「おはようございます。」
「おはよ。」
「……。」
ネム達はベリノア町のエルガン軍支部(町の教会)へやってきていた。防衛隊長はいないようだ。
「防衛隊長は?」
「ディアス隊長は内陸へ入り込んだオーク級、ゴブリン級の相手をしております。本日は私、ベリノア町の駐在レクオルが対応させていただきます。」
「じゃあ本題。ヤマクジラの素材をもらいに来た。」
魔王級モンスターの素材を簡単に紹介する。
・皮、肉、骨、肝(それぞれ薬や武器などになる)
・魔石(魔王級モンスターが自身の魔力を貯めておく器官。モンスターが使っていた魔術が刻まれていて、そのまま道具として使用できることもある。)
・特異器官(モンスターの特性を強く発揮する部位。ヤマクジラで言うと、雷を呼び込む誘電器官など)
「ネム様は特急戦功とのことで、基本的にはどの素材もお渡しできますが、肉や皮、骨、肝…それらは町の復旧や負傷者の手当てに必要なので、あまり多くはお渡しできないと思います。」
「魔石をもらいに来た。からくりの材料になる。」
「わかりました。そちらであれば9つほどお渡しできますよ。サイズとしては中くらいのものですが。」
「いいの?」
「はい。」
「ありがとう。じゃ、それ貰ったら帰るね。」
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「ヤマクジラから取れる魔石の量は特別多いね。大半は2個から3個くらいしか出ないから、驚いた。」
「……ネム、ドウスル…?」
「どうしようかな。」
魔石はからくりの電池。今回貰ったのは9つほどだが、砕いても魔石の機能は維持されるため、たくさん新しいカラクリを作り出すことが出来る。
2人は自宅まで移動していたが、その道中で悲鳴を聞く。
「た、助けてくれぇーー!!」
「!いくよ、ワラキア!」
「ギョイ!」
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ゴブリン級のマーマン程度なら、一瞬で倒すことが出来る。助けられた男はネムに感謝した。
「どうも、ありがとうございます!日課の山菜取りをしてたんですが、いつもはいないのに、魔物が…。」
「ヤマクジラのどたばたで入り込んだ魔物も多い。注意して。」
「ネム、コイツ、ドコカデミタコトアル。」
「…?そういえば、あなた、海賊魔神の…。」
「顔を覚えてもらえて恐縮です。確かに俺は海賊魔神の手下をやらせてもらってます。名前はサタクシーと言います。」
「…ひとつ、思いついたよ。ねぇサタクシー、暇なんでしょ、ちょっと海賊魔神のグループを集めてくれない?」
「はぁ、何をなさるんで?我々、好き放題騒いでいるので、エリオット様からは煙たがられていて…あまり派手なことはしたくないのですが…。」
「大丈夫、そのエリオット様が喜ぶようなことだから。」
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「なんでウチでやるんだよ…。ふぁぁ…。」
ギルドに集まった海賊魔神の一団と黄昏ネムと黒騎士。受付の【蒼炎のテイル】はあくびをしながらぼやいていた。
「それで、話とはなんだ?」
「あなた達、自警団をやってみない?最近ゴブリン級やオーク級のモンスターが出て、皆不安がってる。軍は仕事をしているけども、どうしても取りこぼすことはある。その取りこぼしをあなた達が処理する。」
場がどっと湧いた。エネルギーを持て余した若者達は期待に胸を膨らませる。
「なんだそれ!超やりがいありそう!」
「まさか、モンスター退治なんて…考えたこともなかった。」
「俺たちが自警団かぁ。立派な響きだなぁ。」
だが、リーダーのミカドラドは冷静だった。
「…私たち、剣を数回振ったら疲れてしまうし、山の中を走り続けられるほど体力ないし、モンスターの攻撃を受けたらそのまま死んでしまう。こんな素人がどうやってモンスター退治なんてするんだ?」
おお、そうだな…。確かに…。などの声がちらほら。
「私、ヤマクジラの討伐を実際に見ていましたが、デーモン級のモンスターでも岩ぐらいは持ち上げるし、動きは目で追いきれなかった。…確実な方法があるんですか?ネムさん。」
「ある。この万能からくり、からくり手甲杖を使えばね。」
小型かつ、腕に装着できるサイズの手甲。魔石が取り付けられている。
「ワラキア。ちょっとこれ使ってみて。」
「ギョイ。」
黒騎士が手甲を装備、魔力を通すと…電気の球がいくつかふよふよ発射された。あまり弾速はないが、黒騎士の前面を囲うように展開されている。
「第一の機能、電気バリア!電気の球が使用者を守るよ。武器で突いたら感電するようになってる。この球で牽制すれば、自分と民間人を同時に守ることが出来るはず。次、ワラキア。」
「ギョイ。」
手甲の中央部は外れるようになっていた。外すと、虫のような足を展開する。そのまま放り投げると、からくり虫は着弾点にしがみつき、電気を放出する。
「第二の機能、電気手榴弾!中央部は取り出すと、からくり虫に変形して投げられた相手にしがみついて放電する!充電は魔力でできるよ。麻痺して動きが鈍くなった相手なら簡単に逃げ切れるね!」
「ツヨイ!」
これにはミカドラドも納得せざるを得なかった。場は興奮が覚めやらぬ。
「すごい!これならいけそう!」
「第三の機能は!?早く見せてくれ!」
「ワラキア、からくり虫を手甲に戻して。」
「ギョイ。」
カチャリ。しっかりとからくり虫を手甲に装着する。
「第三の機能を使う前にみんなで外に出よう。」
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「気になって出てきちまった。」
「テイルのおっさんも仲間になるか?」
「なんねーよ。自警団やるなら応援するけどな。」
群衆の前で第三の機能を実演する。
「ワラキア、手を空に向けた後、手甲のレバーを引いて。」
「ギョイ。」
レバーを引くと、手甲から直線上に光が伸びた。
「最後の機能は信号弾。色とかも変えれるよ。ワラキア。」
「ギョイ。」
レバーの横のスイッチを押すと、光の色が赤や青、緑に黄色と移り変わる。
「なるほど。この機能を使えば助けを呼びやすいな。」
「どう?これ、今ならタダであげる。自警団として活動するなら。」
うーんうーんとミカドラドが渋る。仲良しサークルが組織的に行動出来るかは未知数なので、気持ちはわからなくもないが、島全体の自衛力を上げるために引き受けてもらいたい。
悩んでいたら、衛兵が走ってこっちに来た。
「おい!さっきの…不審な光は何だ!ここから出ていたよな!?」
「ああ。衛兵さん。大丈夫ですよ。このからくり士さんの作品でしてね、狼煙のようなものです。」
「…え!?黄昏ネム様!?あうあーこれは失礼を…。ちょっと私では判断し兼ねますので、上の者に報告させていただきます!」
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「私の家の近くで騒ぎが起こったと聞いて来てみれば、あなたの仕業でしたか。黄昏ネム。」
「悪いねエリオット。こんな大事にするつもりじゃなかったんだけど…。」
衛兵なり町の管理者なりが上の者に報告を繰り返していたら、島主のエリオットの元に来てしまったらしい。
「自衛用のからくりですか。有用ですが、民間人に持たせては無用な混乱を生むでしょう。お金は払いますので、あるだけ全てください。」
「ええ〜。」
「イイ案ダトオモッタノニナ。」
「…普通に喋れるじゃないですか。ご先祖様…。自警団については、私の方で検討しておきましょう。軍との足並みもありますし、勝手に勢力を作らないでくださいね。ネム様。ご先祖様。」
「わかった。考えが甘かったね。セクエンス。」
「ウン…。」
「ところで、セクエンスだのワラキアだの、どうして使い分けているんですか?どちらかで良くないですか?」
「セクエンスは
「混乱スルヨナ。ゴメン。」
「いえ、いいですよ。ご苦労されてた事でしょうから。事情をお話しいただいて、ありがとうございました。」
「なんか、やたら当たりが柔らかいね。ちょっと前はピリピリしてたのに。」
「それはあなた方が魔王級のヤマクジラを倒してくださったからですよ。」
エリオットは様々な最悪の未来を想起する。それは、過去に他の地域で実際にあった物事だ。…ペルス島はそれらと比べて、なんと幸福な未来を辿れたことか。
「魔王級なんて、とんでもない規模です。地方がまるごと潰れたり、国が滅びたり、地形が変わったり…無傷で済んだのなら、ありがたがるのがスジというもの。…そうだ、改めて。この島を救ってくださって、ありがとうございました。」
頭を下げるエリオット。
エリオットが島を思う気持ちは本物だ。エヴァンスの家が無くなり、唯一残ったのがこのペルス島。エリオットにとって、かけがえのない故郷なのだ。
「受け取っておく。それじゃ、また。」
「ええ。これからもよろしくお願いします。」
「マタ会オウ。エリオット。」
「ご先祖さまもお元気で。」
からくり士と黒騎士は、島主に見送られながらその場を後にした。
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ネムと黒騎士はギルドに戻り、計画の失敗を海賊魔神の一団とついでに受付のテイルに報告した。
「ということで、自警団の結成は失敗したよ。」
「なるほど。まぁ無理があるわな。」
「私はほっとしました。魔物が入り込んでるのは分かりましたけど、絶対無理だって思ってましたから。」
「…いつもの奔放さはどうしたんだよ。ミカドラド・ドーラ。」
「メリハリをつけるタイプなんです。洒落にならない事になっても、生きてる人が後始末をしなければなりませんから。」
「深いねぇ…。そこまでわかってるなら、家の手伝いで満足してくれないかねぇ…。」
団のメンバーが一斉に反骨する。
「横暴だ!我々の心は自由!」
「フェニックス号の如く、この欲望は燃え盛るのだ!」
「余分を切り捨てれば身軽になる。だがその分寒くもなる!」
「だぁー!やかましい!わかったわかった!その熱意はわかった!俺の負けだ!」
テイルはうつ伏せに倒れ、テーブルへ顔を埋めた。敗北宣言である。
「元魔王級なんでしょ、もう倒れちゃうの?」
「コラ、煽ルナ煽ルナ。」
「もう俺の負けでいいよ…。」
若者達の沸る心が、古びたギルドに活気を戻す。
この島は平和だった。今は違う。
「頑張ろうね、ワラキア。」
「…ギョイ。」
絶対に守る。静かに決意を固める2人であった。