多分、ハーメルン1自己満足な二次創作です。

この作品を読む前に、挿し絵まで含めて雰囲気作りが絶妙な『動機演出家』を読んでください。

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臨死作曲家~雨森香月のヒトゴロスランプ~

 小説の世界に転生した事なんて、僕にとってはどうでも良かった。

 

 転生先は『動機演出家』の世界。知らない人に説明するならば、ジャンルは少し変則的な猟奇ミステリー、と言うべきかな?

 

 死に方を求める女子高生・雪織(ユキオリ)廿楽(ツヅラ)と、動機を求める男子高生・天城(アマギ)鴻理(コウリ)が、循環都市──朱比市を舞台に殺人事件を追っていく話だ。

 

 まあ、あまり知名度の高くない小説だと思う。少なくとも、僕の前世でこの本の話をしている人は見た事がない。

 

 だから、僕が『雨森(アマモリ)香月(カツキ)』としてこの世界に転生した事には、偶然ではない意味があるのかもしれない。

 

 でも、そんな事はどうでも良かった。僕にはもっと大事なモノがある。それは死に際に聴こえた、あの。

 

 ──音。

 

 

 

「ああ、駄目だ。良い音が出ない」

 

 僕は愛用のヴォイオリンを肩と顎に挟むように支えたまま、苛立ち混じりに吐き捨てる。

 

「……ツキ。俺達、出て行こうか?」

 

 友人の天城鴻理が気まずそうに提案してくるが、僕は首を横に振った。

 

「いや、構わないよ。僕がスランプなのは僕の問題だからね。君達の発するゴミのような雑音が原因だと勘違いしているのなら、とんだ自意識過剰だ。好きに寛ぎたまえ」

 

「香月……さらっとすげー毒吐くよな。変人具合なら雪織さん以上じゃねーの?」

 

 赤みがかった髪の男子高生──山本(ヤマモト)真吾(シンゴ)は、苦笑いしながら言う。 

 

「心外だね。僕をあんな倒錯した死体愛好家と一緒にしないで欲しいものだ。物質的な死体を求めるなんて、実に趣味が悪い。度し難い変態。ナンセンスにも程がある」

 

「雨森。ここには私本人もいる事を忘れていないかしら?」

 

「忘れてはいないとも。わざわざ足を運んで言いに行く手間が省けて何よりだよ」

 

 白い肌に黒髪のスレンダーな女子高生──雪織廿楽が死体のような瞳を向けてきたので、肩を竦めてみせた。

 

「カツキとヅラは本当に仲が悪いわね。まるでマザーテレサみたい」

 

 ハチミツ色の髪の女子高生──百葉(モモハ)葉子(ヨウコ)のセンスのないあだ名と、いつも通り意味不明な比喩を軽く聴き流す。真面目に受け取っても集中が乱れるだけだ。

 

 僕は再びヴォイオリンの弓を柔らかく摘まみ。

 

「そういえば昨日、ヅラと出かけてたんだって?」

 

 ──葉子の発した言葉に、演奏を再開しようとしていた指が止まる。

 

「まあ、ちょっと、人が死んだ場所を見にな」

 

「雪織さんとお前……ホントそういうの好きな?」

 

「いい加減やめないと、そのうち痛い目見るわよ?」

 

 幼馴染3人組が何やら言い合っているが、僕にとって重要なのはそこではない。無言でヴォイオリンを楽器ケースに仕舞う。

 

「あら、どうしたの?」

 

 廿楽が揶揄ってくるが、無視した。

 

「僕にも状況を聞かせてくれたまえ、鴻理。何か作曲のヒントになるかもしれない」

 

「やっぱり食い付いてくるよな、ツキは。あまり楽しい話にはならないけど、良いか?」

 

「愚問だな。僕はあの日から、楽しいと思えた事なんてないさ」

 

 君が泣けないように、ね。続きの言葉を察したのか、鴻理は眉間に皺を寄せた。

 

「僕が藁にも縋る思いで頼んでいる事は、君もよく理解しているだろう?」

 

 実際、僕はずっとスランプなのだ。そうでない時期が思い出せないくらいに。

 

 1度目の死を経験し、この世界で生まれ直してから10年以上が経過した。僕は動けるようになった瞬間から今日までの時間を全て、楽器の演奏と作曲だけに捧げてきた。

 

 前世ではリコーダーを触った程度の素人だった僕は、ピアノからギターまで様々な楽器を練習し、その度に絶望する。

 

 ──あの音が出ない。

 

 死に際に聴こえた、弾けるような、溺れるような、崩れるような、蕩けるような──あの音が出ない。

 

 幸いな事に、終わりの音色は今でも鮮明に頭に残っている。

 

 もどかしい。ゴールが見えているのに、辿り着く方法だけがどうしても見付からない。これほど苦しい事があるだろうか。

 

 だから、アプローチを変えてみる事にした。

 

 他者の死からインスピレーションを受け、その音を予想して奏で続ける事で、いずれは僕自身が体験した死の音に近付けるのではないかと。

 

 もし僕が『動機演出家』の舞台──異常事件が頻発する歪んだ都市に導かれた事に、何らかの意味があるとしたら。

 

「悪趣味ね」

 

「君達ほどじゃないさ」

 

 

 

「なあ、ツキ」

 

 いつだったか。鴻理は僕に対して神妙な顔で話しかけた。

 

「もしお前が人を殺しても、絶対にばれないようにしてくれ」

 

 中途半端に壊れてしまった、壊れきれなかった、彼らしい言葉だと思う。

 

「俺は騙され続けるからさ」

 

 完全に壊れてしまった僕には、彼の内面を想像する事しかできない。

 

「もしも、僕が君を騙しきれなかったら、どうするんだい?」

 

「その時は俺が、ちゃんと暴いてやるよ」

 

 彼の真剣な眼差しを受けたからか、僕は話を逸らすように、柄にもない気休めを言ってしまった。

 

「君の納得できる『動機』が見付かると良いな、演出家」

 

 本当は、僕は知っている。

 

 転生したから。つまり、一度死んだから知っている。

 

 人の死は言葉で表現できるモノではないのだ。生者が想像して演出できるようなモノでは断じてない。納得できる死など……。

 

 だから、僕は今日も音を奏でる。死に際に聴こえた、深く地の底へ沈むような旋律を。

 

「ああ、そうだな」

 

 鴻理が呟く。その音に込められた感情は何だろうか?痛み?苦しみ?それとも。

 

 ああ、いや、そんな事を考えている暇など僕にはないのだ。今、この瞬間ですらも。

 

 ──今日も何処かで人が死ぬ音がする。




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異能バトル長編もよろしくお願いします。

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