灰色の魔法少女   作:ろじっく

3 / 5
3話です。


閃光、闇を裂いて

暗がりで蠢く魔物が、じわりと澪へにじり寄る。

背後の少女の泣き声が、胸の奥を鋭く抉る。

 

──怖い。

足は震え、呼吸はうまくできない。

けれど、逃げ出せばこの子はどうなる?

 

「……っ、来るなッ!」

 

精いっぱいの声を張り上げるが、影は止まらない。

触手のように伸びた腕が、澪に振り下ろされようとした瞬間──

 

閃光が、夜の街を切り裂いた。

 

轟音。衝撃波。

魔物の身体が弾き飛ばされ、澪の視界に光の残滓が散る。

 

 

次の瞬間、そこに立っていたのは――眩しいほどの少女だった。

純白の衣装に銀の紋章。長い髪が光を帯び、手にした杖からは淡い輝きが零れている。

 

「……大丈夫?」

 

振り返った魔法少女は、澪と庇われた少女を一瞥し、柔らかく微笑んだ。

 

その笑顔は、テレビやニュースで見慣れた“希望”そのものだった。

だが、目の前で見ると現実感があまりにもなくて、息を呑むしかない。

 

魔物が再び吠え、立ち上がる。

少女は杖を構え、声を張る。

 

 

「〈聖なる光よ、我が道を照らせ〉!」

 

 

地を蹴る音と共に、白い光の矢が放たれる。

魔物は悲鳴を上げ、灰のように崩れ去った。

 

静寂。

ほんの数十秒の出来事だった。

だが澪の心臓は破裂しそうなほど暴れている。

 

魔法少女は、背後の少女を安心させるように頭を撫でた。

 

「もう大丈夫よ。怖かったね。」

 

泣きじゃくる声が小さくなっていく。

 

澪は呆然とその背中を見つめていた。

──これが、自分が憧れていた“ヒーロー”。

手を伸ばしたはずなのに、届かなかった存在。

 

「……っ」

 

胸がちくりと痛み、視界がにじんだ。

自分はただ震えて立ち尽くすことしかできなかったのに、彼女は笑って誰かを救っている。

 

その圧倒的な差に、言葉は喉の奥で凍りついた。

 

静まり返った路地に、少女の嗚咽だけが残る。

光に包まれた魔法少女は、その背で澪と少女を守り続けていた。

 

澪は、声が出なかった。

映像でしか見たことのない“ヒーロー”が、目の前で自分を守っている――その事実が、恐怖と同時に現実感のない衝撃となって胸を打った。

 

だが同時に、心のどこかで思ってしまった。

 

(……これは、私の望んだことじゃない)

 

助けられる自分。

戦う誰か。

それはあまりにも、手の届かない遠い世界だった。

 

胸の奥で、ちり、と小さな痛みが走る。

それが悔しさなのか、憧れの残滓なのか、自分でもわからない。

 

魔物が灰と化して消えた路地に、静けさが戻る。

魔法少女は杖を収め、泣きじゃくる幼い少女にそっと膝をついた。

 

「よく頑張ったね。」

 

優しく頭を撫でる声は、あまりにも自然で、日常の一部のようだった。

少女はすがりつき、震える声で「ありがとう」と繰り返す。

 

それから魔法少女は立ち上がり、澪に目を向けた。

 

「あなたも...ありがとう。あの子を庇ってくれたんでしょう?」

 

「...え。」

喉がひりつき、声にならない。

 

「とても勇気がある行動だよ。普通なら逃げるだけで精一杯なのに。だからこそ、私が間に合ったの。」

 

その瞳は真剣で、澪の存在を肯定するものだった。

 

けれど澪の胸に広がったのは、誇らしさではなく──どうしようもないモヤモヤだった。

自分は何もできなかった。震えて立ち尽くすことしかできなかった。

それなのに「勇気」と呼ばれることが、痛いほどの皮肉に思えた。

 

(違う...。私は、ただ怖くて、どうすることもできなくて...)

 

うまく返事もできないまま、澪は視線を落とす。

魔法少女はそれ以上追及せず、ただ微笑んで背を向けた。

 

「もう心配はいらないわ。──気をつけて帰って」

 

夕暮れの街路に、その背中はひときわ眩しく輝いて見えた。

だが澪は立ち尽くし、胸に渦巻く痛みから逃れられずにいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。