「…昨日、島主のエリオットがここに来たらしいな。何か勘付いてはいなかったか?」
「さてね。見張ってましたが、ほんとに付き添いですよ。…ここの事も、新興の鍛治ギルドだって好意的に見てる。」
「まぁ、物を用意しちまえばこちらのもんか…。安心して良さそうだな。あとは任せるぜ。」
「あいよー。」
「…マジで、ここダメにしたら…わかってるよな?真剣にやれよ。」
マリウス港に作られた白い巨塔…。中にいる鍛治士達は契約魔法により縛られ、外へ出ることすら許されない。死ぬまで労働させられる。
…塔の管理室に、老人が立ち入った。
「入っていいぞ。」
「お忙しい中すみません。大口の依頼が入りました。魔王級の素材で、金貨を40枚いただいてます。」
「ほう、そりゃ結構じゃねぇか。」
金貨40枚もあれば、大抵の貴重品はなんでも買えてしまえる。
「なので、加工の際に必要なマナタイトとミスリル、刀身に使うオリハルコンを用立てていただきたいのです。できれば、私が目利きまでしたいです。」
「…わかった。顧客の願いに最大限応えてやれ。鹿桜屋の名に相応しい出来を頼むぞ。荷物持ちに幾つか人員をつける。」
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マリウス港は鹿桜屋が入ってきてから、鉄と剣の街へ発展を遂げ始めた。鉱石は最上級のものがいくつもあり、剣や鎧はヤマクジラ防衛戦の後始末に追われるベリノア町へと送られている。
「…しかし、想像できねぇなぁ。牙をどう剣にするんだよ。じいちゃん。」
「聞きたいかぁ?」
最下層の火の炉で仕事をする職人、エルドは武器の作り方について、手伝いの子供に説明する。
「モンスターの素材には魔力がこもってる!だが、そのまま素材を振り回しても壊れたり劣化したりして、魔力が抜けちまう。だから、鉄に魔力を吸わせて強靭な武器として作り直すんだあ!」
「すると、あの大きな牙は粉みたいにして金属に混ぜ込むのかい?」
「魔力だけ取り出せりゃいいんだあ。変に素材をつけるとその分重くなるし、混ぜ込めば脆くなっちまう。ミスリルは魔力をよく吸ってくれる。マナタイトは、使い手の魔力を刀身に注いで力を強くしてくれる。オリハルコンは魔力の流れを損なわず、剣を強靭にしてくれる。この3つを使って打つのさあ。」
「ほえー。…なぁ、もう目利きは終わり?」
「おうよ。…ちょっとトイレ行ってこい。…頼むぞお。」
「わかった。」
荷物持ちにと付けられた監視の人員を振り切り、少年は島主の屋敷を目指す───。
(…この鹿桜屋の企みで、みんな休まずに、家族に会えずに働かされている…。)
ミノス島からの避難民は、鹿桜屋の輸送船船員、サービス業の従業員、一次産業の担い手として馬車馬の如く働かされている。
なぜそんな契約に乗ってしまったのか?…全ては、武力によるもの。食事、住居、治安…その全てを鹿桜屋が支配している為に…ッ!
(今に見てろよ、間抜け面。…島主のエリオット様なら、きっと俺らを助けてくれる…!)
ミノス島にとって、ペルス島との交流は身近な物だった。もし、エリオットがこの企みを知っていれば、許すはずがない…!信じて突き進む少年であった。
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「何ィっ!?ガキの数が足らねェだと!?」
「おそらくは、港の鉱石市場で…。」
「馬鹿。冷や汗かいてんじゃねぇよ。当然把握済みだ。契約の効果で場所は筒抜け。とはいえ、良い機会だ。島主様には俺たちの味方になってもらおう。カゲロウ!」
「御意に。」
「島主エリオットを…脅せ。暴力でな。交渉だ。この通信道具を預ける。」
「ハッ!」
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翌日、テセウス港、島主の屋敷にて…。エリオットは謎の人物からの襲撃を受けていた…ッ!
「…使用人を盾にするかッ!卑怯者!」
「なんとでも言え。そして、話を聞くがいい、島主…。エリオット=エヴァンス!」
「坊ちゃん、構いません!やってください!」
「エリオット様!お願いします!」
「ええい、簡単に言うなッ!主君が臣下を見捨てられるわけなかろうが!」
影の魔法で縛られた使用人達、手を出せないエリオット…戦況は膠着状態へ。襲撃者は語り出す…。
「私は雇われの魔王級暗殺者、カゲロウ=イサキ。とはいえ、今日は殺しに来たわけではない。いずれ正式に殺すことになるかもしれないが。」
「要件はなんだ。」
「我が主人から、直接お言葉がある。」
『聞こえるか。エリオット=エヴァンス。鹿桜屋の岬景虎だ。単刀直入に言うぜ。…マリウス港は俺らのシマだ。勝手なことを言うが、手は出さねえで欲しい。』
魔道具の映写機だ。マナタイト製で3回限りの使い切りの高級製品。ビジネスの場では一般的に使用される。
「くだらないですね。言われなくともそのつもりでしたが、あなたはやり方を間違えたようだ。頭が悪いのですか?」
『頭が悪いのはそっちだろう?自分の命が見えてないようだな。吹けば消えるか細いものだ。その立派な眼鏡なら、よく見えるだろう。』
「エルガン軍はこちらに付いている。」
『あいつらに武器を流しているのは俺だ。そして、マリウス港を通してペルス島の経済を回しているのも、俺…。
「…。」
こうなってくると、立場が逆転してくる。鹿桜屋には島主以上の価値がある。統治者としての価値が。エルガン軍が協力するのはより価値が高い方だ…。
『まぁ、そういうことだ。…最後に一つ、確認をさせてもらうぜ。』
少年の声がする。屋敷の外からだ。
「エリオット様ー!話を聞いてください!マリウス港で、俺の親父やじいちゃん達が…!」
「…まさか。」
『そのまさかだ。そのガキを殺せ。騒ぎになる前にな。』
「坊ちゃん!ダメです!そんなことは…!」
「エリオット様、あの子供と一緒にお逃げください!」
「……。」
エリオットは、ふらふらした足取りで玄関へと向かい始めた。
カゲロウがその後ろを歩いていく。
「エリオット様ー!…エリオット…様…?な、やめ、やめて…!」
ゆっくりと、剣を振り上げるエリオット。
「駄目…駄目!エリオット様!エリオット様ァー!」
「馬鹿、やめろ!なんでそんなッ!おかしいッ!」
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「思ったより…感慨が出ませんね。」
切られた者の身体から、どくどくと血が溢れ出る。
「エリ…オット……。」
「魔王級暗殺者でしたっけ。その名乗り、やめた方がいいですよ。本物と比べて余りに不相応だ。」
振り向き様に一閃───深い一撃を喰らい、カゲロウは戦闘不能だ。魔道具の映写機が転がり落ちる。
「エリオット様ァー!」
「流石は坊ちゃんだぜ!ヒヤヒヤした。」
『…馬鹿な事を。もう取り返しは付かねえぜ。』
「その言葉、そのままあなたにお返ししますよ。───あとはよろしくお願いします。ご先祖様。」
通信が切れる。
「少年、大丈夫でしたか?怖い思いをさせましたね。事情は後でお話ししましょう。」
「あ、ありがとう。でもじいちゃんが…。」
「大丈夫ですよ。特別強い知り合いに頼みましたので。…ここまで、よく頑張りましたね。少し休んでから、マリウス港に向かいましょう。フィガロ、ジェスタ。一応この暗殺者に手当てをしておいてください。」
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白い巨塔を外壁ごと切り裂いて、現れ出でるはからくり士とその従者。
「馬鹿な…この場所がどうしてわかった…!?」
「通信機からの逆探知だよ。」
「くっ、お前ら!働けッ!シノギができなくなったらおしまいだッ!」
「あいよー。久々に体を動かせそうだ。」
16名の用心棒達がネムと黒騎士を囲う。
「エリオットから通信が来てね。…事情はわかってるんだ。とりあえず、ここにいる人みんな制圧する。お願い、ワラキア!」
「───御意。」
「相手は黄昏ネム、人形師だ!一斉に攻撃しろッ!!」
一斉に飛び出し、用心棒達はネムを狙う。が───。
「火炎防壁。ワラキア!」
「オオオッ!!」
炎の防壁により、刃が焼き切れ届かない。呆けている間に黒騎士が一網打尽に投げ飛ばすッ!
「ひゅー。やるじゃん。」
「腕利っぽいのが残ったね。用心して、ワラキア。」
「ギョイ!」
「───正真正銘、魔王級暗殺者…【氷葬の宗治】。【黒騎士の繰り手】、お相手仕る。」
宗治が刀を構えると、霰が降り出した。おそらくは氷魔法の使い手なのだろう。
ネムはカラクリとはいえ、魔術師であり打たれ弱い。宗治ほどの達人を相手にする場合、隙を見せれば一瞬でバラバラにされてしまう。
「吹雪殺法、【千本針】。」
ネムの足元から氷の針が高速で伸びる。
「火炎防壁。続けて噴火準備。」
炎の防壁は氷の接近を許さない。かつ、炎の弾丸をチャージし始める。【噴火】はためたエネルギーを一度に放出する炎属性最高威力の魔法だ。
(まずい、からくり士を仕留めないと…!?)
「ユクゾッ!!」
「クッ…!」
黒騎士が宗治に接近する。このままではネムに接近できない。壮絶な高速の撃ち合いを行う中、宗治は黒騎士の弱点に気づく。
(この剣…切れない!)
黒騎士の剣はヤマクジラの油で濡れて使い物にならなくなっている。身体強化を防御と回復、体幹に割り振り、黒騎士の攻撃を強引に受けつつすり抜ければ、そのままネムに接近できる…!
「この勝負、貰った───!」
黒騎士の攻撃を腹に受けるが、切れないッ!
(やったぞッ!)
そのまま前進。接近する。接近できている!殺った!
「が。」
(なんだ?この声、俺の…?)
が、身体に走る唐突な痺れ。
「が、ガガッ…あばばばばッ…!?」
(なんだ、痺れ!?電気…?いつの間に…。だがおかしい。魔法を軽減する為に魔力の膜を身体中に貼ってたんだ。こんなに痺れるはずが───。)
「からくり手甲杖だよ。」
黒騎士が投げたからくり虫が宗治の身体に張り付いていた。宗治が貼った魔力の膜の内側から放電したので、十分なダメージを与える事ができたのだ。
「そ、んな…。ぐ…。」
宗治は気絶した。
「流石ダナ。ネム。」
「ありがとうワラキア。…あとはあなただけ。」
「そ、そんな…俺が、俺が悪かったのか!?あ、あのガキさえいなけりゃ!あいつが抜け出したりしなければっ!」
「続キハ軍ガ聞コウ。」
黒騎士の容赦ない一撃が、鹿桜屋支部長、岬景虎の鼻っぱしらを殴り抜いたッ!!
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「まさか、ミノス島からの避難民達全員が奴隷のように働かされていたなんてね。」
「契約魔法デ無理矢理働カサレテイタヨウダ。」
エルガン軍が塔内部を捜査したところ、非人道的な契約内容の契約書がいくつも存在した。現在は写しを取って燃やしている。(燃やさなければ契約が解除されないため。)
「ありがとうなあ。ネムさん。ワラキアさん。」
「鍛冶屋のおじちゃん。」
「あんたらのおかげで俺たちは自由さあ!ありがとうなあ!これはそのお礼だあ!」
鍛治士エルドは大剣を黒騎士に差し出した。薄い青色の刀身で、海面を見ているかのような透明感だった。
「剣…。それも、かなり上物…。」
「頼まれた剣だよお。張り切ったらもうできちまった!ええとな?青く染まってるのはヤマクジラの牙の魔力でよ。水の流れを操る事ができるなあ。魔力を入れりゃもっとできる!ついでに、雷が落ちる場所もある程度指定できるなぁ!」
「そういうの、どうやって調べたの?」
「オイラ、精霊魔法を使えてなぁ。この剣の精霊様に聞くと教えてくれるのよ。ああ、忘れてた。この剣の名前。精霊様が言うには【エルンホルン】だそうだぞお!」
ということで、黒騎士は巨王剣エルンホルンを手に入れた。ちょうどその時、一つの馬車が塔へと到着する。そこから降りてきたのはエリオットと、1人の子供…。
「じいちゃん!」
「カルム!…おお、よし、よし。───よく頑張ったな。天晴れ。」
しっかりと抱き合う2人。
エリオットと共に家族を眺める、ネムと黒騎士であった。