オラリオに妹との再会を求めるのは間違っているだろうか   作:神竜

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ロキ・ファミリア

 

衛宮士郎は妹のために戦い続けてきた

 

それは妹とともに新たな一歩を踏み出そうとしたときのこと

 

美遊を(ジュリアン)に奪われた日からそれは始まった

 

ーー神父との邂逅、正義とは何かを考えた

 

ーー大事な後輩(間桐桜)を失った

 

ーー未来の可能性(英霊エミヤ)、自身と親父の理想の体現者(正義の味方)を識った

 

そして

 

ーー理想を裏切り、美遊の正義の味方()として生きる決意をした

 

 

こうして迎えた最終決戦だった。本来であれば衛宮士郎の戦いはここで終わっていたのだろう。

 

だが、衛宮士郎の願いは聖杯に否定された。衛宮士郎の望む世界(美遊が幸せになれる世界)は存在しないと。そしてなにより聖杯(美遊)にとって衛宮士郎の存在しない世界に幸せはないと。

 

衛宮士郎は降り立ったこの世界(オラリオ)で、自身の願いのため再び戦いを始める。

 


 

「・・・ここは、」

 

朦朧とする意識の中、士郎は目を覚まし、周囲を見渡す。

一見その場所は戦いの場であった柳洞寺の地下にあった洞窟と近い雰囲気を持っていた。

だが、その可能性はすぐに否定する

 

壁面には苔がまとわりついており、異様な空気を纏っているなど細部が違うのはもちろんだが、衛宮士郎はここが自分の知る世界ではなくどこか別の世界へと飛ばされたのだと知っている。それこそ他ならない自分自身の願いの結果によって。

 

聖杯戦争の勝利者である士郎には、自分の願いがどのような形で叶えられたのかを情報として与えられていた。

それは、元いた世界では美遊は幸せになれないということ。

そしてそんな美遊がきっと自分と一緒にいたいと望んでくれたから、今自分はここにいるのだろうということも。

 

そんな美遊の姿は

 

「ここにはない・・・か」

 

辺りを見回しても美遊の姿が見えないことを確認する。もちろん視覚できない範囲にいる可能性もあるが、その確率は低いだろう。士郎と美遊にはこれまで経路(パス)がつながっていた。しかし今はこれまで確かにあったつながりを感じられない。それはつまり、今この時代(とき)は美遊はまだ、きっとこの場所にいないのだろう。

 

今、美遊と一緒にいらないことは確かに寂しい。聖杯に願ったときは永遠の別れを覚悟はしていたが、一緒にいられる可能性があると分かっている今は会いたいと願ってしまう。

ただその願いを叶えられるかどうかは自分の努力次第だということもわかっている。美遊が幸せになれる世界。それを達成できればきっとまた美遊と再会することができるだろう。それならば、衛宮士郎のやることなどすでに決まっていた。

 

 

そう、決意を新たにし士郎は倒れていた体を起こし立ち上がる。

 

「さて、まずはここから出ないとな。近くに人はいるかな?」

 

そう口にするが当然誰からの返事もない。周囲には人が通った痕跡などもなく、この洞窟の広さも分からない以上当てもなく歩き回るわけにもいかない。

だからまずは情報を得ることにした。

 

同調(トレース)開始(オン)

 

『強化』の魔術を耳に施す。一流ならば全身に魔力を巡らせ、強化する魔術を衛宮士郎はあくまで耳にのみ魔力を集中させる。そうすることで常人の数倍の聴力が得られる。

 

ーー『ギィ……ギィィ……』

ーー『グルル……ッ』

 

何か魔物の泣き声のようなものが聞こえる。

親父(切嗣)との旅のなかでそういうのとも出会ったが、ここはそんな危険地帯なのかー

そんな疑問が生まれる。

 

ーー『ミシ……ミシッ』

ーー『ガリ……ッ』

ーー『ズルッ』

 

他にもなにか壁が割れ、何かが生まれてくるようなそんな音が聞こえた。

本当にここは人が足を踏み入れられない、魔物の巣窟のようなものなのかというそんな疑念が確信へと変わりかけたそのとき、

 

ーー『くそっ、また湧いた!?』

ーー『キラーアントだ!数が増えてる!』

ーー『囲まれるな!下がれ、下がれ!』

 

切迫した声が、断続的に響いてくる。

 

それは先ほどまでの鳴き声とは明らかに異なる――

人間のものだった。

 

「……人がいる」

 

会話の内容は断片的だが、それで十分だった。

この場所について何かしらの知識を持つ者たち。

 

そして何より――今まさに戦っている。

 

士郎は迷わない。

 

その声のした方向へと、足を踏み出した。

 


 

――同刻、ダンジョン第九階層

 

美しい緑の長髪を揺らすエルフ――リヴェリア・リヨス・アールヴ。

その隣を歩くのは、金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタイン。

ダンジョン探索を終え、彼女たちは地上への帰路についていた。

 

「まったく、いくらレベル2に上がったとはいえ、こんな夜遅くに飛び出すんじゃない」

 

リヴェリアが小言を漏らす。

 

「でも、フィンも言ってた。ランクアップ後は、器と心のズレが大きいから調整が必要だって」

 

アイズは抑揚のない声で答える。

それでもどこか、不満を含んだ子供らしい響きがあった。

 

「それはその通りだが……そういうことを言っているのではない」

 

ため息混じりに、リヴェリアは言い返す。

そもそも日も落ちたこの時間に、ダンジョン上層、9階層とはいえ潜っている理由自体が問題だった。

 

アイズがランクアップの高揚のままホームを飛び出し、ダンジョンへ向かったためである。

 

正式発表はまだではあるが、最速に近い昇格でありすでにオラリオ中の注目を集めている。

それは同時に、闇派閥にとっても“狙う価値のある獲物”という意味でもある。

 

実際、彼女の偉業――漆黒のワイバーン討伐には、

闇派閥の影が見え隠れしている。だからこそ、ひとりで潜らせるわけにもいかず、無理に抑えて暴走されるぐらいならばとリヴェリアが同伴している。

 

「……まったく。少しは大人しくなったかと思ったが、なかなか変わらんな」

 

つい先日、アイズとリヴェリアは衝突し、和解し、以前よりは素直になったように感じる。

だが、こと“強さ”と“モンスター”に関しては別だ。

そこだけは、決して変わらない。

 

そう考えながら歩いていると――

 

前方から、

 

ーー『カン!』

 

鋭い剣戟音が響いた。

 

「……誰か、戦ってる」

 

アイズが呟いた瞬間、すでにその足は動いていた。

 

音を頼りに、迷いなく駆け出す。

 

「待て、アイズ!」

 

リヴェリアの制止など意にも介さず、アイズは戦闘の気配へと一直線に向かう。

響いてくる音から察するに

 

(……一対多か)

 

断続的な金属音。間を置かず重なる衝撃音。

間違いなく、多数の敵を相手取っている。だからこそ、アイズを本気で止めはしない。

だが――ひとりで飛び出すような真似は控えてほしい。

 

(やはり、まだまだ目が離せん)

 

そう内心で嘆きつつ、リヴェリアも後を追う。

 

戦闘音を頼りに駆け抜け、やがて視界が開けた。

 

広いルーム。

その中心で、赤髪の青年が、赤黒い外殻を持つ無数の魔物と刃を交えていた。

 

「……キラーアント」

 

一目で見抜く。

 

怪物の宴(モンスター・パーティ)か」

 

低く呟く。

 

キラーアントは同種を呼び寄せる。

一匹いれば、十。十いれば、百。

 

増殖は止まらない。

 

新米殺し――その異名に偽りはない。

 

(……巻き込まれたか)

 

状況を把握した、その直後。

 

青年がこちらに気づいた。

 

「すまない! ここは危険だ、下がっていてくれ!」

 

わずかに、リヴェリアの眉が動く。

 

(……気づいていない?)

 

それはリヴェリアがロキファミリア副団長、レベル5であり、都市最強魔道士であることを知るものからすればありえない言葉。

自惚れを抜きにしても今のオラリオで、いや世界全体を見てもリヴェリアのことを知らぬ者を探すことすら難しい。

そんな違和感を覚えつつ、今は重要ではないと視線を戦場へ戻す。

 

(……掃討する)

 

ダンジョン内での横取りは御法度。

だが、この状況ならば例外だろうと、魔力を収束させる。

 

詠唱に入ろうとした、その瞬間――

 

「大丈夫……行くよ」

 

アイズが、制止する間もなくモンスターの群れに向かい一直線に駆けだした。

キラーアントたちが一斉に反応する。

無数の脚が地を叩き、牙が一斉に少女へと向けられた。

 

その瞬間――

 

「――危ない」

 

低く、静かな声。

次の瞬間、アイズの目前に“それ”は展開された。

淡い薄紅色をして5枚の花弁状の盾。

 

「――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

迫り来る牙と爪を、すべて弾き返す。

衝撃が弾け、空間が軋む。

 

「……っ」

 

アイズの足が止まる。

 

その前に立っていたのは赤髪の青年。

 

「大丈夫だ。下がっていてくれ」

 

そう言って、青年――衛宮士郎は振り返る。

その表情は、まるで妹を見るかのように、柔らかく優しい笑みだった。

 

「ここは、俺がやる」

 

次の瞬間。

空気が変わる。

 

「――同調(トレース)開始(オン)

 

魔力が奔流となって走る。

その手に現れるのは、一対の双剣。

だが、それは始まりに過ぎない。

 

「――投影、開始」

 

剣が、増える。

 

一振り。二振り。三振り。

 

無数。

 

まるで空間そのものが、刃で満たされていくかのように。

 

全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)!」

 

次の瞬間。

 

剣の雨が降り注ぐ。

 

放たれる刃は、一切の迷いなくキラーアントを貫き、切り裂き、粉砕する。

 

甲殻が砕け、体液が飛び散り、断末魔が重なる。

 

だが、それすらも長くは続かない。

 

圧倒的な数。

 

圧倒的な速度。

 

圧倒的な殲滅。

 

キラーアントの群れは、なすすべなく崩れ落ちていく。

 

「……すごい」

 

アイズが、思わず声を漏らす。

 

その瞳は、青年の背をまっすぐに捉えていた。

 

青年の動きからおそらくステイタスはレベル2相当。そしてこのスキルか魔法かによる武器の生成と連続照射。

 

(……強いな)

 

この未知の戦法と圧倒的な手数で絶え間なく繰り出される剣戟はステイタス以上の実力をリヴェリアに感じさせる。

 

だが、それでも、戦場はまだ動いている。

壁面は蠢き、キラーアントは尽きる気配を見せない。

 

(……ならば)

リヴェリアは一歩、前へ出る。

 

「――下がれ!」

 

リヴェリアが声を張る。

 

魔力はすでに満ちている。

 

「――【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

その言葉と同時に、空気が凍る。

次の瞬間、キラーアントの群れはすべて氷像と化していた。

 

静寂が訪れる。

 

白く染まった空間の中、

ただひとり、剣を構えたままの青年だけが立っている。

 

やがて、士郎はゆっくりと剣を下ろした。

 

「……助かった」

 

短く、そう告げる。

視線を向ける先には、

氷を操った張本人――リヴェリアと、その隣に立つ少女。

 

「そっちも、無事みたいでよかった」

 

それは敵意も警戒もない、ただの確認。

 

そして――

 

「改めて、礼を言う。助けてもらった、ありがとう」

 

深く、確かな感謝の言葉。

 

その様子を見ながら、リヴェリアは静かに口を開く。

 

「礼には及ばない。こちらも見過ごすわけにはいかなかっただけだ」

 

一拍置き、リヴェリアは続ける。

 

「それより――1人か?仲間はいないのか?」

 

「……いや、いない」

 

士郎は首を横に振る。

 

「もともと一人で動いてた。

さっきのは……たまたま魔物に襲われてた連中に加勢しただけだ」

 

軽く息を吐く。

 

「上手く逃げられたみたいだし……それなら十分だろ」

 

その声音には、どこか安堵が滲んでいた。

 

それを聞き、リヴェリアはわずかに目を細める。

 

(……押しつけられたか)

 

囮にされたか、あるいは混乱の中で置き去りにされたか。

 

どちらにせよ、珍しい話ではない。

オラリオでは幾度となく目にしてきた光景だ。

 

だが当の本人は、それを気にした様子もない。

 

それどころか、助けた者たちが無事であればそれでいいと、そう思っている節すらある。

 

(……妙な男だな)

 

冒険者らしくない士郎に対するその違和感を、リヴェリアは表には出さず、胸の内に留めた。

 

「このあと、どうするつもりだ。探索を続けるのか、それとも地上に戻るのか」

 

問いは簡潔。だが視線は鋭い。

 

「……できれば地上に戻りたいんだが」

 

士郎はわずかに困ったように苦笑する。

 

「正直、ここがどこなのかもよく分かってなくてな。

出口の方向も分からない」

 

その言葉に、アイズがすぐに反応する。

 

「……じゃあ、一緒に行く?」

 

自然な提案。

 

だが――

 

「待て、アイズ」

 

リヴェリアが即座に制する。

 

闇派閥(イヴィルス)の影がちらつく今、素性の知れない者を同伴させるわけにはいかない。

 

「お前、名は?」

 

短く問う。

 

「ああ、そうかすまない。自己紹介が遅れた。俺はエミヤ・シロウだ」

 

迷いのない返答。名前の雰囲気からおそらく東洋出身のものだろう。

 

リヴェリアは続ける。

 

「二つ名と所属ファミリアは」

 

その問いに士郎は首を傾げる。

 

「……すまない。それは、どういう意味だ?」

 

その言葉に、リヴェリアの目が細まる。

 

「……何だと?」

 

理解していない。

誤魔化している様子もない。

 

「二つ名も、ファミリアも知らないというのか?」

 

「すまない、この辺りにきて間もなくてな。こっちの常識に疎いみたいだ」

 

その返答は、あまりにも自然でごまかす様子もない。

 

だからこそ明確に異常である。

このオラリオで、ダンジョンに潜る者が知らぬはずのない言葉。

田舎から出てきたばかりの旅人であれば、可能性はゼロではない。

だが、それでも説明はつききらない。

 

――記憶の欠落。

あるいは――何者かによる工作。

 

闇派閥の可能性も、頭をよぎる。

 

だが。

 

(……違うな)

 

あまりにも、不自然すぎる。仕込まれた駒にしては、オラリオの常識から外れすぎており隙が多すぎる。

 

加えて短い時間ながらも交わした言葉やアイズに向けた視線。

 

(……少なくとも、悪意は感じない)

 

断定はしないが、直感では士郎自身は潔白であると告げている。

 

(ロキに確かめさせるのがいいか)

 

神であれば下界の住人が嘘をついているのか判断がつく。真偽を明らかにするのはそれからでいい。

 

仮に闇派閥であったとしてもリヴェリアなら対処できる。それに士郎が潔白であり、自陣営に引き込めるなら貴重な戦力にもなる。

 

「……わかった。地上まで同行する。迷っているのなら、その方が確実だ」

 

「そのまま、我々のホームまで来い。詳しい話は、そこで聞こう。」

 

士郎は一度頷く。

 

「助かるよ。ありがとう」

 

短く礼を述べると、三人は地上へと続く通路へ向けて歩き出した。

 

アイズと士郎が横並びに前に立ち、不足の事態に備え後方に位置取る。

 

そんな帰路の途中、

 

「……すごかった」

 

不意に、アイズが口を開く。

 

「さっきの戦い。ビュンって……いっぱい剣が飛んで攻撃しててすごかった。ああいうの、初めて見た」

 

普段の様子を知るものからすると目を見開くほど、アイズは目を輝かせている。

 

「戦って、みたい」

 

あまりにも真っ直ぐに、それでいてすぐにでも始めかねない様子でアイズは告げる。

幼いながらも立派な戦闘狂(バトルジャンキー)である。

 

そんなアイズの様子に士郎は困ったように苦笑する。

 

「……参ったな」

 

軽く頭をかきながら、視線をやわらげる。

 

「いきなりはさすがに勘弁してくれ」

 

強い拒絶ではない。

どこか柔らかく、力の抜けた言い方。

 

「そういうのは、もう少し落ち着いてからにしよう」

 

そう言って、士郎はアイズの頭をそっと撫でる。

 

意図せず、普段からそうしていたかのように自然と。

 

「……」

 

アイズは一瞬だけ目を瞬かせる。

 

だが嫌がる様子はなく、

 

「……わかった」

 

と、素直に頷いた。

 

その表情は、わずかに緩んでいる。

 

そのやり取りを後方から見ていたリヴェリアは、静かに目を細める。

 

(……まるで、兄のようだな)

 

そんなことを思いながら――

三人は、地上へと続く道を進んでいった。

 


 

地上へと出て、石畳の街を抜ける。

リヴェリアに案内されるがまま進んだ先に現れたのは巨大な屋敷だった。

 

高くそびえる外壁。重厚な門扉。

広大な敷地の奥に建つ建造物は、ただの邸宅というにはあまりにも規模が違う。

 

「……すごいな」

 

思わず、士郎は声を漏らす。

 

「これが、君たちの拠点なのか」

 

その声音には、素直な感嘆が滲んでいた。

 

リヴェリアは軽く頷く。

 

「ああここが我々のホームだ」

 

そうして館の前にたち扉を開く。

 

その瞬間――

 

「おかえり、アイズたぁぁぁん!!」

 

絶叫にも似た声と共に、緋色の髪を揺らした女神が、一直線に飛び出してきた。

そのままアイズへと抱きつこうとする。

 

「いやっ!」

 

短く拒絶の声を一言。

 

次の瞬間、アイズの蹴りが炸裂した。

 

「ぐふっ!?」

 

身体能力は一般人そのもののロキは、その一撃をまともに受け、

 

床に転がり、身もだえる。

 

「ひどいでアイズぅ……」

 

涙目でうめくロキ。

 

その光景に、リヴェリアは深くため息をついた。

 

「……まったく」

 

一方で。

 

士郎は、その一連の流れにわずかに目を見開き、

 

「……大丈夫なのか?」

 

と、思わず呟く。

 

「問題ない。いつものことだ」

 

リヴェリアが即答する。

 

やがて――

 

ひとしきり騒ぎ終えたロキが、ゆっくりと立ち上がる。

 

先ほどまでの軽薄な空気は消え、鋭い眼光が士郎へと向けられる。

 

「……それで、自分は誰や?」

 

その視線を遮るように、リヴェリアが前に出る。

 

「それについては、フィンたちのいる場で話す」

 

短く、明確に。

 

ロキは一瞬だけ視線を細め――

 

「……ええやろ」

 

と、小さく笑った。

 

「なら、そっちで聞こか」

 


 

その後、アイズは渋々ながらも部屋へ戻され、すでに眠りについている。

そして今ここはロキ・ファミリアのホームの執務室。

 

小柄な身体に不釣り合いなほどの存在感を放つ団長、フィン・ディムナ。

無骨な体躯を椅子に預ける、最古参のドワーフ、ガレス。

そして、先ほどまで共にいたリヴェリア。

さらに壁際に寄りかかるようにして、主神であるロキがいる。

 

そして、その視線の中心に衛宮士郎は立っていた。

 

静かな間を置いて――フィンが口を開く。

 

「まずは、おかえり、リヴェリア。無事に帰ってきてくれて良かったよ」

 

柔らかな声音。

 

だが、その瞳は士郎を捉えたまま離さない。

 

「……それにしても」

 

わずかに肩をすくめ、

 

「まさか、アイズの護衛だけでなく、勧誘までしてくるとは思ってなかったけどね」

 

持ち込まれた“問題”に、苦笑を浮かべる。

 

「まだ決めたわけではない」

 

リヴェリアが即座に否定する。

 

「スカウトと断定するには、情報が足りん」

 

「なるほど」

 

フィンは頷き、今度は正面から士郎へ向き直る。

 

「――エミヤ・シロウ」

 

名を呼ばれ、士郎の意識がわずかに引き締まる。

 

「話を聞く限り、君は高い戦闘能力を持ちながら、神との契約は結んでいない。

 それに、オラリオの常識にも疎いようだ。そのあたり、君の事情について聞かせてもらえるかな?」

 

胸の内まで探るような視線が士郎に突き刺さる。場にはわずかな緊張が走る。

その空気を、フィン自身が崩した。

 

「ああ、そこまで硬くならないでくれ」

 

軽く手を振り、

 

「今のオラリオは、あまり治安が良くなくてね。

 リヴェリアの話を聞く限り、問題はないと僕は判断しているけど――立場上、楽観視もできない」

 

柔らかな笑み。

 

「形式的な確認、と思ってくれればいい」

 

「何も取って食おうというわけではない」

ガレスが低く笑う。

 

「お主の認識を、そのまま語ってくれればよい。

 そうすれば、わしらに手助けできることもあるかもしれん」

 

その言葉に、士郎は小さく息を吐いた。

 

そして、語り始める。

 

自分が異なる世界から来たであろうこと。

願いを叶える“聖杯”を巡る戦争。

妹を救うために戦い、その果てに願ったこと。

 

――妹が、幸せになれる世界を。

 

「その願いに巻き込まれる形で、ここに来た」

 

淡々とした語り。

 

だが、その奥にあるものは重い。

 

「気づいたら、あのダンジョンの中にいた」

 

一通り話し終え、

 

「……と、俺の話は、だいたいこんな感じだ」

 

静かに締めくくる。

 

その中で、フィンがわずかに視線をロキへと送る。

ロキは、ほんのわずかに頷いた。

 

――嘘はない。

 

その無言の合図。

 

(……なるほど)

 

フィンは思考を巡らせる。

 

事実か。

あるいは――それを事実だと思い込んでいるのか。

 

だが。

 

(……後者ではないな)

 

短いやり取りの中で感じた違和感のなさ。

言葉と視線の一致。

 

それが、フィンの勘を後押しする。

 

「……妹さんは今どこに?」

 

「分からない」

 

士郎は首を横に振る。

 

「ただ……俺の考えだと、この世界に何か問題があって、

 それを解決するまでは、来ないんじゃないかと思ってる」

 

フィンは静かに頷く。

 

(……筋は通る)

 

この下界には、未だ果たされていない悲願がある。

 

黒竜の討伐。

ダンジョン最下層の踏破。

 

どちらも達成されぬ限りこの世界に未来はない。

 

「つまり」

 

フィンは微かに笑みを浮かべる。

 

「君の目標は、その“問題”の解決。

 突き詰めれば――黒竜の討伐、ということになるのかな」

 

士郎はわずかに考え、

 

「ああ……たぶん、そうなる」

 

と答えた。

 

「なら」

 

フィンは椅子にもたれ、言葉を続ける。

 

「ロキ・ファミリアに入るといい」

 

空気が、わずかに変わる。

 

「黒竜の討伐、そしてダンジョン攻略に最も近いのは、うちか――フレイヤ・ファミリアだ」

 

軽く肩をすくめ、

 

「もっとも、あちらは少し癖が強い。正直、あまり勧められないけどね」

 

冗談めかしつつも、本音だ。

 

「ここには、それを目指す者が多い。

 最前線に立ち続けることもできるし、支援も受けられる」

 

「……良いのか?」

 

リヴェリアが口を挟む。

 

「信頼はできると感じているが、確証はない。

 闇派閥の干渉を受けている可能性も否定はできん」

 

「問題ない」

 

フィンは即答する。

 

「もしそうなら、ロキがステイタスを刻めないはずだ」

 

それは一つの判断材料。

 

そして――

 

(それを差し引いても、惜しい)

 

戦力としての価値。

 

それを見誤るフィンではない。

 

「どうかな、エミヤ・シロウ」

 

改めて問う。

 

「条件付きなら」

 

士郎は答える。

 

その声に、迷いはない。

 

「もし、美遊がこの世界に来て――何かを天秤にかけることになったら」

 

「俺は、美遊を優先する」

 

それは宣言だった。

 

フィンは、その言葉を受け止め――

 

「構わない。それは君の背景を知れば当然の選択だろう。」

 

その一言で、決まる。

 

「ようこそ、ロキ・ファミリアへ」

 

 




というわけで第2話になります。

作中描写からわかるかと思いますがまず初めの舞台は本編開始からおよそ8年前、アストレア・レコードの1年前になります。

この時代の描写はあまりないのでたまに原作にある描写から拾っていきます。
…なぜ自分から苦労する道を選んでいるのだろうか


それでは今後本編で明かすことはないであろう補足です。
士郎のステイタスについて
次話でも少し語りますが、基本は美遊兄の能力に恩恵の力が上乗せされていく感じになります。古代のアルゴノゥトやフィアナは自力でランクアップのようなことをしていたようですが、おそらくその場合でもレベルは1からスタートするはずなのでそれに倣って

また作中で恩恵なし士郎がレベル2と表記しましたがFate作品のキャラをダンまちのレベルに合わせると以下のようなイメージで書いています。

クラスカードの限定展開 --レベル1
     美遊兄通常時 --レベル2
クラスカードの夢幻召喚 --レベル3

また第5次聖杯戦争の面子で言うと
        メディア、ハサン --レベル4
佐々木小次郎、エミヤ、メデューサ --レベル5
          クーフーリン --レベル6
   ギルガメッシュ、アルトリア --レベル7

以上のような設定でやってます。
まあこいつら宝具のせいで格上殺しとか普通にやるだろうけどね!
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人知を超越したるもの、その地に降り立つ。▼大いなる力の先に降り立つ何かの降誕に、世界は何を見るのか?▼その輝きを見てしまった者たちはどうなってしまうのか?▼それは誰にもわからない。▼これは超越者の物語。


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ヘラクレス(中身転生者)in オラリオ(作者:アウン)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ヘラクレス(中身転生者)がダンまちに来る話。▼展開は書きながら考えます。▼*クロスオーバーは念の為


総合評価:497/評価:6.73/連載:3話/更新日時:2026年02月05日(木) 00:19 小説情報

理解されぬ幻想は明日を望む(作者:シビトバナ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼明日も生きれるかわからない状態に陥ってしまった彼が必死に生きようと躍起するお話。▼だが次第に見つかっていく自身の厄ネタによって目のハイライトが消えていって……▼※タイトルに深い意味はありません。リメイク作品です。改めてよろしくお願いします。


総合評価:429/評価:8.22/連載:10話/更新日時:2026年04月24日(金) 21:36 小説情報


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