力者達だ。

 『隼騎士』ウィング=スレイ

 『狼騎士』レイド=ライヒ

 『犬騎士』カレン=ルタリア

 『蛸騎士』ルマイ=ターコイズ…など。

 

 …波の音も大きくなってきた。レギーナが張った声で話をする。

 

「ヤマクジラをネムさんと黄昏ネム。その補助を僕が行います。そして、取り巻きの相手を騎士さんにお願いします。」

 

「私のからくり戦術は、戦う環境を選ばない。ヤマクジラとは相性がいい。…皆は巻き込まれないよう、波に注意して。ヤマクジラはあえて安全地帯を作って、そこに集まった獲物を一網打尽にする。」

 

「了解ッ!」

 

 本格的に波が荒れ、巨体が水平線を持ち上げる───ヤマクジラの到来だ…!

 

[ キュオオオオオオオオオンッッッ!! ]

 

「総員抜剣ッ!討伐開始ッ!!」

 

───────────────

 

 ヤマクジラはかなり素直なモンスターで、雷を落としたり、海流を操作して獲物を飲み込んだりするパワー戦術を得意としている。通常の冒険者であれば、そのパワーで一網打尽にされてしまうだろう。

 が、黄昏ネムははるか上空から黒騎士を操れる。そして、黒騎士はネムが操作している限り、地上と遜色ない動きができる。

 レギーナがネムの護衛を行なっているので、この動きを妨害することはできない───嵐の中で黒騎士は、ヤマクジラの表皮を切り崩していく。

 上空でネムはレギーナに頼み事をした。

 

「レギーナ。そのバイオレットを貸してもらう。」

 

「構いませんが、黒騎士に渡しに行くことはできませんよ。」

 

 海面から、槍のように鋭利な水の弾丸が黒騎士を襲う。雨と風、その上でこの弾丸だ。黒騎士は身体がやたら丈夫なので耐えれてはいるが、通常は鎧に当たったらそのまま骨折するほどの威力である。

 

「落とすだけでいい。」

 

「ええ!?落とす!?」

 

「必ず拾う。信じて。」

 

「…わかりました。信じますからね。よろしくお願いします!」

 

 一方、上空から黒騎士を手繰る存在を検知したヤマクジラは、頭頂から放水した。縄張り争いの主砲としても使われる、氷山を打ち砕く一撃だ。レギーナはネムを抱え、回避行動を取るが───。

 

(まず、い───。)

 

 油断していたわけではないが、あまりのスケールの大きさ…!本来であれば霧散する水流を操作している───霧散した極小の水の粒はさらに細かく分かれる。それによって急速に冷凍され、凍りつくのだ。

 氷霧の散弾───。

 

「炎砂の防壁。」

 

 ネムの魔法で、砂と炎が止めどなく周囲を埋め尽くす。それらは水弾に対する盾となり、ヤマクジラの攻撃を無効化した。

 

「流石、ですね…!」

 

「まだ終わってない。流石に、放水の芯を当てられたらこの防御じゃ持たない。私は浮遊を切る。レギーナ、回避と移動をよろしく。」

 

「わかりました!」

 

 レギーナはネムを抱えながら、回避行動を続ける。

 戦況はとても有利だった。『騎士』達がドラゴン級を始末し、黒騎士はヤマクジラに集中できる。また、天候を緩和する結界の為か雷雨に至らず、ヤマクジラは雷を降らせない。

 黒騎士が攻撃を避けつつ、切り裂く中、ヤマクジラの表皮は剥がれ、血液が噴出する───血が荊の槍の如く、黒騎士を刺す。

 

「…ゴ……。」

 

 が、血液の槍を万力の力で折る。腹部を貫かれたと言うのに、まるで意に介さない。

 それは人ではない。暴力のあり方だ。

 

「落として。レギーナ…!」

 

「はい!…届けっ!」

 

 レギーナの投擲は見事だった。バイオレットは毒の武器、普段から投擲しているのだろう。雨や風にさらされながらもその弾道は黒騎士から逸れなかった。

 

「流石だね。補正することもない───やれ、ワラキア!」

 

「───ギョイ。」

 

 バイオレットを掴み取ったワラキア。抵抗するために、その巨体を跳ねさせるヤマクジラ。現実に、山のような巨体が海面上を跳ねている。位置エネルギーを利用した自衛───。

 黒騎士はヤマクジラに取り付く。が、それは1秒後の死を意味していた。海面に叩きつけられた時のエネルギーで全身の骨は骨折し、脳はシェイクされ昏倒する。

 が、それは常人ならば。黒騎士は伝説的なからくり士に操作されている───。

 

「これで、おしまい。」

 

 黒騎士は紫の毒剣を、傷口へと刺して捻って───引き裂いたッ!!

 

「…オ、オ、オ…!!」

 

 1秒後に死ぬのであれば、1秒内に殺せばいい。

 黒騎士は伝説的なからくり士の操作によって、1秒内での毒殺と離脱に成功した。

 

「死を悟った獣はそのままにしておけない。ワラキア、もう一仕事。あとレギーナ、海の方へ移動して。」

 

「…わかりました!」

 

「…ギョイ。」

 

[ キュオオオオオオンッッ!!!! ]

 

 死を悟ったヤマクジラは、黒騎士を集中的に狙いに行く。黒騎士とネムは海の方に出ることで、岸への被害を抑えることにした。

 

 水弾は礫の如く。

 黒騎士はそれら全てを切り払う。

 

 では水牢にて閉じ込める。

 繰られる身には牢など無意味。すり抜けるように抜ける。

 

 ならば、繰り手を撃ち殺す。

 弾はいなされ、時間が経つばかり。

 

 天空まで届くエネルギーは、放水しかない。海面からの弾丸では繰り手の高度まで届かない。

 これにて仕舞い。巨体は徐々に力を失い、その身を沈めた。

 

───────────────

 

 4時間に及ぶ対ヤマクジラ防衛戦線は、エルガン軍と魔王級冒険者の完封勝利という結果で幕を下ろした。撃ち漏らしのデーモン級やオーク級の魔物に襲われたが、軍の兵士の奮闘で民間人に被害は無かった。

 街は戦闘の余波で大部分が破壊されたが、無事な場所も3割程度残っているようだ。

 バイオレットをレギーナに返した後、ネムは防衛隊長のディアスを呼び、ヘレネに連絡を取った。

 

「通信、通信。師匠、聞こえる?そっちはどう?」

 

『ネム。ヤマクジラはそちらで撃退済みでしょうか。』

 

「討伐済み。救援が必要そうな場所はある?」

 

『西の沿岸、マリウス港の方にアンデッドの海賊団が襲来しています。』

 

 アンデッド。死者の体に魔物の霊魂が入り込み、生まれる存在だ。実体は霊魂の方であり、教会の手ほどきを受けた聖職者による祈祷で祓うことが出来る。

 

「わかった、すぐ行く。聖職者は?」

 

『軍の聖職者がいくつか。ですが、祈祷ができるほど落ち着いた状況ではないようです。』

 

「ディアス…さん。そう言うことなので、私はマリウス港まで行ってくる。レギーナも置いていく。救援もできたら頼むね。」

 

「わかりました。街の安全が完璧に確認でき次第、騎士を向かわせましょう。」

 

 あの悪天候の中、街の中に潜入し、潜んでいる魔物がいるかもしれない。それがドラゴン級だったら、民間人は太刀打ちできない…。

 ネムは黒騎士におぶさり、マリウス港に向けて出発した。

 

───────────────

 

 ドラゴン級のシーサーペント4体、幽霊海賊船とアンデッド軍団合わせてドラゴン級が6体相当。

 街の自警団などでは太刀打ちできない規模だ。それとは別に、オーク級やゴブリン級の魔物も大量発生している。

 黒騎士とネムはその魔物達相手に連戦せざるを得なかった。その筈だった。

 

「おや、遅かったですね。ご先祖様。」

 

「…エリオット。」

 

「私もちょうど手が空いておりましたのでね。」

 

 快晴の天気と、魔物達の死体。聖職者達が奏でる鎮魂歌がアンデッド達を浄化していく。

 エリオットは血まみれだった。が、全て返り血だろう。錨のような剣先の大剣───『結錨の大剣』は血の一滴もついていなかったが。

 

「ありがとう。流石だね。」

 

「私とて、ヘレネ様からご指導いただいています。ところで…ご先祖様、本体の方で話してくれませんか?その姿で話されると、微妙な気分なのです。」

 

 本体とは、黒騎士の方だろう。そろそろ誤解を解かなくてはならないようだ。

 

「エリオット、その認識には誤解がある。私は黄昏ネム、セクエンスとは別人。」

 

「…は?」

 

「100年前の魔王発生(スタンピード)でセクエンスは私と【結魂の儀】をした。私とセクエンスの魂を繋ぐ儀式。これで一心同体になった。セクエンスと私は糸で繋がれている。そして、儀式の影響で私が起きているとセクエンスは寝て、私が寝ているとセクエンスが起きるようになった。」

 

「……??」

 

「つまり私は黄昏ネムで、セクエンスじゃない。」

 

「…………??まぁいいでしょう。今まで私は失礼なことを言っていた…ようですね。申し訳ありませんでした。ネム様、改めて…ご先祖に会わせてもらえませんでしょうか。」

 

「セクエンスは寝ていると言っても、多少は起きている。あなたの言ったことは全部聞こえてるはず。」

 

「ああ、そうなんですね。会話するためにはどうしたらいいでしょうか?」

 

「夜、私が寝てる時に会いにくればいいと思うよ。」

 

「なるほど、わかりました。…それでは、また後で。」

 

 エリオットは去っていった。全身血まみれなので、シャワーでも浴びにいくのだろう。

 

「セクエンス。後でエリオットの話を聞いてあげて。」

 

「…ギョイ。」

 

 黒騎士は頷いた。

 

「あっ、でも今日泊まる場所、エリオットに教えてない。」

 

 流石に今から自宅まで帰ることもできない。そろそろ夕方だ。

 

「…後デ師匠ニ頼ンデ、話ノ場ヲ作ッテモラオウ。」

 

「わかった。」

 

 とりあえず今日は、潮風を浴びつつ休もう。

 からくり士と黒騎士は、休める場所を探しに歩き出した。





【黒騎士ワラキア】
表向きは黄昏ネムの傀儡。中身はセクエンス=エヴァンス。
【黄昏ネム】
伝説のからくり士で、特別性の人形。
魔王発生(スタンピード)
魔王級モンスターが群れを成して一斉に襲来する現象。
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