「そろそろこの島の地理を把握しておこう。」
「ギョイ。」
自宅にて、暇を持て余すネムと黒騎士。ヤマクジラを倒したので、しばらく仕事はない。
「まず、私たちが初めに訪れた港、テセウス港。冒険者ギルドと、島主のエリオットの家がある。一番大きな港で、エルガン軍の基地もここが一番大きくて立派。」
「俺タチガ住ンデルノモココダナ。」
「そして、そこから南東へ行くとベリノア町がある。ヤマクジラが現れたのがここで、海賊魔神が屋台で餅を売ってる。」
「レギーナハ、ドウシテルダロウナ。」
「バイオレットを返す時に言ってたけど、ベリノア町にしばらく滞在するんだって。また行けば会えそうだね。…そのペリノア町から西に行くと、もう一つの港、マリウス港があるね。」
「一泊シタガ、海鮮丼ガ美味カッタ。素晴ラシイ新鮮サ。」
「うん。また食べに行きたいね。」
「デ、今日ハドウスル?」
「…そうだ、セクエンスの武器。もう使い物にならないんだっけ?」
「ヤマクジラノ脂ガ取レナクナッテシマッテナ。」
「じゃ、新調しよう。私が作るのもいいけど…今回は色々なツテを辿っておこう。発見があるかも。」
「ギョイ。」
───────────────
「というわけで師匠。セクエンスの剣を打ってくれる人を探してるんだけど。」
『ネム。よく聞きなさい。』
「はい。」
『私は…剣に関しては本当に素人で、何も分かりません!』
「次行クカ。」
「うん。」
『頑張ってくださいね。ネム、セクエンス。』
───────────────
今度は冒険者ギルドの受付、テイルを訪ねた。
「と言うわけ。」
「んなこと言われてもなぁ。今まで使ってた剣は、誰から買ったんだよ。」
黒騎士が前に出る。ネムの意識が少し遠のいた。
「…ゲホゲホ…。ええと、剣に関しては他に本命のやつがあって…それはエリオット様にあげて、今使ってるのは高い金で買ったナイフみたいな…。」
「ええい、ごにょごにょ言ってるんじゃねぇっ!どこで買ったんだっ!」
「王都ディルフィニア…。」
「ふむ。…うーん。このペルス島は鉄とかあんまり出なくてよ。鍛治業がそもそも活発じゃねぇんだ。」
「…ソウカ…。」
ネムがはっと起きた。
「ふぁぁ…はっ。…なるほどね。じゃあ、この島で用立ててもらうのは無理?」
「いや、ミノス島は火山もあって、鉄鋼の生業が盛んだったんだ。知ってのとおり、魔王級が占拠しちまって、住民はいないけどな。だが、俺の言いたいことはわかるだろ?」
「…?」
「ミノス島の避難民が、このペルス島にいるかもしれねぇ。それも、凄腕の鍛治士がな!」
「なるほど!完璧な理論。」
「デ、ソノ鍛治士ノ場所ハ?」
「ばっかやろうお前、いるかどうかわからねぇって言ってんじゃねぇか。場所を知ってるわけねーだろ。」
「ここはもう用済み。行こう、ワラキア。」
「アリガトウゴザイマシタ。」
「おう。こっちも良い暇つぶしになったわ。」
───────────────
ということで、エリオットの元を訪ねてみた。
「ミノス島からの避難民の場所?それを聞いてどうするのですか?」
「彼らが鍛治技術を持ってるって耳にした。セクエンスの剣を打ってもらいたいの。」
「剣を打つなら、この港にいるエルガン軍の剣鍛治にお願いするのが手っ取り早いと思いますが…。ミノス島からの避難民の様子、自分の目で把握しておきたいですね。」
エリオットは椅子から立ち上がった。
「一緒に来るつもり?案外、フットワーク軽いんだね。」
「緊急事態とのことで、この島の大部分は軍が統治しているんですよ。お陰で自由に動けるわけです。…おーい。フィガロー。ジェスター。留守を頼みましたよー。何かあったら、連絡をお願いします。」
「分かりましたー。」
「おう!いってらっしゃい、坊ちゃん!」
「坊ちゃんはやめてください。」
使用人らに屋敷を任せ、一行はミノス島からの避難民が集まっているマリウス港へと出発した。
───────────────
「ところで、連絡って?」
「ヘレネ様から、通信杖なるものをいただいたのです。連絡があれば震え出し、簡単な伝言も行えるのですよ。」
「ソレ、ネムガ作ッタヤツ。」
「うん。」
「ほう、それはそれは…。ありがとうございました。」
「…。」
「……。」
「………。」
3人は、謎に沈黙した。
───────────────
マリウス港は白い石で街中が構築されている。日当たりが強いのでそれを防ぐためだ。特産品としてマーマンの卵が楽しまれている。手のひらサイズの卵で、海藻のような分厚い膜をガブリと食い破ると、濃い磯の風味と強い旨みが噴き出るのだ。たまーに中身が生まれかけの卵があり、そちらは珍味として金持ちや貴族の間で取引される。
「避難民の為に集会所を用意しています。…確か、あちらの方ですね。」
ミノス島避難民の集い…。そこはもう、とんでもないことになっていた。
「ば、馬鹿な…円形で、いわゆるスタジアムのような集会所だったのに…!?」
そこには白い巨塔が聳え立っていた。備え付けられた煙突からは、モクモクと煙が立ち上っている。
「こんなものを作ったら、絶対に噂になるはず。どうして今まで私の耳に届いていないんでしょうか。」
「とりあえず入ってみようよ。」
「ギョイ。」
初めに感じたのは、涼しさ───。
「暗いですね。」
「ちょっと心地いい薄暗さだね。」
照明は、至る所にある炉の炎のみ。
「…!地下ニ、コンナ空間ガ…!」
黒騎士の目を引いたのは広大な地下空間。中央から螺旋階段で下に行くことができる。一番下は鍛治士たちの集会所となっていた。
「そうか、分厚い壁で日光を防ぎ、地下空間を広げることで熱を分散して涼しくしている…すごい工夫。」
辺りを見れば、この心地よい暗闇の中、鍛治士ではなさそうな人々も寛いでいる。なるほど、日差しが強いマリウス港でここが噂になってしまったら、人々が集中して過密状態になってしまうに違いない。
(ま、それ以外にも噂になっていない理由はありそうですが…。)
「…しかし、ネム様、どうするのですか。私の務めは半ば終わったようなものですが、セク…ワラキア殿の剣を作ってもらうのでしょう。こんなにたくさん炉もあると、それだけ鍛治士もいることでしょう。」
「うん。誰に頼めば良いのか、わからないね…。」
「ウーン…。」
───────────────
まず、1番近い火の炉から攻めることにした。
「剣を打って欲しいんだけど。材料はこれね。」
「あいよ。…こ、これは、魔王級の素材…!?」
剣を打つということで、事前にベリノア町へ寄ってヤマクジラの歯を仕入れてきたのである。大きさは、大柄な成人男性がすっぽり収まるほどの大きさだ。
「どこから取り出したんですか?そんな大きい素材…。」
「召喚魔法を使えばちょちょいのちょい。」
「…すまねぇ。オイラには無理だあ。おやっさんに頼んでくれ。1番下の火の炉の前に座ってる爺さんだ。腕はうちの中じゃ1番さ。」
───────────────
「おじさん。剣お願い。これで。使うのはこのワラキア。」
「ワラキアデス。剣オ願イシマス。」
「わかったよう!これなら、5日間で作れるよう!前金で40貰うよ!」
「はい。金貨40枚。」
ヤマクジラ討伐の時に、金貨を270枚貰っている。船を三隻買えてしまうほどの金額だ。
「じゃ、6日後の昼に受け取りに来る。」
「あいよう!」
「一瞬で終わりましたね…。」
ヤマクジラの歯は相当硬いだろうし、こんな場所で加工なんてできるんだろうか。もしかしたら、ぼったくりかも…。
「本当にできるんですか?それ、魔王級ですよ?」
「材料が立派なものであるほど、製品は立派に仕上がる!これは当たり前な!この牙は最高の牙だ!最高に仕上がるよう!」
ぺたぺたヤマクジラの歯を触りながら、職人は言い切った。自信に満ち溢れている。
「…ふむ。それはご立派ですね…。」
(軍の会合で話題にするのは、少し待った方がいいか…。こんなパワーを持った場所、今まで見たことがない。)
もう少し、この場所の行く末を見守ろうと思うエリオットであった。
「じゃ、よろしくねー。」
「ヨロシク、オ願イシマス。」
果たして、最高級の素材を使った剣はどんなものになるだろうか。
2人の関係───
ネムとセクエンスは、互いに互いを操作している。
ネムが起きている時は、セクエンスはからくりとしてネムに操られる。
ネムが昏睡している時は、セクエンスが背筋でネムを動かしている。