転生先が『動機演出家』の世界ってニッチ過ぎない? ~今日も何処かで人が死ぬ音がする~ 作:信頼できる語り手
原作:動機演出家
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 転生 男主人公 シリアス 猟奇的 雪織廿楽 飯山満 原作知ってる人がいたら握手
この作品を読む前に、挿し絵まで含めて雰囲気作りが絶妙な『動機演出家』を読んでください。
小説の世界に転生した事なんて、僕にとってはどうでも良かった。
転生先は『動機演出家』の世界。知らない人に説明するならば、ジャンルは少し変則的な猟奇ミステリー、と言うべきかな?
死に方を求める女子高生・
まあ、あまり知名度の高くない小説だと思う。少なくとも、僕の前世でこの本の話をしている人は見た事がない。
だから、僕が『
でも、そんな事はどうでも良かった。僕にはもっと大事なモノがある。それは死に際に聴こえた、あの。
──音。
「ああ、駄目だ。良い音が出ない」
僕は愛用のヴォイオリンを肩と顎に挟むように支えたまま、苛立ち混じりに吐き捨てる。
「……ツキ。俺達、出て行こうか?」
友人の天城鴻理が気まずそうに提案してくるが、僕は首を横に振った。
「いや、構わないよ。僕がスランプなのは僕の問題だからね。君達の発するゴミのような雑音が原因だと勘違いしているのなら、とんだ自意識過剰だ。好きに寛ぎたまえ」
「香月……さらっとすげー毒吐くよな。変人具合なら雪織さん以上じゃねーの?」
赤みがかった髪の男子高生──
「心外だね。僕をあんな倒錯した死体愛好家と一緒にしないで欲しいものだ。物質的な死体を求めるなんて、実に趣味が悪い。度し難い変態。ナンセンスにも程がある」
「雨森。ここには私本人もいる事を忘れていないかしら?」
「忘れてはいないとも。わざわざ足を運んで言いに行く手間が省けて何よりだよ」
白い肌に黒髪のスレンダーな女子高生──雪織廿楽が死体のような瞳を向けてきたので、肩を竦めてみせた。
「カツキとヅラは本当に仲が悪いわね。まるでマザーテレサみたい」
ハチミツ色の髪の女子高生──
僕は再びヴォイオリンの弓を柔らかく摘まみ。
「そういえば昨日、ヅラと出かけてたんだって?」
──葉子の発した言葉に、演奏を再開しようとしていた指が止まる。
「まあ、ちょっと、人が死んだ場所を見にな」
「雪織さんとお前……ホントそういうの好きな?」
「いい加減やめないと、そのうち痛い目見るわよ?」
幼馴染3人組が何やら言い合っているが、僕にとって重要なのはそこではない。無言でヴォイオリンを楽器ケースに仕舞う。
「あら、どうしたの?」
廿楽が揶揄ってくるが、無視した。
「僕にも状況を聞かせてくれたまえ、鴻理。何か作曲のヒントになるかもしれない」
「やっぱり食い付いてくるよな、ツキは。あまり楽しい話にはならないけど、良いか?」
「愚問だな。僕はあの日から、楽しいと思えた事なんてないさ」
君が泣けないように、ね。続きの言葉を察したのか、鴻理は眉間に皺を寄せた。
「僕が藁にも縋る思いで頼んでいる事は、君もよく理解しているだろう?」
実際、僕はずっとスランプなのだ。そうでない時期が思い出せないくらいに。
1度目の死を経験し、この世界で生まれ直してから10年以上が経過した。僕は動けるようになった瞬間から今日までの時間を全て、楽器の演奏と作曲だけに捧げてきた。
前世ではリコーダーを触った程度の素人だった僕は、ピアノからギターまで様々な楽器を練習し、その度に絶望する。
──あの音が出ない。
死に際に聴こえた、弾けるような、溺れるような、崩れるような、蕩けるような──あの音が出ない。
幸いな事に、終わりの音色は今でも鮮明に頭に残っている。
もどかしい。ゴールが見えているのに、辿り着く方法だけがどうしても見付からない。これほど苦しい事があるだろうか。
だから、アプローチを変えてみる事にした。
他者の死からインスピレーションを受け、その音を予想して奏で続ける事で、いずれは僕自身が体験した死の音に近付けるのではないかと。
もし僕が『動機演出家』の舞台──異常事件が頻発する歪んだ都市に導かれた事に、何らかの意味があるとしたら。
「悪趣味ね」
「君達ほどじゃないさ」
「なあ、ツキ」
いつだったか。鴻理は僕に対して神妙な顔で話しかけた。
「もしお前が人を殺しても、絶対にばれないようにしてくれ」
中途半端に壊れてしまった、壊れきれなかった、彼らしい言葉だと思う。
「俺は騙され続けるからさ」
完全に壊れてしまった僕には、彼の内面を想像する事しかできない。
「もしも、僕が君を騙しきれなかったら、どうするんだい?」
「その時は俺が、ちゃんと暴いてやるよ」
彼の真剣な眼差しを受けたからか、僕は話を逸らすように、柄にもない気休めを言ってしまった。
「君の納得できる『動機』が見付かると良いな、演出家」
本当は、僕は知っている。
転生したから。つまり、一度死んだから知っている。
人の死は言葉で表現できるモノではないのだ。生者が想像して演出できるようなモノでは断じてない。納得できる死など……。
だから、僕は今日も音を奏でる。死に際に聴こえた、深く地の底へ沈むような旋律を。
「ああ、そうだな」
鴻理が呟く。その音に込められた感情は何だろうか?痛み?苦しみ?それとも。
ああ、いや、そんな事を考えている暇など僕にはないのだ。今、この瞬間ですらも。
──今日も何処かで人が死ぬ音がする。