魔王城を遠望できる最後の平野、その中央に「境界の町」と呼ばれる交易都市があった。
人類の国境線にして、魔王軍の補給線でもある。
勇者たちは、戦いの前にこの町へ立ち寄らざるを得なかった。
だが目にした光景は奇妙だった。
市場では人間の商人と魔族の行商が肩を並べ、酒場では人類の兵士と魔族の傭兵が同じ卓を囲んで笑っている。
勇者の仲間が思わず声を荒げる。
「な、なんだよこれは!敵と酒を酌み交わすなんて···!」
そこへ村長がゆっくりと歩み寄る。
白髪の老爺は杖を突きながら、落ち着いた声で言った。
「驚くのも無理はない。だがここは戦場のど真ん中じゃ。戦えば町ごと滅ぶ。
ならば我らは選んだのだ。剣ではなく、金で生き残る道を」
武器屋の主人が加わる。
「勇者様、この剣も魔王軍の黒騎士に売ったのと同じ品だ。
鉄は鉄、金を払えば誰の手にも渡す。それがこの町のやり方さ」
酒場の給仕の娘が笑みを浮かべる。
「昨日は魔族のお客さんが子供にお菓子をくれたんです。
ねえ勇者様も、くれる?」
仲間の一人は憤然とした。
「ふざけるな!これでは敵に加担しているのと同じだ!」
だが別の仲間は沈痛な面持ちで呟く。
「···でも、ここを潰せば戦力は削げても、この村の人たちは···」
村長は静かに告げる。
「勇者よ。ここで選べ。
わしらを守り交易を続けるか、剣を抜いて潰すか、あるいは説き伏せて中立を選ばせるか。
その決断が、世界の行方を決める」
勇者は拳を握りしめた。
魔王を討つ前に、この町での選択こそが最初で最後の「真の試練」だった。
──────────────────────
エンド1:交易存続ルート
勇者たちは悩んだ末、村の交易をそのまま存続させることを選んだ。
村長は安堵の笑みを浮かべ、商人たちはすぐに活気を取り戻す。
「勇者様も魔王軍も、お客様に変わりはありません。等しく歓迎いたしますよ」
──そう言って、彼らは金貨を掴み、両陣営に武器を売り渡す。
やがて魔王城に突入する勇者たちの手には、村の工房で作られた最新の武具が握られていた。
だが同じ剣と盾が、魔王軍の幹部の手にもある。
両者は互いに憎悪を剥き出しにしつつ、心のどこかで「この装備が同じ職人の手によるもの」と知っていた。
皮肉にも、戦場を支えているのは魔王でも勇者でもなく「交易」だったのだ。
勇者は辛くも魔王を討ち果たし、人類の未来は確保された。
だが歴史家たちは後にこう記す。
──「勇者は人類を救ったが、魔王に資する者でもあった」と。
そして最終分岐村は、戦後も豊かに存続し続けた。
エンド2:町を潰すルート
「···ここを潰さなきゃ、魔王軍は滅ぼせない」
勇者の決断は重かった。村長は抵抗したが、村人たちは強かった。
血みどろの戦いの末、勇者たちは交易の町を破壊し尽くした。
炎に包まれた街並み、倒れる人々。その光景は魔王城の戦いよりも勇者の胸を焼いた。
だがその代償は確かにあった。
魔王軍の補給は断たれ、進軍は鈍る。
勇者は決死の戦いで魔王を討ち果たすことに成功した。
だが仲間は半数を失い、勇者自身も深手を負う。
人々は彼を英雄と称えたが、同時に恐怖の目で見つめた。
「交易の町を焼いた虐殺者」──その汚名は歴史に刻まれ、勇者の名は賛否両論のまま後世へと語り継がれた。
エンド3:説得・中立ルート
勇者は剣を振るわず、村長の前に立った。
「戦いたくはない。だが、魔王軍への補給を止めてくれ」
何度も何度も説得を重ね、時には仲間が諦めかけた。
だが村長は最後に深い溜息をつき、うなずいた。
「···分かった。商いは縮小しよう。生き残るためではなく、生きるために」
交易は途絶え、魔王軍も人類も補給不足に陥る。
両陣営が疲弊した末、勇者たちはついに魔王を討ち果たす。
勝利はした。だが人々は勇者を英雄と呼ばなかった。
「平和をもたらした者」──それは敬意と同時に、どちらの陣営からも疎まれる烙印だった。
数十年後。最終分岐村は「戦わぬ道を選んだ村」として伝説となり、勇者の名は静かに「平和の象徴」となっていた。
エンド4:町が魔王軍側につく
勇者は説得に失敗し、村は魔王軍と全面的に結びついた。
武器も食糧も兵站も、すべてが魔王に注ぎ込まれる。
かつて人間の町であった場所は、やがて「魔王都市」と呼ばれるようになった。
魔王軍の勢力は爆発的に膨れ上がり、勇者の奮戦も虚しく敗北する。
人類の国々は次々と滅び、希望は絶望へと塗り替えられた。
そして歴史の書にはこう残される。
──「魔王を支えたのは人類自身であった」と。
勇者が勝利したとしても、そこに残るのは廃墟と焦土。
人類はかろうじて生き延びるが、未来は閉ざされていた。
最終分岐村は生き残った。だがそれは、人類ではなく魔族の繁栄の礎としてであった。